徹底討論 水泳指導を取り巻く諸問題
徳島における水泳教育の位置づけと課題
話題提供
AED活用事例の報告:福本恭大氏(徳島県水泳連盟普及委員長)
- 水泳の授業におけるAEDの成功例の報告(三重県)
- 体育の授業で中学2年生男子が沈んでいるのを発見し、引き上げた。引き上げた時は心肺停止状態だった。インターホンで校長に連絡し、AEDを持ってきた。この学校ではAEDがプールから1分ほどの距離においていた。また、インターホンで救急車を呼んでもらっていた。体が濡れていたらAEDが上手く作動しないのでAEDを使用するためにバスタオルで体を拭いた。いざ、本番になるとボタンを押す手が震えた。病院に半相互12時間以降で完全に意識が戻った。一週間の検査入院から後遺症がないことも分かった。
- 今回の報告では校長先生のも話を聞いているが「学校教育は、完全か不しかない。例え命が助かっても後遺症が残ってしまったら助けられなかったと同じ」と発言されている。
- 問題はAEDが万能の機械と思われがちである。
- AEDが導入されてあって助けられなかったら問題が起こる可能性がある。
- AEDを練習に使用するのはダメ。練習用のAEDはOKスイミングや日赤にあるので貸し出ししてもらえる。
- AEDを1分以内に運んできたり、インターホンで救急車を呼んだりと救護の仕方が良かった。
- またいつAEDを使用してもいいように講習を受けるなど準備をしておかなければならない。
競泳選手に対する意識調査の報告:篠原健真(鳴門教育大学大学院)
- 卒業研究をきっかけに調査を毎年行っている。
- アンケートでは選手の意識などを調査している。
- 選手個人の能力などを分析し還元したい。
- これからはレース分析も行っていきたい。
- 選手の中に色々な目的、目標がある。また国体等徳島県選手があまり奮っていない。競技力を向上させるために考え、子供たちに動機付けをさせていく必要がある。そこで学校の授業で『なぜしなければならないか』などを教えていく必要もある。
最近の話題提供:松井敦典(鳴門教育大学大学院教員)
- 『学校の水泳はいつから?』(朝日新聞記事)の紹介
- 某テレビ局制作スタッフが、外国人から見て日本はどの学校にもプールがあって全ての子供が水泳を学習することの良さに注目していることを紹介。
- 安心安全な学校づくり交付金の使途に関する誤報(徳島新聞)の紹介
- 安心安全な学校づくり交付金の説明。財源のない所でも方法次第では財源を確保できる
- 水道代をどう節約するか?
- プールロボットを導入してプールの床や壁をきれいにして水道の回転を押さえる
- プールロボットは安くて30万円ほど。都会のプール一杯分の水道代と同じくらいである。ちなみに都会では水道代予算が年間1200万という所もある。
<新学習指導要領における水泳の取り扱いについて>
来年度から学習指導要領は順次移行し平成23年度には完全に移行する。
現行指導要領と新指導要領の水泳に関する部分の対応表が配布され、以下の説明があった。
〔小学校〕
- 1・2年生について、現行の指導要領では「基本の運動」の中の「水遊び」であったが、新指導要領では、水に慣れる、浮く、水の中で息を吐くなどの内容を含む「水遊び」として独立して取り扱われる。
- 「水遊びの心得を守って安全に気をつけたりすることができるようにする」は従来通りだが、大切な内容である。
(教師が水の中に入って指導するところはスムーズに授業ができる。しかし教師がプールサイドから指導するところは口頭での説明中心の授業になる。低学年のうちに安全について指導してなければ高学年以降の水泳指導は難しい。という意見が出た。)
- 3・4年生で新指導要領では「浮く・泳ぐ運動」となり、その中身は色々な浮き方、補助具を使ってキックやストロークで呼吸をしながらの初歩的な泳ぎ方が書かれている。
- 現行の指導案ではクロール、平泳ぎという具体的な泳法が出てきているが、新指導案では出来こない。(現行の指導要領ではクロール、平泳ぎと出てきているので、それらの2泳法の修得に内容が限定されてしまう。そういう意味で新指導要領では自由度が広がったことになるが、指導する教師の力量が物を言うことにもなる。とのコメント。)
- 5・6年生では内容に「クロール」、「平泳ぎ」が出てきて、続けて長く泳ぐが目標。
- 水泳の安全性・プールのマナーなど水泳の心得を守って安全に気を配ったりすることが出来るようにすること、また自己の能力に適した課題の解決の仕方などを工夫すること、が書かれている。
- 全学年共通して他の種目でもそうだが、一部の指導に領域の偏らないように授業時数を配当することに配慮せよとある。しかし、プールの確保が困難な場合は水泳を取り扱わないことができるとも書かれている。(どちらを優先するか。後者を安易に取り入れてはいけない。財源の確保が困難、やる気がないなどの困難ではなく、緯度標高等の地域の特性に基づく物理的な制約で、屋外プールを作っても泳げる期間が短い等の特殊な事情に対応するためのものであろう。とのコメント。)
