自己点検・評価報告書(山木朝彦)

報告者 山木朝彦

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

学習指導要領の改訂に伴い,図画工作科・美術科の教科内容の現代化が急速に進んでいるので,これから教員になる学生も,研修制度を利用して大学院で学んでいる現職教員の大学院生も,これに対応した教材開発力を身に付けなくてはなりません。このために,改訂後,現場の指導で求められる題材内容と方法について先行的に研究を行ない,その成果を学生に還元します。
①授業内容: 写真・CG・建築・同時代のアートなど新規のジャンルの作品を鑑賞対象とした教材化のために必要な系統的な教育内容の検討を行い,小学校・中学校の鑑賞対象として扱うための方法論を検討します。児童生徒の鑑賞の力には批評力の育成も求められるので,この点で,教師自身が批評力を身につける機会を授業内容に盛り込みます。同時に,長い美術教育の実践史のうえで重要な役割を担ってきた版画やデザインの教育など,基本的な表現内容が風化しないよう,教科内容学との連携のうえにこれらに関する指導力の定着を図ります。
②授業方法: 上記の内容に照らして授業方法の改善を図る場合,従来,授業中に行なってきたような,現場での理想的な安定した授業のVTR記録映像を視聴させるだけではなく,先駆的な試みを行なっている事例などを紹介し,その授業風景などを学生に見せることで,知的好奇心を喚起すると共に,実践現場にて直面する問題などについて具体的に考えられるようにしたい。また,映像だけでは,記憶に定着し難いので,思考を組み立て,定着させ,発展的に展開させるための言語化のプロセスを意識的に授業に取り入れたい。すなわち,どの授業でもa)必用な専門用語をグロッサリーとして精選し,学習させる。b)授業中のディスカッションをさらに深化させるために,討議内容を精選し,明示する。同時に,パワーポイントなどを活用したプレゼン能力を高めさせる。d)さらに,授業のまとめとしてのレポートの課題を増やし,文章力を身につけさせる。これら四つの学びのフェイズすべてにわたって,懇切丁寧な助言や指導,励ましや問題点の指摘,さらに総括的な批評を授業者として行なうよう心がけ,実行したい。また,図画工作や美術という技能を伴う教科教育を担当しているので,思考と手わざを有機的に結びつける表現活動を取り入れたいと考えています。もちろん,従来も実施してきた模擬授業を継続的に実施していく。
③成績評価: 成績評価については,従来,提出物や試験の成績と授業中の積極的な発表やディスカッションの力をともに評価してきたが,やや,最終的な試験結果に重きを置きすぎた反省がある。この点を改め,研究レポート等での思考力の深さやプレゼン用の資料作りをベースにした発表の能力について成績評価における比重を重くしたい。また,いわゆる抜き打ちテストを実施することで,よい意味での緊張感を学習者に与え,予習・復習をどれだけ行っているかという点についても評価したい。

(2)点検・評価

①授業内容: 写真・CG・建築・同時代のアートなど新規のジャンルの作品を鑑賞対象とした教材化のために必要な系統的な教育内容の検討という目標については,どの授業においてもこれらの対象を扱うように努めたが,とくに「美術科教育特論」では,現代建築の基礎を築いたフランク・ロイド・ライトの建築物について,兵庫県芦屋市に存在するライトの建築物であるヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)で収集した情報をもとに,実際の授業で利用できるプレゼン用教材を学生に開発させた。これは[高度な教育の専門性と教育実践力,かつ豊かな人間性を備えた高度専門職業人としての教員を養成する]という目的に照らして,きわめて大きな意味を持つといえる。なぜなら,教師の教材開発力と教育の現代化に大きく貢献する内容だからである。
「教材化のために必要な系統的な教育内容の検討」と「教師自身が批評力を身につける機会を授業内容に盛り込む」という目標に関しては,「美術科授業論」において,教育専門雑誌に掲載されている各種の指導案と題材案を批評的/批判的に検討した後に,学年進行に基くカリキュラムを各自で作らせることにより,系統的な教育内容の寄与に貢献できた。
「版画やデザインの教育など,基本的な表現内容が風化しないよう,教科内容学との連携のうえにこれらに関する指導力の定着を図る」という目標については,教育実習事前事後指導において,木版画の教材の意味・意義・方法について,実際に制作をすることによって教材研究を深め,基本的かつ伝統的な教材の風化に対して歯止めを行い,学校教育への今後の定着を図った。

