レット症候群児の手の常同行動に関する研究
障害児教育専攻
井上 潤
指導教官  位頭 義仁

I.問題と目的

レット症候群(Rett Syndrome,以下RSと略す)の手の常同行動は「最も特徴的な症状」とされているように、その実態を報告する研究はいくつか見られるが、発現のメカニズムや手の常同行動の意味するものについて明確になったとは言えない。手の常同行動の発現と密接に関わりのある手の操作についても、年齢や身体能力との関連を明らかにしたものはほとんどない。
そこで、本研究はRS児の保護者を対象とした質問紙調査により、RS児の身体機能や手の操作性、手の常同行動の実態を明らかにし、その関連を検討する。また、質問紙調査の結果との関連で、RS児の事例研究を通して、感覚刺激(視聴覚刺激)と手の常同行動との関連について検討することにより、RS児の理解を一層深め、教育的援助を検討することを目的とする。

II.研究方法

1.レット症候群の実態に関する質問紙調査

(1)調査対象・方法

調査は質問紙法により行われ、日本レット症候群協会を通じ、RS児の保護者216名を対象に、郵送方式により、1999年5月〜6月に実施した。回収総数は109通であった。

(2)調査項目

質問紙Aは年齢、現在受けている教育形態、何らかの障害があるとの疑いを持った時期、並びにその理由、RSと診断された時期、利き手、手の常同行動の発現の時期とその形態、手の常同行動に対するアプローチ、移動・姿勢の項目からなる。質問紙Bは遠城寺式乳幼児分析的発達検査法の「手の運動」領域を参考に質問項目を作成した。質問紙Cは日常生活場面を快場面(15問)、不快場面(15問)に分類し、手の常同行動の変化について「非常に強い」「強い」「やや強い」「変化なし」「ややゆるやか」「ゆるやか」「なくなる」の7件法によって回答を求めた。

2.レット症候群児の手の常同行動に関する事例研究

(1)研究対象・期間

研究対象は14歳(1999年8月現在)の女子である。研究は1999年8月〜9月に実施した。

(2)研究の手続き

(i)刺激の提示方法

本研究ではビデオ画像を編集し、以下の4条件としてそれぞれ4試行ずつ行った。

(ii)手の常同行動の測定方法

手の常同行動を10分間測定(ベースライン)した後、刺激を10分間提示し、その間の常同行動を測定した(測定セッションA)。測定後、提示刺激を消去し、再び10分間の測定時間を設定した(測定セッションB)。
常同行動はVTRに記録し、測定した。

III.結果と考察

1.レット症候群の実態に関する質問紙調査

(1)手の常同行動の実態

手の常同行動の形態については、「手もみ」と「指をしゃぶる」の2つの形態が半数以上のRS児に見られた。その一方で少数ではあるが「腹部を叩く」や「耳を触る」なども見られ、そのバリエーションの多様さを示していた。
手の常同行動を抑制しようと試みた保護者は83.5%であり、その効果については「ない」が74.8%を占め、「ある」と答えた手立ての中で最も多かったのが「副木(添え木)」であった。
しかし、スプリントを用いた指導については、Tutenら(1989)が「手の常同行動を軽減させない」とし、本調査でもスプリントを用いた者の60.9%が効果が「ない」と答え、効果が「ある」と答えた者が同時に「少しの間」「(スプリントを)している間だけしない」と記述している。スプリントによる抑制に依存しない、他のアプローチが必要である。

(2)身体能力

RS児の身体能力について、歩行可能群が53.7%、歩行不可能群が46.3%であった。また、歩行可能群において階段の昇降が可能群と不可能群にほぼ二分できること、歩行不可能群においては座位が不可能ないわゆる寝たきりといわれるRS児が存在することが明らかとなった。

(3)手の操作性

本調査では遠城寺式乳幼児分析的発達検査法の「手の運動」領域を参考に質問項目を作成し、調査をした結果、最小得点は0点、最高得点は15点、平均得点は4.2点(SD=3.2)であり、RSの手の操作能力については全般的には低次にとどまるが、高次の操作能力を維持している者がいるなど多岐にわたっていることが明らかとなった。

(4)年齢、身体能力、手の操作性の関連

年齢、身体能力、手の操作性の関連を見るためにそれぞれをグループ化し、クロス集計を行い、χ2乗検定を行った。その結果、身体能力と手の操作性において0.1%水準で有意差が認められ、歩行可能群が歩行不可能群より手の操作性が高いことが明らかとなった。
年齢と身体能力、年齢と手の操作性との関連については、先行研究とは異なり、加齢による退行は必発ではないということが示唆された。

(5)快・不快場面における手の常同行動の強さ

快・不快場面における手の常同行動の強さに差があるかどうかを確かめるために、ウイルコクスンの符号付順位検定を行ったが、0.1%水準で有意差が認められ、快場面では「ゆるやかになる傾向」にあり、不快場面では「強くなる傾向」にあることが分かった。

(6)感覚刺激の与える影響

質問項目を感覚刺激別に分類した。手の常同行動に変化が起こった割合は、前庭刺激>触刺激>聴覚刺激>視覚刺激であった。特に視覚刺激については変化なしが72.6%を占め、他の感覚刺激に比べその割合は大きかった。

2.レット症候群児の手の常同行動に関する事例研究

(1)視聴覚刺激と手の常同行動との関連

 視覚刺激では減少しなかった手の常同行動の生起数が、刺激量の多少にかかわらず、聴覚刺激を提示することにより減少した。
本研究の対象児の場合は、聴覚刺激を提示することで強固な手の常同行動がゆるやかになり、手を使う試みの可能性を示唆するものとなった。
鳴門教育大学 障害児教育専攻 c井上潤

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