「運動とエネルギー」を楽しく理解する教材作り
Development of Interesting instructional materials in teaching physics for understanding
“Motion
and Energy”
担当者 平澤 学 (総合学習)
近藤 知子 (障害児教育)
ジュディサ・プーセ Puse.J (理科)
ムロンボ・モーゼス Moses.M(理科)
T.始めに
「エネルギー」は抽象的な概念であるため生徒がつまずきやすい単元であり、特に位置エネルギーは目に見えにくいのでそれをイメージするのが難しい。そこでビースピ(簡易速度測定器)をもちいて斜面を転がるビー玉の速度を測定し、位置エネルギーと速さ・質量の関係について規則性を見出せるようにしたい。またジェットコースターモデルを作りエネルギーの保存について楽しく理解できるようにしたい。
U―1.教科書や実験書の調査
学習指導要領解説より「運動とエネルギー」についてはこう示されている。
運動の規則性
物体の運動やエネルギーに関する観察、実験を通して、物体の運動の規則性とエネルギーの基礎について理解させるとともに、日常生活と関連付けて運動とエネルギーの初歩的な見方や考え方を養う。
ア 物体の規則性
ア)物体の運動についての観察、実験を行い、運動には速さと向きがあることを知る。
イ)物体に力が働く運動および力が働かない運動について観察、実験を行い、力が働く運動では物体の速さが変わることおよび力が働かない運動では物体は等速直線運動をする。
ウ)エネルギーに対する実験や体験を通してエネルギーには運動エネルギー、位置エネルギー、電気、熱や光など様々なものがあることを知るとともにエネルギーが相互に変換されることおよびエネルギーが保存されることを知ること。
表1 中学校指導要領解説
このうちのウ)に焦点を当て教材開発に取り組んだ。
啓林館 理科 1分野下 「運動とエネルギー」によるとP.53に力学台車を用いた衝突実験が記されており、その実験結果もグラフによって示されているがここでは簡単な表現しかなされていない。また力学台車を用いることで速さを測るには時間と距離とを計測する必要があり、時間がかかるが今回の実験で示すようにビースピを用いることで速度の測定に限っては容易に行え、生徒にも理解しやすい。もちろんこの装置の説明も行うことが望ましい。
U−2.教材開発のきっかけ
従来は、中学校理科でも、仕事の学習を踏まえてエネルギーをかなり定量的に扱ってきたが今回の学習指導要領では、エネルギーについての初歩的な見方や考え方を日常生活と関連させて養うことを狙いとしている。(表1)
これを受けて現在使用されている教科書(啓林館)では、小単元「エネルギー」において運動している物体が他の物体に衝突すると、その物体を押して動かしたり、変形させたり、壊したりすることから、その物体がエネルギーを持っていることを説明している。
また、従来は位置エネルギーから導入するのが普通であった。しかし今回の学習指導要領では「仕事」が扱えないのでエネルギーの最初の例として運動エネルギーを取り上げている。
教科書では斜面を利用して台車の質量や速さを変えて、台車のもっている運動エネルギーの大きさを調べる実験を図示し、結果がグラフによって示されている。そこでこれを生徒実験とすることで運動エネルギーや位置エネルギーを生徒に体感させ、この実践例をさらに発展させて力学的エネルギー保存の法則の理解を助ける教材の開発を試みることにした。
V.研究方法およびその結果
カーテンレールや配線カバーを用いてジェットコースターモデルを作り、力学的エネルギー保存を学ぶための実験を行った。実験装置の作り方は以下の方法である。今回は加工がしやすいという理由で配線カバーをもちいた。
準備物
配線カバー(大きさの違うものを2種類)、土台となる木の板、ビースピ(簡易速度測定器)、ものさし2本、スタンド、ペン(円柱形のもの)、鉄球、ビー球、木の玉など
作り方・実験方法
@ 図1のように大きい配線カバーを土台に取り付け、そこに小さい方のカバーをつける。こうすることで配線カバーを固定せずとも様々な形のジェットコースターモデルを作ることが出来る。
A 配線カバーを様々な形に工夫して取り付けビー玉等を転がし、ビースピによって測定する。測定する箇所を増やすことでよりわかりやすい結果が生まれる。
B その測定結果をもとに力学的エネルギー保存について考える。
実験結果・考察
curve, uphill and
downhill, loop など様々な形のジェットコースターモデルを作って実験を行った。この3つのパターンの中ではloopとuphill and downhillが位置エネルギーと運動エネルギーとの変換、つまり力学的エネルギーの保存を見るのにわかりやすかったように思えます。しかし配線カバーをレールとしてつかっているのでビー玉との間に生じる摩擦がかなりあったようにも思えます。また、私個人の意見になるのですが生徒、子どもにとってエネルギーをわかりやすく説明するにはやはり衝突(仕事の概念)を使うのがわかりやすいように思えました。ビースピをつかって位置による速度をそれぞれ確認する方法では数字がそのまま出てくるのである意味わかりやすく、考えやすいかもしれませんが、感覚的に何かを掴み取ることは難しいのではないかと実験をしてみて思いました。
授業例(中学校)
中学校3年生
単元名<力学的エネルギーの移り変わりを調べよう!>
子どもたちの身近なところにあるものの中から力学的エネルギーに関係するものとしてジェットコースターを取り上げ、ジェットコースターの映像もしくは生徒自身の体験等から動き(速さ)について考えさせる。実際にはどうなっているのか実験を通して考え、機会(遠足などで遊園地に行くこと)があれば実際にのってみて体感することが望ましい。この授業で使うワークシートを次のページから提示します。
W.まとめ
以上の結果から中学校理科における「運動とエネルギーの関係」の実験は次のようなことに留意して行うことで多く生徒がより理解しやすくなるものと考えられる。
@ 指導要領の改訂により中学校理科から仕事の概念がなくなりました。これをおぎなうために速さを使って考える。
A ビースピ(簡易速度測定器)を用いて実験を行うことで、速さが明確に表示され、様々な場所における位置(高さ)と運動(速さ)との関係をよりグラフ化しやすい。
B 生徒の身近にあるもの、興味のあるものを題材として扱うことで教科に対する接点をより近いものする。
なお本課題研究を行うにあたり、本田 亮助教授に助言をいただいたので、記して感謝する。
参考文献
江田稔 2000.三輪洋次:中学校新教育課程の解説 理科 第一法規
滝川洋二 2001.運動とエネルギー.大原ひとみ・高橋和光・辻本明彦・古田豊(編):ガリレオ工房 授業に生かす 理科のおすすめ実験.東京法令出版.pp.135-143
竹内敬人 2003.運動とエネルギー.指導書 第2部 詳細 理科1分野下.新興出版社啓林館.pp109-180
参考にしたホームページ
茨城県教育研修センター.創造性を培う学習指導.http://www2.edu.pref.ibaraki.jp/date/034/120.htm
大阪四天王寺高等学校・中学校 壇上慎二.物理実践記録.http://www.shinko-keirin.co.jp/kori/science/buturi/beespi.html
信更中学校.1997 校内研究授業.http://w1.avis.ne.jp/~tobo/bespi1.html
湘南台高校 山本明利.ビースピを使った水平投射の実験.http://www2.hamajima.co.jp/~tenjin/labo/suihei.htm