2019(令和元)年度卒業生・修了生への学長告辞

学長告辞

「新型コロナウイルスが猛威をふるい先行き不透明な今こそ、
知性や感性や倫理観に照らしてリフレクションを」

 

 鳴門教育大学を卒業・修了するにあたり、本学を代表して皆さんに、一言お祝い申し上げます。
 学校教育教員養成課程 111名の皆さん、大学院学校教育研究科・修士課程 161名、専門職学位課程 47名、そして大学院修了生の中には海外からの留学生 13名も含まれていますが、大学院全員 208名の皆さん、心から祝福いたします。

 

 新型コロナウイルス感染症がパンデミック・世界的大流行となり、現時点で死者が6,000人を超えるという非常事態、まだこの先どうなるか見通しの立たない状況です。学長として本学の学位記授与式を中止という苦渋の決断をしましたが、どうか皆さんご理解下さい。
 今、日本だけでなく世界的に先行き不透明で不安定な時代であり、時代の大きな分岐点です。地球温暖化と自然災害、プラスチックごみ、原子力発電所、人口減少、AI(人工知能)の進展による新しい社会の到来、グローバル社会における自国第一主義と国家間の競争、人権、移民、格差社会、揺れる民主主義、権力者によるフェイクニュース、敵と味方に分けて敵を攻撃する思考様式など、課題や難問が山積みのところに、新型コロナウイルス感染症が加わりました。


 このように多くの課題に対し、我々人類は手をこまねいている訳ではありません。例えば、皆さんよくご存じのように、2015年、国連(the United Nations)において、世界中の人々が一緒になって2030年までの達成を目指すSDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)が採択されました。
 エス・ディー・ジーズの17の目標をここでは一々あげませんが、皆さんには他人事ではなく自らの問題として捉え、広い視野と長期的な展望を持ち、身近なところから取り組んでほしいと願います。


 ところで、先行き不透明で不安定な現在社会において、まさに新型コロナウイルスに感染しそれが拡散するかのように、フェイクニュースやネット上の不確かな情報に人は惑わされ傷つけられたり、逆にナイーヴな正義感から不確かな情報を拡散させて他人を傷つける恐れがあります。
 そのようにならないためにも、子供たちだけではなく、教師やカウンセラーなど人と関わる高度な専門職業人は、知性と感性と倫理観が大切です。


 皆さんが、自らの経験を仕事に活かし、より良い実践を行うためには、知識や理論を学ばねばなりません。しかし、知識や理論を学んだからといって、自らの知性や感性や倫理観に照らしてリフレクション(省察(せいさつ)、熟考)しなければ、それは生きた知恵とはなりません。つまり自発的に自らの経験を振り返り、見つめ直し、これからの自分に活かそうと前向きによく考えることが大切です。
 さらに人間として成長するためにも、一人で省察するだけでなく、他人と語り合うことも大切です。皆さんは、本学に在学中、多くの人と様々な出会いがあり、その人たちと様々なことを語り合い、そして語り合う中で省察されてきたことだと思います。


 さて、皆さんへ二つのことを祈念し、私の話も結びにしたいと思います。
 一つは、新型コロナウイルス感染症が猛威をふるう昨今、皆さんがこれからも健康であることを何より祈念します。心身の健康のためにも適度に遊び、リラックスすることも大切です。もう一つは、職業人として、人間として、成長していかれることを祈念し、以上で私の告辞といたします。


2020(令和2)年3月18日
鳴門教育大学長 山下一夫