『行動分析は心理学?』の巻

まきこ:先生、先生のホームページみたけど、行動分析ってなに?何だか、全然わからなかったよ。

島 宗:(ムッとして)...どこが分かりにくかった?

まきこ:ぜ・ん・ぶ。

島 宗:(頭に血がのぼるのを感じながら)あれ、渦潮さんは去年、教育心理学ととってなかったけ?。

まきこ:とったよ。でも、あれもわからなかった。先生の専門って何?心理学?

島 宗:そうだよ。

まきこ:フーン。じゃ、行動分析学って教育心理のこと?

島 宗:ていうか、もっと基礎的な学問なんだ。行動分析学を土台にして教育心理もできるし、発達心理も、社会心理も、産業心理も、いろいろできるんだよ。

まきこ:....よくわかんない。

島 宗:いいかい、こう考えてみて。たとえば、お腹の具合が悪くなって医者へ行くだろう。そうするとお医者さんが診察してくれて、薬をだしたりするよね。

まきこ:うん。

島 宗:でも、その薬はその医者がつくった薬じゃなくて、どこかの製薬会社が作ったものだ。

まきこ:...(ちょっと、めんどうになってきたぞという顔で)..うん。

島 宗:その薬が腹痛にきくかどうか、誰かが研究したわけだ。

まきこ:...

島 宗:薬をつくるためには、医学とか薬学とか生物学とか化学の専門家が仕事をしなくちゃならないよね。

まきこ:うん。

島 宗:ぼくは専門じゃないから、よくわからないけど、たとえば、ある化学物質が人間の身体にどんな影響を与えるか、基礎的な知識がないといけないだろ。

まきこ:お医者さんは、そういう基礎的な知識を使っているということ?。

島 宗:そうそう。だけど、そういう基礎的な知識は、腹痛止めの薬をつくるだけじゃなくて、他の薬とか治療、あと、たとえば、食べ物が安全かどうか知るのにも役立つわけだ。

まきこ:なーんだ。基礎的な知識が応用されるってことでしょ。そんなのあたり前じゃん、先生。

島 宗:...心理学についても同じように考えてごらん。医者にあたるのは、たとえば、どういう人かな?。

まきこ:先生みたいな人?心理学者?。

島 宗:そう考える人もいるかもしれないけど、僕はちょっと違う。ほとんどの医者は臨床医といって治療に専念している。彼等の仕事は新しい知識を生みだすことじゃなくて、すでに知られている知識や技術をうまく利用することだ。

まきこ:へぇー。

島 宗:心理学の知識や技術を使って仕事をする人にはどんな人がいる?

まきこ:カウンセラーとか?

島 宗:そうだね。

まきこ:学校の先生?

島 宗:うん。そうあって欲しいところだね。残念ながら、おそらくほとんどの先生たちは、科学的に裏付けされた知識や技術じゃなくて、経験やカンにもとづいて仕事をしてると思うけど...

まきこ:それって、ヤバイんじゃないの。

島 宗:そうだね。医者の世界なら許されないだろうね。でも、この話はまた別の機会にすることにして、話をもとに戻そう。他にどんな職業が考えられる?

まきこ:えーっと、宗教?

島 宗:それもヤバイね(笑)。企業とかはどうかな?

まきこ:テレビ局とか?あと、宣伝とかコマーシャルとか?

島 宗:いいね。

まきこ:あたしのお父さん、会社で若い部下の気持ちがつかめないって、いつもお母さんに愚痴ってるんだ。

島 宗:そうだね。管理職の人たちも、心理学の知識があったら、ずいぶん仕事が楽になるだろうね。

まきこ:へぇー。こうやって考えると、ずいぶんたくさんいるね、先生。

島 宗:なにしろ、人間についての科学だからね。人間を相手にしなくちゃいけない仕事なら、ほとんど心理学の知識が応用できるはずだよ。本当ならね。

まきこ:仕事じゃないけど、母親とかは?

島 宗:どういうこと?。

まきこ:あたし、公園とかで、自分の子どもを怒鳴ってばかりいるお母さんとか見ると、頭にきちゃうんだ。あれダメ、これダメとか。ほとんど、やつあたりって感じ。

島 宗:僕もだよ。

まきこ:でも、行動分析学ってそんなに役に立つの?。

島 宗:さっき、腹痛止めの薬の話をしたよね。新しい薬を考えだすには、いろんな物質が人間の身体に与える影響を知ってないといけなかったよね。

まきこ:うん。

島 宗:それに、腹痛の原因が何で、どうすれば痛みを和らげることができるのか、そんな知識も欲しいよね。

まきこ:うん。

島 宗:心理学ではどうだろう?たとえば、学校でのいじめの問題を考えてみようか?どういう知識が必要かな?

