自己点検・評価報告書(自然系コース(数学)) 成川公昭

報告者 成川公昭

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての研究活動

(1)目標・計画

  自然界に現れる諸現象を記述する非線形微分方程式の解析を行い,解の構造を研究することにより,その現象を解明することを目的とする.本年度は特に空間変数に依存した非一様,非等方な準線形楕円型方程式の研究を中心として行う.このテーマはここ数年来,科学研究費の補助を受け行ってきた研究の延長線上にあり,本年度の申請テーマでもある.その研究分担者である学内教員と徳島大学の教員と共に,それぞれの得意分野における研究を統合して本研究課題の解決に当たる.具体的には,毎週1度,研究協力者が研究課題解決のためにそれぞれに与えられた課題を持ち寄って集まり,セミナーを通してその理解を深め,さらにその方向付けを行い,次回に向けてそれぞれの課題を持ち帰り研究を深める,という形で共同研究を進めていく.この方法は既に十数年来にわたって続け,十分な成果を上げており,本年度に於いても,このことを実行することにより満足な結果が得られるものと思っている.期待される結果は,非一様,非等方準線形楕円型方程式の多重解の存在,分岐解の構造,解の正則性等であり,これらは数学的のみならず,物理的にも十分意味のあるものと思われる.

(2)点検・評価

  数年来研究を続けている準線形楕円型方程式の解の構造について詳しい解析を行った.さらに,自由境界が現れる変分問題に対してもその対象を広げ研究を進めた.これらは今まで科学研究費の補助を継続して受け,徳島大学の共同研究者と共に進めてきたものであったが,本年度は心ならずも科学研究費が不採択となり,研究計画を一部変更せざるを得なかった.しかし,それにはかかわらず,毎週1回のペースでセミナーを開催し,今までの研究を更に進め,一応の結果を納めることができた.更なる問題としての自由境界が現れる変分問題に対しては,その道具となる有界変動関数の空間の構造や,幾何学的測度論について研究を深めた.その成果はまだまとめる段階ではないが,今後の研究に於いて十分に生かされると考えている.また,科学研究費の分担者として破壊力学の構造についての研究を他大学の研究者と共に行った.破壊力学には弾性論及び非線形解析が重要な役割を果たすが,その部分を分担して研究を行い,これも研究協力者が一堂に会したセミナーを通して研究を推し進めることができた.

1-2.教育大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

  1. 授業は主に教科専門の分担になるが,大学に於いて数学を学んだ者としての基礎的な知識と考え方が身につくよう授業を展開したい.大学で学ぶ内容は,いままで学習してきた問題の解法がわかればいいといった立場と異なり,その定義,各々が持っている意味やその理由を重視し,更に理論的な構成を図るため,学生にとっては一見専門的すぎて学校数学とは何の関係もないようにとられがちである.しかし,このことにより学校数学で学ぶことの基礎的な部分をしっかりと身につけることが出来,その位置づけも明確になる.このことを特に強調し,単なる専門的知識の詰め込みでなく,教育現場との関わりを盛り込んだ内容の講義を行う
  2. 特に学校教育との関わりに注意し,出来るだけ学校で行われる内容や教材をもちだし,授業を進める.また,積極的に学生が授業に参加するよう,演習を多く取り入れると共に,研究課題を与え,学生自ら調査,研究を行い発表を行うという形をとっていきたい.
  3. 出来るだけ公正な評価を行うと共に,その評価法に対して学生がやる気を出す方法をとりたい.具体的には,基礎的な考え方が身についたかどうかを問う試験を内容の区切りごとに行う.それに加え,演習の発表状況,調査,研究の状況の評価を行い成績評価とする.

