鳴門教育大学年次報告書(平成14年度版) 総論

1.教育理念・目標

  鳴門教育大学は,学校教育に係る諸科学の理論的及び実践的研究を総合的に推進するとともに豊かな教養を培い,人間性に対する多面的な理解と深い人間愛とに支えられた教育者としての使命感をもつ有為な教員を育成し,もって教育,学術及び文化の進展に寄与することを目的とする。この教育理念・目標を実現するために,本学に学校教育学部及び大学院学校教育研究科(修士課程)を設置している。
  学校教育学部は,学術の中心として広く豊かな知識を授けるとともに,学校教育に関する専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開しうる優れた初等教育教員及び中学校教員を養成することを目的とする。
  大学院学校教育研究科(修士課程)は,広い視野に立って精深な学識を授け,学校教育に関する理論と応用及び教育実践の場における高度な教育研究能力を養うとともに,教育に携わる者の使命と熱意に応え,その研究研鑽を推進することを目的とする。
  このように本学の学校教育学部,大学院学校教育研究科(修士課程)の教育理念・目標は設定されており,開学時から現在に至るまで堅持されている。
  学校教育学部及び大学院学校教育研究科の具体的目標・重点項目
  上述の「1.教育理念・目標」等に基づき,具体的に学校教育学部・大学院学校教育研究科において何を目指し,達成しようとしているかを明確化した「鳴門教育大学の教育理念・目標について」を策定した(平成12年11月22日)。そこに示された目標,具体的目標及び重点項目は次のとおりである。

学校教育学部の目標

目標
  教員として必要な基礎的な資質や能力を養うとともに,広い視野に立って教育活動を行い,地域の教育課題に応え,教育の改善に役立つことのできる教員の養成を行う。

具体的目標
  1. 豊かな教養を身につけ,人間としての成長を図るとともに,個性を伸ばし,得意分野の学識と教職に関する専門的見識をもち,教員として熱意をもって教育ができるようにする。
  2. 地域の特色や文化を尊重するとともに,科学技術の進展,国際化の拡大,環境問題等に関心をもち,グローバルな視野に立って教育実践ができるようにする。
  3. 子どもの問題行動に適切に対応し心の教育を徹底するとともに,一人一人の子どもの個性を大切にし,分かる授業を通して学びがいのある学級や学校をつくることができるようにする。
  4. 情報通信技術の活用能力やコミュニケーション能力を実際の教育活動に生かすとともに,物作りの技術,サバイバルなど人間として生きる力を身につけるようにする。

重点項目

具体的目標1に主として関連する重点項目
  • 教養教育と専門教育の有機的関連を図る。
  • 教育専門家としての見識と使命感の育成を図る。
  • 課外活動等の充実を図る。
具体的目標2に主として関連する重点項目
  • 「総合演習」の充実を図る。
  • ボランティア活動の推進を図る。
具体的目標3に主として関連する重点項目
  • 実践的指導力の涵養を図る。
  • カウンセリングマインドの育成を図る。
具体的目標4に主として関連する重点項目
  • コミュニケーション能力の育成を図る。
  • コンピュータ活用能力の伸長を図る。
  • 野外活動・フレンドシップ事業等のふれあい活動の充実を図る。

大学院学校教育研究科の目標

目標
  教育に関する専門職として必要な資質や能力の向上を図り,学校教育の創造に主体的に取り組むことのできる高度な実践的力量を涵養する。

具体的目標
  1. 教育実践の経験の中から得た教育課題に基づき,自ら探究しようとする専門性を自覚し,最近の研究成果を取り入れながら理論化を図るようにする。あわせて,問題解決のための方法を習得して学校教育の改善や創造に貢献できるようにする。
  2. 学校教育の基本は子どもの個性を尊重し,その「よさ」を伸長させ価値ある人間として育成することにあるが,現代社会の物質主義的傾向や人間関係の希薄化等様々な要因により,子どもが心的疎外を被る場合が多くなっている。こうした教育病理といわれる現象を解明し,克服するための“臨床の知”を深め,教育問題に取り組むことができるようにする。
  3. 学校教育において現代の諸課題を取り上げる場合,単一科学の理論や方法をもっては解決できないことが多い。むしろ,知を再構築し新たな“総合の知”をもってその解明と解決に当たる必要が生じている。このことから,研究に当たっては他領域との関連に留意し広い視野から総合的にアプローチできるようにする。
  4. 教育に関する研究は教育現象を客観的に解明することにとどまることなく,教育課題の解決に導いたり,子どもの人格形成を支援したりするための理論と方法を確立することが求められている。このことから,教育理論と実践の一体化を図る必要がある。例えば,各教科のコースでは教科の専門的内容の研究と教科教育が並存しているが,むしろこれらの関係を一層密接にするとともに,教育実践を通して子どもが学習していく過程を明らかにし,検証することができるようにする。すなわち,教科内容の研究,教材の選択,学習指導計画の立案,授業による子どもの変容と学習内容の習得という一連の事象の有機的関連と展開を対象とした教育実践研究を行い授業に関する高度な実践論を構想できるようにする。

