鳴門生徒指導研究第18号(2008)
Journal of Naruto School Guidance and Counseling,Number 18,2008,August,ISSN 0917-5180

ここでは,学会誌「鳴門生徒指導研究」第18号の論文のタイトル(英文タイトル)・著者名・要約及びキーワードを各論文毎に掲載します。


1.日本語のタイトルと著者名
(1)
保育現場・家庭における癒し及び子育て支援としての音楽活動-音楽を媒体とした心理的アプローチの可能性−立本千寿子

(2)児童虐待への対応に関する研究−養護教諭の関わりを中心に−角田 智恵美・原田 愛子・大田 恵子
(3)図画工作科の授業が児童に与える心理的効果−色彩コラージュを用いて−矢野 博幸・小坂 浩嗣
(4)教師の指導態度と児童のモラールとの関連性 馬場 直明・小坂 浩嗣
(5)小学校高学年児童の学級適応と自尊感情の関連性 武井 真・小坂 浩嗣
(6)教室復帰をめざした保健室登校支援の校内連携について 松本 真由美・小坂 浩嗣
(7)乳幼児のしつけにおける母親の感情体験−食事場面の母子の事例記録を通して− 有井 順子・山下 一夫
(8)2007年の世界の不登校研究の概観−PSYCHOLOGICAL ABSTRACTSの文献から佐藤 正道

2.各論文のタイトル(英文タイトル)・著者名・要約及びキーワード
 

(1)保育現場・家庭における癒し及び子育て支援としての音楽活動-音楽を媒体とした心理的アプローチの可能性−

立本千寿子

A musical application as healing and a child-raizing support at nurseries・homes - Possibilities of psychological approach mediated by music -
TATEMOTO, Chizuko

要 約
 近年、保育現場の音楽活動において「音楽を教える」、「楽しむ」という側面に加えて、発達支援等を目的として「音楽で癒す」という視点も注目されてきている。さらに、家庭教育が見直されてきている現代社会において、家庭で子どもと一緒に音楽を共有することも大切な視点であると思われる。また、近年の時代背景を受けて、親達は「育てにくさ」を抱えている。それに対する解決策のひとつとしての「子育て支援」は、緊急の必要性に迫られている課題である。
 そこで本研究では、現在の乳幼児の育ちを取り巻く音楽環境の中でも、「癒し」及び「子育て支援」における音楽の活動に視点を置き保育現場及び子育て中の親への解答紙調査を通して明らかにした。
 その結果、保育現場の多くが癒しとしての音楽活動を行っていたが、その内容はかなり多岐にわたっており、様々な活用法が明らかになった。また、育児の中で音楽によって癒されたり元気になったりした経験があるとした親は多いものの、育児に音楽を活用している親は少ないということが明らかになった。しかし、活用している親においては、親−子ども相互に過ごしやすい子育て環境としての、様々な音楽の活用法が明らかになった。
 これらの結果から、癒し及び子育て支援としての音楽の活用は、子どもを取り巻く環境において、様々な可能性を持っていることが示唆できた。

キーワード:癒し,子育て支援,音楽活動,保育現場,家庭
p3-p17(トップへ戻る)

(2)児童虐待に関する研究−養護教諭の関わりを中心に−

角田 智恵美・原田 愛子・大田 恵子

A Study about the Correspondence to the Child Abuse - Focusing on relations of Yogo Teachers -
TSUNODA,Chiemi & HARADA,Aiko & OHTA,Keiko

要 約
 痛ましい児童虐待事件は依然として後を絶たないが、学校及び教職員はその問題発見と支援を進めていく立場にある。本研究では、教職員のなかでも特に児童虐待との関わりが深いと思われる養護教諭に対する質問紙調査や関連の文献等を用い、児童虐待に対し養護教諭が果たすべき役割及び、求められる資質や対応力等について検討した。本調査により回答が得られた21人中、15人が虐待を受けた児童生徒と関わった経験があり、ネグレクト、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待の順で多かった。養護教諭の職務の特性上、子どものからだを看たり、触ったりすることにより早期発見が可能になる。これら職務の特性を生かし更に早期発見、早期対応を進めるためには、虐待に関する知識はもとより、観察力、判断力、子どもや保護者に対するカウンセリング能力、日々の子ども、教職員、保護者等とのコミュニケーション能力等を身につけられるような研修が不可欠である。

