鳴門生徒指導研究第13号(2003)
Journal of Naruto School Guidance and Counseling,Number 13,2003,August,ISSN 0917-5180

ここでは,学会誌「鳴門生徒指導研究」第13号の論文のタイトル(英文タイトル)・著者名・要約及びキーワードを各論文毎に掲載します。


1.日本語のタイトルと著者名
(1)道徳教育の基本的視座
 兼松儀郎

(2)分離不安を示す幼児への心理的サポート−音楽療法セッションを通して− 立本千寿子・田中雄三
(3)いじめの実態と構造に関する一考察 葛上秀文
(4)高等学校における参加体験型人権学習の効果に関する実証的研究
-内的葛藤による自己変容を目指す学習プログラムの実践を通して 大西雅人・吉井健治
(5)他者意識と自己意識からみる大学生の友人関係 篠原 茜・田中雄三
(6)中学生の自己効力を高め効力予期の情報源の増大を図るための試み
-構成的グループ経験を通して- 中村敦夫・田中雄三
(7)スクールカウンセラーの面接における現状と課題
-面接場面の意識に関する調査的面接を通して- 熊谷圭二郎・葛西真記子
(8)こどもソーシャルパートナーという訪問活動について 佐藤幸男
(9)大学生の自我同一性の感覚に関する一考察−両親の父性度・母性度から− 美馬宏紀・田中雄三
(10)不登校生徒のもつ母親イメージに関する研究
‐インタビューと心理アセスメントを用いて‐ 松尾美耶・相模健人
(11)2002年の世界の不登校研究の概観−ERICおよびPSYCHOLOGICAL ABSTRACTSの文献から− 佐藤正道


2.各論文のタイトル(英文タイトル)・著者名・要約及びキーワード
 

(1)道徳教育の基本的視座

兼松 儀郎

Key Perspectives on Moral Education in Primary and Secondary Schools

KANEMATSU, Yoshiro

要 約
 本論文は、学校における道徳教育の在り方が問われている現在、初等・中等教育段階における道徳教育の基本的視座として、次の4点を明らかにした。@道徳教育においては、教育と人間に対する積極的な関心をもって、人間の成長を未来という次元から着目する必要がある。A道徳教育においては、自己の生き方を、自己自身、他者、自然、社会などとのかかわりのなかでとらえさせることが重要である。B道徳教育がその形成を目指す価値観とは、普遍的な道徳的諸価値が統合されたものであって、かつ個性的なものである。C人間としての在り方生き方の探究を機軸として、小学校・中学校・高等学校の道徳教育を一貫したものとして構築する必要がある。

キーワード:道徳教育、未来、かかわり、価値観、人間としての在り方生き方
p2-p11,(トップへ戻る)

(2)分離不安を示す幼児への心理的サポート−音楽療法セッションを通して−

立本千寿子・田中雄三

Psychological Support for Infants with Separation Anxiety-Through Music Therapy Sessions-

TATEMOTO, Chizuko &TANAKA, Yuzo

要 約
 音楽には,心理的・医療的側面があり,深い癒しの力を持っている。音楽を用いた療法(以下音楽療法とする)は様々な分野に活用されているが,不安に対しても効果がある事が明らかにされてきた。これらをもとに本研究では,分離不安を示す幼児に音楽療法を施し,幼児の分離不安を軽減させる事が出来るかどうかについて研究した。具体的には音楽療法を中心として関わる中で,彼らの成長を促す心理的サポートを行った。2箇所の保育所において12回,計24回のセッションを実施したが,実施前・実施後における質問紙からは,幼児の分離不安は軽減されたという結果が出た。また,保育士に実施したアンケートから,幼児の成長した面を見る事が出来た。

キーワード:音楽療法,分離不安,心理的サポート,幼児
p12-p25,(トップへ戻る)

(3)いじめの実態と構造に関する一考察

葛上 秀文

A Study of Actual Conditions and Structures of Bullying -An Analysis of the Area Survey
to Elementary and Junior High School Students-

KUZUKAMI, Hidefumi

要 約
本論文は、大阪府で行われたいじめの実態調査の結果を基に、現在のいじめの構造を明らかにすることを目的としたものである。本研究を通して、次の4点が明らかになった。
(1)現在のいじめは、小中とも4割近くの子どもが経験し、その中の1割弱のものが特に頻繁に経験していること
(2)いじめは、同じクラスの子ども同士の間で、時に休み時間の教室で起こっていること
(3)いじめの経験者の属性に着目すると、被害者も加害者も、学習理解の自己評価が低く、自尊感情も低い状態にあること
(4)学力の高い学校とそうでない学校では、いじめの実態や構造が異なる可能性があること
こうした知見は、今後のいじめ問題の解決に向けての取り組みに多大な示唆を与えるであろう。

