2019(令和元)年度秋季入学式告辞

「大学院秋期入学生を迎えて」

 

 セネガルのフェイ・アブドゥライさん、フェイ・シェイクさん、マリのサノゴ・ベイさん、鳴門教育大学大学院へのご入学おめでとうございます。鳴門教育大学を代表して、皆さんを心より歓迎いたします。

 これからの留学生活に対し夢と希望とともに、不安な気持ちあることでしょう。鳴門教育大学は留学生に対し実績があるので、安心して下さい。

 鳴門教育大学のことを少し紹介します。
 本学の屋上から景色をご覧になりましたか。
 なかなか、美しい景色でしょう。実は、本学は、瀬戸内海国立公園に隣接しています。大学周辺には、豪快な鳴門の渦潮、西洋絵画の陶板複製画が一堂に提示されている大塚国際美術館などの観光地があります。
 本学のキャンパスも、小さいながら非常に美しく、落ち着いて勉学に励むことができます。

 本学は、教員養成の充実、現職教員の研修、教育に関する高度な研究を目的とする新構想大学として、1981年10月1日に創設され、1984年4月に大学院(修士課程)の1期生を迎えました。
 創設以来、教師教育のリーダー大学としての使命・ミッションを果たすべく、教育・研究・社会貢献に努めてきました。

 本学は、グローバル教育にも力を入れています。例えば、JICAと連携し、1999年に本学において南アフリカの教員研修を行いました。
 以来、海外の教育関係者の研修を受け入れてきており、現在まで、50カ国以上、800人以上の研修員を受け入れてきました。そして、海外の教育関係者の研修件数は、日本の大学で一番多いものです。長年にわたるこの研修事業の功績に対し、2013年にJICAより「国際協力感謝賞」を受賞しました。

 2011年1月に、研修員としてセナガルから来られた教育省大臣官房のディアイ エルハジ(NDIAYE El Hadji)さんとの出会いは、今も忘れられません。
 ディアイさんは、集団の連帯、年配者への尊敬の気持ち、そして自分自身の誇りを大切にしていることを語られました。彼が、人間に対する深い洞察力と、未来に対する熱い希望を持っておられることに、私は感動しました。
 日本人である私は教師であり、皆様は生徒である。それまでの私は、そのように思っていました。
 しかし、ディアイさんの言葉を聞き、私は自分が恥ずかしくなりました。皆様も私も、子どもの未来のために、ともに学び、ともに働く教師であり、仲間です。

 マリ出身の、ウスビ・サコ教授を、皆さんはご存じですか。京都精華大学の学長です。
 1991年に来日し、京都大学で修士号、博士号をとり、2001年より京都精華大学の教員となり、2018年4月に学長に就任されました。日本の大学の学長となった初めてのアフリカ人です。
 私は、2度、お目にかかりましたが、とても明るく、そして聡明な方です。私はエルハジさんとの経験があるので、人種偏見なく、すぐに楽しく話し合うことができました。


 日本語の「学ぶ」は「まねる」から派生した言葉です。教師の考えをまね、教師から知識を吸収することは大切です。
 しかし、それ以上に、鳴門教育大学では、授業において様々な意見を出し合う「ディスカッション」を基本にしています。
 さらに、本学で何より大切にしたいのが「ダイアローグ」です。
 対話の精神とは、真理を前にして、互いに対等の立場で無知を自覚し学ぼうということです。
 そして、対話は、正反合の弁証法的(dialectic)プロセスによって進められます。つまり、テーゼ・意見に対して、アンチテーゼ・反対意見を出し、それらをアウフヘーベン・総合する意見を見出す論理的過程です。

 要は、勝ち負けを競うのではなく、お互いに平等で協力し合い、さらに高い真理を目指すという気持ちが基本です。そして、恥ずかしいと思わずに意見が言えたり、対決を恐れず違う視点から意見が言えることが重要です。
 まさに、対話は民主主義の根幹です。
 皆さんも、間違いを恐れず、また教官に遠慮することなく、話し合って下さい。


 せっかく日本に留学したのですから、上手でなくていいので、積極的に日本語を使うようにしてください。様々な日本人と出会い話し合うことが、日本のことを理解し、皆さん方自身の国と世界のことをより深く理解することにつながることでしょう。
 また、日本人だけではなく海外からも、より良い教育を目指し、様々な人たちが、本学に集まってきます。皆さんは、この留学期間中に、多くの人たちと出会い、話し合うことでしょう。
 様々な出会いや対話を経験することにより、鳴門教育大学に来て良かった、と皆さんが思われることを期待しています。また、そのように思われると信じています。

 本学の研修や留学を終え帰国された人達が、学校や教育界で、リーダーとしてより一層活躍されていると聞いています。
 このことは、本学として、とてもうれしく思うとともに誇りに思っています。皆さんも、この留学を終え帰国されると、リーダーとしてより一層活躍されることでしょう。大いに楽しみにしています。

 最後になりましたが、何より健康に留意してください。本学の教職員、そしてJICAの人たちも、皆様をサポートしていきます。
 以上で、私の挨拶を終えたいと思います。

  

2019(令和元)年10月1日

鳴門教育大学長  山下 一夫