ここでは,学会誌「鳴門生徒指導研究」第31号の論文のタイトル(英文タイトル)・著者名、要約、キーワードを掲載します。
(1)2021年の世界の不登校研究の概観−ERICおよびPsycInfoの文献から− 佐藤 正道 A Review of the Studies about Non-Attendance at School, School Phobia and School Refusal in the World (2021) :SATO Masamichi 要約: 日本の不登校の問題を考える上で,常に世界の研究に目を向け続けることは必要である。筆者は1980年から1990年までの研究の概観を行い,その継続研究として1991年から2002年まで,および2011年はERICおよびPsycInfo(PSYCHOLOGICAL ABSTRACTS)の,2003年から2010年まではPsycInfoの2013年と2014年はERICの,さらに2015年からはERICおよびPsycInfoの不登校との関連が考えられるキーワードschool attendance,school dropout,school phobia,school refusalを持つ文献を分類してきている。その継続研究として2021年はERICおよびAPA PsycInfoの文献50件について取り上げ分類し検討を加えた。 Key words : school attendance, school dropout, school phobia, school refusal (2)小学校における学級力の向上をめざした実践−コロナ禍での心理教育アプローチ− 岸田 秀豊・小坂 浩嗣 Psycho-Educational Approach to Develop Classroom Competencies in Elementary School:KISHIDA Hidetoyo,KOSAKA Hirotsugu 要約: 本研究は,X県の公立小学校を協力校に2年生と5年生の2学級を対象に,学級力の向上をめざした心理教育アプローチによる個人と集団の活動プログラムを開発・実践し,学級集団づくりに対する教育効果について検討することを目的とした。その結果,プログラムに学級力の4領域である目標達成力,創造的対話力,協調維持力,規律遵守力を育む効果が確認され,特に協調維持力が学級力の基軸となって作用していることが示唆された。また,生徒指導における3つの機能がプログラムの実施上で有効に働いていたことが確認された。 キーワード:学級力,自己表現ワーク,構成的グループエンカウンター,コグトレ (3)中学校におけるキャリア教育に関する研究動向 熊谷 圭二郎 Career Education in Junior High Schools: A Review:KUMAGAI Keijiro 要約: 近年,初等中等教育におけるキャリア教育の充実が求められている。しかし,キャリア教育の課題としてその内容の乏しさや社会への接続に対する考えが不足していることなどが挙げられている。そこで本論文では,中学校におけるキャリア教育に焦点をあて,先行研究を調べ,中学校のキャリア教育の現状を明らかにするとともに,今後,生徒たちのキャリア形成を促すために必要なことを検討した。その結果,論文は大きく4つのカテゴリーからなる「実践研究」と2つのカテゴリーからなる「調査研究」に分かれた。これらの論文を考察し,今後の中学校のキャリア教育の方向性として,生徒同士の振り返り活動を重視した系統的・計画的なキャリア教育の実施や専門的役割・専門家の設置,学校教育の充実といった3つの方策を挙げた。 キーワード:キャリア教育,職業観・勤労観,中学校,総合的な学習の時間,特別活動 (4)小学2年生が抱く時間的展望に関する研究−過去と未来の自分への手紙を通して− 小西 一博 A Study on the Time Perspective of Second-grade of Elementary School: Through Letter to me in the Past and Future:KONISHI Kazuhiro 要約: 本研究では小学2年生が書いた「過去の自分への手紙」と「未来の自分への手紙」に注目し,時間的展望の観点から,その内容分析を行うことを目的とした。「過去の自分への手紙」に込められたメッセージでは,「確認」が最も多かった。過去の自分に対して同意を求めることで自分を振り返っていると考えられた。また,「伝達」も上位を占めたことから,未来への希望を与えようとする心理も窺われた。一方,扱われた話題では,家庭生活が幼児期の大きなウエイトを占めていたために,「遊び」,「日常生活」,「家庭」に関する話題が多く見受けられた。「未来の自分への手紙」に込められたメッセージでは,「願望」が最も高い割合を示し,将来に対する期待を抱き,夢をもっている心理が窺われた。また,未知の世界に対する不透明感や漠然とした不安も感じているため,「質問」や「激励」,「依頼」が次位に続いたと推察された。