自己点検・評価報告書(井上和臣)
報告者 井上和臣
1.学長の定める重点目標
1-1.大学教員としての授業実践
(1)目標・計画
(2)点検・評価
平成22年度における学部の授業「学校精神保健学」では,予定通り,児童青年期にみられやすい精神障害を,特徴的な症例ごとに取り上げ,精神科医としての臨床経験に裏打ちされた,実践的な「臨床の知」を提供できるようにした。授業では,アメリカ精神医学会(APA)発行のケースブックに掲載されている症例を15回にわたり提示し,症例の具体的記述を読んでもらうようにした。成績評価に際しては,出席だけでなく,文献輪読回数を重視し,レポート得点とともに総合的に実施した。
大学院の授業「精神医学」「精神医学文献演習(以下,「演習」)」「心理療法研究」では,予定したとおりの授業内容とすることができた。授業方法についても,各精神障害の概要を教示する「精神医学研究」を基礎とし,「演習」では英語文献として,アメリカ精神医学雑誌(AmericanJournal of Psychiatry)から最近の総説論文を輪読した。とくに,「精神医学研究」では,授業内容に関する質問と批判的な質問を作るよう学生に勧め,各講義の始めに質問への回答に十分な時間をとった。「心理療法研究」は,学生から提案された2つの心理的問題に対して認知再構成法を学生とともに進めた。成績評価は,レポートが中心であったが,授業内容を基礎にした独創的視点を高く評価した。
1-2.大学教員としての社会貢献
(1)目標・計画
日本認知療法学会の幹事(事務局長)として,認知療法の普及,とくに医療への適用に尽力するとともに,自らが主宰する「認知行動療法を学ぶ会」(京都市)の活動を継続する過程で,認知療法に関する著書・論文の執筆,関連学会・研修会での講演等に取り組みたい。
認知療法と近縁の関係にある社会生活技能訓練(SST)について,SST普及協会(とくに四国支部)が主催する研修会の企画・講演等に取り組みたい。
認知療法・認知行動療法の診療報酬化が実現する見通しであるので,精神科医としての診療業務にも,さらに積極的に認知療法を活用したい。
(2)点検・評価
日本認知療法学会の幹事(事務局長)として,引き続き認知療法の普及に尽力するとともに,「認知行動療法を学ぶ会」(京都市)の活動を継続した。定例会は2011年3月に第168回となった。認知療法に関する著書として,「パーソナリティ障害の認知療法:ケースから学ぶ臨床の実際」を先ごろ出版することができた。医師を主な対象とした複数の講演会において,認知療法・認知行動療法に関する講演を行った。
社会生活技能訓練(SST)について,SST普及協会四国支部あるいは徳島県精神科病院協会が主催する研修会での講師を務めた。
精神科医としての診療業務に,認知療法・認知行動療法を積極的に用いて治療に当たった。
2.分野別
2-1.教育・学生生活支援
(1)目標・計画
学部学生の基礎学力の充実に不可欠な日本語を的確に読む能力を高められるよう,学部での授業に取り組みたい。
大学院学生に対しては,英語能力の向上が求められる授業展開を,文献購読演習の場で実施したい。
臨床心理士として主に保健医療福祉領域での臨床活動を将来実践する臨床心理士養成コースの大学院学生に向けて,当該領域での活動に資する認知療法・認知行動療法の具体的な適用法を理解できるように,主宰する「認知行動療法を学ぶ会」などへの参加を促し,事例に即した認知療法・認知行動療法の取り組みを提示していきたい。
(2)点検・評価
学部学生の日本語を的確に読む能力を高められるよう,学部での授業「学校精神保健学」では,資料の輪読を取り入れた。
大学院学生に対しては,英語の文献購読を実施した。
臨床心理士をめざす学生に向けて,主宰する「認知行動療法を学ぶ会」などへの参加を促した。
2-2.研究
(1)目標・計画
認知療法に関する著書・訳書の執筆に取り組みたい。目下の課題は,パーソナリティ障害の認知療法に関する著書の完成,京都府立医科大学・徳島大学の精神科医と共同して計画中のパーソナリティ障害の認知療法(Beckら,改訂2版)の翻訳である。
(2)点検・評価
認知療法に関する著書として,「パーソナリティ障害の認知療法:ケースに学ぶ臨床の実際」を岩崎学術出版社から出版した。編集および総論の執筆に関わった。京都府立医科大学・徳島大学の精神科医と共同して翻訳中の「パーソナリティ障害の認知療法(Beckら,改訂2版)」は初校を待つ段階で,2011年度の早い時期に,岩崎学術出版社から出版する予定である。
2-3.大学運営
(1)目標・計画
兵庫教育大学大学院・連合学校教育学研究科の副研究科長としての職責を全うする。
各種委員会での職務を適切に遂行することで,大学の運営に関わることにする。
(2)点検・評価
兵庫教育大学大学院・連合学校教育学研究科の副研究科長としての職責については,年間を通じて,概ね遂行できた。
衛生委員会での職務については,委員会への参加が中心であったが,日程の関係で十分に務められたとは言いがたい。
2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等
(1)目標・計画
徳島県精神科病院協会の主催する社会生活技能訓練(SST)研修会を継続し,県内精神科医療機関の看護師,精神保健福祉士,作業療法士などに対するSSTの実践的教育に積極的に関わりたい。
(2)点検・評価
徳島県精神科病院協会の主催する社会生活技能訓練(SST)研修会は例年通り5回にわたり実施した。ただし,例年に比し,研修助手を担当する看護師が1名であったため,研修会参加の人数は20名程度に抑えざるを得なかった。
3.本学への総合的貢献(特記事項)
認知療法・認知行動療法が保険診療の中に位置づけられたことが2010年度の大きな動きであった。認知療法に対する関心が高まる時期に,2001年の学会創設以来引き続き,日本認知療法学会事務局長として,鳴門教育大学に事務局を置き,職責を果たすことができ,大変ありがたく思っている。あわせて,「パーソナリティ障害の認知療法:ケースに学ぶ臨床の実際」を出版でき,鳴門教育大学の名が表紙を飾ったことも喜ばしいことであった。