②授業方法についての「先駆的な試みを行なっている事例などを紹介し,その授業風景などを学生に見せることで,知的好奇心を喚起する」という目標については,大学院の「美術科教育研究法演習」において,ワークシートを利用した鑑賞教育の実例を示し,また,学部の「美術科教育特論」においてプレゼン用ソフトを利用した授業の実例を画像として提示した。このことで教育実践現場のリアルな情況と効果的な指導法を共に学ばせることができた。
「a)必用な専門用語をグロッサリーとして精選し,学習させる。b)授業中のディスカッションをさらに深化させるために,討議内容を精選し,明示する。同時に,c)パワーポイントなどを活用したプレゼン能力を高めさせる。d)さらに,授業のまとめとしてのレポートの課題を増やし,文章力を身につけさせる。これら四つの学びのフェイズすべてにわたって,懇切丁寧な助言や指導,励ましや問題点の指摘,さらに総括的な批評を授業者として行なうよう心がけ,実行したい。」という目的については,すべて忠実に実行できた。特にa)については,「美術科授業論」において,b)については「初等中等教科教育実践Ⅰ」における徳島県立近代美術館におけるテーマを示しての討議において,c)については「美術科教育特論」において,d)については,学部の「図画工作科教育論B」と「美術科授業論」,院の「教育実践フィールド研究」においてきわめて意図的・効果的にその方法論を取り入れ,授業を展開できた。
「思考と手わざを有機的に結びつける表現活動を取り入れたい」という点については,「教育実習事前事後指導」と「保育内容(表現Ⅱ)」において,積極的に制作活動を取り入れ,授業アンケートにもその成果が反映された。
③成績評価:これについては,すべての授業において毎回課題を出すように努め,その成果を発表させるようにした。このことで,「研究レポート等での思考力の深さやプレゼン用の資料作りをベースにした発表の能力について成績評価」が可能となった。

全体を通じて,当該年度における授業改善は予定以上の成果をあげることができた。特に,フランク・ロイド・ライトの教材化の実現と,徳島県立近代美術館での作品をめぐる批評能力の育成を企図した討議の機会の提供は斬新かつユニークであり客観的に見ても優れた授業改善であると言えよう。

 

1-2.大学教員としての社会貢献

(1)目標・計画

①鑑賞教育の充実のために活動の場を後援してくれる企業(JB本四高速 -本州四国連絡高速道路株式会社-)や財団法人(大塚国際美術館),そして県の施設(徳島県立近代美術館)と協力し合い,それら組織との連携のもとに研究会活動を展開するとともに,それぞれの研究会の成果およびこれまで積み上げてきた私自身の研究成果を上記組織が作成するウェヴサイトや機関誌などの媒体上で積極的に発表する。
②美術科教育学会などの学会運営に積極的にかかわり,学会が社会にむかってその研究成果を活用できる場を提供できるよう尽力する。具代的には,口頭発表を中心にした本大会だけでなく,市民や小中学校の教員を対象にした研究会開催(シンポジウム形式など)を積極的に提言していきたい。
③附属学校や公立学校の図画工作や美術の活性化を図るために,社会教育機関である美術館において,指導生徒や保護者にたいしてギャラリー・トークなどの実施やそのサポートを行ないたい。
④一般の書店に並ぶ形態での出版を積極的に行なうとともに,新聞社や雑誌からの依頼を積極的に引き受け,新聞や雑誌という媒体で,研究成果の一端を紹介したい。 

(2)点検・評価

①鑑賞教育の充実のために活動の場を後援してくれるa)後援企業とb)財団法人,そしてc)県の施設との協力はきわめて能率よく効果的に展開できた。a)については,「せとうち美術館ネットワーク」の活動を実りあるものにするため,学術講演会を組織し,鑑賞教育の推進者の後援を加盟の公立私立の美術館の学芸員に聴いていただくことができた。また,高知県立美術館や平山郁夫美術館の教育普及活動などについて情報誌「瀬戸マーレ」にて紹介した。b)大塚国際美術館と協力をして高校生用の鑑賞用教材(ハイカム/美術編「アートジョイ」)を開発した。c)徳島県立近代美術館の鑑賞教育推進プロジェクトに2010年12月まで参加し,鑑賞シートのプランに携った。
②「美術科教育学会などの学会運営に積極的にかかわり,学会が社会にむかってその研究成果を活用できる場を提供できるよう尽力する」については,美術科教育学会賞選考委員および学会誌編集委員として,教育実践に深く関わる優れた研究者の仕事を広く紹介するように努めた。
また,大学美術教育学会の内容学検討のための専門委員会のブログ(http://artedu.jugem.jp/)に積極的に投稿を行なった。
③「附属学校や公立学校の図画工作や美術の活性化を図るために,社会教育機関である美術館において,指導生徒や保護者にたいしてギャラリー・トークなどの実施やそのサポートを行ないたい」については,当該年度も附属幼稚園保護者会のメンバーに対して,大塚国際美術館でのギャラリートークを実施すると共に,附属小学校の児童生徒の徳島県立近代美術館での鑑賞学習に立会い,ギャラリートークを実施した。
④については,高知県立美術館や平山郁夫美術館の教育普及活動を「瀬戸マーレ」にて紹介するだけでなく,「せとうち美術館ネットワーク」の教育普及関連記事を扱うホームページ(http://www.jb-honshi.co.jp/museum/index.html)の充実に努めた。