一方,扱われた話題では「仕事」が最も多く,働いている大人を未来像としてイメージする傾向にあると考えられた。 キーワード:時間的展望,小学2年生,過去と未来への手紙 (5)コロナ禍における小中学生のゲーム依存と過度なゲーム使用の関係性 六車 浩・葛西 真記子 Relationships between the Game Addiction and the Excessive Game Use among Elementary and Junior High School Students in COVID-19:MUGURUMA Hiroshi,KASAI Makiko 要約: 新型コロナウイルス感染症防止の外出自粛により,小中学生のゲーム使用時間が増えているという報告もあり,過度なゲーム使用やゲーム依存の危険も高まっているのではないかと考えられる。そこで,実際にコロナ禍における小中学生のゲーム使用状況を調査し,ゲーム使用時間とゲーム依存の関係を探ることを目的に研究を行った。その結果,ゲーム依存状態にある者が,小中学生全体で34.3%であった。およそ3人に1人がゲーム依存状態にあることが分かった。ゲーム依存とゲーム使用時間の関係では,ゲーム依存度が高くなるにつれて過度なゲーム使用を行っていることが明らかとなった。また,ゲーム使用時間が3時間以上になると,ゲーム欲求やゲーム弊害も高まることが明らかとなった。ゲーム使用時間に影響を及ぼしているのは小学生と中学生では異なっていた。小学生では,ゲーム欲求因子の影響が大きく,ゲームを欲し追い求めていることが大きな要因となっていたが,中学生では,ゲーム弊害因子の影響が大きく,悪影響が生じてもゲームをやめられないことが大きな要因となっていた。 キーワード: コロナ禍,過度なゲーム使用,ゲーム依存,ゲーム欲求,ゲーム弊害 (6)小学生の問題行動における法務少年支援センターの利用可能性 新谷 美晴・川西 智也 Availability of Legal Juvenile Support Center for Behavioral Problems in Elementary School Students:NIIYA Miharu,KAWANISHI Tomoya 要約: 近年,問題行動(暴力・いじめ等)の低年齢化が進んでおり,小学校においても生徒指導の重要性が増している。非行対応の専門家である法務少年支援センターと学校が連携することは有益だと考えられるが,連携が進んでいない現状にある。そこで本研究では,小学校教諭7名を対象に,問題行動を呈する児童の架空事例を用いた場面想定法による半構造化面接を行い,外部の連携先としての法務少年支援センターの利用可能性について検討した。面接で得られたデータをKJ法により分析した結果,法務少年支援センターの利用促進には,その専門性の周知を行い,児童の健全育成を見据えた協働関係を築くことが重要であると示唆された。また,法務少年支援センターと連携する上で,学校と外部機関をつなぐ役割を誰が担い,つなぐことを判断するのかなど,いくつかの課題も見つかった。 キーワード:法務少年支援センター,少年鑑別所,小学生,問題行動,外部機関連携 (7)若手小学校教員が児童認知を形成するまでの過程−困難さを抱える児童とのかかわりについての語りから− 渡邊 倫子・川西 智也 The Process of Young Elementary School Teachers Forming Child Cognition: From a Narrative of Relationships with Children with Difficulties:WATANABE Rinko,KAWANISHI Tomoya 要約: 本研究は,若手教員の困難さを抱える児童に関する児童認知の形成・変容過程を明らかにすること,及び児童認知の変容や多様化につながる促進要因と阻害要因を明らかにすることを目的としている。公立小学校に勤務する1年目から3年目までの教員8名を対象に半構造化面接を実施し,得られたデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによって分析した。分析の結果,児童認知は若手教員の置かれる環境要因に左右され,同僚からの支えや当該児童に対する周囲の児童のサポート,保護者の協力などの正の環境要因が作用するときには,肯定的な姿を見出す経験を重ねやすいが,負の環境要因が作用するときには困難な経験を重ねやすく,解決の糸口が見えない状態に至る可能性が高まることが示された。また,児童認知の変容には正の環境要因に加えて,自分の思いを整理し児童を客観的に考えることができるような振り返りと立て直しが関与していることが示唆された。 キーワード:小学校,若手教員,児童認知,困難さを抱える児童 |
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