2021(令和3)年度大学院学校教育研究科入学式告辞

「鳴門教育大学で、様々な人と交流を」

 

 鳴門教育大学大学院学校教育研究科、留学生38名を含む212名の皆さん、ご入学おめでとうございます。
 
 新型コロナウイルス感染症がパンデミック・世界的大流行となり、ワクチンが出来たとはいえ、まだこの先どうなるか見通しがたたず、私たちがこれまで経験したことがない非常事態です。
 本学でも、昨年は入学式を中止するという苦渋の決断をいたしました。今年は、学部と大学院の入学式を分け、多くの来賓の方々や関係者の方々に出席をご遠慮いただき、そして国歌・学歌斉唱を取りやめるなど、コロナ対策を講じた上で、入学式をここに挙行することが出来ました。例年と比べ規模を縮小せざるを得ませんが、皆さんを暖かく迎え入れたいという気持ちに変わりはありません。皆さん、どうかご理解下さい。
 また、新型コロナ禍において、これから学業を進めていく上で何かと支障が出てくるかもしれません。しかし、本学の教職員は一丸となって、できる限り皆さんの学びの機会を保証しようと努めますので、ご安心下さい。
 
 さて、本学は瀬戸内海国立公園に隣接し、大学周辺には、鳴門の渦潮、大塚国際美術館、四国八十八カ所の第一番札所霊山寺(りょうぜんじ)などがあります。キャンパスには、桜、ヤシ、アメリカデイゴ、サツキツツジ、楠、ハマボウ、ヤマモモなど、様々な植物が私たちの心を和ませてくれます。
 初代学長の前田嘉明(よしあき)は「環境は無言の教育であり、大学の環境・建物は物言わぬ教師である」、つまり学び舎として最高の環境を作りたいという信念の下、国立大学の中で有数の美しくて魅力的なキャンパスを造りました。
 
 本学は、教員養成の充実、現職教員の研修、教育に関する高度な研究、教育に関する社会貢献を目的としており、「新構想大学」の一つとして、つまり「教師教育のリーダー大学」として、1981年(昭和56年)10月1日に創設されました。今年40周年を迎えます。
 1984年(昭和59年)4月に大学院の1期生を、1986年(昭和61年)4月に学部の1期生を迎えました。そして、地元の鳴門・徳島を拠点に、四国、日本、世界へと活動を展開してきました。
 今では、名実ともにリーダー大学として、多くの実績を築き、教育界に様々な先進的モデルを提供するまでになりました。
 
 しかし、変化の激しい時代に合って、現状に満足していては、大学の使命は果たせません。新型コロナウイルス感染症が象徴するように、日本だけでなく世界中が先行き不透明で予測困難な時代であり、時代の大きな分岐点です。
 地球温暖化と自然災害、プラスチックごみ、人口減少、グローバル社会における国家間の競争、武力行使、格差社会、揺れる民主主義と人権、フェイクニュース、敵と味方に分けて相手を攻撃する思考様式、AI(人工知能)の進展による新しい社会の到来など、課題や難問が山積みです。
 そして、学校においても、新しい学力観、いじめ・不登校、保護者対応などの課題とともに、GIGAスクールが導入されました。
 
 これらの課題に対しあれもこれもと、大学院の数年間という限られた短い期間で、解決法を習得しようとしても、土台無理な話です。知識を詰め込むだけでは解決しません。
 その為にも、学校現場において新しい学力観や授業観への転換が求められていますが、その中の「主体的・対話的で深い学び」と「効果的にICTを活用した学び」が、私は特に大切だと思っています。そして、皆さんにとって大事なことは、鳴門教育大学に在籍中に、皆さん自身がこの2つの学び方、「主体的・対話的で深い学び」と「効果的にICTを活用した学び」を習得し、修了後も学び続ける大人でいると言うことではないでしょうか。
 
 先ほど私は、鳴門教育大学のキャンパスや周辺の環境が非常に美しくて魅力的な大学だ、と述べました。しかし、本学が何より美しくて魅力的なのは、より良い教師、より良いカウンセラー、より良い国際教育専門家というように、教育に携わる高度な専門職業人・プロフェッショナルを目指し、全国さらには海外から様々な経歴を持つ多くの人たちがこのキャンパスに集い、多くの出会いがあるということです。
 その中には、毎年、全国各地から現職の先生が60名ほど大学院に入学されます。この先生たちは、昨年、新学習指導要領、コロナ禍での教育、GIGAスクールの準備など、多くの貴重な経験をされてきました。
 現職の先生同士が話し合い、各地の状況を知り、よりよい方向性を目指し互いに考えることはとても有意義です。さらに海外からも10名以上の現職教員が、本学で常時学んでいます。
 皆さん、現職の先生の話を聞くだけでも貴重な経験になることでしょう。さらに、仲間同士の輪に閉じこもるのではなく、様々な経歴を持つ人達から積極的に話しを聞いたり、話し合ってみてください。
 もちろん、無理をして友人をたくさん作る必要はありません。しかし、教師、カウンセラー、国際教育専門家など、本学が養成しようとする職業は、どれも人間関係を基盤としたものです。
 様々な人との交流にチャレンジし、主体的・対話的で深い学びを目指して下さい。人と人との交流は、勝ち負けを競うのではなく、お互いがお互いを理解しようとし、お互いの一致点や相違点を尊重し、お互いに信頼し、お互いに成長しようと努めることが大切です。
 そして、様々な出会い、交流、対話を経験することにより、鳴門教育大学に入学して良かった、と皆さんが思われることを期待しています。
 
 結びとなりましたが、何より健康に留意してください。健康管理の意味でも、そして人間としての器を大きくする意味でも、勉強だけでなく、適度に遊ぶことも大事です。
 以上で、私の告辞を終えたいと思います。
 

 
 
 

2021(令和3)年4月6日
                     鳴門教育大学長 山下一夫