自己点検・評価報告書 (芸術系(美術)教育講座) 山木朝彦

報告者 山木朝彦

1.学長の定める重点目標

1-1.教育大学教員としての授業実践

(1)目標・計画

  1. 授業内容:実践に役立たぬ理論を担当する授業内容からすべて排除し,学部と大学院のすべての授業において教育実践現場での今日的課題を取り上げて,教育実践に即,結びつく理論と情報,そして実践的方法論の具体的提示を核とした授業内容に完全に改め,改善する。
  2. 授業方法:前回に続き,積極的に教育機器の活用に努める。さらに,パワーポイントを利用する場合に,的確な内容を精選する。教育実践力を身につけるために,すべての授業で,学生に現場で役立つ教材開発の手続きを学習させる。
  3. 成績評価:発表力,論述の能力,基礎的な知識の習得など,多角的な能力について評価を行うだけでなく,模擬授業で授業者を行う場面を積極的に用意し,教師としての資質・能力の観点から評価を行う。

(2)点検・評価

  1. この点については,たとえば造形能力の発達について学ぶ場合にも,抽象的な整理の印象を与えることが無いように,幼稚園・小学校・中学校での子どもたちの表現活動の実際をビデオなどで見せた上で,概念的な整理に繋げるなど,すべての知識を教育実践現場の情報と関連付け,教育実践力の育成に努めている。教育法関連の授業では,採用試験の対策や院進学者への配慮などから,必要最小限の理論史について言及しないわけにはいかないが,そうした内容に触れる際にも,必ず,その時代の実践がわかるように,生徒作品や教室の写真などを紹介し,現代の教育実践と関連付けた。
  2. この点については,すべての授業で15回の授業のうち,1/4から1/3の時数で利用プロジェクターを効果的に利用する授業形態に刷新している。また,パワーポイントの内容もすべて見直し,1スライドに対して適切な字数に増減し画像の挿入も加えて,視聴する学生の立場から情報量をコントロールしている。この点で,予定どおりに進捗している。また,FDの授業公開時に一部の教員から目に悪いとの指摘を受けたOHPの使用は,図像の提示程度に抑え,限定的な利用に留めた。
  3. この点については,50名以下の受講生数の授業では,学生の教育実践力を育成するために,学生を教壇で発表させる機会を大幅に増やすことにより,集団を前にしたときにも,あがらず冷静に指導を行なえる能力の育成に努めた。
    最終段階では,模擬授業として導入部・展開部・終結部などのパフォーマンスを行わせて評価をした。
    また,受講生数の多い授業でも積極的な発言を評価する旨をあらかじめ伝達し,集団を前にした発表力の育成に努めた。同時に,この点を評価の対象とした。
    また,授業中や授業後の課題(宿題)として,小論を書くことを課し,論理的にものを考える資質と効果的な文章の表現力を身に付けさせることに努めた。
    当然のことながら,これらの課題への学生の取り組みを厳正に評価し,最終の評定につなげている。

 

  これらの点で,設定した目標・計画を達成できた。

1-2.大学教員としての社会(地域)貢献

(1)目標・計画

  前回の目標を継続し,美術館との連携を軸にして,地域の学校での教育内容の改善に努め,専門的な知識を社会に還元する。さらに,所属する「鑑賞教育推進プロジェクト」などの研究会を通じて,小学校,中学校,高校の先生方との研究協議の質を高める。

(2)点検・評価

  この点については「地域文化財教育活用プロジェクト」に基づいて大塚国際美術館とタイアップし,美術館と大学,美術館と地域の学校との連携のために力を尽くした。
  また,徳島県立近代美術館とは,「鑑賞教育推進プロジェクト」に基づいて,県内の小・中・高校で実際に使える鑑賞用教材(鑑賞用シート)を開発し,美術館の予算によって,すべての公立学校に配布している。(印刷および配布の事業主体は美術館サイドだが,教材開発の責任は継続的に山木が参加している研究グループの「鑑賞教育推進プロジェクト」が負っている。)
また,この鑑賞用シートに付随する指導の手引きを完成させ,教師の教材研究の支援を行なっている。この点で,掲げた目標・計画を達成できた。

 

  このほか,当初の目標・計画には掲げていなかったが,徳島県内で実施された四国造形大会に研究発表を予定した北井上小学校などに「教育支援講師・アドバイザー等派遣事業」の枠組みを用い10回程度指導に出張した。また,当日の第24回四国造形教育大会にて分科会の助言者を務めた。
  また,徳島県図画工作部会にも頻繁に出席し,この会の運営に積極的にかかわった。これらの活動を通じて,県内の図画工作教育の質の向上に寄与できたという充実感が残っている。

