自己点検・評価報告書(現代教育課題総合コース) 西村宏

報告者 西村宏

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての研究活動

(1)目標・計画
  平成20年度は19年度まで4年間継続していたセンター所長兼センター部長という役職を離れる予定となっているので,少なくとも幾分かは専門研究および総合だけでなく理科所属修士課程大学院生に対する研究指導を行うことが可能となるものとおもわれる。ただし,以下には専門研究の計画のみを記載する。
  大学教員になった時点から現在に至るまで35年以上にわたって追求すべき目的は変化していない。それは,「人類はなぜ人類なのか」という最も哲学的な問いに対する答えを自然科学的(物理的・宇宙科学的)基本に基づいて追求することである。そのため,隕石科学の分野を専攻し太陽系形成以前から存在していた始原物質の原子(同位体)レベルでの探索を行い,わが太陽系を形成した基になった物質を供給したであろう超新星爆発の残骸による名残を見つけ出すことを試みている。これを具体化するために新装置の開発を行い,現在本学で稼動している「試料直接充填法表面電離型質量分析計」は,私の装置開発の集大成と位置づけることができる。
  定年まで残り3年足らずなので,私のような10年一仕事の分野にとっては第3弾のスタートが遅きに失するが,本年度はこの装置をフルに活用して,隕石中の全く変成を受けていない炭素質物質中のMg同位体比の大きな変動が残存していることが期待される炭素質微粒子を見出すことを目標として実験を行なう予定としている。
(2)点検・評価
  上記目標・計画に記したように,始原隕石中に残された太陽系形成以前の証拠となるMg24同位体の異常の有無を検証する実験を「試料直接充填法表面電離型質量分析計」を用いて行い,C3V分類に属するAllende隕石のマトリックス中に,わずかながらその痕跡が残存している可能性が高いことを見出した。この実験は理科所属大学院生の修士論文用のデータ取得と同時進行して行ったもので,今春修了した当該院生との共同研究業績として修士論文のかたちで結実させるためのデータを供給することができ,若手育成の一助ともなった。

1-2.教育大学教員としての授業実践

(1)目標・計画
<授業内容>学部1年次生対象の科目「中等理科(地学分野)」は1単位科目であるため授業時数は最大8回と非常に短期間であるが,その間に,主として天文学分野に関する教員採用試験で取り上げられた内容に触れ,その自然科学的意味の解釈の仕方や出題者の意図などに関して解説を加えるとともに,演習問題に向かわせ,具体的イメージが頭に定着するような内容としている。また,一方では国際化が進んでいることに対応するため,簡単な英文に親しむ機会を授業中に設け,欧米の中学生程度の平易な内容に関する英文購読も取り入れている。さらに,大学院授業においては最新のデータを新聞から得て,それについて解説するとともに,基礎事項とどのように関連しているのかを解説することとしている。

 

<授業方法>上記授業においては学生に積極的な発表を促し,また板書の仕方などにも言及し,教員になったときの訓練も兼ねることとしている。院授業についても授業の一方通行をできるだけ避けるために,質疑応答の時間をできる限り保証している。また院授業では留学生に配慮してバイリンガルの授業としている。これらは継続したいと考えている。
<成績評価>学部授業については,期末試験を重視し,必修科目については出席をごくわずかに上乗せできるように毎回出席確認をしている。また,院授業においては授業内容に関連した題材自由なレポートの提出をもって成績評価を行なっている。この評価法を今後も続けていくつもりである。
(2)点検・評価
  「中等理科(地学分野)」の授業については,学部1年次生用であることに配慮して,高等学校レベルの内容とし,説明の段階で大学において教授すべき内容を補足する形の授業とした。そのわけは,高校時代に天文関連分野を含む地学の授業を選択した学生が皆無で,将来教員となった際の基礎的思考につながる内容を理解させておく必要を感じたからである。試験の結果,非常によく理解できていると見受けられる者と,あまり基礎的内容が理解できていない者との差が表れる結果となった。ただし,授業開始当初に比べて,基礎知識だけは少なくとも学生の頭には残すことができた。

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画
  特筆すべきは,ボランティアで,熱意のある学生に対して開いている「教員採用塾」であると考えている。これは教員採用試験の問題集などを資料として受験勉強を続けている主として3年次生に向けて,途中で解決できなくなった時点で,木曜日第3時限目を質問受付時間に充当し,その場で解決可能な問題については,出題意図など推測できる事項とともに解法について示唆を与え,最終的には自ら問題を解くことができるまで指導を繰り返している。しかし,あくまでも,授業の一環とはせず,熱意がある学生で「分からないところがわかっている」学生にのみこの「教採塾」は解放しているのが現状である。従って,自ら勉強せずにこの塾に来訪しても,何の利益も得られない仕組みとしているため,参加希望者は少ない。
  今年度もこのボランティア教採塾を継続し,これにより学生の支援をしていきたい。
(2)点検・評価
  今年度も昨年度に引き続き「教採塾」を行ったが,昨年度ほどの学生がこの「塾」に参加する意欲を示さず,年間を通じて,延べ3件だけ(昨年度は前期11 件,後期8件)に留まった。条件的には昨年度との間に変化はないので,おそらく教員就職率が次第に高くなり,1点でも教員採用試験で稼がなければいけないという危機意識が薄らいでいるように感じられた。かなり学生の勉強に対する考え方が打算的になってきていることが推測された。