キーワード:いじめ、小中学生、自尊感情
p26-p36,(トップへ戻る)

(4)高等学校における参加体験型人権学習の効果に関する実証的研究
―内的葛藤による自己変容を目指す学習プログラムの実践を通して―

大西雅人・吉井健治

Practical study on the effects of participatory learning at high school
-Through the learning program aimed at self-reform by inner conflict of our mind-
ONISHI, Masahito &YOSHII, Kenji

要約
 これまでの人権学習では、教師が権威的に上から下に知識を提供する「銀行型教育」が中心となり、人権教育の目標である「行動できる人材の育成」とは、大きく乖離した状況が存在している。そこで本研究では、なぜ目標と現状が大きく乖離しているのかということについて、教師・生徒双方の意識を分析し問題点を確認した。そして問題点を解決する可能性のある、参加体験型学習の手法を用いた実践授業を行った。実践授業は、A県B高等学校第2学年T類型の「現代社会」選択生徒12名に対して、「人間関係作り」から「人権基礎体力作り」に至る15時間のセッションを、筆者が作成した学習プログラムに基づいて展開した。授業実践の成果は、質問紙調査と振り返りシートから分析した。その結果、参加体験型学習の手法を用いた人権学習は、生徒の“自己変容”を引き起こし、“行動化への意欲”を培うことができ、人権学習のイメージの好転にもつながるということが明らかになった。

キーワード:人権を通じての教育、参加体験型学習、内的葛藤、自己変容、行動化への意欲
p37-p50,(トップへ戻る)

(5)他者意識と自己意識からみる大学生の友人関係

篠原 茜・田中雄三

The Friendship of University Students from the Viewpoints of Other-Consciousness and Self-Consciousnes

SHINOHARA, Akane&TANAKA, Yuzo

要 約
従来の青年期理解では,人格共鳴や,同一視をもたらすような深い友人関係を持つことを通して新たな自己概念を獲得し,健康な成熟が促進される時期であると考えられてきた。しかし近年では,青年期の友人関係が希薄化し,青年の自己内省の乏しさ,対人スキルの不足が指摘されるようになった。そこで本研究では,青年期にあたる大学生に対して,他者への関心を示す他者意識,自己への関心を示す自己意識が,友人関係に,どのように影響を与えているかを調査した。その結果,現代青年は,気遣いが多く,心理的に距離をとり,その場の楽しさを追求するという特徴的な友人関係が導き出された。しかし,これらの友人関係を他者意識と自己意識の関連で見ると,友人と自己との間の葛藤の現れを示唆するものや,他者意識や自己意識が高すぎることによる弊害,低すぎることによる不適応の可能性なども見いだされた。今後,青年自身の生活歴や文化的社会的背景なども考慮にいれて,青年の友人関係のあり方を検討することが必要であると考えられる。

キーワード:他者意識,自己意識,青年期の友人関係
p51-p64,(トップへ戻る)

(6)中学生の自己効力を高め効力予期の情報源の増大を図るための試み―構成的グループ経験を通して―

中村敦夫・田中雄三

The Trial for Heightening A Junior High School Student's Self-effect and Aiming at
Increase of The Sources of Information of Efficacy Expectancy
-Through the Structural Group Encounter -
NAKAMURA, Atsuo & TANAKA,Yuzo

要 約
 本研究では,中学生を対象に「構成的グループ経験」を実施し,自己効力感と効力予期の情報源を高めようとしている。その結果,「構成的グループ経験」は,男子においては自己効力感の下位尺度である「能力の位置づけ」因子を,また効力予期情報源の下位尺度である「代理的経験」を高めることを実証している。これらの知見は「構成的グループ経験」の学校現場での有用性を示すものである。

キーワード:中学生,自己効力,効力予期,情報源,構成的グループ経験
p65-p82,(トップへ戻る)