まきこ:いじめっ子がどうしていじめるかとか、どうすればいじめをなくせるかとか?

島 宗:そうだね。どのような環境のときに攻撃行動が起こりやすいか、それから、どのようなときに攻撃行動が増えて、どのようなときに減るのか、そうした、行動と環境との関係の知識があれば、学校の先生も利用できるだろう。

まきこ:じゃ、フラストレーションとか、関係あるんだ。

島 宗:そうだね。関係ある。でも、行動分析学では「フラストレーション」ていう言葉は使わないんだ。

まきこ:どうして?

島 宗:「フラストレーション」っていうと、何を思い浮かべる?

まきこ:えーっと。心の中の、なんだかモヤモヤした気持ちみたいなもの。

島 宗:そうすると、心の中の「モヤモヤ」が原因で、誰かをいじめるということかい?

まきこ:そうじゃないの?

島 宗:もしそうだとして、それなら、どうすればいじめをなくせる?

まきこ:心の中のモヤモヤを減らすとか。

島 宗:どうやって?

まきこ:...わかんない。話をきいてあげるとか?あたしもついこないだまで高校生だったからわかるけど、学校って面白くないのよ。校則とか、やたらえらそーにしてる先生とか。だから、もっと学校を楽しくすればいいのにとかは思うけど...やっぱりわからない。

島 宗:心の中に「フラストレーション」みたいな原因があって、それで行動が起こると考えると、どうしてもいろいろわからなくっちゃうんだ。渦潮さんだけじゃなくて、みんなこの罠にはまる。行動分析学が他の心理学と一番ちがうところは、行動の原因が心の中にあるとは考えないところだよ。

まきこ:うそぉ。だって心理学なんでしょう。

島 宗:行動分析学を始めたスキナーという人は、心理学は「心」の科学ではなくて「行動」の科学であるべきだと主張していたんだ。あまり聞き入れられなかったけど。

まきこ:そりゃそうでしょ。あたしでもわかるわ、そんなこと。

島 宗:最近では、行動分析学があまりに他の心理学とちがうんで、独自に行動学と名のった方がいいとか、むしろ生物学に近いんだ、なんて主張する人たちもいるくらいなんだよ。

まきこ:先生はどう思うの?

島 宗:行動分析学を心理学とみなすか、生物学の一種とみなすか、あるいは独自な行動学とみなすか、それにはあまり興味ないんだ。それより、人間についての基礎的な知識が必要な人たちに、できるだけ、そういう知識を提供することに興味があるね。

まきこ:でも、みんな「心」のことを知りたいのに、「行動」の知識を教えて上げてもしょうがないんじゃないの?

島 宗:痛いとこつくね(苦笑)。確かに、純粋に「心」だけに興味のある人には用なしかもね。でも、人間に興味のある人は、必ずしも「心」だけに興味があるわけじゃないんじゃないかな。

まきこ:どういうこと?

島 宗:たとえば、さっきのいじめの問題にしても。行動分析学なら心の中の「もやもや」の原因をいろいろ考えられる。

まきこ:どういうふうに?

島 宗:校則がいやだと言ってたろう?人間は誰かに強制させられると、それに反抗する行動が動機づけられるとスキナーは言ってる。理由もなく、髪の毛の長さやスカートの丈を強制されれば、それに反抗したり、教師にたてついたりする行動が強化されるわけだ。

まきこ:あるあるある。でも、強化って何?

島 宗:行動の原理の1つだよ。ある行動を繰り返して行うのは、その行動の直後に起こった環境の変化が原因であると考えるんだ。

まきこ:先生、また難しくなった。

島 宗:ごめん、ごめん。たとえば、高校の生徒指導の先生に呼びだされて、髪の毛が長いことで注意されたとするだろう。

まきこ:うん。

島 宗:それですぐに美容院へ行って切ってこい、と言われる。

まきこ:ちょう、むかつく。

島 宗:(笑)それで、君はその先生のことを睨みつける。ちょうどそんな感じで。反抗的な態度だ。

まきこ:やだぁー、先生。

島 宗:そんな反抗的な態度をみたら、生徒指導の先生はなんて言うかな?

まきこ:カッとして「何だその反抗的な眼は!」とか。

島 宗:つまり、先生が強制しようとしたときに、君が反抗的な態度をしたら、先生がそれに反応して怒ったわけだ。ところが、次の日、君は髪を短く切るどころか真っ赤に染めて登校する。

まきこ:まきこ、そんなにひどくないよぉ。

島 宗:まぁ、まぁ、これはたとえ話だから。それで生徒指導の先生に呼びだされて、長い説教。でも、君は相変わらず反抗的な視線。

まきこ:わかった。生徒指導の先生が文句言ったのが、反抗的な視線を強化したっていいたいんでしょう。

島 宗:その通り!わかってるじゃん。でも、もしかしたら君のことは職員室の話題になっていて、君の反抗的な視線も「傷ついた心のメッセージ」とか、「家庭の不和が原因でおった心の傷」とか思われてるかもしれない。

まきこ:やだ。そんなことないよぉ。

まきこ:でも、そういう「強化の原理」が分かっても、役には立たないんじゃない?

