自己点検・評価報告書(社会系コース) 草原和博

報告者 草原和博

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての研究活動

(1)目標・計画

  • 全体構想: 長期的には,科学的な社会認識形成を支援するカリキュラム編成および学習指導の原則を明らかにしようとしている。この目的を達成するために,国内外の優れた教育課程・授業等を収集し,そこに内在する社会認識形成の論理を抽出し,分析結果の一般化と体系化を試みている。また,分析結果にもとづいて(我が国の教育課題の解決に役立つ)教育課程と授業モデルを開発し,教室での実践を通じてその有効性を検証しようとしている。
  • 本年度: 上の長期目標を達成するために,当面は,1.日米英の地理カリキュラムの比較分析,2.教科書を活用した教材研究法の一般化,3.社会認識形成を支援する学習材の開発,に取り組む。
      いずれのテーマとも学問として未開拓な領域にあり,成果が上がると,オリジナルな成果として評価される可能性が高い。また,現代の教育課題(1.指導要領の改訂,2.教員の力量形成,3.学力低下問題)とも重なるテーマ群であり,成果の発信を通じて社会的要請にも応えてゆきたい。

(2)点検・評価

本年度は,上記の3つの目標を確実に達成することができた。

  • 地理カリキュラムの比較研究の成果は,日本公民教育学会(6月)の課題研究において,パネリストとして報告した。その概要は,「地理教育改革のオルタナティブ-教科構造の原理的考察を踏まえて-」にまとめ, 『社会系教科教育学研究』第20号に投稿し,掲載された。 さらにアメリカ・シティズンシップに関するミニシンポジウム(2月)において,「米国社会科における市民性育成の特質-統合(integration)の視点から-」をパネリストとして報告した。
  • 教科書を活用した教材研究法の成果は,学部の講義において具体化された。一連の研究成果を,「中等社会科授業論」の一部(第10講~第12講)で試行し,その有効性を検証した。
  • 学習材の開発研究の成果は,社会系教科教育学会(2月)において,「地理学習材開発の開発・活用研究(3)-授業計画・授業改善への効果-」と題して報告した。テクスト・図版・アクティビティーを関連づけた複合型学習材(アフリカ)の有用性を,アンケート調査のデータに基づいて検証した。

1-2.教育大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

  • 内容: 社会科教育学担当教員として,教科指導に求められる知識と技能を段階的に形成したい。2年次は,他者の授業を分析・批評するための概念(授業構成論)を習得させる,3年次は,自己の教育目標にもとづいて授業を開発し,実践を反省し改善につなげるスキル(授業構成力)を養う。4年次は,授業構成のミクロな視点とカリキュラム編成のマクロな視点を接続する理論体系を教授する。
  • 方法: いずれの科目でも,1.メールを活用した予習課題の提出,2.ソクラテス・メソッドを用いた論点の明確化,3.パワーポイントを活用した基本概念の定着,を徹底する。また,多くの学生が苦手としている表現力と説明力を養うため,随時プレゼンやマイクロティーチングの場面を設けたい。
  • 評価: シラバスには,評価基準を明確に示す。提出されたレポート等は,ウェブを介して学生にフィードバック(短評・開示)し,評価の客観化を試みる。また,プレゼンに際しては,学生相互の評価の機会も設ける。到達目標に達しない学生には,補充指導をした上で厳正に評価する。

(2)点検・評価

本年度は,上記3つの目標を確実に達成することができた。

  • 学年段階に応じた教育内容を構築するとともに,教育内容に対応した指導方法を工夫した。例えば,学部2年「初等社会」では「社会の分かり方」について原理的に論じた。講義では優れたレポートを紹介し,教員がコメント,それを受講者全員で相互評価する試みを行った。学部3年「実地教育事後指導」では,「社会の教え方」の原則を自らの実践体験に基づいて一般化させた。授業記録(VTR)を受講者全員で分析し,指導原則を引き出すともに,改善策をマイクロティーチングで実演・発表させた。大学院「教育実践フィールド研究」では,社会諸科学(歴史学・法学等)の成果と社会科授業の内容を架橋させる映像教材を作成させた。同教材を現場教員と協力して教室で活用させることで,高度な実践力を養うことができた。
  • メール等で提出されたレポートなどは可能な範囲でウェブページに公開した。プレゼンは,学生にも評価シートを配布し,相互評価の機会を与えた。教員の側も,観点別に適切な評価を試みた。