これらを客観的に振り返り,当該年度の社会的な貢献に関する評価にあたっては,大学美術教育学会の内容学検討のための専門委員会で他の委員とともに提言を纏め公にすることができたこと,大塚国際美術館と協力をして高校生用の鑑賞用教材(ハイカム/美術編「アートジョイ」)を開発できたことなど,当初予定していた以上の活動が展開でき成果として実らせることができたことを特記したい。

 

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

・授業や論文指導を通じて,研究面での大学院生と学部生との交流が捗るよう支援する。
・学部生が集う専修室には,こちらから出向き,教員採用試験対策などについて話を向け,勉学の悩みなどがあればすすんで聴くようにする。
・学部生・大学院生などを積極的に美術館と学校との連携のプロジェクトにかかわらせるよう努力する。
・教員採用試験にとって必要不可欠な教育や美術の基礎的な用語の習得を授業の内外で促し,学生の教職へ就業を側面から援助したい。

(2)点検・評価

上記4点については,当初の予定・目標を忠実に実行できた。 特に, 「学部生・大学院生などを積極的に美術館と学校との連携のプロジェクトにかかわらせるよう努力する」に関しては,2010年11月に実施した「くりえいてぃぶアート鑑賞のすすめ」(表記はそのまま)に学部生と院生を参加させることができ,美術館での鑑賞の重要性を認識してもらうとともに,社会教育機関としての美術館の役割や学芸員という仕事の理解の進捗に役立ててもらった。

 

2-2.研究

(1)目標・計画

①図画工作科および美術科の実践現場では,鑑賞領域の充実が求められている。教科教育研究においても,この研究分野の充実が求められている。しかし,建築や写真など新規のジャンルの作品を鑑賞対象全体のなかでいかなる体系性のもとに教育の場に位置づけるかという論理が成立していないことや,鑑賞の学びのプロセスについても,欧米での先行研究にまで丁寧にあたった研究は少ない。そこで,今年度は,教材化の観点から,建築もしくは写真などに関して,小学校・中学校の鑑賞対象として具体的な対象を選定して,教材開発研究を進めたい。同時に,日本の文化にかかわる作品の鑑賞教材化を推し進めたい。
②また,鑑賞学習の重要な目標として児童生徒の批評力の育成を挙げ,このための方策を海外の文献などの調査も含み研究したい。発表媒体は,厳密な審査を伴う学会誌掲載を目指します。(もちろん,学内紀要など別の媒体での発表も視野に入れます。)
③教員養成系の図画工作教育論や美術科教育論といった教育実践力と深くかかわる授業について,教科内容学および教材論・授業論の観点から考察し,その成果を大学テキストとしてまとめたい。
④児童・生徒・学生の美術館での鑑賞を促す研究会に積極的に参加し,教材を開発する計画です。
⑤研究誌「アート・ラーニング」を継続的に発刊し,現代の美術教育が置かれているさまざまな課題について特集を組み,研究成果を明らかにしたい。
⑥テイト・ギャラリーの教育普及活動について継続的に調査・研究をすすめる。
⑦大学美術教育学会等にて,教科内容学研究を継続的に研究する。

(2)点検・評価

①「教材化の観点から,建築もしくは写真などに関して,小学校・中学校の鑑賞対象として具体的な対象を選定して,教材開発研究を進めたい。同時に,日本の文化にかかわる作品の鑑賞教材化を推し進めたい」に関しては,フランク・ロイド・ライトの旧山邑邸の教材開発研究を推し進めた。
②「鑑賞学習の重要な目標として児童生徒の批評力の育成を挙げ,このための方策を海外の文献などの調査も含み研究したい」この点については,日中教師教育学術研究集会において,「美術館と学校の連携の成果と課題-テイト・ギャラリーが展開するプロジェクトの調査・分析を通して」を井上由佳氏との連名で発表した。
③「教員養成系の図画工作教育論や美術科教育論といった教育実践力と深くかかわる授業について,教科内容学および教材論・授業論の観点から考察する」点については,原稿を纏めている段階である。
④に関しては,社会貢献の欄の記述と重複するが,大塚国際美術館と協力をして高校生用の鑑賞用教材(ハイカム/美術編「アートジョイ」)を開発した。
⑤については愛知教育大学の竹井史氏にインタビューを行い原稿として纏めた段階である。
⑥「テイト・ギャラリーの教育普及活動について継続的に調査・研究をすすめる」については,予想以上の成果を得た。これは当該年度に科学研究費補助金の獲得に成功したことによる。
⑦については,大学美術教育学会の内容学検討のための専門委員として,積極的に学会研究会に参加し,専門検討委員会のブログに投稿を行ない,中間報告の成文化に貢献した。

