自己点検・評価報告書(西村 宏)

報告者 西村 宏

1.学長の定める重点目標

1-1.大学教員としての教育・研究活動①

(1)目標・計画

 教育に関して:従来から,「教育は100年の計」といわれているように,少なくとも「数十年先」に目標地点を設定した教育が必要であるはずのところであるが,法人化に伴って行われている「年次評価」あるいは「中期目標・計画」の作成および報告など,目先のことのみに着目した計画であり,それに対する短期的・短絡的な,ある意味で「まがいもの」の成果に走ってしまうという現実がある。もちろん国策に従わざるを得ない実情は承知しているので,上記のような短期的方針に従いつつも,いわば「超長期的」な「人間教育」を目指している。これでは抽象的に過ぎると思われるので,やや具体的に書くと,教科や教職の科目を通じた講義と卒業研究や課題研究のゼミ指導を通じて,目先のテーマについて検討・研究しつつも,機会あるごとに,不遜ながら自分の経験に基づき「生き方」そのものに触れるような言及を心がけ,歴史上偉大と呼ばれ続けている科学者などが,その時代に認められなかったことでも後世大きな成果につながると考えまたそう期待して研究を続けてきたあるいは続けているかについて,彼らの信念に言及し,時代の流れに安易に流されない内容をもった教育を心がけたいと考えている。

(2)点検・評価

 教育に関して: 本年度も理科コースおよび総合コース両方の授業を担当した。講義を主とする授業だったが,特に理科の学部授業「中等理科(地学分野)」および理科大学院授業「地球惑星物質学特論」においては,天文学(宇宙科学)関連の業績を機会あるごとに紹介し,古代ギリシアでアリストテレスなどが既に天体の動きを「地動説」として認識していたのにも拘らず,それよりもずっと後の中世において,ガリレイやコペルニクスの地動説がその地位を確固とするようになるまでには200年以上もの歳月を要し,「それでも地球は回る」といったという逸話まで残すほどに宗教が学問体系を席捲していたことを講義の中に取り入れて話した。そのことに基づき,その時代には事実だと思っている事柄でも,真実の実態を表していないことが後世になるまで理解されないという現実について,現在でも要注意であることを強調する授業を行うことができた。

 

1-2.大学教員としての教育・研究活動②

(1)目標・計画

 従来から平成19年度までは,教員養成系大学で実験主体の研究と教育を行い,机上の空論で自然科学的概念を説明することは極力避けてきたが,とりわけ修士学生に対する実験装置の供与がもっとも重要な課題であった。このような教育上必要な装置でさえ数千万円にのぼることが一般的であり,理科の教員となって教育現場に出たときに総合大学出身教諭の経験知からは大きくかけ離れた知識と応用力しか持っていないことは明らかである。そのため,自分自身の実験的研究手段を基にした「科研費」の申請を継続的に行ってきたが,装置開発というのは,上にも述べたように超長期的な展望に立っていなければならず,定年を2年後に控えた現時点では数年間にわたる研究計画を立てることが非現実的であるため,平成20年度からは科研費の代表者としての申請を差し控え,後進にその枠を譲り,私は脇からのバックアップに回ることとしている。平成21年度もこのスタンスを変えずに,後進の育成と自ら得た知見の披瀝によって,40年余りにわたって積んできた外部資金申請の流れを継続してもらう努力を心がける。 

(2)点検・評価

 外部資金の代表的な経費である科学研究費補助金は,真に斬新な課題に対しては審査に携わる方々の理解を越えている部分があると見えて,ほとんど採択につながることはなかった。1年後に定年退職を控えていたので,若手研究者の研究分担者として申請に協力したが,自らは,構想している装置開発という計画遂行には莫大な時間と予算を要するので,残り時間の不もあり,如何ともしがたく申請はしなかった。ただし,10年以上前に交付された科学研究費補助金により導入・設置した,独創的な「試料直接充填法表面電離型質量分析計」を丁寧にメンテナンスしつつ,院生や学部生の研究に供し,今年度も意義のあるデータを隕石中の微細鉱物試料の同位体分析から得ることができつつある。

 

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

 教員を目指す学生のために従来から行っている,いわゆるボランティアとしての「教員採用試験対策塾」を,特に教員養成系学生にとって苦手意識が高く,高等学校でも選択していない学生が多数いる「物理」「地学」分野の問題についての試験対策を,専門に行き着く前の基礎的理解から促す方式で本年度も継続する。平成19年度および20年度は,平均として述べ20人程度がこの「塾」を訪れているが,意欲的な学生のみを対象にしたかったため,まったく宣伝をしていなかった。21年度についても,あまり大々的に宣伝するつもりはないが,学生間の口コミを利用して今までよりも少しばかり間口を広げた塾の開催を行うつもりである。 また,細々ながら行ってきた「西村奨学金」についても,必要な学生が出た場合には援助を継続していく。

