(2)生徒指導とは(『生徒指導提要』P1)
一人一人の生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的な資質や行動力を高めることを目指して行われる教育的活動である
生徒指導は学校の教育目標を達成するうえで重要な機能を果たすものであり、学習指導と並んで学校教育において重要な意義を持つもの
各学校においては、生徒指導が、教育課程の内外において一人一人の児童生徒の健全な成長を促し、児童生徒自ら現在及び将来における自己実現を図っていくための自己指導能力の育成を目指すという生徒指導の積極的な意義を踏まえ、学校の教育活動全体を通じ、その一層の充実を図っていくことが必要
(3)生徒指導の意義
・「生徒指導」は「学習指導」とならんで学校教育の車の両輪
・生徒指導は、教育の「機能」
・学力を支える生徒指導
・教科を含めた全ての活動にわたる生徒指導
・教員全員が生徒指導担当
(4)望まれる生徒指導の一層の充実
・生徒指導は、単なる問題行動への対応という消極的な面だけにとどまるものではない(中学校学習指導要領解説)
・しかし、以来、四半世紀、教育現場では、問題対応に追われざるをえなかった
・今、改めて、積極的生徒指導の重要性を認識
(5)社会的なリテラシーの涵養
ーBasic (Generic)Educationとしての生徒指導ー
3 社会の私的責任領域の自浄作用〜いじめ問題を手がかりとして〜
(1)いじめ問題の推移
・社会問題としてのいじめ問題の発見
日本では1980年代半ば
→いじめ問題の第一波。「問題発掘」期
欧米では、スカンジナヴィア圏
海外では、「いじめ・学校暴力」問題として併記
・第二波以降の動向
第二波は、大河内君の事件がきっかけになる。
「相談体制」の充実・整備期
日本では「いじめ・不登校」問題として併記
・第三波(2006)以降「集団づくり」・「社会性の育成」そして「社会への参画主体づくり」へ
(2)世界の研究者のいじめの捉え方に共通する基本要素
・力関係のアンバランス(非対称性)とその乱用
(3)力のアンバランスとその乱用
・力のアンバランスは人間関係につきもの
乱用も常に起こりうる
→いじめは、どこでも、誰にでも起こりうる
・いじめは力関係の病理
パワー資源の分析が大切
・悪なる意志→悪←善なる意志
外からの歯止めが不可欠
いじめは根絶することはできない だが 止めることはできる
(4)問題の根の広がり
・児童虐待
・セクシュアル・ハラスメント
・パワー・ハラスメント
・ドメスティック・バイオレンス
・アカデミック・ハラスメント 等々
子どもたち自身による 大人や警察・学校などの インフォーマルなコントロール領域 フォーマルなコントロール領域 ↓ 子どもたち自身で、自分たちの集団が ↓ 抱える問題を解決する能力や問題を 抱えた仲間への支援の欠如や弱まり ↓ ↓ 自殺・不登校、成長・発達への ← ← 悪影響などの深刻な被害 (緊急避難としての危機介入) いじめ問題の現れ方と社会的対応の原理 |
(5)いじめ対応にあたっての基本的な構造
・児童生徒の自浄作用の形成
(6)いじめ集団の四層構造モデル(森田 1985)
暗黙の支持 傍観者
観衆
加害者
傍観者 → 被害者 ← 仲裁者
(促進作用) (抑止作用)
(6)国際的な視点から見た日本のいじめの特徴
いじめ自体の数としては、日本よりもイギリスの方が多い
(7)各国の「進行性いじめ」の経験率
日本とノルウェ−はほぼ同率
(8)いじめの場の力学の学年別推移
・「傍観者」の出現率の学年別推移では、日本が学年が上がるにつれ上昇する
・「傍観者」の出現率は、オランダは中1に、イギリスは中2に減少に転ずる
・「仲裁者」の出現率は、日本では、学年が進むにつれて減少
・一方、オランダでは中1に、イギリスでは中2に上昇に転ずる
(9)国際調査に見る日本の子どもたちの教育課題
・行為責任の概念の育成
