パネルディスカッション「水泳授業実施状況と課題」討論の部要録
司会:松井敦典(鳴門教育大学)
司会
- いろいろな難問が出てきましたので、テーマを絞って考えていきたいと思います。
- まず、笠井先生の、見学者の問題で、特に女性の場合、生理等の取扱いが非常にデリケートであるという話がありました。岡山から来られた川崎医療福祉大学院生の藤原さん(月経中の水泳の研究を行っている。)の意見・質問を。
藤原氏(川崎医療福祉大学・大学院)
- 卒業論文で、ずっと小学校のころから月経中に運動をしていいのか、特に水泳を行っていいのかと疑問に思っていたことを研究した。女子学生を対象にアンケート調査した結果、小・中・高等学校で学校の先生に月経中の水泳について指導してもらったことがありますかという質問について、指導があったという人は、中学校では4割ぐらいいたが、その指導の内容はどうでしたかと質問すると、だいたい月経は病気ではないから泳ぎなさいというような指導だった。プールに入らない理由はなんですかと聞くと、「月経血がプールに出るのが嫌」、「プールを汚すから」、「プールの水は汚いものだから」、「何かに感染するのではないか」と、こういう不安を持っているからプールに入らなかった。その不安に対して、きちんと説明できなければ克服できないのではないか。笠井先生がおっしゃったように(水泳の)指導が成り立たないという状況があるということも聞いている。プールが始まる前どういう指導をされているのか知りたい。
笠井氏(徳島市立八万中学校)
- 女子が見学するときに私のところに来て、「生理中なので見学させてもらいます。」というふうに生理ということを私にいう子もいるし、生理という言葉を使いたくないという子もいたりして「体調不良で。」と言ってくる子もいる。私が今まで見た子で、「生理中で泳ぎたくない。」という子に対して、「大丈夫だよ、泳ぎなさい。」という言葉かけはしていない。これは他の先生方にもお聞きしたい。
司会
- では、高校で指導に苦労している鳴川先生に。高校では二人しかいないという水泳の専門家のもうひとりの方です。
鳴川氏(徳島県立城北高校教諭)
- 私もいろいろ(問題が)ある。女子がプールに入らないというのは、1人が入らないとみんなが入らない。評価等も関係してくる。(資料の配付)
- 水泳授業記録カードというものを毎年作っている。授業を今年度5時間設定している。1時間目は、昨年度とは違いは、昨年度までは3時間目の水泳実技1と2、水泳検定の3回を泳げば単位は出るという形だったが、そういうことをすると泳力だけで判断してしまうことになるし、この3回で泳力指導はできないと思う。そこで、教員の間で話をして着衣泳をしてはどうかということになった。今年度は、1時間目にオリエンテーションと着衣泳のビデオを見ることにしている。オリエンテーションでどういう内容をするかというと、水の特性について説明をする、水泳授業記録カードの記入の仕方を説明する、着衣泳の必要性について指導をする。次に着衣泳のビデオが30分あるので、これでだいたい50分の授業ができる。次に2時間目は、着衣泳の実技指導をするという話をしている。
- 先週、学校体育の水泳の集会があって、そこで日赤の人に着衣泳の実技指導は授業の1番最後にするべきだと言われた。なぜかというと、服とかに雑菌がついているので、授業の実技の前にするのは良くないという話があった。しかし、会議で着衣泳のビデオの内容が頭にあるうちに着衣泳をしようということでほぼかたまりつつある。
- 着衣泳の実技は生徒全員がするのか、それとも一部の生徒がするのかというようなことは今後の話し合いで決定する。水泳実技の1、2、3として、その後に水泳検定をするようになっている。資料の後ろを見れば分かるのですが、今までだったら学習指導要領の中にもかわってきている点が、長く泳げるようにということがあったので、昨年までは種目を選んでタイムを書いてとするようになっていたが、今年度は時間泳、例えば3分間、5分間、10分間と泳げるようになることによって評価をしてあげようと変わってきている。
- 城北では、今まで3回水の中に入らないと単位を出さないとう方針になっていたが、そうなるといろいろ問題があるのではということになった。何が問題になるかというと、まず水泳の授業は年間の5分の1くらいしかないのに、それによって年間の単位をださないというのはおかしい、内容が、ただ3回泳がしているだけ内容が乏しいのに、子ども達に「泳ぎなさい泳ぎなさい。」と言えるのかどうかということが問題になった。それでは、生徒達に何か残るものをということで、着衣泳をいろいろ勉強して、今年は着衣泳をすることになった。そうすると、将来の安全性につながっていくのではないかという話になった。先ほどの女子の問題に戻ると、女子もどんなことがあっても3回必ず泳ぐということにした。