島 宗:そう。他にもいろいろな原理が分かってないとね。そうだな、たとえば、いくつかの研究から、人間や動物は選択肢が多い環境を選ぶという結果がでてるんだ。たとえば、君がTシャツを買いにでかけるとする。白にワンポイント入ったのが欲しい。しかも後から考えると、ミニーちゃんの入ったそのTシャツを買うことになる(まきこが着ているTシャツを指さしながら)。それで近くに店が2軒あって、1つにはそのTシャツしか置いてない。もう1つには他にもいろいろ置いてある。君なら、どっちに行きたい?

まきこ:バカみたい、そんなの。いろいろある方に決まってるでしょう。

島 宗:結局は、同じ、そのTシャツを買うのに?

まきこ:そうよ。

島 宗:そうだよね。つまり、選択肢の多い環境の方がより強化的ということになる。

まきこ:....

島 宗:もう少しヒントがいるかな?他の研究ではこんなのもある。勉強させようとすると暴れたり、そっぽを向いたりする子どもに、勉強する課題を自分で選ばせてみる。そうすると、これをやりなさいって与えた課題よりもちゃんとやるんだ。

まきこ:そっか。強制するより、選ばせれば、反抗も少なくなるって言いたいのね。さっさとそう言えばいいのに。だいたい、先生の話はまわりくどいんだから。

島 宗:....

まきこ:そういえば、まきこが中学生のとき、担任の先生が、すっごい、いい先生で、あたしたちのやりたいようにやらせてくれたんだ。服とか、アクセサリーとかも、あんまりうるさくなくて、ただ、「どういう格好が自分らしいか、それを考えて自分で工夫してごらん」とか言われてた。まぁ、あんまり悪い子もいなかったけど、みんな反抗はしてなかったなぁ。あの先生、行動分析学のこと知ってたのかしら。

島 宗:さぁどうだろう。でも、行動の原理っていうのは、我々の日常生活に満ちあふれてるわけだから、観察力があって、物事を論理的に考えられる人だったら、行動分析学を知らなくても、ある程度、察しがつくんじゃないかな。

まきこ:だけど、それなら、わざわざ研究することないんじゃない?

島 宗:またまた厳しいつっこみだね。そーだ。最近、読んだ本*に、面白い比喩がのってたんだ。

まきこ:ヒユってなんだっけ?

島 宗:たとえ話のことだよ。えっと、ここ、ここ(本を開きながら)、昔の人が雨ごいのために火を燃やしたの知ってる?

まきこ:うん。伝説でしょう。

島 宗:...迷信っていいたいのかな...いや、そうでもないらしい。真偽は僕にもわからないけど、まぁ比喩だからいいだろう。火を大量に燃やすと煙が空に登るだろう。そうすると、煙の中のほこりが雨粒をつくる中心となるから、湿り気が十分にあれば、雨を降りやすくさせるくらいの効果はあるらしい。

まきこ:へぇ。

島 宗:ところが、昔の人は、それを神様のせいだと思いこんでいたわけだ。火をたいて神様へ願いを届けるとね。

まきこ:今でも信じてる人、いそうだけど。

島 宗:(無視して)雨の降る原理は昔も今も変わらない。そして、原理を正確に知っていなくても、経験や勘から、ある程度原理を応用した実践をすることはできる。

まきこ:うん。

島 宗:ところが、原理を詳しく知っていれば、より正確に、確実に、そして効率的に原理を働かせることができる。たとえば、雨の場合、「沃化銀」ってのを空中にまき散らすといいんだって。

まきこ:へぇーっ。つまり、あたしの中学のときの担任も、経験や勘だけじゃなくて、行動分析学を勉強してたら、もっといい先生になってた、そう言いたいの?

島 宗:「いい先生」かどうかは分からないけどね。自分がやってることはこういうことなんだっていう納得とか、今度はこうしてみようっていう閃きがでてくるとは思うよ。

まきこ:まきこも、もう少し勉強してみようかな。行動分析学。

島 宗:そうだな。僕のホームページに日本語で読める行動分析学の図書が紹介してあるから、どれか1冊読んでみたら?

まきこ:はーい。

*新行動主義の教育方法論 竹田清夫著 明治図書