芳村 伸氏(徳島県立小松島高等学校)
- 徳島は、高校自体にプールが無いところが多い。あっても、老朽化が激しく、修繕されること無く放置され、そのまま使用不可となる場合が多い。
- 小松島高校のプールは昭和37年に卒業生の寄付で作られた。地下水がふんだんに使えるということで水には恵まれている。浄化槽は装備していない。水温が16°と低めであるため水温(水質)の管理は少し問題。プールの大きさは50メートルが7コースで水深は1.2メートルから1.5メートル。授業のない夏休みに水球をする場合には嵩を上げて行う。しかし、水球の練習の対象は、高校生はおらず、近くの中学生を呼んで行っているのが現状。
- 指導内容については、徳島県の高校で水泳の授業の実践を実施しているところはほとんどない。プールがあっても壊れるのを待っているというのが現状で、少し壊れたら授業を行わなくてもよいと考えている。予算上でも、消毒薬が高すぎる、水道代がかかるから止めなさい、というあらゆる抵抗があり、なかなか実践できない。さらに、教員の水泳の授業に対する意識があまり高くない。
- そんな中で、研究会等ではなるべく発言してきたが、なぜ高等学校で水泳の授業が必要なのかという質問に対する答えを自分が持ってなかった。
- 高校生のアンケートでは、将来何のスポーツがしたいですかという質問では、女子生徒の3位に水泳があがった。つまり、水泳に対するニーズはある。しかし、高校ではやりたがらない。
- サバイバルスイミングを前面に押し出したら、水泳の授業をレクリエーションと感じていた生徒も、このサバイバルスイミングを指導するにあたっては非常に積極的であった。なぜなら、自分ができると思い込んでいたことができないということが体験できたから。非常に授業がやりやすい。着衣のまま泳いでみようとしても全く泳げない。人を助けてくださいと言っても助けられない。救命胴衣をつければ人をかかえて浮いていられる、少し足をければ岸に近づくことができる、と救命胴衣があれば簡単にできるじゃないかということも感じてもらえる。その中で着衣泳というのは非常にありがたい。生徒達にとって興味をひく内容である。
- 救助能力の育成の前に、潜在危険に気付かせる、自己回復能力を高めるということの必要性があるのではないか。例をあげると、私の近所に、私の子どもと同年代の子を持っている看護婦のお母さんがいる。その方が「今から海水浴に行くから一緒に行きませんか?」と訪ねてきた。1人で自分の子と私の子を連れて行くと。実はそのことの危険には十分に気付いていない。やはり、高校生には事故の潜在性を気付かせるということが大人になる前段階として必要ではないか。
- 他にも、水球、4泳法の指導、ダイブボールを使った宝探しといった授業をさせる。ダイブボールが色分けしてあるのはさすがだと思う。白いものはなかなか見つからない。衛生面、丸いから当たってもケガをしない、水に沈むものという面で活用している。
- 今後の課題について、施設面の課題は大きい。インターネットで調べてみたら、例えば、保健体育科審議会2000年6月2日の議事録を見ると、学校体育施設において総合型地域スポーツクラブとの共有を考える。温水プール、シャワーの設置を促進してはどうかということが提案されている。また、平成13年度の文部科学白書の中には学校体育施設の整理の中で、地域におけるスポーツ活動の場としての公共スポーツ施設の整理を促進するため、地方公共団体の管理する体育館、水泳場、運動場のようなスポーツ施設に対して補助を行うということも言われている。施設を整えていこうという意見はあるけれど、実際には高校では壊れたプールをなおさない、という文部省の考えと逆行する現象がみられる。
- 教える側の学校、教員(特に保健体育教員)、教育委員会、文部省の意識に疑問を感じるところがある。学習指導要領では、水泳を必ず選択しなければならないということではない。しかし、水辺活動は、体育の授業でも総合的な学習の中でもどんどんやりなさいという方針が出ている。そうしたときに、もし、海辺に出かけて行って事故したときの救助能力はどうなるということになる。
- 教育委員会の人に質問したことがある。私が小松島に着任したときのことだが、「プールはあと2年しか使えない。もう壊す予定です。」と言われた。私は、水泳の実践や研究をするために、やっとプールのある学校に赴任してきたのに、そういうことを通告された。そこで、教育委員会に対して「授業に必要で、まだ使えるものを壊すということはコントロールできないのか?」と質問した。すると、「校舎改築に伴って壊すのだから、それは学校の要望に答えます」、「水泳の授業というのは小中学校でしっかりやっているから高校では必要無いのでは」、「必要ならば近くの公営プールを使ってください。そのための予算は教育委員会が用意します」。実際には歩いたり自転車で行ける範囲の公営プールは存在しません。
- 新しい指導要領で、改善点というところで、水泳のねらいが明確化するために、速く泳いだり長く泳いだりすることができるようにするというところを強く押し出していた。現状では、より速く、より長くというところを強調すると、本来一番教えるところがおざなりになるのではないだろうか。
- 個人的なイメージを申し上げる。プールの施設を作る。できれば学校に。不可能であれば学校のすぐ近くに。そこの指導管理は、学校の教員が派遣社会教育主事としてあたる。その人が学校の教員に対して講習会を催したり、指導法についてレクチャーをする。児童生徒への指導は、学校の教員が行う。温水プールでなくても室内プールであれば、3月から11月までは十分泳げる。以前に上越教育大学に講演会に行ったときに、10月いっぱいまでは使っていると言っていた。派遣社会教育主事と教員がなると申しましたが、実は、中学の近くに公のプールがあるところがある。羽ノ浦町なんですが、学校の先生が積極的で、使いたいと申し入れた。そのときに、活用のシステム上の問題で、管理者側がプールの水質管理のほうにナーバスになるといった感触だった。使い過ぎるとプールが汚れるから遠慮してくれというようなことを言われる。だから、水泳に理解のある教員が、派遣社会教育主事として、公営プールを管理してはどうか。実際、蔵本運動公園とか鳴門の運動公園には教員が入っているので、そういった形でやれればいいと思う。
- 私自身、十分なことはできていないが、いろいろな先生の御支援をいただきながら、いろいろな発言をしようと思っている。水泳指導が衰退しないように、どうにかしたいと思っている。