バロ・コロラド島



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バロ・コロラド島の生活

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バロ・コロラド島



 バロ・コロラド島(Barro Colorado Island: BCI)は、パナマ運河の中程にある人造湖ガツン湖の中にある直径4kmほどの小さな島で、この島とその周辺の本土からのびるいくつかの半島とをあわせた地域は、Barro Colorado Natural Monumentとして、スミソニアン熱帯研究所の管理下の自然保護地域になっています。島にはスミソニアン関係者か、特別に許可を取った者しか入れません。

湖から船着き場および研究棟を望む。
正面右手の渡り廊下でつながった二階建ての二棟が研究棟。
中央奥に見える屋根が食堂とオフィスの入った建物。
左手奥に小さく見えるのが、設立当時(1920年代)の
食堂およびオフィスがあった建物。


 島には常時20人程の研究者が入れ替わり滞在しており、1、2か月ぐらい滞在する人が多いのですが、中には1年近くいる人や、本国と行ったり来たりという人もいます。国籍はさまざまで、アメリカ人のほか、ドイツ人、コロンビア人が多く、他にメキシコ、ブラジル、イギリス、イタリア、カナダなどから若い研究者たちが集まっていて、その場にいる人の国籍や言語がみんな違うということもざらなのです。年齢的には20代のまだPhDを取る前の若い研究者が多いのですが、第一線で精力的に活躍している中堅研究者や、世界的に有名な一流の研究者もやってきます。

 島での生活は、アメリカ的で快適です。食堂やオフィスのある建物を中心に2階建て2棟の研究棟と1棟に4部屋ずつ入った新しいドミトリー6棟、古いドミトリー3棟ほどが狭い範囲に散在していて、建物の間はコンクリートを打った道でつながり、夜になると明かりが点々とともります。3食賄い付きで、主食は米(インディカ米)、さまざまなバナナ料理やユカという芋の料理なども味わうことができます。

食堂での夕食のひととき
さまざまな国のさまざまな研究者とともに


 島に滞在している研究者たちは、毎週火曜日にはパナマ市内の本部で開かれるセミナーに参加するために町に出かけます。島を朝6時半に出る船に乗ってガンボアまで行き、そこからは車で1時間ほどで、パナマのバルボア地区にある本部につきます。本部にはスミソニアンに所属している多くの研究者がいて、彼らと議論したり、彼らのアドバイスをもらったりすることができます。また、本部の図書館はとても充実していて、あらゆる一流誌が揃っています。

 バロ・コロラド島全体は熱帯雨林に覆われており、その中に研究者たちがフィールドワークしやすいようにトレールが作られています。トレール沿いには距離を示す標識や分岐点の標識があるので、初めて森に入っても、地図を片手に一人でどこへでも迷う心配なしに行けるのです。事実、島に滞在している若い研究者たちは、女性でもみな一人で森に入って研究しています。

 島の中には危険な生き物はほとんどいません。致命的な毒を持つ毒蛇としてはサンゴヘビMicrurus nigrocinctusがいますが、攻撃的ではないので、あまり危険ではありません。哺乳類の肉食獣としてはオセロットが一番大きいぐらいで、これも危険ではないし滅多に見ることができません。むしろ、島の研究者たちがフィールドで恐れていたのは、ネッタイオオアリParaponera clavataという3cm程もある大きなアリです。これに刺されるとひどく腫れ上がって痛いのです。

 研究者たちは、夕方、仕事が一段落すると、夕食までの間、まわりの湖で泳ぐことがあります。そんなときに気をつけなければならないのがワニで、時に大きなワニが悠然と泳ぐ姿が見られます。泳いでいて足を咬まれて大けがした人もいるほどです。その他に、危険ではないがやっかいなのがダニです。特に病気を媒介するというわけではないのですが、フィールドに行くと必ず何匹もついてくるし、咬まれるととても痒く、食堂やラウンジでは、みんな身体のあちこちを掻きむしりながらの団欒だし、“Tick!”と言いながらダニをつぶす光景がしょっちゅうみられます。

 毎週金曜日の夕方には、近くのガンボアの町まで行って、フリスビーに興じます。これは、主にアメリカ人たちが好んで遊ぶゲームで、二組に分かれてフリスビーをパスしながら相手方の陣地まで進んだほうが勝ちというものです。広いフィールドを走り回るので、結構疲れます。ゲームには、バロ・コロラド島の人々だけでなく、ガンボアの研究所やパナマの本部、ナオスの研究所などからも若い研究者がやってくるので、こういう人々と交流するいい機会になります。
 また、ガンボアの町でバーベキューパーティが開かれることもよくあります。このときも、いろいろな人たちが集まるので、いろいろな話をすることができます。

 毎週木曜日の夕食後には、Bambiセミナーというセミナーが開かれます。これは、主にバロ・コロラド島で仕事をしている若手の人が自分の研究成果を発表するセミナーですが、しばしば、他の研究所の人が話をしたり、外国からやってきた有名な研究者が話をしたりすることもあります。

 普段の夕食後は、それぞれの研究室でデータを整理したり、実験をしたりするほか、テラスや誰かの研究室でお酒を飲みながらいろいろな話をすることもよくあります。また、町で借りてきた映画のビデオをみんなで見ることもあります。ダンスパーティもよく開かれ、日本でも流行ったマカレナの他に、メレンゲやサルサといった、中南米のダンスが好んで踊られます。

 BCIには不思議な現象があって、一度ここを訪れた研究者は、必ずここに戻って来たがるし、また、戻ってくるそうです。実際むこうで出会った研究者の多くは、島に来るのが初めてではなかったし、島を去るときには「また来たい」といって去っていきます。それは、この島での生活が居心地いいせいなのか、森に囲まれていてフィールド研究者にとってはパラダイスだからなのか、さまざまな国から来た研究者たちとの交流が刺激的だからなのかは、よくわかりません。おそらく、その全てなのでしょう。







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