「責任」の概念には、共同体の一員としての責任も含まれる
・共同体の安寧と福利に関わる解決課題としての認識と取り組み
安心して通える楽しい学校の場づくり
自己保身(私益)→公益へ
4 教育に求められる新しい視点と枠組み
「市民性(シティズンシップ)教育」
(1)市民性教育の目標
公共善の実現を目指して当該社会に参画する主体の育成
それは一人一人が社会の一員として参画しながら、自己実現を図り、社会や人々が抱えるさまざまな課題に向き合い、協力し合って、より暮らしやすく活力ある社会づくりに取り組むことのできる資質・能力の涵養
(2)体験活動等を通じた情操豊かな社会的人間力の育成と社会的役割への参画による実践的な資質の育成の重要性
・共同性の一員としての社会的役割(権利と義務の体系)の内容の理解とその役割期待(社会的要請)に応えうる資質と能力の育成
・市民性とは、社会的な役割への参画を通して社会を担いうる実践的な資質と行動の育成
・自然体験活動やその他の体験活動は大切
・「柔らかな行為責任」の育成の場としてのソーシャルサービスとボランティア
(3)「柔らかな行為責任」
共同体の一員としての義務的役割
→ ボランティア
社会の一員としての社会的な責任を果たすべく個人の特性に合わせて提供する活動
→ ソーシャル・サービス
共同の公的な空間・施設・サービス等の便益を受ける者としての責任を果たすべき活動
果たさなくても制裁はない 「する」「しない」は各人の選択
5 これからの日本社会における問題行動への理解と対応の基本的視点
(1)複数の視点から子どもの変化に対応できる相談体制の整備とアセスメント体制
(2)児童生徒の状況についての的確な把握
(3)児童生徒の変化と前兆行動、「心」のサインに留意
(4)すべての子どもに配慮
児童生徒個々に対するきめ細かな指導体制の確立
なお、個別の配慮が必要な児童生徒について早期に問題を発見し対応の体制を取る
(5)早期(小学校段階)からの生徒指導・教育相談体制の整備充実
(6)家族・地域を含めた児童生徒の「生活総体」への対応
(7)社会的排除(social exclusion)・格差社会への対応
政策理念として登場してきた social inclusion
(8)リスク要因と防止(プロテクティブ)要因
未然防止・早期発見・早期対応だけで十分か?
6 社会生を基礎づけるソーシャル・ボンド
〜社会が社会たるための基盤づくりに向けて〜
(1)ソーシャル・ボンド理論とは
・人と人、人と集団、集団と集団を結びつける「社会的紐帯」(social bonds)に着目し、その弛緩、欠如によって問題が発生するというモデル
・「斥力」ではなく「引力」に着目する理論
・「私事化」社会における「紐帯」は、従来のような
1)集団が個人を組み込み、全体化する力も重要だが、
2)個人から社会的な場や他者へ投げかける「意味づけ」の糸の束が重要な意味を持つ社会
仕事のしがい、生活のそれぞれの場で生きていることや存在していることの証、生きがい、他者からの評価や期待等が意味を持つ社会
(2)ソーシャル・ボンドの基盤をなす「個我」の確率
・自立基盤としての自己肯定感
「減点社会」と「加点社会」
・自己有用感
かけがえのない人間であることの自覚
他者に対して役に立つ意味のある存在であることの自覚
(3)ソーシャル・ボンドの構成要素
A アタッチメント(愛着)
・自己理解が基盤
集団や社会の中での自己のあり方や人間関係の中での自己と他者との関係の理解を通じて他者理解を図ること
自己理解は知的概念的なアプローチでなく、体験的アプローチの中でこそ可能になる
・対人関係への情動的な絆と信頼できる人間関係
・集団や制度への情動的な絆と帰属感
・成員間の連帯感
B コミットメント
(ニーズの実現可能性と役割期待への同調)
・集団の役割と活動を通した成就感・達成感と所属意識の形成
・社会的有用感
・役割課題と向き合う力と意欲の形成
