自己点検・評価報告書(社会系コース) 麻生多聞

報告者 麻生多聞

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての研究活動

(1)目標・計画

  昨年度は精力的に研究に従事できたように思う。憲法思想的アプローチにより憲法9条をめぐる解釈論を構築するという課題について,一定の成果をあげることができた。本年度中に,これまでの研究をまとめたものを早稲田大学大学院法学研究科に博士学位申請論文として提出する予定である。また,憲法思想的解釈論とは別の形で,「平和的生存権」論の再構築という課題に対しても,精力的に研究したい。明治大学軍縮平和研究所から2008年度中に,共著の形で研究成果をまとめた書籍を刊行することになっており,「平和的生存権」論の再構築をめぐる研究はこちらに掲載する予定である。

(2)点検・評価

  憲法思想的アプローチによる憲法9条をめぐる解釈論の研究について,2007年に刊行した単行本,『平和主義の倫理性-憲法9条解釈における倫理的契機の復権』の増補改訂版刊行の用意をしてきた。本書の初版については,憲法理論研究会叢書『憲法変動と改憲論の諸相』(敬文堂,2008)に,明治大学法学部・浦田一郎教授による好意的な書評をいただくことができた。
  初版の第1章,第4章,第6章を実質的な新稿と入れ替え,論証の精緻化を図る増補改訂版を,2009年5月に刊行予定である。この増補改訂作業にあたっては,拙稿「剰余の位相-永遠平和を基礎づける倫理の戦略」法律時報80巻3号(2008)や,拙稿「憲法9条と公共利益団体-対抗的公共圏の構築に向けて」三輪隆ほか編・明治大学軍縮平和研究所共同研究プロジェクト『平和と憲法の現在-軍事によらない平和の探究』(西田書店,2009)などを基に,新たに書き下ろした論文も収録した。自衛隊イラク派兵違憲確認訴訟における名古屋地裁,名古屋高裁の判決や岡山地裁の判決なども踏まえ,精緻な内容へと増補改訂することができたように思う。「平和的生存権論の再構築」という研究課題については,2008年8月民主主義科学者協会法律部会憲法分科会の研究合宿において,研究報告を行い,その討議内容を反映したものを,「憲法9条と公共利益団体-対抗的公共圏の構築に向けて」浦田一郎・清水雅彦・三輪隆編『平和と憲法の現在-軍事によらない平和の探究』(西田書店,2009)(本書は明治大学軍縮平和研究所の共同研究プロジェクトの成果である)として発表し,単行本増補改訂版にも新稿として収録した。
  博士学位申請については,昨年10月に早稲田大学大学院法学研究科に申請した。審査については1年間を要することとなっており,現在審査中である。

1-2.教育大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

  独善的な講義に堕することなく,本学の学生にとってどのような教育が最も望ましいか,という観点を常に見失わないよう留意しつつ,教育活動に従事したい。

(2)点検・評価

  講義に際しては,常に教育現場における社会科教育との関連性を意識し,「学校教育」との実践という視座の重要性を確認しながら教育活動に従事してきた。適宜,学生の立場からの意見を求め,それを反映するよう心がけた。

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

  まず学生の教育実習に際しての最大のサポートを心がけたいと思う。長期にわたる教育実習においては,学生の精神的負担も大きくなることが予想される。そのため,事前の授業案作成,実習の参観と事後指導,附属学校教諭と連携しての研究授業など,可能なかぎり支援したいと考えている。また,学生生活におけるいかなる相談についても,真摯に対応したい。昨年も法律問題について私生活に関する相談を学生から受けたが,本年度においても,そのような相談があれば対応したい。

(2)点検・評価

  教育実習については,ゼミ生が担当する授業を可能な限り参観するよう努めた。また,実習期間の直前において,模擬授業の指導をゼミで実施し,学生の質問に対応した。また,修了研究論文を執筆する学生に対しては,本人の主体的な問題意識を最大限尊重し,適切に指導するよう留意した。ゼミ初年次の学生については,憲法学の基本書を精読するゼミの時間を設け,修了研究に及ぶために必要な思考力を涵養できるよう指導した。

2-2.研究

(1)目標・計画

  本年度は,学部4年次生を4名,3年次生を3名,大学院3年次生を1名,2年次生を1名,ゼミにおいて指導することになっている。修了研究論文を執筆する学生に対しては,本人の主体的な問題意識を最大限尊重し,適切に指導したい。ゼミ初年次の学生については,憲法学の基本書を精読するゼミの時間を設け,修了研究に及ぶために必要な思考力を涵養できるよう指導したい。

(2)点検・評価

  すべてのゼミ生について,修了研究指導を無事に果たすことができた。今年度のゼミにおける修了研究テーマは,次のとおりである。

  • 「教師の教育の自由-子どもの自律的人格育成を支える学校教育における位置づけ」
  • 「危険運転厳罰化政策に対する批判的考察-ポピュリズム的厳罰化の危険性について」
  • 「「相対化の時代」における平和憲法理論の再考」
  • 「刑事手続における「冤罪」の要因とその克服可能性」
  • 「傍論と主文の境界-違憲審査制をめぐる比較法的研究」

2-3.大学運営

(1)目標・計画

  昨年度と同様,委員会における職責を誠実に果たしたい。また,学生支援特別GPの立ち上げについて,昨年度に続き本年度もスタッフとして参加するよう求められているため,今年度はGPが認可されるよう尽力したい。

(2)点検・評価

  学生支援特別GPの企画スタッフとして起案を担当したが,残念ながら結果は不採用であった。しかし,起案のプロセスにおいて,他の教官や事務職員の方々と議論を重ね,学生本位の学生支援とはいかなるものかについて思索を巡らせたことは,有意義な体験だったように思われる。
   学生支援委員会では副委員長を務め,委員長を補佐した。大学祭でのチャットモンチーによるライブコンサートでは,学生支援委員として警備も担当した。

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

  附属学校との連携において行われる研究授業について,本年度も精力的に参加したい。とりわけ,本年度では2009年から導入される裁判員制度に関する法的知識への需要の高まりが予想されるため,教育現場におけるアップデートな社会科教育に資することができるよう心がけたい。

(2)点検・評価

  附属中学校の要請に応えて,LFタイムでの講演を担当した。テーマは「死刑制度の是非をめぐって」であった。裁判員制度のスタートにより,全ての児童に将来において裁判員を務める可能性が生じており,重大な刑事事件をめぐって死刑判決を下す場面も想定されるところである。かような観点から,当事者の立場として死刑制度につき思索するきっかけを提供できるよう努めた。
  教育実習では,ゼミ生の実習による研究授業の全てに出席し,専門的見地からの発言を行った。

3.本学への総合的貢献(特記事項)

最終更新日:2010年03月29日

お問い合わせ

経営企画戦略課
企画・評価チーム
電話:088-687-6012