2018(平成30)年度学位記授与式告辞

「天職として使命感を持って自らの務めを果たす」

 

 平成30年度(2018年度)の学位記授与式にあたり、鳴門教育大学を代表して卒業生、修了生の皆さんに、一言お祝い申し上げます。
 本日、学校教育教員養成課程117名、大学院学校教育研究科・修士課程189名、専門職学位課程46名の皆さんがめでたく学位を取得され、新しい旅立ちのときを迎えられたことを、ご来賓の皆様ならびに本学教職員とともに、心から祝福いたします。大学院修了生の中には、15名の海外からの留学生も含まれています。
 そして、これまで皆さんを温かく見守り、支えてこられましたご家族や関係者の皆様に心から敬意を表しますとともに、お慶び申し上げます。

 鳴門教育大学は、教師教育のリーダー大学として、昭和56年(1981年)10月に創設された、教員養成大学として一番新しい大学です。大学院の1期生を迎えたのが昭和59年(1984年)4月、学校教育学部は昭和61年(1986年)4月です。
 本学の目的・使命は、教員養成の充実、現職教員の研修、教育に関する高度な研究、そして教育に関する社会貢献です。本学が誇る特色として、高い教員就職率、全国的なモデルである教職大学院、教育委員会や行政機関等との連携による地域貢献、全国的規模のいじめ防止支援、開発途上国教員研修に代表される国際貢献、臨床心理士や国際教育協力専門家のように広く教育を支える人材の養成などが挙げられます。
 しかし、私が本学において何より誇りに思うのが、本学の卒業生であり、修了生です。彼ら/彼女らの多くが、日本だけでなく、世界中で自らの仕事に使命感を持って、まさに天職として活躍しています。
 そして、本日、本学から巣立っていく皆さんに私は大いに期待しています。

 ところで、1ヶ月前の2月17日に、元国連事務次長で現在、国立京都国際会館理事長の明石康先生を講師として本学にお招きし、「異文化世界で生きぬくということ」と題し、講演会を開催しました。盛会であり、皆さんの中にも参加された方が多数おられるのではないでしょうか。
 明石先生からは、チャレンジする勇気、日本文化と同様に他国の文化に対する関心と敬意、説得ではなく互いに認め合い信頼関係を築くこと、知識欲と言葉のセンスなど、日本人初の国連職員として世界平和のために長きにわたり広く国際社会で活躍された経験に基づく多くのことを教わりました。
 また、本学の小学校英語教育分野の教員が中心となって明石先生をお招きしたということもあり、英語学習法について、文法や語彙力は大事だということ、そして「語学は恥をかかないと上達しない。かいた恥を笑い飛ばす位の気持ちを」と話していただきました。
 そして、講演の内容とともに、何より穏やかで芯の強いお人柄に、参加者は魅了されました。人々の幸せと世界平和を願い、人の心に寄り添うことを旨とし、天職として使命感を持って自らの務めを果たしてこられた先生のお人柄に、尊敬の念を抱くのは私だけではないでしょう。

 人柄とともに国柄ということを大切にされたのが、天皇、皇后両陛下です。新聞(山田孝男 「風知草
(ふうちそう)」 毎日新聞2015年4月13日)によると、平成11年(1999年)即位10年の記者会見において、「日本が世界に発信すべきメッセージは何か」という質問に対し、次のように皇后陛下はお答えになられました。
 「一国が発信するメッセージは、必ずしも言葉や行動により表現されるものばかりとは限らず、例えば一国の姿や、たたずまい、勤勉というような、その国の人々が長い年月にわたって身につけた資質や、習性というものも、その国が世界に向ける静かな発信になり得るのではないかと(外国訪問を通じて)考えるようになりました」
 「日本が国際的な役割を十分に果たしていく努力を重ねる一方で、日本が平和でよい国柄の国であることができるよう、絶えず努力を続けていくことも大切なことではないかと考えています」
 この国柄とは、もちろん家柄のように固定した差別的ニュアンスを持つものではなく、人柄に近いものです。そして、平和でよい国柄になるように努力し、象徴天皇としてのとても重い務めを果たしてこられた天皇、皇后両陛下に対し、私はただただ頭が下がる思いです。

 さて、私の話も結びに移りたいと思います。
 本学では開学以来、教育についての理論、知識、技術を教えるだけでなく、教師としての「心」を育てることに努めてきましたが、まさに、教師をはじめ、臨床心理士、公認心理師、国際教育協力専門家など、本学が養成しようとしている職業はいずれもが他人
(ひと)と人格的に交わる営みであり、仕事と人柄が大いに関係しています。
 そして、より魅力的な人柄になるためには、国柄に思いをいたし、グローバルに考えることも是非行って下さい。
 人柄と大いに関係している仕事は苦労もありますが、それ以上にやり甲斐のある素晴らしい仕事であり、天職といえるのではないでしょうか。
 これからも皆さんが、職業人として、人間として、成長していかれることを祈念し、私の告辞といたします。

 

 

2019(平成31)年3月18日

鳴門教育大学長  山下 一夫