教職と心理職は協働できるのか 京都教育大学 連合教職実践研究科・京都産業大学教授 角田 豊 |
教職と心理職は協働できるのか(第1部) 1 自分の勤務する連合教職大学院について ・京都の国私立8大学が連合して、京都府・京都市教育委員会、学校と協働して設置 京都教育大学を基幹大学として、京都産業大学、京都女子大学、同志社大学、同志社女子大学、佛教大学、立命館大学、龍谷大学との連合組織 ・各大学、府・市教育委員会、公立学校から、各領域の研究者教員12名、教育実践に精通した実務家教員8名、あわせて20名の専任教員で構成 授業もTT形式がほとんど ・授業力高度化コース(20名)ストレートマスター+現職 ・生徒指導力高度化コース(20名)ストレートマスター+現職 ・学校経営力高度化コース(20名) 現職のみ 2 教職大学院の印象 ・生徒指導コース:現職3名+学部卒22名 ・学部卒院生の「パワー・エネルギー・行動力」が感じられる。 教職志望者の資質・共通性?であるのか、心理職志望者との違い?があるのか 3 質問紙調査 教職志望者と心理職志望者に違いがあるのかを質問紙により調査を行った。 ・被験者 教職大学院生と学部の教職科目履修者、及び臨床心理士養成指定大学院生を対象 (ここでは現職以外の志望者とした) 教職志望103名と心理職志望99名から結果を得た。 ・尺度としては、新性格検査 共感経験尺度改訂版による。 4 調査結果@ 新性格検査の下位尺度 結果(有意差または差のある傾向) 社会的外向性については、教職志望者が心理職志望者よりも高かった。 活動性については、教職志望者が心理職よりも高かった。 進取性については、教職志望者が心理職よりも高かった。 持久性については、有意な差は見られなかった。 規律性については、教職志望者が心理職志望者よりも多少高かった。 自己顕示性については、教職志望者が心理職志望者よりも高かった。 攻撃性については、教職志望者が心理職志望者よりも高かった。 非協調性については、教職志望者が心理職志望者よりも高かった。 劣等感については、有意な差は見られなかった。 神経質さについては、有意な差は見られなかった。 抑うつ性については、多少心理職志望者が教職志望者よりも高かった。 5 調査結果@の考察 教職志望者と心理職志望者を比較すると、 ・教職志望者とは 活発で、外向的、積極的、自己指向的な人が多いらしい ・心理職志望者とは 活力が低く、内向的、消極的、他者指向的な人が多いらしい 6 調査結果A 共感経験尺度改訂版(EESR)を用いた。 共有経験尺度 不全経験尺度 共感性の4タイプ 両高>共有>不全>両貧とした。 この場合、 ・共有経験が高く、不全経験が高いものを両高型(共感)、 ・共有経験が高く、不全経験が低いものを共有型(同情)、 ・共有経験が低く、不全経験が高いものを不全型(孤独)、 ・共有経験が低く、不全経験が低いものを両貧型(抑制)とした。 7 調査結果Aの考察 これらの調査結果から ・心理職志望者とは 他者の感情体験に注意が向きやすく、時に「同情」に流れやすい ・教職志望者とは 他者の感情体験がよくわからなかったり、他者の体験に注意が向きにくい 8 仕事も違うが元の指向性も違う。 ・教職は、日々の対応に追われるので、ゆっくり待てない。しかし、もともと自分の考えで動きたいし、アクションを自ら起こすのが好きなタイプが多い。 →活動強迫・停滞恐怖 ・心理職は、待ちの姿勢で長期的な変化を目標に置く。しかし、もともと自らアクションを起こすより、相手にあわせるのを好むタイプが多い。 →行動欠損・見立てなき楽観主義 9 経験を積むと、逆の面が見えてくる。 ・経験を積むに連れて、それまでとは逆の面に関心を持つ人も増える ・心理職は、より能動性をもった関わりに →面接内での積極性 見立て・介入・技法 面接外も含めた積極性 チーム治療・連携 ・教職は、より受動性と組織性を生かした関わりに →家族や生育史といった背景を考慮に入れた 細やかな児童・生徒理解と学校内外の連携 10 教職と心理職が協働するには ・素朴に相手の仕事内容を理解すること ・性格や指向性といった人格のタイプの違いを自覚する ・各々の「枠組み」の重要性を共通認識に 心理職:面接の枠組み 教 職:学級経営 学校経営 教員組織 →枠組みが「場」を作り、そこで教育・臨床がなされる。 |
学校現場における理解と関わり(対応・指導) 第2部 1 理解に時間は必要 現実の場面で、すぐに(簡単に)わかろうとしすぎていないだろうか? 現場の教師の発言:「怠け」「わがまま」 こうした発言は、どこから来るのだろう ↓ ・相手の問題行動が理解できないことへの教師の苛立ち =片をつけてわかった気になる・不安の解消 ・問題への早期対応を迫られている =経験則による教師的な理解と指導(?) 明細化不足 2 「理解」があって「関わり」の方針が決まる 他人を理解するとは? 児童生徒理解 クライエント理解 基本原則:自分でない他人のことはわからない ↓ 相手の心の状態を「想像する努力」が必要 ・「私の思い」はいったん保留する ・相手がある事態・状況をどう体験したのか? を想像して思い描いてみる 技法としての共感 3 理解を進める流れ 感情→体験の質→欲求・動機づけ 心の反応の仕方・動き方 @ 相手の今の(その時の)感情体験は? A 相手はどうしてその感情になるのか? B これまでに積み重なってきた経験は? C 相手が求める体験・拒む体験とは? (自己対象体験) 4 理解を進める例 @相手の今の(その時の)感情体験は? 「わがまま」:教室ではしんどそうなくせに、別室でははしゃいでいる。これはおかしい。 A相手はどうしてその感情になるのか? しんどい:抑うつ 孤立 対人緊張 刺激過多 注目欲求等 はしゃぐ:高揚 連帯感 安心 感情の開放 気遣い 等 Bこれまでに積み重なってきた経験は? 抑うつ:家庭の出来事? 孤立:学級集団内の不適応? 対人緊張:社会不安障害? 刺激過多:発達障害? 注目欲求:自己表現力の乏しさ? →ケース会議の必要性 C相手が求める体験・拒む体験とは? 求める体験:自己を活性化し、まとまりを高める体験 拒む体験 :恥や恐れといった、自己がバラバラになる体験 5 ケース会議の必要性 「完璧な理解」は不可能だが、少しでも理解を深めていくことはできる ↓ 相手はどうしてその感情になれるのか?これまでに積み重ねてきた体験は? ↓ これらは一人で行うだけでなく、学校組織として行う方が効率的であり、機能的になる。 関係者が集まり、これまでの情報(生育歴、前年の様子等)や他の場面の様子(教科別、 部活、地域)を持ち寄ることで、「想像」の幅が拡がる。 6 理解と関わり(対応・指導) 理解を踏まえて、今相手に何が役立つか(関わりの方針) ↓ ・生活の状態に注意を払いながら、本人と話す機会を それとなく/きちんと設ける ・家庭訪問など保護者と接する機会を作り、関係強化を図る ・学校組織として教職員が枠やルールをしっかり提示する ・TTやサポーター配置等の人的対応や、個別支援計画を立てるなど校内連携を進めて対応する ・学校外の多様な専門機関と連携を模索し協議する ↓ さらに、関わりの後の検討と、関わりの修正を繰り返す ケース会議:その後の確認の場としても重要 見えにくい成果を相互理解し評価する |
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Updated 2008.09.10