野地潤家先生について

橋本暢夫第6代附属図書館長
野地潤家文庫
野地潤家博士は,1920年に愛媛県大州市に生まれた国語教育学者で,1992年から2期6年間鳴門教育大学長を勤めた。
氏は1945年広島文理科大学を卒業したのち,愛媛県立松山城北高等学校教諭,広島高等師範学校教授・広島大学教授・教育学部長を経て,新しい構想のもとに創設された鳴門教育大学に赴任し,教授・副学長・学長として,51年7ヶ月の間に数多くの教職実践家・研究者を育てた。
野地潤家氏は,1952年(昭和27年)に「国語教育個体史」という独創的な着想を得て,自己自身の「学習個体史」・「実習・実践個体史」を基底とした (1)国語教育の歴史研究,(2)話しことば教育研究,(3)国語教育の原理・理論研究,(4)国語教育の実践研究に取り組み,世界的視野にたって,わが国の国語教育研究を学的に整備し,実証的で体系をもつものに構築した。
氏の打ち立ててきた国語教育学は,徹底した資料調査に基いて,実践の研究の内実を把握し,その歴史性を明らかにしたものであるだけに現在・未来につながる新しいものを生みだす契機・内容を備えている。
『野地潤家文庫』は,野地潤家氏が原爆で廃虚と化した広島の地で,次の時代を担う教職者の育成に当りながら,教科教育学の構築を目指して日夜研究に専念するなかで収集した文献のなかから,鳴門教育大学の教育研究のため,研究テーマに即して選び出して寄贈されたものである。その内容は,専門の国語教育学関係文献のみならず,文学・教育学・心理学,児童の言語発達,国民の話し聞く言語生活・言語文化,各時代の教育内容(教科書),外国の国語教育に及んでいる。国民の表現生活の面では,国民各層の文章表現・記録類が集められている。その一つをあげると,関東大震災に関わる記録(小学一年生から田山花袋・久米正雄など作家の記録にいたるまでの文章)のほとんどが収集されている。言語生活・言語文化の面では,朗読・学校劇など話しことばに関する文献,また,説教・雄弁・弁論・式辞をはじめ話芸に及ぶ公話資料が網羅されている。教科教育実践学の資料として全国に類例を見出せない幅と奥行きをもっている。
本学図書館では寄贈を受けた約30,000冊のうち,整理の終わったものから順に学内外の利用に供している。
なお,利用される方の便宜のため,日本十進分類法による分類だけでなく,「野地潤家文庫」特殊分類表を作成し,研究テーマに即した検索も可能となるよう整理を進めている。[そのうち,D-1-8の教科書については,国立教育政策研究所教育研究情報センター教育図書館蔵の教科書分類表に準じて分類を行っている。]