自己点検・評価報告書(自然系コース(数学)) 松岡隆

報告者 松岡隆

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての研究活動

(1)目標・計画

数学分野

  力学系理論の幾何学的側面について研究する。力学系理論は,様々な自然現象を統一的に理解するための数学理論であり,物理学など諸科学との交流の元で近年急速な発展を遂げてきた。この研究を通じ,数学と他の諸科学との結びつきについての理解を深めていきたい。本年度は,現在執筆を終えつつある研究成果を発展させて,幾何学概念である「組ひも」から最近構成されたある代数的対象を計算することにより,円板上の連続変換の周期2をもつ周期的運動の特性について調べる。

数学教育分野

  学校における算数・数学教科の教科内容・題材の構成について研究し,そこから得られる知見を元に,教員養成系における数学の教科内容の研究を行う。本年度は,連合研究科プロジェクト「教育実践学の観点から捉える教科内容学の研究」(最終年度)の分担者として,高等学校の数学内容を分析し,これまでに行なった小・中学校における分析結果と併せて,教員養成系における数学専門科目の教科内容の構成について考察し,より望ましい構成案の提示を目指す。

(2)点検・評価

数学分野

  力学系理論の幾何学的側面について研究した。幾何学概念である「組ひも」から構成される代数的対象を計算し,円板上の連続変換の周期2をもつ周期的運動の定性的特徴づけを与えた。この計算は4個以下の生成元の積でかけるという限定的な条件の下で行われたものではあるが,これまで全く計算例がなかった状況を大きく改善したものである。さらに,円板とは異なる曲面である輪環面において,1次の組ひもから構成される代数的対象の可換化を求める公式を発見した。この成果を8月に金沢市で開催されたトポロジーシンポジウムにおける招待講演の一部として発表した。

数学教育分野

  連合研究科プロジェクト「教育実践学の観点から捉える教科内容学の研究」の分担者として,高等学校の数学内容を分析し,前年までに行なった小・中学校における分析結果と併せて検討した。この検討の結果を元に,教員養成系における数学専門科目の教科内容の理念・内容・構成について考察し,モデル構成案を提示した。この成果は,プロジェクトの成果をまとめた専門書「教育実践から捉える教員養成のための教科内容学研究」(風間書房、2009年4月発刊予定)の第4章として公表する。また,教員養成系の数学担当教員有志で構成する京都大学数理解析研究所共同研究「数学教師に必要な数学能力形成に関する研究」にも参加し,教員養成系における数学専門科目の在り方に関する共同研究を行った。この成果は数理解析研究所講究録に発表される予定である。

1-2.教育大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

  1. 授業内容

      本学数学コースの殆どの学生がもつ大きな問題点の一つは,高校までの数学に関する学力はある程度備えているものの,数学の理解がそれ自身の中に留まり,数学が現実の事象と深く関わりをもち,身の回りの問題や現象の中に現れ立ち働いていることをよく理解していないことである。この改善を図るため,幾何学の授業では,幾何学と現実の事象との関わりに重点を置き,学校で学ぶ幾何学が,如何に日常生活や自然界の理解に繋がっているかを理解させることを目標とする。 また,数学の美しさや面白さが実感できるような内容を多く盛りこむ。これらのことにより,幾何学教育の意義を認識させる。

  2. 授業方法

      数学の定理や証明を講義形式で教え込めば,広い範囲の数学を効率よく学ぶことができるがその理解は表面的なものに留まり,将来教員として授業を行っていく際に実際に役に立つ力が育つとは思われない。そこで,授業の方針として,内容を単に伝授するのではなく,できる限り自分自身の力で発見することができるよう指導を図る。これにより,学習する数学知識の絶対量は減るものの,自分で深く考える経験を通して,教員としての真の力量形成が行えるものと考える。
      また,毎回の授業の開始時に小テストを行い,受講生の内容理解の様子を把握するとともに,授業時間外での学習を促す。

  3. 成績評価

      小テストの成績を約30点(期末試験は約70点)と大きく設定し,授業外での学習を促す。また,演習で発表を行えば,点数を加算することにし,授業中のより活発な学習を促す。この評価方法は,授業目的・到達目標とともに,初回の授業で説明し,周知を図る。

(2)点検・評価

  1. 授業内容

      授業「幾何学I」において,幾何学と日常生活や自然界との繋がりについて理解させるため,円錐曲線が身近に現れる例を重点の一つに取り上げた。また,「幾何学II」では,物がどのような平面図形として見えるかという実際的問題に関する内容を新たに取り入れた。「幾何学III」では,図形がゴムのように変形自在とした場合の分類など,数学の美しさや面白さが実感できるような内容を盛りこんだ。これらを通して,幾何学教育の意義を認識させることに努めた。

  2. 授業方法

      立体の切断面,正多面体の構造,多角形の合同条件,錐体の体積,曲面の構成などを題材として,標準的な解法の単純な応用問題ではなく,自らの力で解決の道筋から発見していく必要のある課題を与えた。これらの課題に多くの時間が費やされることにはなったが,総合的な思考力の育成に効果があったと考える。また,毎回の授業の開始時に,宿題として提出した課題や前回の内容に関する小テストを行った。受講生の理解の様子が常時把握でき授業計画に適切な修正を加えることができたとともに,大多数の受講生に十分な復習を促して理解を確実にする効果があったと考える。