(2)点検・評価

  1. ここ数年来の学生の学力の低下は甚だしく,将来の日本の科学技術を支える人材を指導する教員を養成する教育大学の教員として非常に危機感を持っている.今まで,指導内容や指導方法については学生の要求や満足度を重視し,そのときの学生のレベルにあわせて授業を行ってきたが,学生の方がそれに甘んじ,自ら励んで高いレベルに達しようとする気持ちが感じられなくなってきている.このことを深く反省し,学生自らが苦しみながらも努力し力をつけていくよう,あえて教育内容のレベルを下げるということはしなかった.その分,専門的内容ではあるが,これらの教育現場や社会における重要性や関わり,抽象的な内容ではあっても物理的現象との関わりを強調したり,詳しく解説することにより,苦しくとも考えることの面白さや理解することの必要性について十分に伝わるよう努力した.その結果,未だ十分とは云えないが,多くの学生に,何とか努力して理解しようとする態度が見られるようになった.
  2. 上記の通り学生が自ら努力して学習するといった態度を重視した.そのため,1年生の授業から研究課題を与え,発表を行わせ,その内容に対しては専門的立場から厳しいコメントを与えた.最初とまどっていたものが多かったが,ほぼ全員の学生が自分の考えを発表し,相手の問題点もつくようになり,またそのために深く勉強もするようになったようである.大学院生に対しても計算力や思考力を養うため,演習問題中心の授業を行った.いずれの場合にも,基礎的な概念や,それを十分に理解していることが如何に重要であるかを強調して説明した.このことにより基礎,基本となるものの必要性や,それを元にして自らの力で考えることの重要性について十分に理解したようであり良かったと思っている.
  3. 成績の評価基準については公正になるよう事前に学生に説明し,それに基づいて行った.成績評価を気にする学生もいたが,しっかりやっておれば必然的に成績に於いてもいい結果が出ると説明し,普段の学習に力を入れるよう指導した.実際の評価に於いては,基礎的な考え方や,論理的に組み立てた考えができることを重視した.

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

  1. よりよい教員を育成し,社会に送り出すことが本学の使命である.そのためには教員としての専門的知識を伝えることはもちろんであるが,幅広い人としてのものの考え方,ものや生き方に対する姿勢も身につけるよう努力しなければならない.そのために,オフィスアワーに限らず,空いている時間には学生との接点を出来るだけ作り,自分が今まで行ってきた研究に対する姿勢や,過去の経験を話し,問題提起をすることにより学生の考えを引き出し,共に考えることにより,知的関心や興味を常に持って学生生活が送れるよう努力する.同時に,学生が気楽に悩みや相談を打ち明けることが出来るよう,互いの信頼関係を築き,それに基づき,学生指導に当たる.
  2. 学生の教員採用試験に対する士気を高めると共に,実力を身につけさせるため,昨年度に引き続き,「教員採用対策塾」を開講する.ここでは各都道府県の教員採用試験過去問題等を演習問題として解かせ,その解説,指導を行う.
  3. おりにつけ,教師という職業のやりがい,すばらしさを,先輩の活躍の様子などの具体的な形で学生に伝え,教職に向けて早い段階からモーチベーションを高く持てるよう指導する.

(2)点検・評価

  1. 学生とはできるだけ垣根を作らず自由に話ができるよう,こちらから積極的に声をかけ,自分の研究内容をはじめとしていろいろな話題を話すよう心がけた.漫然と学生生活を送ることのないよう,広く自分の考えを話し,問題提起を行った.学生が話す内容についてはそれを尊重し,共に真剣に考えてこちらの意見を述べるよう努めた.その結果,多くの学生が研究室を訪れ,専門の数学に対しては勿論,学生生活や人生の悩みについても相談を受けた.また1年生学生からはフットサル同好会を立ち上げたいとの申し出を受け,その顧問教員を引き受けた.
  2. 本年度もまた教員採用1次試験が終了する7月初旬まで「教員採用対策塾」を行ない,採用試験の過去問題,予想問題の解説を行った.これに参加することで多くの学生が受験に向けてペースをつかみ,士気を高めたという意見であった.これを通して,問題を解きそれを理解することの充実感も感じたようである.また,1次試験の終了後,希望する学生に対しては模擬授業,面接に対しての指導も行った.その結果,4名の学生が教員として正規に採用された.
  3. 附属学校,鳴門市内の中学校へ実習に出かけた学生にはその指導も兼ねて学校に赴いたが,その他の学生に対しても教員になった先輩達の活躍の様子を話し,教職に深い関心を持つよう努力した.

