自己点検・評価報告書(現代教育課題総合コース)  小西正雄

報告者  小西正雄

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての研究活動

(1)目標・計画

18年度,19年度と相次いで学会において発表した「ノスタルジー」に関する研究成果を,日本国際文化学会の紀要に掲載することができた(審査あり)。イギリスの思想家チェスタトンの死者の民主主義論を文化論に援用した新しい視点として一定の評価を得られるものと確信している。学会誌への投稿実現で一応の区切りができたので,20年度は新たな展開に向けての充電の時期となろう。さしあたっては,これまでに確保しながら十分に目を通せなかった諸文献の精読に努めたい。

(2)点検・評価

これまでの研究成果の精査ならびに諸文献の整理に努め,さ来年度に出版する単著の企画を進めた。なお,上掲の「ノスタルジー論」ならびに「死者の民主主義論」は,大学院の講義の中で活かすなかで,新たな課題が明らかになり,さらなる展開を模索している。

1-2.教育大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

教育実践力を構成する3つの要素のうち「教育内容に関する深い識見」については,従来ともすれば,単に学問研究を深めたりその成果を伝達すればいいというような安易な解釈が主となっていた感がある。20年度はかなり意識的に,「教育の」内容という側面に留意し,実践的指導力ならぬ<実践的研究力>の育成をめざすこととし,シラバス(個人ホームページで1月25日先行発表ずみ)にもその旨明記した。多忙な現場教員は教育内容に関する十分な検討の余裕がなく,多くの場合,教育雑誌の実践報告の追随や自身が受けた授業の再現にとどまっており,そのことが誤謬の再生産の温床となっている。この悪循環を見抜きそれを改善する能力をもつ教員を一人でも多く輩出する必要がある。以上のような趣旨のもとで新設の教職共通科目では,1.授業内容としては環境,平和,人権など,誤解の多い教育課題を多く取り上げ,2.授業方法としては,多様な視点,教育現場の常識とは異なる視点を積極的に提示し,授業後コメントの最低3回提出を義務づけ,そのコメントを次時の導入とする。また3.成績評価については,前記の授業後コメントをもとに累積して結果を出す。なお,かなり大人数の受講が見込まれる教職共通科目については,受講生1名につき1シートのカルテを作成し,授業中の指名等の際の参考とするとともに,きめ細かな評価を保証することとした。それ以外の授業については,受講生の人数等を見ながら戦略を考えていきたい。

(2)点検・評価

上記目標に従って,教職共通科目「現代の諸課題と学校教育」の授業運営に全力を傾注した。まずA4版の厚手の紙を使用して「個人成績カード」(目標に言うところのカルテ)を準備した。記載項目は所属コース,教職経験等の受講生の「属性記録」と事後レポート(目標に言うところの「授業後コメント」)評価,授業参加発言記録,成績評価表等からなる「評価記録」である(別添資料としてすでに提出ずみ)。原則として第1時間目に受講生全員に属性等を記入させ,成績評価の段取りを解説したのちこれを回収した。講義中での積極的な発言は3段階評価として,即座に記録した。また事後レポートについては,10段階で記録するとともに,事後レポート受け取り確認スライドを授業中に用いるパワーポイントの冒頭に示すことで,「出した,出さない」の水掛け論を防止し,また副次的ながら遅刻の防止も意図した。講義内容については目標通り<実践的教育力>を育てることを主眼として,教育界に蔓延している言説を再検討するというスタンスで環境,国際,アイデンティティ,規範などを扱い,最後を教師論で締めくくった。目標に記載した「平和教育」については,時間の関係で後期の「現代の諸課題と社会認識教育」に譲った。筆記試験に際しては,それまでに提出された事後レポート(採点者のコメントや誤字脱字の指摘つき)を問題,答案用紙とともに返却し,各自がかつて作成したレポートをおおいに参考にしながら解答ができるように配慮した。この措置で,通常の受講態度が筆記テストの点数にある程度反映することになる。成績評価については,事後レポート3回分(希望者は4回分)の合計30点と筆記テスト70点の合計100点満点とし,採点者の評価のぶれを考慮し,筆記試験については配点の10%を加算した上で厳格にS,A,B,C,Dを確定した。その経過ならびに結果(平均,度数分布)については,速やかに教務掲示板に掲出した。これら一連の作業,とくに筆記テストの採点の結果明らかになったことは,受講生の多くが,かなり安易な態度で受講(受験)していることである。これは彼ら(彼女)らの資質の低さを表すものではなく,大学学部ないし大学院における評価の甘さの「結果」であるように思われる。「やればできるのに,適当なところでごまかしておく」という甘さである。成績評価の多くが原罪「レポート」提出であることも,このような甘さを助長しているのかもしれない。「何かそれらしいことを書いておけばまあ合格する」というような風潮があるとすれば,これは大学院のレベル維持にとって深刻な現実と言わねばならない。
今後は,この成果をふまえ,基本的には筆記テストを交えた成績評価に勤めるとともに,「あの講義でS(A)をとった」ということが,本学大学院生にとって一種のステイタスシンボルとなるような授業ならびに評価をめざしたい。