  3. 成績評価

      すべての授業で,小テストの成績を約30点(期末試験は約70点)と大きく設定し,授業外での学習を促した結果,大多数の受講生が復習を行うなど効果が見られた。また,演習で発表を行えば,1~2点程度の点数を加算することを,初回の授業で説明し実施した結果,積極的な発表が見られ授業が活発なものとなった。

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

  1. 卒業・修士論文の指導に当たっては,学生が自発的に研究することを重視して指導する。
  2. 授業内容に更なる工夫を重ねることにより授業改善に努める。
  3. 学部・院のゼミ生に,教員採用試験の数学過去問題を演習として解かせ,その解説・指導を行う。(学生支援)

(2)点検・評価

  1. 卒業・修士論文の指導(学生3名,院生2名)では,各自の興味関心・適性に応じたテーマを選び,自発的な研究を行うよう奨励した。それぞれのテーマが全く異なるため,丁寧な個別指導が必要となったが,それに見合う成果が表れたと考える。
  2. 学部授業: 「幾何学II」において,これまでの内容を構成し直し,教員養成系に相応しいと考える題材(物の見え方)を新たに導入した。「幾何学III」では,内容をより分かりやすくするため,オイラー数と曲面の導入の順序を逆にした。
    大学院授業: 「幾何学研究」では,学校で有用な題材であり受講生の興味も大きいため,折り紙を用いた教材解説の部分を拡充した。また,「幾何学演習」では,提示する幾何教材例を昨年度よりも大幅に増やした。
  3. ゼミ生に,教員採用試験問題に関連した数学内容について解説した。また,就職支援行事の一つである教採実技ガイダンス(個人)の模擬授業・個人面接(第1回,第2回)の面接官を務めた。

2-2.研究

(1)目標・計画

  1. 円板上の連続変換の周期2の周期点について,組ひも群のLawrence-Krammer表現を用いて研究する。
  2. 不動点理論に関する執筆中の著書「Braids and periodic points on surfaces(仮題)」の主要部分の執筆を3/4程度終える。
  3. 連合研究科プロジェクト「教育実践学の観点から捉える教科内容学の研究」の分担者として,高等学校数学科の教科内容の分析・研究と,教員養成系における数学専門科目の内容構成についての研究を行う。
  4. 20年度の科学研究費申請が不採択となった場合,21年度の申請を行う。

(2)点検・評価

  1. 円板上の連続変換の周期2の周期点について,組ひも群のLawrence-Krammer表現を用いた研究を行い,組みひもが4個以下の生成元で書ける場合に位相的特徴づけを与えた。
  2. 不動点理論に関する執筆中の著書「Braids and periodic points on surfaces(仮題)」の主要部分の執筆を半分強程度終えた。この過程で,輪環面において1次の組ひもから構成される代数的対象の可換化を求めることができる可能性に気付き,計算公式を発見した。
  3. 連合研究科プロジェクト「教育実践学の観点から捉える教科内容学の研究」の分担者として,高等学校数学科の教科内容の分析・研究と,教員養成系における数学専門科目の内容構成に関する研究を行った。
  4. 20年度の科学研究費申請が不採択となったため,21年度の申請を行った。

2-3.大学運営

(1)目標・計画

  いずれかの委員会委員として,学内の会議に出席し,職務を遂行する。

(2)点検・評価

  大学院教務委員会および大学院コアカリ運営委員会の委員としての職務を遂行した。

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

  1. 附属中学校から要請があれば,選択教科などの授業を担当する。また,附属小・中学校の算数・数学教員から質問,相談があれば,綿密な解答,アドバイスを行う。(附属学校)
  2. 教員支援講師・アドバイザーに登録する。学校現場から講師としての要請があれば,積極的に引き受け,生徒・児童に数学の楽しさ,面白さを伝えるよう努める。(社会貢献)
  3. 講座として学内で開く小学生対象「算数教室」の企画・実施を担当する。また,鳴門市「子どものまちフェスティバル」が開催されれば,図形パズルのコーナーを企画し実施を担当する。(社会貢献)
  4. JICA研修の講師を務める。(国際協力)

(2)点検・評価

  1. 附属中学校で,LFタイムの講師を務めた。(附属学校)
  2. 教員支援講師・アドバイザーへの登録を継続した。大阪高等学校数学教育会の顧問を務め,8月に行われた研究会で指導助言を行った。(社会貢献)
  3. 講座として学内で開く小学生対象「算数教室」の企画・実施に携わった。また,鳴門市「子どものまちフェスティバル」において,図形パズルのコーナーの実施を担当した。(社会貢献)
  4. 大洋州,中東,南アフリカのJICA研修の講師を務めた。(国際協力)

3.本学への総合的貢献(特記事項)

  1. 連合大学院の副研究科長を務めた。
  2. 日本数学会の委員会の一つである教育委員会の専門委員を務め、3月29日に東京大学で開催された日本数学会教育員会主催「教育シンポジウム」の第2部「大学院教育問題」の司会として,教育系大学院の数学教育専攻学生に対する修論指導方法に関する討論をまとめた。
最終更新日:2010年03月15日

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