2023(令和5)年度入学式告辞

 ただいま入学を許可いたしました学校教育学部105 名,大学院学校教育研究科修士課程88 名,専門職学位課程126 名のみなさん,鳴門教育大学へのご入学,おめでとうございます。われわれ鳴門教育大学教職員一同,みなさんのご入学を心からお祝い申し上げます。
 3年にも及ぶ新型コロナウイルス感染症は、皆さんの生活にも大きな影響を与えたことでしょう。さまざまな困難や制約を乗り越え、晴れて本学への入学を果たされた皆さんに,心より敬意と祝意を表したいと思います。


 鳴門教育大学は,昭和56 年(1981 年)に,「教員のための大学」という理念のもと,新構想の教育大学として開学しました。創立41周年の若い国立大学です。新構想教育大学としての本学は,大きくは二つの役割を担っています。
 一つは,学部における教員養成だけでなく,大学院において主に現職教員をも対象とした高度な教育と研究を行う大学であること,そして二つには,教師教育の先導的なモデルを開発実践する大学であることです。本学は,教師教育のトップランナーとして,時代に先んじる教師教育の開発実践に取り組み,卓越した教員養成力を有する大学として,全国の教師教育をリードしてきました。
 平成20 年(2008 年)には専門職学位課程(教職大学院)を設置し,2019 年には,全教科対応型の教職大学院として専門職学位課程をいち早く重点化しました。そして2022 年には,教員養成におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための拠点として教員養成DX 推進機構を設置しました。あわせて,働きながら学ぶことのできる教職大学院遠隔プログラムを開設し,派遣によらなくとも,また職場を離れなくとも,現職教員が鳴教の教職大学院で学ぶことを可能にしました。さらに,本年度から,四国の5 つの国立大学連携による,全国初となる広域型の連携教職課程の運用を開始します。


 さて,時代の大きな転換期にあたり,教育や教師の在り方も大きく変容しつつあります。
 デジタル化やグローバル化の急速な進展と共に,経済発展だけでなく個人にとっても社会にとってもウエルビーイング(幸せ)を実現する,持続可能な社会の実現が目指されています。しかし、一方では,気候変動や環境問題,食糧問題,そしてウクライナ紛争のように地球規模の問題に直面しています。
 そして私たちの足もとでは,急激な人口減少が進行しています。このような社会を生きていく子どもたちには,一人ひとりが自分のよさや可能性を認識しつつ,多様な他者と協力し合い,私たちが直面している,正解がない課題に取り組むことが求められます。そして,これからの社会を生きていく子どもを育てる教師自身にも正解の見出しにくい課題に向き合って主体的に考え,学び,さまざまな関係者と共に協働して取り組む経験力が求められています。


 鳴教では,主体的に学ぶこと,そして協働的に取り組むことを重視した教育を推進していきます。このことに関して,本学での学びについて,まず二点,皆さんに話をしておきたいと思います。
 第一には,大学での学びは,与えられるものではなく,自ら創るものであるということです。大学では,将来の自己像に即して,授業科目の選択だけでなく卒業研究や修士研究のテーマ,ならびに実習の課題などについても,主体的に設定していくことになります。鳴教は,皆さんの将来にとって役に立つメニューをきめ細かく用意しています。それを活かして大学生としての学びをどう創っていくかは,皆さんに委ねられています。自己の将来像(例えばどのような教師になりたいのか)を,自分で確認しながら,自らの学びを創ってほしいと願っています。鳴教では,本年度から,学部においてセルフデザイン型学修という考え方で,カリキュラムや学修支援体制を整え実施します。これはまさに,皆さん一人ひとりが自らの学びの主人公となって,大学での学びを進めていくための教育システムです。
 第二には,幅広く多様な人々と交流してほしいということです。本学は,コンパクトな大学ですが,多様な人々が集っています。学部と教職大学院には,これから教師を目指す学生,教師としての資質能力の一層の向上を目指す現職教師が集っていますが,それだけでなく,心理学の専門職を目指している学生,教育面での国際協力を担うこと目指している学生,そして母国の教育改善を期待されている留学生など,多様な問題意識,背景をもつ学生が集っています。在籍する留学生の数は100 人を超えています。本学はJICA(国際協力機構)とも連携をして,大学院に多数受け入れています。皆さんもキャンパスで,さまざまな人と出会うことができます。このキャンパスで留学生と交流できる機会も日常的に設定されています。本年度からは,教職大学院で学ぶ日本の教師と,JICA から派遣された途上国の教師が,授業をシェアして共に学び合う交流プログラムを開始します。鳴教での学生時代に,このような機会を積極的に活用して,自分の世界を拡げて下さい。そして,キャンパスだけでなく,鳴門,徳島など地域社会の課題にも積極的に関心を持ち,関わるようにして下さい。例えば,本学学生の阿波踊りサークルである鳴響連は,昨年度,地元鳴門市の商店街と連携して,鳴門市の活性化に積極的に取り組み,大いに感謝されています。多様性が増大する社会を生きていく皆さん,そして教壇に立って多様な子どもと対面する皆さんには,大学時代に異なる経験や文化的背景を有する人と出会い,共に活動する機会を積極的に求めていくことを期待します。


