所長だより015 「保護者連携で一句」

2015年7月8日

 教員採用試験に向けての模擬授業や個人面接・集団討論などについて指導する際に、私は、

   「コンパクト compact とインパクト impact が、リスペクト respect とエクスペクト expect を生む」

という視点で助言してきたように思います。「コンパクト」は、ダラダラと話すのではなく要点をまとめて話すこと、「インパクト」は、ありきたりの内容ではなく聞き手の心が動くような表現を工夫することという意味で、そのようなコミュニケーション・スタイルが、話し手に対する聞き手の「リスペクト(敬意)」と「エクスペクト(期待)」につながるのではないかという意味です。

 「コンパクトとインパクト」を満たす言葉の典型に、キャッチコピーがあります。私は、プレゼンテーションの在り方を考える際に、しばしば、有名なコピーを題材にしています。先日、同僚の教員と一緒に個人面接の指導を行った後の講評で、その先生も、キャッチコピーの書き方に関する本を紹介しながら、「たとえば“水”を売るためのキャッチコピーを考えるとしたら、あなたはどんなコピーを考えますか?」という問いかけをされていましたが、これも、「コンパクトとインパクト」を考えさせる問題提起ではないかと思いました。(余談になりますが、その先生が院生と話しておられる間に、私もぼんやりと「水のコピー」を考え、『みずみずしいから水、みず知らずのあなたへ』というコピーがひらめきました。「みず知らず」は、「会ったことのない」という意味と「本当に美味しい水を知らない」という意味をかけています。何の役にも立ちませんが、こんな言葉遊びが私は好きです。)

 そこで、前回の所長だよりで書いた授業の最後に、保護者との連携において重要なことを、コンパクトに、かつインパクトがあるような表現でまとめるために、学生たちに、五・七・五の一句を作らせてみました。以下、その作品を紹介します。(テレビの芸能人の俳句コーナーでの辛口指導で有名な夏井いつき先生ではありませんが、一部、私が言葉を整えました。)

   受けとめて 共に育てる 子の未来

   受けとめる 保護者の気持ち 大切に

   否定せず 保護者の意見 受けとめる

   良い関係 作るためには 受けとめを

   親・担任 子どもを育てる スクラムで

   願うのは 親も教師も みな同じ

   保護者はね 子どもを支える 同志だよ

 どの句も、コンパクトでインパクトがあり、実際に教師になってからも、保護者対応のときに自分の基本的スタンスを確かめるためのコピーとして使えるのではないかと思いました。

 最初の4つは、共通して「受けとめる」というキーワードが含まれています。生徒指導提要では、保護者を通して児童生徒理解につながる資料を収集するにあたって、保護者とのラポール(親密な信頼関係)の形成や傾聴の姿勢が大切であると示されています。学生たちは、演習を通じて、そんな点を理解してくれたのではないかと思います。

 後半の3つは、教師と保護者が子どもを軸に力を束ねることの大切さを表しています。生徒指導提要では、生徒指導の効果を高めていくには、家庭や地域との連携を促進し、家庭と一致協力した体制を築くことが大切であると示されています。学生たちは、演習を通じて、そんな点についても理解してくれたのではないかと思います。

ちなみに、私も一句、詠んでみました。

   親知らず 癒す先生 名しかい

 テレビのペケポン川柳風に、ふたつの意味を表しています。一つは、歯の親知らずを治療してくれる名歯科医という意味ですが、もう一つは、親も知らない(気づいていない)問題を、親と子の間を橋渡しする司会役のような立場で家族に関わり、問題を解決していくという意味です。家族関係への介入は難しいものです。家庭訪問などで児童生徒の問題行動ばかりを伝える「告げ口訪問」は、教師の側からすれば保護者の協力を得たいと考えての行動であったとしても、家庭においては、学校の先生からまたイヤなことを言われた保護者のストレスが子どもに向き、子どもは子どもで学校への体面を気にしているかのような親の小言に苛立ち、結果として親子の溝を深める方向に作用することもあります。そうではなくて、会話がすぐに決裂する親子の間に教師が司会役として介入し、子どもが直面している問題についての親子の対話を促進する中で、問題解決の糸口を探る…そんな関わり方をイメージした一句です。

 心理療法で言えば、家族療法の考え方に通じる部分があるのかもしれませんが、私は、そんなに難しく考えなくても、「親と子をつなぐ司会役」という意識を持つだけでも大きな意味があるのではないかと考えています。私の知人である常磐会学園大学教授の佐谷力先生とは、私たちが大阪府立高校の教員を務めていた当時、教育相談の研究会などで一緒に活動した仲ですが、佐谷先生は当時、子どもの発言を遮って口を挟もうとする母親を「おかあさん、今、子どもさんが話しているので、ちょっと待ってくださいね」と制したり、口を開こうとしない父親に「ちなみに、今のお話しを聞いておられて、おとうさんはどうお感じですか」と水を向けたりするような実践例を発表し、「押しかけ司会法」と名付けておられました。

 保護者連携の要点を表す一句、皆さんも何か思いつかれましたら、是非、教えてください。