当初予定していなかった研究面での進捗として,科学研究費補助金基盤研究(C)(平成22年度~24年度予定)の採択があったことが挙げられる。テーマは上記⑥に関連するが,「英国テイト・ギャラリーの教育普及活動における学校連携の方法と成果」というものであり,当該年度にロンドンのテイト・ブリテンの教育普及担当学芸員およびミルバンク・プライマリースクールの教員に「バーバル・アイズ」というプロジェクトについてインタビューすることができた。これをもとにして,第33回美術下記養育学会富山大会にて研究発表を行なうことができた。

 

2-3.大学運営

(1)目標・計画

・各種委員会とコースとのパイプ役として,相互の情報の正確な受け渡しに努めるとともに,コース会議・部会などでは,アイデアや考えを述べるだけではなく,審議事項にかかわる事柄を本学発展のために方向付けるには,どのようなプランが必要か具体的に提案したい。
・上記にかかわり,自ら関連資料を捜し求め,委員会・部・コース会議に配布するよう心がける。
・大学の一構成員として,大学の研究・教育の向上に関する事柄について,今まで以上に積極的に発言を行い,必要があればチームをつくり取り組むよう努めたい。
・同時に,指導力のある方々の意見・提言を受け止め,誠心誠意,その実現に努めたいと思う。

(2)点検・評価

大学院教務委員会委員などの仕事に関して積極的に発言をするなど,上記の各点について目標に忠実に実行した。

 

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

・附属幼稚園,附属小学校・附属中学校の園児・児童生徒が地域の美術館を利用し,実りある鑑賞学習ができるよう,各学校園および美術館と緊密な連絡を取り合い,教育内容が充実するよう,ギャラリートークなどの授業計画作成に協力する。
・附属学校園との意志の疎通がいっそう潤滑に進むよう,研究会・教育実習などさまざまな機会を見つけては足を運び,先生方とのコミュニケーションの密度を高め,懇親に努めたい。できるならば,附属小学校などが,美術教育が盛んな学校として全国的に名前が知れ渡るよう積極的に支援していきたい。また,附属の教員で学会発表を志す先生と共同研究を推し進めたい。
・美術科教育学会の理事として,美術教育研究の質の向上に努めたい。
・「せとうち美術館ネットワーク」や県立近代美術館「鑑賞教育推進プロジェクト」,さらに大塚国際美術館との「地域文化財教育活用プロジェクト」への参加によって,地域の教育力を高め,子どもたちや市民の美術館来館による美術・芸術の活性化と,美術教育理論の社会への応用を図りたい。

(2)点検・評価

附属幼稚園,附属小学校・附属中学校の園児・児童生徒が地域の美術館を利用し,実りある鑑賞学習ができるよう,各学校園および美術館と緊密な連絡を取り合い,教育内容が充実するよう,各館の学芸員等とも協力し合い,ギャラリートークなどの授業計画作成と実施に協力を行なった。
教育実践フィールド研究や初等中等教科教育実践ⅠとⅡでは,附属校との連絡役となり,授業運営が潤滑に進捗するよう心掛けた。もちろん,校内研究会・公開研究会・教育実習などさまざまな機会を見つけては附属校に行き,先生方と研究協議を行なった。
美術科教育学会の理事,大学美術教育学会の内容学検討委員会の委員,「せとうち美術館ネットワーク」のアドバイザー,大塚国際美術館の財団評議員などの役割を通じて,地域の教育力を高め,子どもたちや市民の美術館来館による美術・芸術の活性化と,美術教育理論の社会への応用を積極的に行なった。

 

3.本学への総合的貢献(特記事項)

日中学術研究集会に二件の研究発表を行なった。このうち一件は,日本の高校の美術教育を俯瞰するために多様な教育方法を有する全国4校の高校教員との共同研究であり,もう一件は科研に関するものであった。当初,予定していなかった実績なので,この欄に記入させていただきます。

 

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