2-2.研究

(1)目標・計画
  現在まで30年以上にわたって継続している「宇宙始原物質中の同位体比変動の研究」は,定年以降も継続したい課題であり,I-1でも書いたように,「人間はなぜ人間なのか」という問いに対する何かを見いだすことができるように努力をし続けたい。つまり宇宙開闢以来経過したと推定されている130億年間に何が生じ続けていたのか,その中でほんのつい最近なぜ人間が出現しなければならなかったのか,など自然科学的であるとともにその存在に哲学的要素が含まれていることを勘案し,「総合」の方向にも沿うような解釈にもつながる「実験データ」が蓄積できることを願っている。ただ単に理学的要素のみよりも,もっと深いところを追求したいという意欲でこの30年間あまり,専門研究に取り組んできたが,なかなか結論に到達するのは実験的にも非常に困難であることがわかったのみで,将来もそのままとなることも考えているが,ともかく当初若い頃に抱いた問題に向かうことだけはできているつもりであるので,今後もこのスタンスを破ることなく継続したい。
(2)点検・評価
  1-1の点検評価でも述べたが,今年度は,始原隕石Allendeのマトリックス中の微小部についての試料を用いてMg同位体比分析(院生と共同で)を行い,完全な初生的同位体を見出すまでにはいかなかったが,その傾向を残す微細な部分が存在することを示唆すると思われる結果が得られた。大型装置を用いて行う実験は,院生や学部生の課題研究と卒業研究などと装置を共用しなければならないため,単独での実験は困難であるが,ひとまず,同位体比異常検出への足がかりが得られた。ただ,実験途上装置のハードが故障し,その復旧に3カ月以上も要する事態となり,遅れも生じたため,修士の研究を優先せざるを得なかった。

2-3.大学運営

(1)目標・計画
  今年度までの4年間,センター所長(センター部長)として,中期目標に掲げられたセンター改組を行い,やや安定状態に達したと考えている矢先に,「教職大学院」設置に向けた動きに揺さぶられるかたちでの既設大学院の大幅な抜本的改組が行なわれ,センターそのものが入れ物だけになるという事態に直面することとなった。平成20年度以降はセンター所長は代わるので,将来に禍根を残すような改組は行なわないで済むような青写真をつくりたいと思うのが私の願いであったが,全体の波に飲まれて従前私自身が行なってきたソフトランディング的改組は一時凌ぎ的な色彩を帯びることとなり,新たなセンターに関しては,個人的には,私が好きではない体制が組まれることとなりつつある。既設大学院改組についてはやむを得ない事情もあったことは否めないが,センター潰しまでやる必要があったのかどうかについては今後改組された実績などを見て再検討されるべき内容を多く含んでいるように感じる。従って,私自身は既に今後の大学運営に関して意見を述べる隙間がなくなってしまったと思うので,感想を書くに留める。
(2)点検・評価
  学長指名の評議員として,また人文・社会系教育部の部長を補助する立場で,部運営ひいては大学運営に参画した。センター改組計画については,大石センター部長をわずかではあってもバックアップができた。

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画
  附属との連携については,校長制度の変更に伴って,附属校長との密接なつながりを欠かないように,関係をさらに緊密にする努力をしたい。
  社会との連携については,講座の目標にも掲げたが,「徳島県NIE推進協議会」会長としての活動を継続し,県下各学校での,いわゆる学習の基本条件である「読み書きそろばん」のうちの「読み書き」基礎能力の育成に幾分かでも寄与できればと願っている。また,あすたむらんど事業への協力も継続する。
  国際交流に関しては,JICA関連アフガニスタン教育事業に近森教授が関与しているのをバックアップし,彼の活動がしやすい環境をつくることとしたい。また南アの研修事業については,専門の地学分野の立場から,小澤センター教員のバックアップをするつもりである。
(2)点検・評価
  付属学校との連携においては,本年度特にこれといった寄与はできなかった。
  社会貢献については「徳島県NIE推進協議会」会長として授業や総合的な学習の時間での新聞活用を県下公立学校において促進する役割を果たした。
  あすたむらんどで例年行われている科学絵画展の審査を行った。またプラネタリウムの行事として隕石科学に関する講演会で講演を行った。
  近森教授のアフガニスタン出張時の授業等において,バックアップを強力に行った。

3.本学への総合的貢献(特記事項)

  先年までは役職(センター部長)に就いていたため,本学への貢献度がかなりの割合を占めたと思われるが,今年度は体調との関係もあって,些細な貢献のみで,特記すべき内容の大学への貢献はない。
最終更新日:2010年02月17日

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