2020(令和2)年度学位記授与式告辞

「新型コロナ禍において相互支援の輪を」

 

 学校教育教員養成課程 108名の皆さん、卒業、おめでとうございます。
 大学院学校教育研究科・修士課程 119名、専門職学位課程 72名、大学院全員 191名の皆さん、修了、おめでとうございます。 17名の海外からの留学生の皆さんは、何かと大変だったでしょうが、無事修了されたことに敬意を表したいと思います。

 

 さて、新型コロナウイルス感染症がパンデミック・世界的大流行となり、昨年の学位記授与式は中止という、学長として苦渋の決断をいたしました。今回は、ワクチン接種が始まったとは言え、まだまだ警戒しなければならない状況であり、学部と大学院を分け、出席者を限定し、国歌ならびに学歌の斉唱を取りやめるなど、規模を縮小せざるを得ません。
 もちろん、皆さんにすれば、通常の学位記授与式でなく残念な思いがあるでしょう。私も、例えば学歌を皆さんと共に歌うことができず、不全感があります。本学の学歌は詩も曲も格調があり素晴らしいもので、私は大好きです。新型コロナ禍が収束した暁には、同窓会やホームカミングデーなどで、皆さんと肩を組み、声高らかに歌いたいと願っています。


 しかし、当たり前と思っていた入学式や卒業式が行えないこともあるとわかった今、何はともあれ鳴門教育大学の学位記授与式が挙行できたことを、私は安堵するとともに喜んでいます。
 入学式、卒業式、入社式、あるいは誕生祝い、成人式、結婚式、還暦の祝い、そして葬式などなど。人生には、節目節目にある段階から次の段階へと移行する「式」があります。各人が、自らの人生を振り返り、これからのことを考える節目となる大切なときです。
 それとともに、その式に人が集まり祝うということが行われるのです。つまり、自分のために集まってくれる人がいるということで、独りぼっちじゃない、他人との絆を感じ、社会的存在であることを自覚する大切なときでもあります。


 誕生から死までを縦軸とすると、人とのつながりは横軸であり、人生はこの縦軸と横軸で形作られていくのです。
 鳴教大に在学中の出来事や経験を、この縦軸と横軸を座標軸として描くとすれば、どのようなものになるでしょうか。
 皆さんは、本学に在学中、多くの知識、理論、技術を身につけたことでしょう。これらは、これからの人生において大きな宝物となるでしょう。それとともに、多くの人達と出会い、その人達と様々な交流をしたことも、皆さんにとって大切な宝物となり、人生を豊かなものにしてくれるでしょう。


 もちろん、人間関係はきれい事ではなく、傷つき涙し苦しんだこともあったでしょう。これからも悩みの種となるかもしれません。しかし、人と人とが助け合い、さらに人間関係を築くことは、とても大切です。
 例えば、災害が起こると、全国さらには世界から人が駆けつけボランティア活動をしたり、支援金や物資が送られます。本学でも5月に、この新型コロナ禍の影響で経済的困難に陥った学生に、緊急経済支援金を支給しました。対象者は、本学学生の約3分の1にも上ります。
 これは、これまでに鳴門教育大学基金にご寄付頂いていた皆様のご厚志はもとより、地域の皆様、鳴門教育大学同窓会、鳴教後援会及び教職員ら多くの方々から緊急にご寄付頂いたからこそ、対象者全員に支給することができました。


 学生の皆さんは、「人間は独りぼっちじゃない、助け合って生きているのだ」ということを、つまり「相互支援の輪」を実感できたのではないでしょうか。そして、いつか支援の手を差し伸べる側に回り、金銭に限らず様々な方法で困っている人々を支援することを、私は切に願っています。
 この8月、私にとって、とても嬉しいことがありました。学部の理科教育コース4年次生有志の皆さんが、栽培した野菜のチャリティー募金を実施しました。そして、その有志の代表者が、私の部屋に来て、「緊急経済支援金のおかげで多くの学生が助けられました。私もその一人です。今度は、自分たちが少しでも役に立てないかと思い企画しました」と述べ、集まったお金を本学の基金に寄付してくれました。


 お金と言えば、チャーリー・チャップリン( Charles Chaplin,1889~1977年)の言葉が思い出されます。「人生に必要なもの、それは勇気と想像力、そして少しのお金だ。( courage, imagination… and a little dough.)」。映画『ライムライト』( Limelight,1952年)の中の有名な台詞なので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
 理科教育コースの有志の皆さんが寄附してくれた金額は、まさに‘ a little dough’かもしれません。しかし、彼ら彼女らが「相互支援の輪」を実践してくれたこと、そして鳴門教育大学を愛してくれていることに、私は感動しました。


 さて、皆さんへ二つのことを祈念し、私の話を結びにしたいと思います。
 一つは、新型コロナウイルス感染症がまだまだ猛威をふるう昨今、皆さんがこれからも健康であることを何より祈っています。心身の健康のためにも適度に遊び、リラックスすることも大切です。もう一つは、職業人として、人間として、成長していかれることを期待し願っています。以上で私の告辞といたします。

 

2021(令和3)年3月18日

鳴門教育大学長  山下一夫