キーワード:養護教諭,児童虐待,ヘルスカウンセリング,連携
p18-p31(トップへ戻る)

(3)図画工作科の授業が児童に与える心理的効果−色彩コラージュを用いて−

矢野 博幸・小坂 浩嗣

The psychological effect that a class of the drawing and manual art department gives a child - With color collage -

YANO,Hiroyuki & KOSAKA Hirotsugu

要 約
 学校現場が抱える様々な問題は、学校でのストレッサーによるものではないと考えられる。児童のストレスが招く事態は深刻なものであり、対処法としてストレスコーピングの学習が求められるとともに、言葉では上手く表現できない児童の思いや感情に教師が気づき、それに対応することも求められる。本研究では、色彩コラージュ法をもとにした題材で図画工作科の授業を行い、授業の効果が児童に与える心理的効果について検討するとともに、色彩コラージュの学校現場への適用可能性についても検討することを目的として授業実践を行った。
 色彩コラージュを基にした題材で図画工作科の授業を行い、その前後における児童の状態不安の変容を調査した。その結果、4学年2学級で計8回実施した授業実践のうち、3回において授業後に有意に状態不安の軽減が見られた。色彩コラージュを用いた図画工作科の授業が児童の状態不安を軽減させる効果があるとは断言できないが、学校現場においての有用性が大いに期待できるものである。

キーワード:児童養護施設,施設職員,心理職,連携
p32-p44(トップへ戻る)

(4)教師の指導態度と児童のモラールとの関連性

馬場 直明・小坂 浩嗣

The guidance manner of the teacher and relevance with the morality of the child
BABA, Naoaki & KOSAKA Hirotsugu

要 約
 教師と児童生徒の良好な人間関係を促進するために、本研究では教師の肯定的なかかわりや積極的な手立てによる実践が、児童のモラールへ与える影響について検討することを目的とし4年生2クラスで約1ヶ月間、学級担任と筆者が実践を行った。【仮説1】学習意欲の低い児童に意識して教師が肯定的な声かけを行うことで、学習意欲が喚起され、意欲や充実感といった児童のモラールに影響を与える。【仮説2】集団ゲームの要素を取り入れた活動(五色百人一首)を通して教師が児童とかかわったり、活動の中で児童同士がかかわりあったりすることで、意欲や充実感といった児童のモラールに影響を与える。仮説1はt検定を行った結果、実践前後に「先生とよく話をする」と「先生はよくほめてくれる」において5%水準で有意に高くなった。抽出児童には効果の現れた者がいた。仮説2において有意な差は認められなかったが、児童の五色百人一首に対する意識は高く、意欲を継続できる活動であった。

p45-p58(トップへ戻る)

(5)小学校高学年児童の学級適応と自尊感情の関連性

武井 真・小坂 浩嗣

The class adaptation of the elementary school upper grades child and the relevance of self-conceit feelings
TAKEI,Makoto & KOSAKA,Hirotsugu
要 約
 学校教育現場における様々な諸問題に対応したり、予防したりするためには、学校や学級集団に関わる問題、個人に関わる問題の両方に対応する必要がある。その方略として、学級適応と自尊感情の関連性を検討することが挙げられる。自尊感情と学級適応は関連性があると考えた。また、一方を向上させることができれば、もう一方も高まるのではないかと考え、構成的グループエンカウンターで学級適応の向上に働きかける実践を行った。学級満足度と自尊感情とは正の相関関係にあり、学級への適応感が高い程、自尊感情が高い状態であると実証された。構成的グループエンカウンターは児童の学級適応と自尊感情の向上に影響を与えたと考えられるが、学級適応の低い児童や着目児童の自尊感情には十分な効果を及ぼさなかった。しかし、教師や級友等の第3者から客観的に見ても、適応を図っている状況に導くことが、自尊感情の向上につながる可能性が示唆された。
キーワード:小学校高学年,学級適応,自尊感情,構成的グループエンカウンター
p59-p71(トップへ戻る)