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

20年度の入学生の数は現時点では確定していないが,コース全体で20名を超すことは確実視されている。コース担当教員数は逆に1名減となるので。単純計算でもゼミ生の数は4名~5名となることが予想される。ただし,いわゆる長期履修生は学部授業に専念するので,それ以外の院生との協調関係をいかに保証するかが課題となる。さしあたっては,長期履修生といえども同じゼミ,同じコースの所属なのだというアイデンティティを確認させるべく,負担にならない範囲で勉強会的なものを設定していきたい。なお,この環境はコース全体に共通していえることでもあり,他の教員との調整が今後必要となる。

(2)点検・評価

現代教育課題総合コースは定員を5名上回る20名の新入生を得た。上記目標で想定したとおり,長期履修学生が多く,60%をしめた。したがって,受講形態の異なる12人と8人とを,いかにして同じコースの仲間として意識させていくかに腐心した。コース長として,彼らとの面談を5~6月に実施し,7月下旬にはレクレーション行事を企画させ,ほとんどの院生ならびに教員が参加した。幸いなことに院生独自の勉強会や懇親会等も根付きはじめている。また2月11日に実施した「修士論文口述試験」には長期履修学生も全員出席させ2年次からの研究への動機付けを図るとともに,口述試験終了後に来年度以降のゼミ配属希望調査を行った。配属結果は2月下旬に「総合」のメーリングリストを用いて公開した。なお,ゼミ生としての実際の活動は年度が変わってからとなる。

2-2.研究

(1)目標・計画

上記I-1に示した通りであるが,I-2との関係であえて付記するならば,以下のような研究課題を想定できる。すなわち,「新設の教職共通科目のように大人数の授業におけるきめ細かな指導,評価を実現するにあたり,個人ごとのカルテの有効な活用をはかるにはどうすればよいか」である。これは他の教職共通科目担当教員や広領域コア科目担当教員にも関係する課題なので,積極的にさまざまな試みに挑戦してみたい。

(2)点検・評価

上述のカルテであるが,細かな個人情報も含めて受講生に記載させたが,それを十分に活かすことができなかった。と言うよりも,むしろ不必要な情報まで要求しすぎたという感がある。来年度からはカルテのフォームの精選が必要であろう。また「教職共通科目」以外でカルテの使用ができなかったのも反省点である。

2-3.大学運営

(1)目標・計画

引き続き入試広報担当補佐としての任務に邁進する。教職大学院の設置にともない,各教育委員会の派遣にも構造的な変化が生じる見込みであり,その詳細を早めに見極める必要がある。また,教職大学院設置都道府県において,それぞれの管内の教員を地元大学が囲い込むかたちとなった場合,本学への派遣数が減少する可能性があり,その欠を補うための休業制度のPR,私学への積極的な働きかけが必要であり,そのための具体的な戦略を考え実行に移したい。ただし,担当授業等との関係で,どれだけの時間をこれにあてることができるか,いささか不安がないわけではない。

(2)点検・評価

昨年度同様,春に各教育委員会訪問を行った。今年度はゴールデンウィーク前から始動できたので,日程的には若干の余裕があった。昨年度の訪問地のうち神奈川,静岡は学長担当となったので,その代わりに今年度は島根,鳥取を加えた。また,効果の期待しにくい県を1カ所割愛した。結果,担当した県のうち,栃木,千葉,愛知,三重,岐阜,長崎,佐賀から現職の派遣を得ることができた。もちろん,訪問との因果関係は定かではないが。
大学院定員確保事業と絡めた「出前講座・全国版」については,事業スタートが遅れたため,各県教委やセンターでの受け入れについては若干予想を下回る結果となったが,しかし来年度にむけての地ならしの意味でPRに努めた結果,仙台市,浜松市,宮古島市で実施することができた。とくに宮古島市においては対象教員約600名のうち400名近くが参加するという盛況であり,本学の広報事業としては相当の効果があったと思われる。
大学院ガイドブック2010の企画編集を担当した。従前のものは広報誌としての基礎基本を必ずしも満足していないレベルであり,デザインも稚拙であった。まだまだ改良の余地は多いものの,2010年版で一応の方向性を示すことはできた。

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

引き続き附属小学校の研究全般に関する助言指導を行う。
社会との連携については,免許更新講座の試行版に積極的に参画して21年度からの実践に備えたい。平成22年度から使用開始の教科書の編集作業に,現場の先生方と共同して引き続き取り組む。

(2)点検・評価

附属小学校との連携については,5月に全校教員を集めての校内研究会で講演を行い,また7月には校長,主幹,研究部長とともに,今後の研究の進め方についての懇談会をもった。また18年度に引き続き,研究発表大会(21年2月7日)において講演を担当した。この講演は附属小学校のこれまでの研究のあゆみを昨今の教育課題の中にうまく位置づけた内容だとして,参会者ならびに附属教員から高い評価を受けることができた。
社会との連携については,平成23年度版教科書の編集作業をほぼ終えることができた。
8月1日に10年次研修講座を実施した。

3.本学への総合的貢献(特記事項)

大学院ガイドブックの編集,企画,附属学校での講演,教委訪問など,広報・貢献部門に多くの努力を費やした。その反動として個人研究が十分にすすめられなかったきらいは残るがやむをえないと考えている。

 

最終更新日:2010年02月15日

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