 次に,現職教員の皆さんの学びについて述べておきたいと思います。現職教員として大学院に入学した方々は,それぞれ実践経験に根ざした課題や問題意識をもってこの入学式を迎えられたと思います。永い教師生活の中で,実践を通した課題を持ちながら大学院で学ぶことは,得がたい経験だと思います。学校が直面している課題が複雑化する中,大学院で学ぶことは,教師としての知識を更新する絶好の機会となるでしょう。ただし,現職教員の学びとしてここでお伝えしたいことは,実務経験の中で身につけてきた見方や考え方,言ってみれば自分の殻のようなものをとらえ直して,修正していく「学びほぐし」(アンラーニング)の機会としても活用していただきたいということです。大学教員との対話や研究課題に関する探求的な学びは,専門的知識を獲得していく機会であるだけでなく,これまで身につけてきた子ども,教師,学校,教育等に関する見方,考え方をもう一度根本から見直す機会となるでしょう。現職教員の皆さんには,鳴教の学びを通して,「教師としてのさらなる高み」を目指すことを期待しています。遠隔プログラムを活用される皆さんは,仕事をしながら教職大学院で学ぶことになり,ご苦労も多いことでしょう。しかし,教師としての仕事を行うことと同時進行で,大学教員から指導を受けつつ学ぶことは,それによって得るものも大きいと確信しています。みなさんの先輩として昨年度遠隔プログラムを受講した大学院生からもそのような声が聞こえています。学び続ける教師のモデルとして,「仕事と学びの好循環」を実現し,充実した学びになることを期待しています。そして,困難を乗り越えて大学院での学修を達成されることを願っています。


 最後に教師を目指す皆さんに述べておきたいことがあります。近年,まことに残念なことですが,教師は「ブラックな仕事である」という認識が社会に広がっています。皆さんもそのようなことを見聞されたかも知れません。教師は,教師である前に人間として充実した生活を送ることが必要であり,教師の働き方改革は早急に解決がなされなければならない課題です。また,子どもの全人格的な成長を,専ら学校が担うといういわゆる日本型教育についても,見直しと同時に,教師の仕事は,教育専門職として,子どもの成長に大きな影響を及ぼすものであることも考えておくべきことです。「先生に出会えてよかった」,皆さんの中にも,これまでの学校経験の中でそのような思いを持った方がおられるのではないでしょうか。教師は子ども一人ひとりの人生に大きな影響を及ぼします。そしてそれを通して将来の社会の在り方に大きな影響を及ぼします。教育は過去の知識を伝達することに止まらず,将来の価値を創造する営みです。教師を目指し入学された皆さんには,鳴教での学びを通して,まず教師の仕事をしっかりと確かめていただきたいと思います。
 鳴教は,子どもが「出会えてよかった」と思える教師を一人でも多く育てたい,それによって,社会に貢献したいと考えています。入学された皆さんは,大学での生活に大きな期待と不安を持っておられると思います。教職員一同,皆さんの夢を叶えるべく,皆さんを支えて参ります。どうか安心して,これから始まる鳴教での充実した学びを楽しんで下さい。

2023(令和5)年4月6日  

鳴門教育大学長   佐古 秀一