自己点検・評価報告書(生活・健康系コース(保健体育),実技教育研究指導センター) 梅野圭史

報告者 梅野圭史

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての研究活動

(1)目標・計画

  1. すぐれた教師の実践的知識の解明とその実践的適用,とりわけ教師の反省的実践(反省的思考と授業中に生起する出来事への気づき)に焦点を当てた授業の科学を推進し,実際の授業場面における「見込みある教師」への介入実践に取り組みたい。
  2. 過去,「プロセススープロダクト」研究法の発達に伴い教師の教授戦略」が発達してきた。これに対して,子どもの学習戦略の形成にはほとんど踏み込んできていない。そこで,子どもの学習ストラテジー(方略・戦術・戦略)の科学に挑戦してみたい。
  3. 「身体でわかる教育学」の構築に向けて,継続して研究してきた「世阿弥」の稽古論をまとめ上げてみたい。
  4. 過去に試作した「体育のおける道徳的葛藤価値検査」の実践への適用に関する研究を深めたい。すなわち,「葛藤価値検査」の診断結果の妥当性を実際の体育授業の分析との関連から追及したい。

(2)点検・評価

  1. 体育授業に対する教師の反省的思考の内実を小学校教員を対象に主成分分析による因子分析を行った。その結果,「観察・判断」「授業計画」「指導技術」「学習記録」の4つの成分は,学年を問わず共通した反省的思考であることを認めた。加えて,高学年担任からは第5成分以降の反省的思考が取り出され,それらは体育授業独自の反省的内容であった。さらに,各反省的思考を代表する項目により作成した反省的尺度の得点と児童の授業ひょうかの一つである態度得点との関係を検討した結果,授業評価のレベルに反省的得点が顕著に対応することが認められ,授業実践能力と反省的思考との間に密接な関係のあることが示唆できた。一方で,「見込みのある教師」の体育授業に対する反省的思考に介入した実践事例研究を行った結果,介入により教師の反省的思考は着実に深まったが,その教師が行う体育授業に対する児童の態度得点には顕著な向上が認められず,授業実践と反省的思考との間に何らかの媒体要因が存在している可能性が考えられた。現在,体育学会では,上記の2つの知見に対するメカニズムの解明に力を注ぐようになり,大きな貢献を果たしたものと考えている。
  2. 中学校生徒の対象に体育授業における学び方の構造を主成分分析による因子分析を行った。その結果,「有能感を味わうための学び方」「課題(めあて)や練習の良し悪しを判断する学び方」「うまくなるための情報を収集・活用する学び方」「仲間の動きやプレイから学ぶ学び方」「運動の構造(しくみ)がわかる学び方」「仲間と共に学ぶ学び方」「課題(めあて)の意味を理解する学び方」の計7つの学習ストラテジーが取り出された。その上で,これら7つの成分を代表する学び方項目を抽出し,体育授業に対する学び方尺度を作成し,彼らの体育授業に対する愛好的態度との関係を検討した。その結果,第2成分の「課題(めあて)や練習の良し悪しを判断する学び方」の得点と「よころび」尺度の得点との関係を除くすべての組みデーターに有意な相関関係が認められ,学び方得点が高いと愛好的態度も高くなる関係が示唆された。今後,生徒の学び方得点が高くなる体育授業のあり方について検討していきた。
  3. 現在,文献講読中であり,明確な論点にまで仕上がっていない。
  4. これは,科学研究費(萌芽研究)の支援を受けて行っている研究である。体育授業に対する愛好的態度の因子構造では,小学校第4学年期から「体育授業に対する価値観」が形成されてくる。これより,運動中の葛藤(暴力とスポーツという葛藤)が大いに迫られる「スポーツチャンバラ」を4年生児童に展開し,彼らの葛藤価値判断力がどのように高まるのかについて検討した。その結果,スポーツチャンバラの単元前後における葛藤価値判断力の診断j結果を比較してみると,4つの診断レベル毎の変化傾向には有意差はみとめられなかったが,「S1-S2」レベルと「S3-EX」レベルとの間には有意差が認められ,単元後において葛藤価値判断力が高める傾向が示された。今後,第6学年の児童の葛藤価値判断力を高める運動教材について検討していく必要がある。

1-2.教育大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

  1. 授業内容と方法:実技指導では,運動実技の活動にとどまらず,講義や演習も取り入れ,体育授業における現場の諸問題を総合科学的(運動学,運動生理学,バイオメカニクス,スポーツ史など)に整理して,指導したい。講義では,1授業1テーマによるテーマ学習を展開し,学生の理解を深めていきたい。とりわけ,学校現場の問題に焦点づけたテーマ学習を展開させたい。演習では,すぐれた体育授業のV.T.Rを視聴させ,教師行動と学習者行動の理解を深めたい。
  2. 成績評価:実技では,グレイド制による判定を明確にするとともに,運動の知識に関する試験も行い,小学校教師としての基礎的基本的な能力を高めたい。講義では,「試験—再試験」を行い,講義内容の理解を徹底したい。