(2)点検・評価

 例年継続しているボランティアのいわゆる教員採用塾を本年度も継続した。平成21年度については,延べ人数にすると,19年度および20年度を大きく上回り,38人の質問に対応し,特に物理学の教採問題に対する原理的な解決法を教授するように心がけた。その結果,質問に訪れた学生はすべていずれかの都府県の教員採用試験に合格を果たすことができている。このことは,教採塾の効果が現れたものと自己評価している。

 

2-2.研究

(1)目標・計画

 教育・研究活動②に記した内容ともやや重なる部分はあるが,現在継続しつつ大学院学生にも指導している「隕石中の鉱物構成元素の同位体比異常」については,原始太陽系星雲の成り立ちを議論する上で非常に重要なデータとなってきたし,今後もその点は間違いないと思われる。平成7年度~9年度にかけて総計で6020万円が交付された当時の科学研究費補助金基盤研究(A)(2)展開研究および平成7年度~10年度にわたって総計3850万円が交付された基盤研究(A)(2)一般研究によって設計・製作された試料直接充填法表面電離方質量分析計を継続的に修復しつつ利用して,隕石中の軽元素に限ってその同位体比異常の検出によるデータの蓄積を行い,院生にもこの装置を今までどおり開放して修士研究にも供したいと考えている。とりわけ,いまだにその生成要因が明確になっていないのに利用だけが以上に進み,近い将来「枯渇元素資源」となってしまうことが懸念されるリチウムに関する同位体的知見を収集することに主眼をおきながら現在進めているマグネシウム同位体変動の研究と同時に議論できるデータを確保したい。

(2)点検・評価

 装置開発は経費の点で不可能であったが,「試料直接充填法表面電離型イオン源」のフィラメント部分を自作し,より効率的な同位体分析が可能なように形状や材質について検討を続けた。そしてその結果を大学院学生及び学部学生の課題研究と卒業研究に反映させ,自分でイオン源の基礎部分を工作できるように学生を指導して,私の研究を行うのと並行しつつ院生・学部生の隕石の同位体分析にも適用できた。学生の自主的な大型装置への関与を可能とできたことは,細々ながら装置開発の面では大成功であったと自負している。

 

2-3.大学運営

(1)目標・計画

 学長指名の教育研究評議会評議員として,できる限り全体を見渡した視点から,少しでも現状を打破できるような内容の意見を述べて,大学の活性化に寄与したい。また継続中の「地域連携委員会」副委員長として,本年度に続き,鳴教大教育文化フォーラムにできる限り寄与したい。

(2)点検・評価

 学長指名の「教育研究評議会」評議員として評議会を通じて大学運営に協力した。また「地域連携委員会」では鳴教大教育文化フォーラムの企画に参画した。

 

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

 社会との連携については,数年間継続している「徳島県NIE推進協議会」会長職を継続し,徳島県下の小中高等学校でのNIE活動を通じた教育に関与する。 県立あすたむらんどでの「天文講座」の講師として「隕石科学」をもとにした太陽系形成の歴史に触れ,高校生のみならず一般の方々の理科離れを食い止める一端を担う。 国際交流面では,近森教授が関与しているアフガニスタン理数科教育支援の計画に対する学内バックアップを行う。

(2)点検・評価

 数年間継続している「徳島県NIE推進協議会」会長職を継続し,県下の小・中・高校のNIE活動を通じて現場の教育に間接的に寄与した。「あすたむらんど」で実施された「天文講座」で「隕石科学」が果たしてきた役割やその成果などを一般市民に分かりやすく解説し,サイエンスに理解を深め,大人も子供も興味関心を持ってもらうことに寄与できた。近森教授の「アフガニスタン理数科教育プロジェクト」に対して,学内での授業や会議を通して出張期間にバックアップを行い,間接的に国際貢献に寄与した。

 

3.本学への総合的貢献(特記事項)

 全般的にはそれほど積極的ではなかったと思われるが,間接的なバックアップとしては非常に多大な成果がもたらされたと考えている。とりわけ,社会貢献と国際貢献については,直接表に出ないが,縁の下の力持ちおしての裏方的働きが功を奏し,十分に本学に貢献できたものと自負している。

 

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