所長だより014 「保護者との連携」

2015年7月1日

 6月の学部の『生徒指導・教育相談演習』の授業で、「保護者・家庭との連携」のテーマで演習を行いました。

 世間で「モンスターペアレント」という言葉が広まったのは、(米倉涼子主演のドラマ「モンスターペアレント」が放映されたのが2008年なので)、およそ10年ほど前からでしょうか、先日の新聞でも、教職採用試験の倍率の低下の原因として、「教員の多忙化」と並んで「保護者対策の難しさ」が挙げられていました。そこで、私は最初に、学生たちに、

   「いわゆる『モンスターペアレント』について、教師に対する『モンスター』のような言動・振る

    舞いとは、具体的にどのようなものでしょうか?」

という質問を提示しました。学生たちは、いくつかの例を出してくれましたが、それほど続々と出てくるわけではなく、また、理不尽ではあるには違いないけれども、「そんな親は昔もいたのではないか…」と思えるものもありました。学生たちは、モンスター(=怪物、人間らしさを失った存在)という言葉のインパクトとマスコミの短絡的な見立てによる風評に囚われて、さして確かな根拠に基づいているわけではないにもかかわらず、保護者対応への不安を募らせているのではないのか…、私はそんな風に感じています。

 そこで、続いてこんな質問を提示しました。

   「親が教師に対して『モンスター』のような言動・振る舞いをとるのは、どうしてでしょうか?」

 すると、「子どものことが心配だから」「子どものことを大切に思うから」などの意見が返ってきました。そして、学生たちと、一見、理不尽ではあっても、その裏には子どもへの思い・期待などがあるのではないかということを話し合いました。

 私は平成192007)年度~平成212009)年度の3年間、大阪府教育委員会で仕事をさせていただきましたが、私たちは当時、モンスターペアレントという言葉は使わないように心がけ、どうしても必要なときは、(世間ではそう呼ばれているけれども、私たちは“理解できないモンスター”だと考える立場には立たないという意味を込めて)「いわゆる“モンスターペアレント”」という言い方をするようにしていました。府教委は、平成222010)年3月に、保護者連携に関する資料「学校・家庭・地域をつなぐ保護者等連携の手引き~子どもたちの健やかな成長のために~」を作成しました。私も少しだけ編集にかかわり、2ページの、

   「要望・苦情」は、学校への「期待・願い」の表れであるととらえ、

 相手の立場に立って、その背景や理由を理解するように努めましょう。

などの部分を加筆しました。これは、カウンセリングに関する図書の中の

   不満やグチはクライエントの夢、願望、期待が阻まれていることの証拠なのだという考え方に立ち、

   不満やグチの背景にある夢や願望や期待に耳を傾けるようにすることです。

   ≪日精研心理臨床センター編(1986)「独習入門カウンセリング・ワークブック」≫

という文章をヒントにしたものです。

 授業では、先ほどの質問に続いて、学生どうして教師役・保護者役を演じるロール・プレイを行いました。これは、私が昨年、考案したものです

 *ペアを作り、一人が小学校6年の教師(担任)役、もう一人が保護者役を演じる。

 *教師役は“鳴門先生”という担任を演じ、保護者役が「子どもの頃の自分」の保護者(=自分の

  親)だと想定して、児童(=子どもの頃の自分)の学校での様子・良い点・気になる点)を保護

  者に伝える。

 *教師役は最後に、「何かお母様(お父様)からお聞きになりたいことはございませんか」と質問

  し、保護者役は、何か一つ、(架空の)心配事を相談する。

 ちょっとややこしいですが、要は、たとえば教師役が“百田夏菜子”さんで保護者役が“指原莉乃”さんだとしたら、

 百田さん小学校6年の“百田加奈子ちゃん”の担任の“鳴門先生”を演じる

 指原さん百田さんのお母さんの役を演じる

というかたちになります。自分が良く知っている“子ども(自分自身)”のことを、どのように保護者に伝えるかということがねらいのワークです。ちなみに、保護者役の指原さんが子どもの頃の自分自身の親を演じて、教師役の百田さんが「子どもの頃の指原さん」を想像して話すとしたら、教師役にどこか遠慮が生じたり、教師役の相手は自分のことをそんな目で見ているのかと保護者役がモヤモヤを感じることがあるかもしれません。このワークの工夫は、その防ぎが目的です。と同時に、副次的には、自分の「内なる子ども(インナーチャイルド)」を探り、そのことを通じて「子ども」時代の内面のリアリティを考えるという意義もあります。

 このワークの後、小講義で私は、「保護者面談のツボ」として、

   1、親と共に子どものことを語り合う

   2、親を責めない

   3、親の感情を受けとめる

の3点を示しました。

 生徒指導提要には、生徒指導とは学校の中だけで完結するものではないので、学校と保護者の相互の交流を深めていくことが重要であると示されています。教師が保護者を簡単に「モンスター」と見てしまう態度、保護者が教師を簡単に「M教員(問題教師・指導力不足教員)」と見てしまう態度、そんな中からは、相互の理解・敬意・信頼・協力など生まれようがないということを、教師も親も忘れてはいけないのではないでしょうか。