(7)スクールカウンセラーの面接における現状と課題―面接場面の意識に関する調査的面接を通して―

熊谷圭二郎・葛西真記子

Present and Future of School Counseling Sessions
KUMAGAYA, Keijirio & KASAI, Makiko
要 約
スクールカウンセラー(以下SC)制度8年目となる現在,SC制度に関する研究もさまざま行われ,SCへの期待やニーズ,認識があきらかにされつつある。そこで本研究では,面接場面や関わりに焦点を当て,14名のSCに対して調査的面接を行うことでSCの面接における現状を調べた。その結果,SCには,専門の相談機関での活動とは異なり,日常−非日常,開放性−密室性,能動性−受動性,間接的援助−直接的援助など両極の間で自由に動くフットワークと,柔軟な対応・働きかけが必要になってくることがわかった。また守秘義務についてはかなり意識しながらも,SCとして活動していくためには,教員との情報交換などの関わりも欠かせないことが明らかになった。この調査から,SCとして学校で活動するためには,まずなにより臨床心理士としての技量を高めることが必要であること,次に,その専門性を十二分に発揮できるようにするため,教育について考え,知ることが不可欠であることがわかった。
キーワード:スクールカウンセラー,治療構造,守秘義務
p83-p96,(トップへ戻る)

(8)こどもソーシャルパートナーという訪問活動について

佐藤幸男

The Practice of Visiting Counsering on School Refusals
SATO, Yukio
要 約
 筆者は個人開業で不登校児・ひきこもり青年の訪問活動「こどもソーシャルパートナー」を行っている。不登校児への訪問においては、本人の興味・関心に沿った「遊び」が中心となるが、ひきこもりの青年においては、筆者と会うこと自体が目的となるほど、対人関係における問題が重い。またこの活動は本人と社会との調整役というソーシャルワーク的側面と、本人の心理的問題を筆者が受容していくというカウンセリング的側面の両方を含んでいる。
キーワード:こどもソーシャルパートナー、不登校、ひきこもり、訪問面接
p97-p110,(トップへ戻る)

(9)大学生の自我同一性の感覚に関する一考察−両親の父性度・母性度から−

美馬宏紀・田中雄三

A Study of Mother Image in A Sudent with School Refusals
-By Means of Interview and Psychologaical Assessment-
MATSUO,Miya&SAGAMI,Takehito
要 約
本研究では、N大学に在籍する学部学生207名を対象とし,青年期の自我同一性の感覚と両親の父性度・母性度の関連について質問紙調査を行った(有効回答数181名)。その結果、男女ともに父親の父性度が高く、母親の母性度が高いものほど青年期の自我同一性の感覚が高いことが明らかになった。また、女子においては母親の父性度が高いものほど自我同一性の感覚が低いことが示された。
キーワード:大学生,自我同一性,父性度,母性度
p111-p125,(トップへ戻る)

(10)不登校生徒のもつ母親イメージに関する研究 ‐インタビューと心理アセスメントを用いて‐

松尾美耶・相模健人

A Study of Mother Image in A Sudent with School Refusals
-By Means of Interview and Psychologaical Assessment-
MATSUO,Miya&SAGAMI,Takehito
要 約
 近年、学校において児童生徒をとりまく問題のひとつに不登校がある。そこで、本研究では、不登校問題理解の一助として、インタビュー調査と心理アセスメントを用いて不登校生徒のもつ母親イメージについて調査を行った。その結果、本研究における不登校の子どもが抱く母親イメージは、全体的に保護的で肯定的にとらえられており、母親イメージが肯定的にとらえられている場合、ほどよい母子の心的距離を築くことができている傾向にあることが明らかとなった。また、各事例において、母親イメージが与える様々な影響が見られた。さらに、母子関係と不登校の表面化との関係については、母子関係安定群、母子関係接近群、及び、母子関係疎隔群が仮に抽出された。よって、不登校の子どもが抱く母親イメージは、不登校児に様々な影響を与えており、不登校の子どもが抱く母親イメージを明らかにすることは、ひとりひとりの不登校の背景を考える際、有効な手がかりとなり、不登校問題理解の一助となることが明らかになった。
キーワード:不登校、母親イメージ、母子関係
p126-p141,(トップへ戻る)

(11)2002年の世界の不登校研究の概観−ERICおよびPSYCHOLOGICAL ABSTRACTSの文献から−

佐藤正道

A Review of the Studies about Non-Attendance at School,School Phobia, and School Refusal in the World(2002)
SATO, Masamichi
要 約
 日本の不登校の問題を考える上で,常に世界の研究に目を向け続けることは必要である。筆者は1980年から1990年までの研究の概観を行い,その継続研究として1991年から 1年毎にERICおよび PSYCHOLOGICAL ABSTRACTSの不登校との関連が考えられるキーワードschool attendance,school dropouts,school phobia ,school refusal を持つ文献を分類してきている。その継続研究として2002年の文献93件について取り上げ分類し検討を加えた。
Key words : school attendance, school dropouts, school phobia, school refusal
p142-p170,(トップへ戻る)

このページに掲載された内容はすべて鳴門生徒指導学会に帰属するもである。

Copyright 2000-2003 Naruto Association of School Guidance and Counseling:Last Updated 2003.09.08