(2)点検・評価

  1. 運動方法実習IV(バスケットボール)において,よりよいオフェンスの作戦行動を課題解決的学習(コア・モデルによる作戦づくり)により展開させる(8時間)とともに,ゲーム学習における教師の相互作用行動(ゲームフリーズ)の習得を試作したアプリケーションソフトを用いて実施(4時関)した。残り3時間は,ゲーム分類に関する研究知見を講義した。このように,実技指導における多様な学習活動を展開させることで,体育・スポーツ科学が実学的性格を有する総合科学であることを理解させた。
    また,初等・中等教育実践Ⅲでは,児童の授業評価の高い教師とそうでない教師の体育授業における教師行動をカテゴリー分析法により演習させ,教育実習における体育授業での教師行動のイメージを高めさせた。
    いずれの授業においても,学生の学習成果がすこぶる高い結果を得た。
  2. 初等体育I(ボール運動)では,学習指導要領に記載されている内容の系統的理解を実技とテスト形式のレポートにより実践した。すなわち,「易しい攻防分離型ゲーム→難しい攻防分離型ゲーム→易しい攻防相乱型ゲーム→難しい攻防相乱型ゲーム」へと児童のゲーム経験を積み重ねていくことの意味を理解させた。また体育科教育論(受講生178名)では,オリエンテーション時に10問のからなる試験問題を提示し,これに即して毎授業で講義内容が異なるテーマ学習を実践した。また試験では,「試験―再試験」を行うことで,学生にしっかりと勉強してもらった。学生の中には,大学で最も勉強した授業だったと述べた者がいた。学生の授業評価もきわめて高かった。

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

  1. 卒業論文指導および修士論文指導を従来の通り,学校教育実践に直結した内容の指導を深めていきたい。
  2. 博士論文指導では,3年次修了をめざして,学生の論文完成に務めるとともに,就職活動に尽力したい。
  3. 他大学の教員への論文博士の指導を充実させ,論文提出にまで到達させたい。現在,3名の志願者がいるので,一人ひとりじっくりと指導していきたい。
  4. 男子および女子バスケットボール部の戦力充実をはかり,四国大会ベスト4をめざした。
  5. 男子および女子バスケットボール部のOB会とOG会の組織力を高め,現役学生との交流を深めていきたい。

(2)点検・評価

  1. 卒業論文では,2名の学生が体育授業における児童の心拍数を高める教師の働きかけの内実を検討するとともに,そうした授業に対する児童の授業評価との関係を検討した。また,もう1名の学生は,スポーツチャンバラの教材価値を葛藤価値判断力から検討し,小学4年生における教材の適時性を明らかにした。修士論文では,中学生の体育授業に対する学習ストラテジーの存在を因子分析法により追求し,保険体育コースの推薦論文となった。また修士1年生の3名のうち2名は,中学生の学習ストラテジーを高める体育授業のあり方について検討するとともに,小学校4年生と6年生における学習ストラテジーの内実を因子分析法により追求しようとしている。残る1名の学生は,すぐれた実践者の感性的省察に関する哲学的考察を展開すべく,多量な文献研究を展開中である。いずれも,学校教育実践に直結する内容であり,研究成果の及ぼす影響は大きいものと確信している。
  2. 一昨年に終了した博士課程の学生の就職が決まり,北海道大学にて教壇に立っている。また,現在博士課程の学生も仏教大学への就職が決まり,博士論文の執筆に拍車がかかっている。
  3. 論文博士の希望者3名は,自らの業務との関連で遅々とした現状にあるが,2月毎に鳴門を訪れており,着実に論文完成に近づいている。
  4. 男子バスケットボール部は,夏と秋の2度の四国インカレにおいてベスト4に進出し,着実に決勝進出への足がかりをつかんでいる。女子バスケットボール部は,四国インカレではベスト4進出はできなかったが,全国教員養成大学における選手権では念願の3位入賞を果たし,来年度への弾みをつけた。
  5. 今年度1月OB会とOG会を合同に開催し,現役学生との親交を深めるとともに,ルネッサンス鳴門で合同のパーティーを開催し,交流の輪を広げた。

2-2.研究

(1)目標・計画

上記1−1.大学教員としての研究活動に記載した内容と同様のため,省略する。

(2)点検・評価

上記1−1―2.大学教員としての研究活動に記載した点検・評価の内容と同様のため,省略する。

2-3.大学運営

(1)目標・計画

  • 実技教育研究指導センター長として,芸術・健康教育学系との連携を密にとり,実技教育の拡充と発展をめざしたい。とりわけ,上越教育大学と兵庫教育大学との連携を密にとり,相互交流を深めていきたい。
  • 実技センターの4分野である「体育」「音楽」「美術」「言語」のうち,「言語」を発展的統合して3分野化し,業務の内容を焦点づけたい。

(2)点検・評価

  • 実技センターとしての教育実践は,過去5年間の中でもっとも教育成果の高かった1年であった。これには,各分野のグレイド制度が授業との関連を密にしてきたことにある。
    一面,当初計画に記載している兵庫教育大学と上越教育大学との連携に関しては,それぞれの大学における教員組織および教育組織の改編により,共通に協議したり,連携したりする内容が希薄となったため,実行することができなかった。
  • 実技センターを「体育」「音楽」「美術」の3分野化する考え方の検討を行うまでもなく,センター再編検討委員会が発足したことで,そちらの検討に委ねることとなった。

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

  • 体育学習における学習ストラテジー(方略—戦術—戦略)研究を附属中学校の先生方と深めて,実践していきたい。
  • 附属小学校の研究会に積極的に参加して,交流を深めていきたい。

(2)点検・評価

  • 附属中学校の福田教諭の協力を得て,データー収集が進み,得られた結果を附属中学校に還元することができた。

3.本学への総合的貢献(特記事項)

  • 教育と研究に関しては,保健体育教育コースの授業を中心に,実技センターの業務の併任,および教職大学院の授業実践,さらには連合大学院における博士論文指導等,多岐にわたり実践した。とりわけ,本学の学部卒業生であり,大学院修了生であった学生が博士課程に進学し,博士(学校教育学)を取得後,北海道大学への就職を果たした。加えて,現在,博士課程の学生が仏教大学への就職を果たし,フレックスタイムを利用して勉学に勤しんでいる。
  • 課外活動では,男女バスケットボール部の指導に力を注ぐとともに,OG会およびOB会の活動をより一層に組織だったものにした。
最終更新日:2010年03月15日

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