自己点検・評価報告書(武市 勝)

報告者 武市 勝

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

わたし自身が考える「高度専門職業人としての教員」とは、端的に言って「調和のとれた人材」である。専門領域の知識・技能、教育実践力、学校社会での協調と子供への想像力などの「調和」である。芸術領域に限らず、しばしば専門領域性に特化した教員や、専門領域の責任にストレスを覚える教員がいるが、どちらも理想とは思えない。学校現場での教員は地味だが、バランスのとれた人格であるべきと考える。
このため、大学での授業の基本は、専門技能への自信を身につけさせるとともに幅広く知識と多彩な経験を持つ、学校現場での状況に対応した内容を適宜示唆する、しばしば教育の面白さや美術とはなにかなどについて主体的に考える態度を養う、等の点を留意したいと考える。
①授業内容 時間をかけて大作を作るより、多様な小作品を作って技能を培うことに主眼を置く。また、制作は自然と進度の差が出るので、それに応じて課題や内容の深化、作品批評を行う。
②授業方法 ものを作る楽しさを味わわせると同時に鑑賞批評の機会をとって他者の作品に対する指導や評価の方法を学ばせる。
③成績評価 出席、制作態度、作品水準の3点を総合的に見て評価する。とくに版画関連の授業については、学校現場においても、前準備、後かたづけが重要なので、これへの参加も評価対象にすることをあらかじめ告げておく。

(2)点検・評価

①授業内容  評価として、今回の試みはほぼ予定通りに実施できたと考えている。ただ、問題はないわけではない。受講生が、目的通りの知識技能を修得したが、それだけという不満である。悪く言えば、「単位は取れた」ことに留まったということである。教師側としては、さらに上を志向してほしいと感じる気持ちが捨てがたい。全受講者に最低限の技能取得か、格差があっても斬新で惹きつけられる作品の創作かは、二律背反のようで、このことは美術という実技教科の宿命かもしれない。
②授業方法  芸術棟一階の小ギャラリーを使って授業作品の展示を行い、学生相互に批評をさせた。制作からは外れるが、額装や展示の方法も含めて、しめくくりとしてはよかったと考えている。
③このことはどの授業でもくり返し述べた。学部1年生や院生は実施できていたが、学部3年生は片づけ放置も見られた。やはりその時々に再三注意する必要があると思われた。
総じて、今回、基本的には正しいあり方だと思われるが、授業者の方として感じた物足りなさは、結局、受講者の中の「才気の発現」といったものが感じられないという不満である。後片付けがきちんとでき、小作品で感銘させる作品を作ることは矛盾があるのかもしれない。あまり一律に公平に小作品を限定させるのではなく、受講者の希望を汲んで適宜対応するというやりかたを再検討したい。

 

1-2.大学教員としての社会貢献

(1)目標・計画

社会還元ということで4点を考えてみた。   
①公開講座・開放講座・十年次研修・免許更新講習など、学内で行う業務的な社会普及 
②出前授業、招聘講習、講演など、学外で行う業務的な社会普及講座
③地域での展覧会活動、画廊での個展のような、サークルまたは個人としての普及活動
④出版、新聞、テレビ等を通じての普及活動
ひと通り経験したが、今年度については③と④について重点的に取り組むつもりである。
③については、これまでも実施してきた地域のグループ「徳島版画」をベースとして、県内を中心に版画の普及啓蒙活動に取り組むこと。
④については、技法書としての冊子の編集に着手すること。
①については今年度は十年次研修でコラグラフを実施する予定である。また、②についても機会があれば積極的に参加する意志がある。 

(2)点検・評価

①予定通り十年次経験者研修を行った。
②県立美術館での出前授業を行った。対象は主に徳島市内の小学校教員約25名である。
③県内市内の方々と鳴門市内での版画展、徳島市内での版画展を主催し、ともに出品した。
④普及活動としては、「徳島版画」の展覧会を通じての技法講座などの開催があげられるが、今年度目標の1つである技法書の発刊は実現にいたらなかった。

 

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

・現在、クラス担任として受け持っている美術コース一年生と緊密な関係を保ち、適宜、専門領域の選択や教職への意欲付けを行う。
・ゼミ生に対して専門制作指導および就職・学生生活上の相談に適切に対応する。
・初等教育教員を目指す学生のための自学自習を基本にしたグレード指導(素描・平面表現)を支援する。