重点項目

具体的目標1に主として関連する重点項目
  • 現代の教育課題を探究し,学校教育の改善に貢献できる力量の育成を図る。
具体的目標2に主として関連する重点項目
  • 子どもの心の安らぎを促すための“臨床の知”に基づく実践力の育成を図る。
具体的目標3に主として関連する重点項目
  • “総合の知”に基づく実践力の育成を図る。
具体的目標4に主として関連する重点項目
  • 教育実践研究の充実を図る。

2.現状の課題への取り組み

(1)鳴門市教育委員会との覚書締結について

  10月16日(水),本学と鳴門市教育委員会との間で「連携協力に関する覚書」が締結された。
  本学は,平成12年6月21日に鳴門市との間で「相互協力関係の充実強化に関する意向書」を締結しており,今回の覚書締結は,同意向書に基づき,鳴門市の教育及び教員養成に関わる諸課題への対応並びに教員の資質向上を図るため,本学と鳴門市教育委員会との間で培ってきた協力関係の絆を更に充実・強化・発展させることを目的として締結された。

(2)国際学術交流協定締結について

  7月17日(水)に南アフリカ共和国プレトリア大学と,また,8月13日(火)には,大学以外の機関としては初めてのラオス人民民主共和国教育省教員養成局と,それぞれ国際学術交流協定を締結した。これにより,本学の国際学術交流協定締結機関は,12機関となった。
  また,教育環境整備への貢献に対し,本学の教官にラオスの教育大臣及び教育省教員養成局長から感謝状が贈られた。

(3)ファカルティ・ディベロップメントの推進について

  平成13年度からの2か年計画「ファカルティ・ディベロップメント推進事業」は,次の三種類の具体的事業を展開し,多くの成果を得て終了した。
  なお,それぞれの内容は「平成14年度ファカルティ・ディベロップメント推進事業実施報告書」として取りまとめ,学内はもとより広く教育委員会や関係大学等にも配布した。

ファカルティ・ディベロップメント推進事業

  1. 学部授業改善のための講演会

    基調講演「授業評価と授業改善」
      京都大学高等教育教授システム開発センター助教授 大山泰宏氏

  2. 学部授業改善のための教官研修会

    特別講演「高度職能専門教育と情報時代に対応した授業開発」
      佛教大学教育学部教授 西之園晴夫氏

    分科会報告
    1. 学生の学習意欲を向上させる方策
    2. 学生による授業評価の活用
    3. メディアを利用した授業改善

    特別講演「学部授業改善への態度と方法」
      前鳴門教育大学長 野地潤家氏

  3. 学部の公開授業と授業研究会

    公開授業週間 10月28日(月)~11月1日(金)

(4)学部の授業・特別活動等の公開授業の実施について

  11月23日(土)に高校生・保護者・学校関係者を対象にして大学授業等体験活動「1日鳴教大生-自己の生き方を考えよう-」を実施した。当日は,徳島県内の11の高等学校から高校生や保護者102人が参加し,開放した24の講義の中から希望する授業を聴講したり,各専修・教育コ-スの学生や教官との懇談会に参加した。また,副学長から本学の教育方針の説明や学生団体の紹介も行った。