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

  • 学生の予習・復習に資するように,授業内容のウェブ公開をはかる。講義・演習のアウトラインや配布資料が随時閲覧できるようにしたい。
  • とくに「初等中等教科教育実践(コア科目)」は,教科指導の基礎的な知識・能力を育成する場となるように,授業内容の改善と新たな教材開発を進める。
  • 他の科目でも,学生の主体的学びを保証するように,学習成果の発表や意見交換の場を設ける。
  • ゼミ指導の時間を使って,教員採用試験に向けた集団討論・小論文,模擬授業等の指導を行い,教職への意欲付けや環境づくりにつとめる。また生活・学修上のアドバイスを与える
  • 卒論・修論の指導に際しては,学生の関心と適性を踏まえたテーマ設定を支援するとともに,年間を通じた指導計画を立てて遂行する。

(2)点検・評価

当初の目標どおり,教育・学生生活を支援できた。

  • 全ての授業についてウェブページ上に講義のアウトラインを公開し,受講生の予習復習に便宜を図ることができた。大講義室で実施する「初等社会」でも,ディスカッションやプレゼンの場を設定し,学生一人ひとりの社会科観を醸成することができた。懸案だった「初等中等教科教育実践Ⅰ」は,授業改善に努めた。附属・教科専門・教科教育,三者の連携体制を構築するとともに,1年間の学生の学びを「知のネットワーク」としてまとめさせる指導過程を確立できた。
  • 就職支援活動では,ゼミの時間を使って,繰り返し模擬授業・集団討論・論作文の指導を行った。ゼミ生2名のうち,1名は一次試験で不合格,もう1名は合格(大阪)を果たした。また社会科教育分野の教員が共同で模擬授業の指導を行い,二次試験対策を支援できた。
  • 院生の修士論文「小学校社会科における概念形成」は,一定の水準に到達し,全国社会科教育学会(宮崎大学)で発表することができた。また同院生には,中日教師教育学術研究大会(北京師範大学)においても,「教育実践研究」の成果を発表する機会を与えることができた。

2-2.研究

(1)目標・計画

  • 従来から取り組んできた個人研究のテーマ「比較地理カリキュラム研究」「社会認識形成論研究」に関する成果をまとめ,学会誌・研究誌等に投稿する。
  • 共同研究として従事する予定の「市民性教育」「授業改善法」「学習材開発」「教員養成」等について資料を収集し,これまでの研究を深化・発展させる端緒を得たい。とくに今年度は,1.外国研究者との交流と2.教育現場でのアクションリサーチを推進し,成果を得たい。
  • 教育現場・メディアの問いかけ(教育問題)に対して,学問的な見地を踏まえて答える啓蒙論文を,積極的に発信したい。
  • 各種の研究助成に応募し,学外資金の調達をはかる。

(2)点検・評価

当初の目標どおり,研究活動を遂行できた。

  • 残念ながら,教育現場むけの啓蒙論文の執筆機会には恵まれなかった。その分のエネルギーを,学術研究と論文執筆に投入した。
  • 草原を代表者として,1.科研・若手B「社会科授業改善ストラテジーの研究」と2.連合大学院の共同研究プロジェクト「社会系教科目の授業実践を支援する学習材の開発」が採択され,研究に従事した。他にも,共同研究者として2件の科研が採択され,共同研究に参画した。
  • 社会認識形成論研究の成果として,「事実的,理論的思考力・判断力を問う授業とテスト」 『思考力・判断力を問う中学校社会科テスト問題の開発研究』日本教材文化研究財団,pp.24-39,を公表した。比較地理カリキュラム研究の成果を,「地理教育改革のオルタナティブ-教科構造の原理的考察を踏まえて-」 『社会系教科教育学研究』第20号,pp.21-30,に発表した。さらに本学における教員養成の成果を,「ローカル・カリキュラムセンター方式による教員の力量形成」 『日本教育大学協会研究年報』第27集,に報告できた。
  • 外国研究者と交流するため,アメリカのニューヨーク教育省および南フロリダ大学,フィンランドのタンペレ大学,中国の北京師範大学,イギリスのロンドン大学を訪ねた。アメリカ・フィンランド・イギリスでは現職教員へのインタビューと授業見学を実施した。中国では,大学院レベルにおける教員養成の方法論を報告した。海外の基幹大学に,研究のネットワークを広げることができた意義は大きい。