(6)教室復帰をめざした保健室登校支援の校内連携について

松本 真由美・小坂 浩嗣

About cooperation in the school of the health room school attendance support that aimed at the classroom return
MATSUMOTO, Mayumi & KOSAKA,Hirotugu

要 約
 保健室登校から、教室復帰に至った事例に着目し、その事例の担任、養護教諭の連携がどのようなものだったのか、生徒にとってどのような対応が有効であったのかを明らかにし、その上で、うまく人間関係の調和を取りながら連携をいかにとっていくのか、立場の異なる人たちがそれぞれその能力を生かしつつ動きやすいようなアプローチを探り、それを今後に生かしたいと考えた。そこで、担任、養護教諭、保健室登校経験者へのインタビューから事例研究を行った。その結果、担任・養護教諭はお互いの専門性を尊重し支援を分担し、心理的負担を軽減し合えていた。担任に対し養護教諭が子どもの権利の代弁者となる対決技法は双方の意図を互いに理解し合った上で生徒に見せることで有効となった。このような養護教諭・担任の生徒の目に見える連携が、生徒からの信頼感を増し、保健室での生活が安心できるものと認識され、生徒自身の成長を育んでいったと考えられる。

キーワード:保健室登校,連携,支援チーム
p72-p82(トップへ戻る)

(7)乳幼児のしつけにおける母親の感情体験−食事場面の母子の事例記録を通して−

有井 順子・山下 一夫

A mother's emotional experiences through a baby discipline - Through the records of mother and child at meal time -
ARII Junko & YAMASHITA,Kazuo
要 約
 本研究では、しつけにおける母親の感情体験を明らかにし、子育て支援に役立てることを目的とする。方法は、筆者自らの、食事場面における我が子とのやりとりを記録し、考察を行った。そして、母親の感情体験として、次のようなことが見出された。(1)よい母親を目指し、上手くいかずに自信を失う。(2)子どもの反抗や自己主張を母親への非難として受け取る。子どもに対する見通しがもてずに、今の状態がずっと続くように感じ、不安になる。(3)よい母親になろうとして、自身の思いを抑えた結果、衝動的な感情が生じる。そして、子どもの思いを汲めなくなり、母親の自己の視点に焦点化した対応をとる。(4)子どもの反応を受けて、母親は反省し、考えや行動を改める。(5)子どもが母親の思いを察していると感じられるようになり、子どもに母親の思いも伝え、母子が歩み寄れるようになる。このような家庭を行きつ戻りつしながら徐々に、その母子の関係性が再編されていくことが示唆された。
キーワード:母子の感情体験,子育て支援,母子の関係性,再編
p83-p96(トップへ戻る)

(8)2007年の世界の不登校研究の概観−PSYCHOLOGICAL ABSTRACTSの文献から−

佐藤 正道

A Review of the Studies about Non Attendance at School,School Phobia, and School Refusal in the World(2007)
SATO, Masamichi

要 約
 日本の不登校の問題を考える上で,常に世界の研究に目を向け続けることは必要である。筆者は1980年から1990年までの研究の概観を行い,その継続研究として1991年から 1年毎にERICおよび PSYCHOLOGICAL ABSTRACTSの不登校との関連が考えられるキーワードschool attendance,school dropouts,school phobia ,school refusal を持つ文献を分類してきている。その継続研究として2007年の文献85件について取り上げ分類し検討を加えた。 

Key words : school attendance, school dropouts, school phobia, school refusal
p97-p123(トップへ戻る)

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Copyright 2000-2008 Naruto Association of School Guidance and Counseling:Last Updated 2008.09.11