・体験活動を通して自らの生き方や将来の社会での活動に対する夢や目的意識について考えることによる社会とのつながりの形成と実践的行動力の育成
C インボルブメント(巻き込み)
・【教科】【特別活動】【総合的な学習の時間】あるいは【さまざまな体験活動】等による学習活動への巻き込み
・離脱空間への巻き込み
・地域での文化・スポーツ活動、地域住民との交流活動等による居場所づくり
D ビリーフ(規範の妥当性に関する信念)
・基本的生活習慣・学習習慣の形成
・規律ある学校生活
・規範意識ならびに市民性の育成
【参考資料(1)】
共同性を揺るがす私事化の動向
(1)社会的背景としての私事化(privatization)
・いずれの社会でも、その社会的な空間領域は、「官と民」、「公と私」に二分できる
・これらの二つの領域の比重は、それぞれの社会やその歴史的な段階によって異なっている。
・その比重が「官から民へ」、「公から私へ」と高まる社会全体の動向を「私事化」という。
・「私事化」とは、社会の深層の大きな底流
(2)私事化の具体的な流れ
・制度の私事化は、日本では、1970年代の「民営化」の流れによって始まる
・人々の関心や価値観の私事化は、1980年代には行って顕著になる
・公的な領域よりは、私生活領域とその中心に位置する「私」への関心を高める
「私生活中心主義」、「私さがし」「新人類現象」etc.
・共同体の呪縛から解放され自由になり、個人の幸福を追求する価値観が正当性を持つ社会へと移行
・私事化にはポジティブな面とネガティブな面とがある
「滅私奉公型」→「活私型」社会へ
公共善(公益)<私益
・つながりや連帯の弛緩が起こり、共同性に揺らぎが表れる
→「リスクヘッジの個人化」
社会的な孤立や社会的排除の問題が顕著になる
【参考資料(2)】
日本社会のガバナンスの変化
〜官と民の新たな関係〜
(1)「福祉社会」の変容と新たなシティズンシップ
福祉国家の構成員としてさまざまなサービスを受ける権利
福祉国家の変容・解体 ↓
「社会の構成員としての責任」と「権利」が
対になった概念へと変化 → 担い手をどう育成していくかが、
「市民」としての社会的な実践力が必要 子育てや地域社会、学校教育の課題
(2)求められる新たな「公共性」
タテのガバナンス ヨコのガバナンス
公 公 (公共性) 私
↑ ↑
↓ ↓ ←→ 人格
私←→私 プライバシー
私的活動領域
(3)タテのガバナンス → ヨコのガバナンスへ
新たな「公」と新たな中間集団の再構築による新たな社会モデルの形成への模索
・市民の役割
新たなる「公」/「民」
・自治体の役割
・市民性教育の役割が重要と成る
【参考資料(3)】
社会的排除・格差社会への対応
政策理念として登場してきた
social inclusion/ social exclusion
・従来型の問題に加え、近年の経済・社会変動と構造改革(グローバリゼーションや規制緩和)の下で新たに現れてきた不安定な仕事や長期失業、家族や家族以外の社会的ネットワークの切断・弱体といったさまざまな問題に苦しんでいる人々に関わる問題
・今ひとつの背景として、私事化の進行による(SOCIAL BONDSの弛緩や欠如)が顕著になってきたこと
・また、財政が逼迫する中で、福祉国家の揺らぎへの対応が政策の焦点となってきたこと
・これらの状況から発生する社会問題を社会から排除・摩擦・孤立・沈殿・放置された人々もしくは集団の問題としてとらえ、その市民権を回復し、再び社会に「参画」することを目標とし、その実現に向けて総合的に相談・援助活動を実施する
(1)社会から孤立・沈殿・排除・放置されやすい人々
児童虐待、ニート、高校中退、不登校・ひきこもり、離婚・遺棄による単身家庭、不安定な日雇い臨時労働者、派遣労働者、非正規雇用労働者、ホームレス、不安定な居住条件、地域間格差に巻き込まれている人々、障がい者、単身高齢者、外国人、アルコール・薬物中毒者、犯罪・非行歴を持つ者など