2-3.大学運営

(1)目標・計画

  • 今年度指名された学内委員会の委員として,本学の運営に貢献する。
  • 各種GP事業の企画・実践,とくに「専門職GP(大学院コアカリキュラム)」の推進を通じて,本学の教育大学としての活性化に貢献する。
  • 学内委員会と部・コースのパイプ役として,教員相互の情報の交換・共有化を支援するとともに,上位機関へのフィードバックにつとめる。

(2)点検・評価

当初の目標どおり,大学運営に貢献できた。

  • 昨年度から準備を進めてきた専門職GP「教育の専門職養成のためのコアカリキュラム」を軌道に乗せることができた。大学院コアカリ運営委員会「取組推進チーム」の主査として,新科目「教育実践フィールド研究」の全学的なコーディネートを行うとともに,「コアカリ運営委員会」の企画・実施にあたった。11月には,日本教育大学協会四国地区大会(愛媛大学)において本GPの成果を紹介し,対外的な評価を得ることができた。12月には大阪においてGPシンポジウムを開催し,学部・大学院の6ヵ年連続したコアカリキュラム構想(鳴門プラン)の意義を報告した。
  • 学部コアカリキュラムの改善にもつとめた。3月の学内シンポジウムでは,社会系コースにおける「初等中等教科教育実践(1)」の指導実績を報告した。
  • 就職委員として年3回程度,模擬授業および集団面接等の指導を行うとともに,コース学生の就職状況の把握,就職相談に努めた。

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

  • 附属学校教員と連携して(学部・院の演習,研究授業に向けた協議等を通じて),教育課題の解決にむけての共同研究を推進する。(附属学校)
  • 地域社会の教員および教育機関との交流の機会を増やし(研究事業,講演・研修など),研究成果のフィードバックにつとめる。(社会)
  • 諸外国の社会科教育研究者と交流して,市民性教育の理念と方法,カリキュラム・教材の編成法,ならびに教育学研究の方法論をめぐって,知見を交換する。また,本学の学生が諸外国の教育事情に触れ,視野を広げる機会を設けたい(国際交流)

(2)点検・評価

  • 広島大学附属中高等学校の研究大会(11月)では,研究授業の助言指導ならびに講演講師をつとめた。鳴門教育大学附属小学校の研究大会(2月)でも,研究授業の助言指導をつとめた。また事後研究会(3月)にも参加し,来年度以降の研究主題について意見を述べた。
  • 県教育委員会の研修事業(8月)を担当した。「社会科授業改善の理論と方法」をめぐって現職教員と研究協議を行い,好評を得た。また,鳴門市の市民講座(9月)の一環として,地域の保護者を対象にした「社会の見方・考え方の育て方」を講義した。
  • 大学院「教育実践フィールド研究」では,藍住南小学校・津田小学校などの公立校と連携し,映像教材を活用した社会科授業について研究した(10月~3月)。これは継続的に実施している。
  • 重複になるが,米国およびフィンランドの第一線の研究者と交流し,社会科のカリキュラム編成や教師養成の諸課題について意見交換できた。またイギリスと中国には,マスター/ドクター課程の大学院生を引率し,研究交流の場を設けることができた。大学院生が諸外国の教育事情を経験できたことには,多大な教育効果を確認できた。

3.本学への総合的貢献(特記事項)

  • 「専門職GP」の推進につとめた。昨年度の「教育実践研究」の成果をPRするとともに,今年度の「教育実践フィールド研究」を軌道に乗せることに専心した(成果の一部は地元紙にも報道された)。また,本取組の広報・宣伝活動にも努めた。課題は山積しているが,一連の活動を通して,対外的な認知・評価を高めることができたのではないか。
  • 非常勤で授業を担当している甲南女子大学の学生が,本学の大学院を受験し,合格を果たした(2名)。ここ数年,甲南女子大学から本学大学院への進学者が増えていることは,われわれ社会科教育担当者の学外活動の成果とも考えられる。
最終更新日:2010年03月29日

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