所長だより040 「ミドルリーダー」

2015年12月30日

 今年は、研修等で講演や助言を依頼されることがとても多かった一年でした。今年の最後は、1225日に行われた、徳島県の「主幹教諭・指導教諭研修」のグループ討議での助言でした。私は、徳島県の小中校の6名の指導教諭の先生方のグループに入り、各先生からのご報告とディスカッションを聞かせていただきました。

 先生方は、まず、ご自身の学校が直面している課題(学力向上、生徒理解、荒れ、学校間連携、保護者対応等)を示され、そしてその課題解決に向けて、「職場でのコーチングの充実」という研修テーマに基づいて話し合われました。

 主幹・指導教諭の先生方は「ミドルリーダー」と呼ばれることがあります。リーダーとフォロワーのミドル(中間)に位置する方の役割は、近年すごく重要になってきているのではないかと私は思っています。ただし、その理由は、一般的に言われるような、リーダー(校長)を支えその権限を強化するという文脈での理由ではありません。

 最近は、いろんな組織で「強いリーダーシップ」論がやたらと喧伝される状況がありますね。学校運営に関しても、「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する」(学校教育法37条)等の法文を盾にとって非妥協的に経営を進めていく校長の姿が管理職の理想であるかのようなリーダー像がもてはやされています(これは、「選挙で選ばれた」「多くの支持を得た」ことを盾にとって非妥協的に政策を進めていく地方政治や国政の政治家の姿と重なりますね)。そんな論調に私は全く共感を覚えません。「権威というのは、振りかざすものではなく、(結果として)仰ぎ見られるものである」というのが私のポリシーであり、校長を務めた時もその姿勢を大切にしてきたつもりです。

 本学の教職大学院は、教職実践力を深めていくことをめざしています。私たちは、教職実践力を教育実践力・自己教育力・教職協働力の3つの概念でとらえていますが、教職協働力の一つに「リーダーシップとフォロワーシップ」を挙げています。リーダーシップ論やスクールリーダー論は多くの大学で示されていますが、「フォロワーシップ」をキーワードに入れている大学はほとんどないのではないかと思います。私はそれを誇らしく思っています。

 以前に、「堀川の奇跡」で有名な京都市立堀川高校の荒瀬克己校長先生とお話しさせていただく機会がありましたが、そのときに荒瀬先生が、「customer satisfaction(顧客満足)ばかり強調される傾向があるが、私はemployee satisfaction(社員満足)も大切にしてきた」という趣旨をおっしゃったことが、強く印象に残りました。だからこそ「奇跡」が起きたんだと思いました。

「主幹教諭・指導教諭研修」での先生方の言葉も、employee satisfaction につながるものがたくさんありました。

  *風通しの良い職員室にしていく

  *リラックスして何でも相談できる職場づくりを進める

  *ストレスを言える人間関係をつくっていく

  *常に協働意識を持ち、協働で取り組む時間を少しでも増やす

  *個人攻撃にならないようにする

  *不安な人を勇気づける

  *先生方との情報交換を密にし、管理職や事務室に伝える

  *まず自らが率先して実践する

  *若い先生に実践を見せ、なぜそうしたかを話すようにする

 校長の役割が「学校運営」という“大きな物語”をリードすることであるとするならば、ミドルリーダーの先生方の役割は、日々の教育活動の中で、先生方どうしの「対話を促進するしかけ」を作り出す“小さな物語”を地道にコーディネートしていく点にあるのではないかと感じました。

 この日の研修を受講された先生方の今後のご活躍に期待したいと思います。