所長だより001 「子どもの心と大人の知恵」

2015年4月1日

 平成272015)年4月1日、生徒指導支援センターの船出のときが来ました。「ドキドキ」と「ワクワク」の入り混じった気持ちでいます。どうぞよろしくお願いいたします。

 センターWebページのトップページの写真のところに、「子どもの心と大人の知恵で、優しくて厳しい教師を共にめざして…」というキャッチフレーズを入れました。今回の所長だよりでは、この前半の「子どもの心と大人の知恵」に込められた願いをご説明します。

 この言葉は、本学の副学長・理事の山下一夫先生が大切にされている言葉で、署名の添え書き等にもよく記されます。

   おとなは、だれも、はじめは子どもだった。

   (しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。)

 山下先生は、ご著書『カウンセリングの知と心』(1994)で、サン=テクジュペリが『星の王子さま』の献辞の中で書いたこの文章を紹介されています。

 ちなみに、小説家の重松清さんの、いじめをテーマにした作品『青い鳥』(2007)が発行の翌年に映画化されましたが、この映画のパンフレットには、こんなメッセージが書かれています

   大人は、みんな、十四歳だった。

   人は弱いから、強くなろうとする。

   でも、強くなんて、ならなくていい。頑張るだけで、いいんだ。

   今より少しでも、人の気持ちを想像するだけでいいんだ。

   かつて中学生だった、あなたに贈る。」

 確かに、私たち大人は、紛れもなく、かつては子どもであり、14歳でした。けれども、「そのことを忘れずにいる」ことの難しさと大切さを、これらの言葉から改めて考えさせられます。そして、「『忘れずにいる』からこそ、子どもの内面を共感的に理解する手がかりが得られるのではないか」「大人(教師)は上から目線で子ども(児童生徒)を見てはいないか」というようなことも連想させられます。

 山下先生は、『カウンセリングの知と心』の中で、サン=テクジュペリの言葉の紹介に続けて、次のように述べておられます。

 

「あなたは、あなたが子どもだったころ、泥んこになって暗くなるまで遊んだことや、犬がライオンのように見えて怖くて足がすくんだこと、とても大切にしていた人形のこと、そしてとても悲しくなったりうれしくなったりしたことを、思い出せるだろうか。小学校に入学したとき、6年生や先生がそして校庭がとても大きく見えたことを、今でも覚えているだろうか。あるいは今、あなたはどんな夢をもっているのだろうか。木々の緑や花の香りを楽しんでいるか。放置されたゴミや様々な不正に対して、怒りを感じているだろうか。あなたは、受験勉強や仕事に心を奪われ、子どもの心や夢をなくしてしまってはいないか。」

 

 改めてこの文章を読み直して、私は、山下先生が、「子どもの心に寄り添うとはどういうことか」と問いかけておられるように思いました。生徒指導における「児童生徒理解」の問題と関係していると言えるかもしれません。

 と同時に大事なのは、「子どもの心」の後に「大人の知恵」が続くように、単純な「子ども礼賛」ではないという点です。

 絵本『100万回生きたねこ』等で有名な佐野洋子さんの小説『あの庭の扉をあけたとき』(1987)の中に、こんな言葉が出てきます。

   わたしは七十になったけど 七十だけってわけじゃないいんだね。

   生まれてから七十までの年を 全部持っているんだよ。

   だからわたしは七歳のわたしも 十二歳のわたしも持っているんだよ。」

 7歳の自分も、12歳の持っているということ、そして、今、私は70歳であるということ…。 私は授業で、あえて「生育歴」「アイデンティティ」等の言葉を使わずに、佐野さんのこの言葉を紹介することがあります。

 山下先生は、大人が子どもに「子どもであることをやめ大人になることを期待し要求しがちであるが、一層焦るだけで逆効果になることが多い。」と指摘し、「信頼しあえる友人や大人との交流を通じて、自分自身のペースに従い、子ども心に帰り、…、生き生きとした好奇心と想像力そして希望をとりもどし、人間関係を体験しなおす」ことが大切であると述べておられます。そして、「それから次に、大人の知恵を主体的に学び、責任を身につけていくようになる。」と述べておられます。文部科学省(2010)『生徒指導提要』に示されている生徒指導の定義「生徒指導とは、一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のことです。」の中の、「個性」と「社会的資質」の問題を考える方向性が、「子どもの心と大人の知恵」という言葉に包含されていると私は考えています。

 以上、生徒指導支援センターのキャッチフレーズ前半の「子どもの心と大人の知恵」の意味をご説明いたしました。キャッチフレーズ後半の「優しくて厳しい教師を共にめざして」については次回で…。