- 予備日というのを6時間目にとっているが、そこで泳ぐか、補講で、水泳の実技が終わって、試験が終わって、球技大会があるのだが、水泳の授業というのはだいたい週3回ですので、高校の授業というのは、保健が1、実技が3の4回今もやっているのですが、上手くいけば1週間で終るので、球技大会の練習がしたかったら、水泳の授業の後で球技大会の練習があるので、早く水泳を終らしたい子は早く終って球技大会の練習をするのが恒例になっている。それで、女子も3回泳いでいる。体調のこととかあるので、体調にあわせて3回必ず泳ぐようにさせている。今年度はどうしようかとみなさんで相談ができていない。最後に残るのは女子で、男子はこの水泳実技1、2、3で終ってしまうので問題ない。保健も実技もいっぺんにしているので男子80名、女子80名、計160名がいっぺんに50m×8コースで授業をやることになる。
- 女子はプールサイドに出すというのは 至難の技です。マイクで出なさいと言ってもなかなか出てこないし、出てきたらずっと喋ってるし、見学の子は見学の子でプールサイドはセメントで草がはえているので「痛い 、暑い。」とずっと言っている。見学の生徒には、草抜きをさせるようにしている。幸いなことに、外に出る生徒はいないので、80人の女子生徒をプールサイドに出すとういうのは大変です。シャワーを浴びてプールサイドに出るように言っているがなかなか指導ができていないし指導が難しい。
- でも、昨年度は女子生徒も泳いでいたし、全員泳ぎ終って単位をとった。だけれども、一昨年の段階でできていなかったことは、2・3月に青少年センターに体育の職員が連れていって泳がせたという実績があるので、その実績を聞いて、昨年度の生徒は絶対泳がなあかんということが分かっているので泳いだということです。
司会
- 私も大学の水泳の授業を担当しているのだが、同じように学生によって反応が違う。生理中なら水泳をしなくていいと思っている学生も少なからずいる。生理は病気じゃないことは確かである。では、いかに経血を出さないで水泳の運動ができるか工夫をしなくてはならない。その工夫をさせる、してもらうということの勉強も水泳の範囲ではないか。ただし、一斉で男もいて着衣泳も行ってとなると、時間的な制約もあるので工夫をして知識、情報、方法などを伝えていかなければならない。
笠井氏(徳島市立八万中学校)
- 女子の見学が多いというのは、生理であるとか以外にも男子と一緒であるというところに抵抗を感じる子が多い。今男女共就で行っているので、1クラス男子20人弱、女子も20人弱といった人数でプールにいる。1年生のときは小学校の延長のような感じで抵抗がないのだが、2・3年生になってくると、やっぱり恥ずかしい。見学者が増えてくればくるほど25mプールは小さいから見られているように感じてしまうということが関係している。
高橋氏 (高松市立弦打小学校)
- 小学校6年生では、女子の4割が生理が始まっている。私のクラスは16名中4名がおそらく始まっている。15・16年の教員生活の中で1人だけ、保護者のほうから生理中だけど泳がせていいですかという質問があった。その他はごく当然として、生理が始まったので見学させてください、休ませてくださいというふうな反応だった。泳がせてくださいという子は、記録会の前でスイミングスクールには行っていないので泳がせたいということだった。
- 何年前からエイズ教育が普及したとき、生理についても男女共習でやっているので、小学校では抵抗がなく、生理で休む子もいますということはハッキリと言っている。小学校の段階ではこうすればいいというようなことは言っていないのが現状のため、保護者も生理が始まったら水泳は休ませますといった状態である。
司会
- あと1つあったのが、水泳の活動を通して、水の中での危険を察知する、防ぐという水泳技術以外の活動について。水のこういう状態は安全だ、こうなったら危険だということを判断すること自体が、水泳の中身であると思う。ところが、実際は、海水浴などで人の動きを見ていると大丈夫なのか思う。泳ぐことだけでなくその場にいることで、まあ野外活動的な見方にもなるのですが、危険に対する感受性をトレーニングするのに、水泳というのは良い教材だと思う。実は、今埋め立てられている月見ヶ丘海水浴場で、20日くらい監視員をやって、さんざんな目にあった坂本さんに、大人の水際安全管理能力の実態はどうかということについて聞く。
坂本氏(鳴門教育大学・大学院)