2-2.研究

(1)目標・計画

  科学研究費補助金への申請中である「空間的に非一様,非等方な準線形楕円型方程式の解の構造の研究」の研究を,採用,不採用にかかわらず推し進める. また,現在研究分担者となっている「特異性を持つ連続対力学の数理研究」についても,自分の分担部分の研究を深める.これらの研究の過程に於いて得られた結果を論文としてまとめ上げ,国際誌への投稿,発表を行う.

(2)点検・評価

  本年度は意に反して科学研究費が不採択となってしまったが,徳島大学の共同研究者とは続けて準線形楕円型方程式の解の構造の研究を行った.その結果の一部は国際誌である Proc. Royal Soc. of Edinburgh に掲載された.また,科学研究費の補助を受けた研究課題 「特異性を持つ連続体力学の数理研究」についても研究分担者として研究を進めた.更に,新たな課題として自由境界が現れる変分問題について考え,その解析のための基礎となる有界変動関数,幾何学的測度論について研究をおこなった.これについては,未だまとめる段階にはないが,今後更なる研究によりその成果を期待している.

2-3.大学運営

(1)目標・計画

  コースより選ばれた各種委員の委員として大学運営に関わり,自分の能力の範囲で出来る限り大学運営に貢献する.

(2)点検・評価

  本年度は新たな制度のもとでコース長を任され,コースの円滑な運営に当たった.年度初めは教員2名の欠員のため,コースの構成員が教育研究と各種委員において負担がかかり,心を砕いて運営をせざるを得なかったが,構成員それぞれの献身的な協力のお陰で,十分に満足のいくコース運営,教育,研究を行うことができたと評価している.欠員の2名についてはいずれも満足のいく人事を行うことができ,来年度より十分な体制で教育研究に臨むことができるようになった.コース選出の委員としては学部入試委員を引き受け,副委員長として無事入試業務を行うことができた.

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

  1. 附属学校との連携を密にし,研究協力体制を推進する.(附属学校)
  2. コースで開催される地域社会への連携事業の企画,実施を行う.(社会連携)
  3. 登録している「教育支援講師・アドバイザー等派遣事業」等による各学校よりの依頼があったとき,積極的にその企画を実行する.(社会連携)
  4. JICA等による国際協力事業に貢献する.(国際交流)

(2)点検・評価

  1. 附属中学校で行われた研究発表会に於いては,事前に附属中学校の数学担当教員と研究打合せを頻繁に行い,よりよい研究成果があがるよう務めた.研究発表会当日は指導助言者として参加し,意見を述べた.附属中学校に対しては学校関係者評価委員を引き受け,学校の実態を把握するため何回かその行事に参加した.校長,その他の委員とも意見を交換し,委員長として学校評価を行った.
  2. コース主催で「算数おもしろ教室」を企画し,責任者として10月に実施した.これには小学生とその保護者約50名が参加した.また,コースで協力して鳴門市子どもの町フェスティバルの体験コーナーに参加した.いずれも算数・数学の啓蒙活動としての役割を十分に果たすことができたと評価している.
  3. 学校数学研究会では2号の機関誌を発行すると共に,8月に例会を開き,小学校及び高等学校の現職教員から問題提起を行い,それに対する意見交換を行った.コース長の立場から,責任者としてこれらを実施した.
  4. 大洋州のJICA研修,中東,南アフリカのJICA研修に対して数学分野の授業を行い,それらの研修に協力した.

3.本学への総合的貢献(特記事項)

  1. 大学院の定員確保については危機的意識を持ってあたり,学生を送ってくれるよう知り合いの教員に直接会い強く依頼した.その結果,徳島大学,広島国際学院大学の知り合い教員が受験生を送り出してくれた.また,コース長としてコース内の教員に大学院受験生の獲得を強く依頼した.その結果,19名の合格者を出し,17名の入学者を得ることができた.
  2. 教員採用について従来の「教員採用試験対策塾」の筆記試験対策だけに終わらず,模擬授業,面接についての指導も行った.その結果,これに参加していた7名(院生3名,学部生4名)のうち,4名(院生1名,学部生3名)の正規合格者を出すことができた.
最終更新日:2010年03月15日

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