2.分野別

2-1.教育・学生生活支援

(1)目標・計画

  1. 学部では,コア・カリキュラムの充実を通じて,早い段階から教職にたいする関心を抱かせるとともに,学年担任の立場を活かして,教職への方向付けを行う。
  2. 大学院では,学部卒業後にすぐに進学した受講生と現職派遣の受講生の両者がともに刺激しあえる場を授業を中心に用意し,特に長期履修の学生に対して,現職派遣の学生が指導・助言をできる場を意図的につくりだす。

(2)点検・評価

  1. 学年担任として,同学年の学生が協力して教職へ就くという希望を叶えられるように,教育関係の情報の入手の方法を伝えている。
    また,同学年の学生だけでなく,他学年と協力しあえるように,行事などへの参加を促した。
    初等中等教科教育実践Ⅰなど,いわゆるコア科目では,教員採用試験対策の勉強が学部一年から重要であることを伝え,教育や美術の基本用語を学ぶように促している。この点で,目標・計画を達成できた。
  2. これについては,教育実習事前事後指導や教育実践研究などの授業において,グループ編成の形態をつくり,現職派遣の受講生がストレートマスターの大学院生や長期履修の大学院生を率先して支援できるように努めた。
      計画時に予想したとおり,現職教員の手際の良い発表形態や実践的な問題解決の手法をストレートマスターの学生は十分に学べた。また,現職教員も,創作志向の学生が多いストレートマスターの学生から,柔軟な発想法を学ぶことができた。
      このような点から,目標・計画は十分に達成できたと考えられる。

2-2.研究

(1)目標・計画

  1. 美術館での鑑賞学習の方法論を検討するとともに,小学校・中学校での授業のなかで,どのような方法で作品を提示し,いかなる指導計画で授業を展開すべきか研究を進める。
  2. また,美術科教育学会誌に戦後の美術教育のモダニズムの流れからみたリアリズムの教育について論考した研究論文を投稿し,鑑賞対象の選定などに関する基礎的な思考の枠組みの洗練に努める。

(2)点検・評価

  1. 美術科教育学会東地区研究会(会場:東京都写真美術館)において,世田谷美術館,東京都写真美術館,川崎市民ミュージアムなどの学芸員がパネリストになり,兵庫教育大学連合大学院生などが指定質問者となる「パネルディスカッション」を新たに企画し,学校と美術館の連携について制度論的・方法論的に検討する場を提供した。約5時間にわたる長時間の研究発表・パネルディスカッション,そして研究討議を通じて,美術館での鑑賞学習の方法論と,小学校・中学校での鑑賞教育の方法論を結びつける方略について深めることができた。この成果は美術科教育学会通信に報告している。
  2. については,美術科教育学会誌に「美術教育思潮におけるリアリズム表現の受容とその問題点―モダニズム概念の再検討による戦後美術教育運動の考察をもとに」(論題)を投稿し,審査の後,掲載された。

     

    このほか,アメリカの鑑賞教育理論の基礎として定着しつつある各種の批評理論について,美術科教育学会で個人発表を行った。また,「地域文化財教育活用プロジェクト」の成果をもとにして,山田芳明准教授とともに美術科教育学会西地区研究会で,研究発表とパネルディスカッションを行った。
    また,当初の計画・目標には掲げていないが,美術科教育学会理事として,学会運営に積極的にかかわり,優れた論文に捧げられる学会賞の選考委員を務めたことも,広い意味では研究活動に寄与したといえるかもしれない。
    これら一連の成果は,従来積み上げてきた研究成果が思いのほか順調に実ったものであり,当初の目標・計画を大きく上回るものである。

2-3.大学運営

(1)目標・計画

  1. 各種委員会と講座とのパイプ役として,相互の情報の正確な受け渡しに努めるだけでなく,必要に応じて構成員のために新たな資料を作成し提供する。
  2. 大学の一構成員として,大学の研究・教育の向上に関する提言を積極的に行う。また,必要に応じて,教育力において他大学の優れた指導体制などを検討する。