(2)点検・評価

・合宿研修では、教職への志などについてじっくり話し合うことはできたが、それ以外には定期的に集まるというほどのことはしていない。2年生とも鳴門大学にも慣れて、クラス担当教員にさほど頼る必要がなくなったこともあり、また時間的余裕が少なくなっていることもある。
また、専門(ゼミ)分けも2年次末に行う予定だったが、今年度いっぱいで美術コースを退職する教員が三名もいることもあり、新しい教員人事もあるため、およその方向が定まった時点で選択をはかろうということになった。
・精神面も含めて体調がよくなかったゼミ学生で、残念ながら教職を断念したが、どうにか出身県の公立博物館採用が落ちついた。卒業制作については、体調の悪い中、布地への色彩版画プリントという技法でまとまった作品を発表した。
・「図画工作Ⅰ」の授業の中で実施を行った。予定通り、100名弱の学生にグレード三級を与えることができ、学生自身の描画力に対する自信につながったと思われる。今年度の特徴として、、「テスト」と称して何度か教員採用試験を想定した課題を与える機会もあったので、教採への図画工作実技力にも直接つながる内容が織り込まれたことである。

 

2-2.研究

(1)目標・計画

(1)継続研究としての水性コラグラフ(木版凹版)の技法可能性の追求とまとめ 
(2)写真製版リトグラフによる多版多色制作のまとめ
(3)東~東南アジアにおける版画教育の現状調査の継続
(4)北欧における現代版画と生活の関わり調査

(2)点検・評価

①これについては授業や実技講座で取り上げたものの、研究としてはやや頭打ちで、進行しなかった。可能性としての広がりに限界を覚えているのが理由であるが、本当にそうかどうか、次年度に結論を出したい。
②これは技法としてシルクスクリーンに移ったため、論文としてのまとめはシルクスクリーンで以後に行いたいとして、今年度はまとめていない。
③今年度は2月に短期間であるが、台北(台湾)及びハノイ(ベトナム)の調査を行った。
④9月にストックホルムの版画事情を視察し、西欧及び東欧との比較調査も行った。

研究としての概括的な自己評価では、制作発表や調査は行っているが、文章としてのまとめたものの発表がやや少なかったと言える。

 

2-3.大学運営

(1)目標・計画

・美術コースモデルコアカリキュラム開発チームとして委員会及びワーキングに参加する
・予算財務委員として委員会に参加する
・その他、必要に応じて委員会、ワーキングチームに参加する

(2)点検・評価

全体に、出張や授業と重なったもの以外は、それぞれの会議等に参加した。コアカリキュラム、予算財務ともに不定期な委員会なので、日程の調整に苦労する部分があった。ただ、与えられた役割はこなし、審査委員会を含め、それぞれの会議で発言を行ってきた。

 

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

・地域社会との連携については、阿南市文化についての関係者と適宜会合を持ち、提言その他の実践を行うつもりである。また、徳島県内を中心に活動する「徳島版画」代表を継続し、活動を行う。
・国際交流については、特に関連していないが、現在行っているアジアを軸にした版画教育の調査で、各国首都にある代表的美術大学を訪問し、本学との交流に相応しいかの検討も行っている。

(2)点検・評価

・阿南市議会議員を通じて、建設予定の阿南市庁舎文化ゾーンについての意見を求められている。また、県南の展覧会場などを視察し、意見を交わしている。
「徳島版画」の運営は、代表として8年目となり、活動も安定してきた。創設から軌道に乗せるまでの、会長としての役割は過ぎつつあるのを感じており、機会の折りに後進に任せたいと思っている。
また、次年度は徳島市内で個展を行う予定も決まっている。
・国際交流として、今年度は、台北の高雄1914(現代文化施設)、ハノイ美術大学、同附属美術館などで、大学関係者を含め交流を持った。本学との共通性は必ずしも多くないが、今後も適宜東南アジア各国での美術大学、教育大学の関係者との交流を持つ所存である。

 

3.本学への総合的貢献(特記事項)

全体的には、昨年度(コース長・学部入試委員)ほどの多忙さはなかったため、国外を含めた学外での調査研究が行えたと思っている。また、制作においては、健康上の理由で、長年続けていたリトグラフを
シルクスクリーン技法に変えた。それは撤退ではなく発展だと考えているが、水性顔料による表現は長短あるもののよりダイナミックな明るい画面が可能とも思われる。このことに海外を含めた取材を組み合わせて新しい表現につなげたい。
一方で、懸案となっている技法書の発刊が遅れているのは残念であるが、フィールド調査研究や、製作技法の変化が重なったため、研究室にこもってワープロを打つことが少なかったのもやむを得ないかとも思っている。次年度につなげたい。

 

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