大村はま文庫の指人形・ぬいぐるみ

  大村はま文庫に収められている指人形・ぬいぐるみは,大村国語教室における実践の際の教材の一部である。
ぬいぐるみ
  大村教室においては,学習者に関心や興味をもたせ,学習意欲を喚起するお話(ミニ講話)や話し合いが常になされていた。全員が発動的な学習意欲をもつことによって,はじめて真の学習が成り立つと考えられていたからである。
  学習意欲・必要感をもたせるため,古典の単元にはいる前に1分半~3分程度のミニ講話を10個くらいなさったこともある。新作の児童画展に毎年お出かけになり,学習者の興味をよぶ額の絵を求められたのも,授業前の休み時間に話題を生み出させるためであった。 [林義雄の「小鳥の家」の額の絵からは,いろいろな話題が生まれたと,お聞きしたことがある]
  「指人形」・「ぬいぐるみ」は人前で口があくようにするため,話し合いの雰囲気をつくるために用いられてきた。「指人形」一箱は,人前でものが上手に言えない生徒の練習に使ったと話しておられたし,「ねこ」を「ぬく」としか言えない生徒が,「ぬいぐるみ」を使って,ちょっとした感情をみせて会話をすることができたともおっしゃっていた。単元「外国の人は日本(日本人)をこのように見ている」(全集 7巻)の学習では,最も力の弱い学習者が,「青い目の嫁が見た勝 海舟」を担当していたが,発表の際に「あやつり人形」を用いて聴衆の人気を博し,いつまでも話題になったとのことである。発表に当たって,決して失敗をさせてはならないとの先達の戒めを守るとともに,ひとりでも軽く見られる人がいるとクラスにおける話し合いが成立しないとの鉄則を生み出された一例である。
  主体的意欲的に,ひとりひとりを生かした学習の場で人と話し合える人を育てるためには,優劣を意識させない学習をすすめる必要がある。人前で発表したり話し合ったりするときの雰囲気をつくるための工夫がこれらの教材を生んだといえる。
橋本暢夫第6代附属図書館長