〔中学校〕
- 現指導要領では学年に関係なく「クロール」、「平泳ぎ」、「背泳ぎ」を続けて長く泳いだり、速く泳いだりすることが目標だったが、新指導要領では、「クロールでは、手と足、呼吸のバランスをとり速く泳ぐこと」、「平泳ぎでは、手と足、呼吸のバランスをとり長く泳ぐ」ことが課題。「背泳ぎ」、「バタフライ」では「手と足、呼吸のバランスをとり泳ぐこと」が課題となっている。
(調査によると香川県でバタフライが泳げる教員が男性教員全体の約90%であったのに対し、徳島県では約20%だったとのコメント。)
- 3年生では「記録の向上や競争の楽しさや喜びを味わって効率的に泳ぐことが出来るようにする」ことが課題となっており、クロール・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライは「安定したペースで長く泳いだり、速く泳いだり」というところが1,2年生と違うところである。また複数の泳法で泳いだりリレーをしたりということが新たに導入されている。
レースによる勝敗をつけるなど勝敗などを認め、ルールやマナーを守ろうとすること、水泳の事故防止に関する心得など健康・安全に気を配ることができるようにするようにすることも書かれている。
- 内容の取り使い:現行の指導要領では水泳は1年生が必修で2,3年生は選択だったが、新指導要領では1,2年において全ての生徒に履修させるとあり、3年生では選択である。消極的な解釈をすれば、1,2年いずれかで必修であると読める。
- 新指導要領ではスタートを水中からのスタートからにされている。(小学校と同様)
- 効率的で安全な集団としての行動が出来るようにも含めて取り扱う。(バディーシステムなどを活用して安全の管理・人為点呼をして短時間で確認できるように。緊急時などのシミュレーションとしてプールでの人為点呼や避難訓練等などを関連させ、安全教育としての意識が必要。というコメント。)
- 体育分野の内容の時間時数はその内容の習熟を図ることができるように時間をとらなければならない。
- 新学習指導要領では幅広い泳ぎ方を教えることになった。クロール、平泳ぎ、背泳ぎに加え、バタフライも追加された。またクロールや平泳ぎでは速く泳いだり長く泳いだりするだけでなく、手足の動きや呼吸動作とのバランスをとることの評価項目も明確にされた。
その他参加者発言
K氏(総合型地域スポーツクラブ マネージャー)
- 鳴門市にはプールがなく林崎小学校で8月に4回ほどあまり泳げない子供を対象に水泳教室を開催予定。住民から水泳に関する要望が多数あるので地域スポーツクラブで行いたい。小学校などのプールを借りたいが色々な問題があるが、小さなことから水泳教室等を開催していきたい。
- 総合型地域スポーツクラブは徳島県でも推進されているが水泳は少ない。
- 小学校、中学校など施設と指導者があればマネジメントをするので学校に限らず色々な所に働きかけ、地域で子供の水泳を育て、生涯学習を町ぐるみで水泳指導などをしていきたい。
- しかしボランティアや指導員などが少ない。もし指導員を申し出る時は鳴門にある広域スポーツセンターが窓口になる。
- 学校の垣根を越えて地域で水泳を指導することが望ましい。
Y氏(県立高校保健体育科教諭)
- 高校では教育課程研修会があって「中学校までで十分水泳は泳いでいるから高校では水泳はいいだろう」という意見があった。高校でも水泳の必要性を訴えたが棄却された
- 教育課程研修会と中学での水泳の授業の現状との間に大きなギャップがある。
A氏(元大学教員)
- 短大勤務時代、水泳の授業が3時間ほどしかなく泳法までいけない。
- 女子の見学者をチェックする。
- 生理の2日目以外は泳いでも良いことを言ったり、見学するにしても水着に着替えてプールサイドで見学させたりといった措置をとった。
- 水泳に取れる時間数が少ないために見学者のチェックリストを作りなるべく泳がすように指導した。
まとめ
- 水泳の授業や指導に関係して、いろいろな問題点・要改善点があることが確認された。今回は特に、学校、民間、行政のそれぞれの立場からの意見を相互に出し合える場となり、普段は不可能な意見交換の場となったことは貴重である。今後も立場の垣根を越えて、みんなでしっかり水泳に取り組んでいこうとする姿勢を大切にしましょう。
今回明らかにされた問題点や要改善点は、解決しなければいけない課題として、いろいろな立場の人に広く認識してもらうことが大切。理解者を増やし、水泳に関するムードを高めていく必要がある。そのために、このような機会を利用して、情報交換の頻度を増やし、協力して対応していきましょう。