(5)大学等地域開放特別事業について

  平成14年度大学等地域開放特別事業「大学Jr.サイエンス&ものづくり」を次のとおり実施した。
  10月5日(土)開催の『環境教育を目指した簡単な簡易比色計の試作とその応用』(主催:自然系(理科)教育講座)は,小・中学生の親子34人が参加し,色の不思議と現代の環境問題の講義を受講した。また,簡単な簡易比色計の組み立てを行い,実際に自動車の廃棄ガスの測定・分析などを行ったり,活性炭を用いて汚れた水の浄化実験を行った。
  10月19日(土)開催の『算数おもしろ教室』(主催:自然系(数学)教育講座)は,小・中学生,保護者及び教諭64人が参加し,厚紙からタングラムの作成,プラスティック製タングラムを使って,参加者が自由に考えて作った形の発表会を行った。また,厚紙から立体模型や立体の飛び出す折り紙の制作,図柄の変わる折り紙模型の作成を行った。

3.大学改革への取り組み

連続「全学教官討論会」の開催

  本学では,教員養成大学・学部における再編・統合問題や法人化への対応,また質の高い教員の養成,卒業生・修了生の進路等の具体的方策を策定するためには,教育システム・内容・方法の改善や教職員の意識改革が必要であるとの認識から,内部充実に繋がるテーマを設定し,「全学教官討論会」(全教職員参加型のシンポジウム)をシリーズで開催した。平成14年度開催状況は以下のとおりである。

第1回  平成14年9月26日(木)
  「地域・教育現場から鳴門教育大学への期待」

第2回  平成14年10月29日(火)
  「大学と附属学校園との共同研究及び連携協力関係の一層の推進と体制の構築について(1)」

第3回  平成14年11月6日(水)
  「大学と附属学校園との共同研究及び連携協力関係の一層の推進と体制の構築について(2)」

第4回  平成14年11月20日(水)(特別講演会)
  「教員の養成・採用・研修に対応した教育大学の役割」(竹下文部科学省教職員課長)

第5回  平成15年1月24日(金)
  「学部生の学習意欲と主体的思考力の育成についての方策(1)」

第6回  平成15年3月6日(木)
  「学部生の学習意欲と主体的思考力の育成についての方策(2)」

第7回  平成15年3月24日(月)(特別講演会)
  「教員養成カリキュラムの今後の課題」
    (藤田文部科学省教職員課教員研修企画官(兼)教員養成カリキュラム開発専門官)

4.大学評価・学位授与機構による大学評価

  • 全学テーマ別評価「教養教育」 (平成12年度着手継続分)
  • 全学テーマ別評価「研究活動面における社会との連携及び協力」 (平成13年度着手)
  • 分野別研究評価「教育学系」 (平成13年度着手)

  大学評価・学位授与機構が実施する評価は,大学等が競争的環境の中で個性が輝く機関として一層発展するよう,大学等の教育研究活動等の状況や成果を多面的に評価することにより,その教育研究活動等の改善に役立てるとともに,評価結果を社会に公表することにより,公共的機関としての大学等の諸活動について,広く国民に理解と支持が得られるよう支援・促進していくことを目的に,本年度は全学テーマ別評価2件,分野別研究評価1件について評価が行われた。
  その評価結果は,大学評価・学位授与機構から平成15年3月に「評価報告書集」と題した冊子に取りまとめられ,広く社会に公表された。本学に対する評価結果の概要は次のとおりである。

評価結果の概要

1. 全学テーマ別評価「教養教育」 (平成12年度着手継続分)

  1. 実施体制
    • 特に優れた点及び改善点等

      教養教育に関する講座を越えたつながりが不十分である点について改善を要する。

    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標にかなり貢献しているが,改善の必要がある。

  2. 教育課程の編成
    • 特に優れた点及び改善点等

      「専修基礎科目」は,入学間もない学生に教員との人間的なふれあいの場を提供するとともに,大学における教育・研究に対する主体的な意欲や教職意識を培っていく科目として充実している。大学の特色を生かした取組である。

    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標におおむね貢献しているが,改善の余地もある。

  3. 教育方法
    • 特に優れた点及び改善点等

      成績の評価方法や基準,評価のプロセスを客観的なものとして整備する組織的な取組がほとんど行われていない点,シラバスで,75%の教員が評価基準を明確に示していない点は改善を要する。

    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標にかなり貢献しているが,改善の必要がある。

  4. 教育の効果
    • 特に優れた点及び改善点等

      該当なし

    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標にかなり挙がっているが,改善の必要がある。

2. 全学テーマ別評価「研究活動面における社会との連携及び協力」 (平成13年度着手)