(2)点検・評価

  1. この点について,講座の会議では各種委員会の流れを的確に伝え,未来志向型の講座の運営が進捗するように努力した。また,必要に応じて書類をつくり,提供している。この点で,目標を達成した。
  2. この点について,部会・各種委員会・講座会議では,常に積極的な発言を行なうべく,努力した。自由挙手で考えを述べるように求められた場合には,必ず,意見を述べるように努めた。教育研究態勢の建設的提言を講座および部で行ったが,定員削減の進むなか,なかなか実現できない提案をしてしまい,役職者から指導を受ける場面もあった。その点は猛省している。やはり,現実に即して,柔軟に考え方を切り替える柔軟性が大学運営には必要であることに気づかされた。「大学の研究・教育の向上に関する提言を積極的に行う」という目標・計画は,十二分に達成したが,今後は,現実感覚を学び,組織のなかで,ときには静観する慎重さも身につけたいと思う。
    学会などでは,他大学の研究者と積極的に意見の交換をして,指導体制の拡充の方法について建設的な意見を聞くように努め,入手した情報を各種委員会を通じて情報提供した。この点で,計画・目標を達成した。

2-4.附属学校・社会との連携、国際交流等

(1)目標・計画

  1. 附属校,とりわけ附属小学校と中学校の研究課題に,美術科教育の観点から積極的にかかわり,研究会などを通じて,学術的な情報を提供するように努める。さらに教材開発への提言を行う。
  2. 地域の美術館と協力しあい,美術作品の鑑賞教育の発展に努める。さらに,美術館の個性を打ち出す方法について,美術館学芸員と協議し必要に応じて提言を行う。

(2)点検・評価

  1. 附属小学校の校内研究会の協力者・助言者として,主として教材研究に資する情報提供の点で積極的に協力した。また次項目とも関わるが,附属中学校の美術館鑑賞の機会作りに協力し,その際に,実践的な研究に繋がる資料提供と助言を美術担当の教師に行なった。また,附属幼稚園の児童たちが大塚国際美術館で意味ある鑑賞ができるように機会をつくり,同行し,園児にむけて,直接,名画鑑賞の指導を行った。この点で,掲げた目標・計画を達成した。
  2. この点については,大塚国際美術館の運営評議員となり,鑑賞教育の充実にとって有効なアイディアを提供した。徳島県立近代美術館のプロジェクトに積極的にかかわり,個性化のための方策をともに考えたことも,イの項目に関連している。この点で,掲げた目標・計画を達成できた。

3.本学への総合的貢献(特記事項)

  特記事項に値するのかどうかわかりませんが,・・・・・・
  1. 目標設定時には,始まったばかりかまだ開始していなかった学内の重要な委員会で積極的に意見を述べ,幾つかの具体的な提言(以下の括弧内にその趣旨)が結論に活かされた。それは,
    • 教職キャリア開発センター設置検討部会(従来のカリキュラム枠に縛られない特別枠での補償的授業内容の必要性)
    • 小学校教員資格認定試験検討の会(小学校図画工作科教科書と指導書を幅広く参照したうえでの取り組みの必要)
    • 評価スタンダード開発会議〔特色GP「教育実践の省察力をもつ教員養成」作業部会〕(学生の便を重視した,本当に利用できるスタンダードにする必要性)などである。
    いずれも本学の姿勢が問われる重要な審議事項を抱えていた討議の場であり,ここでの上記趣旨の提言は有益であった。
  2. 連合研究科博士課程プロジェクトF(研究代表者:西園教授)にて研究発表を行なうと共に,福島大学の渡邉晃一准教授(人間発達文化学類・現代美術),和歌山大学の永守基樹教授を招いて,造形教育の教育内容学について発表していただいた。他教科の研究者から刺激的な内容だったと賛辞を頂いた。
  3. 大学美術教育学会および日本教育大学協会美術部門協議会の大会総会の議長を務めた。
  4. 静岡大学の芳賀准教授が運営する「造形教育WIKI」(内容:美術教育の理論と実践についてエンサイクロペディア形態で小論をアップするサイト)に,鑑賞や美術館にかかわる記事を所属名と執筆者名入りで積極的に提供した。
  5. 徳島県博物館協議会(6月7日)において,「博物館(美術館)と学校教育の連携について」という題名で講演を行ない,県内50人前後の博物館・美術館などの館長に聞いていただいた。

     

    1. の項目は,主として学内での取り組み2.~5.の項目は,主として学外での活動ですが,これら学内外での活動を通じて,本学の教育研究力の成果を社会的に知らしめるよう,努めました。
最終更新日:2010年02月17日

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