- 一番最初の感想は、ダメだな、子ども溺れちゃうよと思った。とりあえず目の届く範囲に子どもを置いていれば大丈夫と思っている人が多いみたいで、大人は大人でプールサイドでいるみたいに、どっちかが見ていればと思っている。子どもは1人でなく2・3人連れてきているので1人だけで見ていても見切れないはずなのに、子どもが遠くに行っているのに目の届く範囲だったら大丈夫だと思っているのか、見ているこっちがハラハラしてしまう。
司会
- 保護者だけでなく、監視員やその体制についても同じことがいえる。松茂町が2人雇っていて、そのうち1人は寝ているかその場にいないという状況。1人が溺れている人を助けに行くと誰もいなくなる。親もそうである。組織の体制も十分とは言えない。
- テーマはいろいろだったのですが、着衣泳は授業で取り扱うのはめずらしいので子どもの目を引く。また、着衣泳で行う動作というのは、泳ぎの本当に基本をおさえた動きが多い。今日も後の実習で取り扱うが、基本は普通の泳ぎでも使えるし着衣泳でも使える。そこが一番水泳学習で大事なところで、水の中で体のふるまいをちゃんと押さえておけば、もっといろいろな可能性と活動ができるのですが、そういうことを置き去りにした水泳指導というのがあっていろいろな反感がでるということになる。そのようなことを理解した上で、みんなで協力していくことが大切。
- 切実なのは施設面の充実。今、施設がどんどん悪い状況になっている。何とか充実していくようにしていきたい。それにはまず芳村先生のように、理解のある人に、県の県会議員や県知事になってもらわないといけない。そういう面での努力が必要。水泳関係者をそういった要職に送り出すことも大切。それから、各先生方が各持ち場で努力して地域振興させていくこと。子どもを教えているんだけど、実は親も教えている。地域も啓蒙している。地域の協力があれば結構書類が提出できるし、PTAの活動とドッキングして体育の時間とは別に、そういったところで時間をとって指導を行うというところもでてきている。授業という枠に捕われずにいろいろな活動の中で行っていくということも重要である。
杉原氏 (そば道場「杜里夢」亭主、鳴門教育大学名誉教授)
- 永年水泳教育をやってきた。7年前に退職して、そば家に専念していたので聞いている内にピントがあってきた。
- 小学校ではあまり問題がないのでは。問題がないといえば語弊があるが、もちろんいろいろな格差があって、充実した水泳指導を行っているところもあるし、指導者の意識だけでは不十分であるところもある。中学校や、特に高校の現状にくらべれば小学校はあまり問題はないのではと思う。いろいろな内容を小学校からできることが大事である。
- 中学の場合は、中学校教育の発達段階での教育の難しさというのがある。中学校の場合では水泳の授業時間数は指導要領や制度の中で確保されている。高校のような難しさはないのでは。従って中学校教育全体の難しさの中で考えていかなければならない。これは非常に難しい面があるが、ただ、いわゆるハード面とか制度面では確保されているのでは。その中での工夫が必要である。水泳指導に関してあまり関心がない先生方のところでは差が開くのではないか。
- 高校では、私は7年ほど高校の教鞭をとっていたので、源純夏がオリンピックに出たとき、城南のOBとして激励にいった。そのとき、プールを見て愕然とした。荒れ放題のプール、しかも、修復する意志がない。あまりに残念だったので源純夏オリンピック出場記念としてプールを修復してはどうですかと言ったところ、彼女自身がこのプールでは泳いでない、OKスイミングだということがあったり、現場の先生にそんな気がないらしい。教育委員会や出納長のところに直談判をしに行ったら「いいですよ。」と、しかし、現場からの声がないので一OBがそんなこと言っても困るということだった。高校の場合は、いろいろなことがあるけれども、最後の灯火を消さないように、芳村先生がいるところは少なくとも、プールが2年後に取り壊しになるとどうなるか分からないが、とにかく、水泳をなんらかの形で教えたいという人がいて、その人が教えられないというのはやっぱりおかしい。
- 十数年前に在外研究でオーストリーに行った。高校とか中学、小学校にはプールがない。どうしているかというと、地域で本当に良くできた室内プールで、上手にカリキュラムを組んで授業を行っている。高校生段階では、社会体育ということで行っている。それで、高校の教員がそこで教えていたり、インスブルック大学の大学院生が教えていたりする。松井先生の行っていたオランダでも同じような仕組みができているようだが、そのような制度があればいいと思う。
- 久しぶりにこのような研究会に参加することができた。ありがとうございました。
司会
- 水泳の授業を我々が適切に取り扱うことによって、上手くいったらいい社会人が育てばいいなと思う。みなさん、各勤務先なり学校なりで、いい結果があればこういう場で発表してくれれば有り難いと思います。