  1. 研究活動面における社会との連携及び協力の体制
    • 特に優れた点及び改善点等

      「教育支援講師・アドバイザー等派遣事業」,「ふれあいサイエンス」を実施している点は,特に優れている。

    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標の達成に十分に貢献している。

  2. 取組の実績と効果
    • 特に優れた点及び改善点等
      • 「ふれあいサイエンス」は,学校教育関連の研究領域の創発とその試行・応用に貢献した実績があった点が特に優れている。
      • 「教育支援講師・アドバイザー等派遣事業」は,派遣要請が盛況であり,更にアンケート調査による満足度も非常に高かった点が特に優れている。
    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標で意図した実績や効果が十分に挙がっている。

  3. 改善のための取組
    • 特に優れた点及び改善点等

      実施されているほとんどの活動において,改善のための体制や取組が作られている点が特に優れている。

    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標の達成におおむね貢献しているが,改善の余地もある。

3. 分野別研究評価「教育学系」 (平成13年度着手)

  1. 研究体制及び研究支援体制
    • 特に優れた点及び改善点等
      • 教員の採用・昇任において研究能力に加え教育能力を重視していることや,大学院教育を通じて教育にかかわる実践的な研究が進められていることは,教育実践への貢献という目的の趣旨に沿う優れた取組である。
      • 研究支援体制の充実を図り,大学の掲げる教育実践への貢献を推進していくこと,プロジェクト研究の施策を検討する体制の整備,また,国際的な交流や地域との交流提携に関して一層の積極的な取組が期待される。
    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標の達成におおむね貢献しているが,改善の余地もある。

  2. 研究内容及び水準
     全領域
    (構成員数166人)
    教育学領域
    (構成員数45人)
    教科教育学Ⅰ領域
    (構成員数60人)
    教科教育学Ⅱ領域
    (構成員数61人)
    研究の独創性 極めて高い
    高い
    相応
    低い
    1割弱
    2割
    5割弱
    1割強
    1割弱
    1割強
    5割強
    2割弱
    1割
    3割
    4割強
    1割弱
    若干名
    1割強
    5割強
    1割強
    研究の発展性 極めて高い
    高い
    相応
    低い
    若干名
    2割弱
    5割弱
    2割弱
    若干名
    1割強
    5割弱
    2割強
    1割弱
    2割弱
    5割弱
    1割強
    若干名
    2割弱
    4割強
    1割強
    研究の教育実践への貢献 極めて高い
    高い
    相応
    低い
    若干名
    1割強
    4割弱
    2割強
    なし
    若干名
    4割強
    4割弱
    なし
    2割弱
    3割弱
    2割弱
    若干名
    1割強
    5割弱
    1割強
    他分野への貢献 極めて高い
    高い
    相応
    低い
    若干名
    1割弱
    3割強
    2割
    なし
    若干名
    3割弱
    2割弱
    若干名
    若干名
    3割強
    3割
    なし
    1割強
    3割強
    1割強
    研究の水準 極めて高い
    高い
    相応
    低い
    2割弱
    2割弱
    5割強
    1割強
    1割強
    1割強
    5割強
    2割
    2割
    3割弱
    4割強
    1割
    1割強
    1割強
    6割
    1割弱
  3. 研究の社会(社会・経済・文化)的効果
    全領域 極めて高い
    高い
    相応
    若干名
    1割弱
    4割
    教育学領域 極めて高い
    高い
    相応
    なし
    若干名
    5割弱
    教科教育学Ⅰ領域 極めて高い
    高い
    相応
    なし
    1割弱
    3割弱
    教科教育学Ⅱ領域 極めて高い
    高い
    相応
    若干名
    1割弱
    5割弱
  4. 研究の質の向上及び改善のためのシステム
    • 特に優れた点及び改善点等

      研究費の業績主義的傾斜配分制度の実施によって個々の教員の研究状況を把握し点検する体制を整えている点は優れた取組である。
      研究活動の評価について,大学の活動や運営全般にわたる評価組織に依拠している点及びその評価も,状況報告にとどまり,評価結果を研究活動の質の向上や改善に結び付ける有機的関連が築かれるには至っていない点において,今後の実効ある運営が望まれる。

    • 貢献の程度(水準)

      目的及び目標の達成におおむね貢献しているが,改善の余地もある。

最終更新日:2010年03月19日

お問い合わせ

経営企画戦略課
企画・評価チーム
電話:088-687-6012