教師教育における実践的思考とコミュニケーション:
教員採用試験の準備を支援するトレーニング・プログラムの研究開発 -1-

島宗 理 ・ 三宮真智子 ・ 森田 裕介

[抄 録]

 近年の教員採用試験では、知識よりも人物や実践力を重視しようとする方針から、模擬授業や集団面接などを取り入れる都道府県市が増えている。筆記試験や小論文でも、学校現場で実際に起こりうる具体的な問題について論述させるなど、候補者の実践的な思考やコミュニケーションの技能が問われることが多くなっている。我々、教育工学分野では、かねてから教師の思考やコミュニケーションに着目し、これらの力量をトレーニングするプログラムを開発してきた。本論文では、平成10年度に実施した、教員採用試験の準備を支援するプロジェクトについて報告する。

キーワード:実践的思考、コミュニケーション、教員採用試験、教師教育、個人面接、小論文



I. はじめに

 少子化による教員採用数の減少と、不況による一般企業への就職の減少により、教員への道はますます厳しくなっている(山崎, 1998)。都道府県によっては、新規学卒者は採用しないと公言するところもあるという(前島, 1983)。図1に見られるように、教員採用数は平成4年より減り続け、逆に受験者数は平成5年より増え続けている。競争率の上昇は、新規学卒受験者には特に厳しく、平成10年度には就職率が8.5%と史上最低を記録した。こうした状況は、教員を志望する学生のあきらめ感につながったり、反対に、大学での授業や研究を犠牲にしてでも採用試験の準備に取り組んだり、取得免許数を増やそうとして多数の授業を履修するなど、様々な弊害を生んでいると言われる(岩下, 1982)。


図1 過去10年間の教員採用試験受験者・採用者の全国総数
(教育委員会月報 10.10 に掲載された小学校教員のデータを元に著者が作成した)

 文部省は少子化対策、そして財政改革の一貫として、教育学部などの学生定員を全国で5000人削減する計画を打ち出し、すでに実行に移している。教員養成を教育学部や教員養成大学のみには頼らないという、いわゆる開放性の原則を保持したままでは、このような供給コントロールは効力を持たないと批判する意見もある(全国大学高専教職員組合, 1998)。しかしながら、個々の大学には需要数と供給数を自由に変える権限はない。本来ならば、地域ごとに教育委員会や大学が連携して望ましい教師像を打ち立て、養成プログラムと評価方法、採用基準や選抜手続きなどを、共同で開発していくことが理想的である。残念なことに、現状では、こうした共同体制は未整備だと言わざるを得ないだろう。従って、現時点で大学にできることは、社会や学校が望むであろう教師像をできるだけ正確に把握し、そのような人材を育成、輩出することにある。
 教員を採用する側は、どんな教師を望んでいるだろうか。天笠(1996)は、1987年に教職員養成審議会が『教員の資質能力の向上方策などについて』という答申を出した頃から、評価の視点が、従来の知識や教養から実践的な指導力へと転換したこと、さらにその後の傾向として、人柄や性格などに関心が移行したことを指摘している。この傾向は、天笠が指摘するように、文部省が発足させた教員採用等に関する調査研究協力者会議の審議結果にも反映されている。そこでは“人物重視の採用、教育実習の評価・ボランティア活動・「一芸」などの重視、面接試験・実技試験の工夫など、教員採用の一層の多様化と具体化”(天笠, 1996, Pp. 61-62)が提唱されているからだ。
 知識や一般教養だけでなく、実践的指導力や人柄を評価して選考しようとする傾向は、教員採用試験の試験方法や問題の変化としても読みとれる。たとえば、平成11年度に教員採用試験を実施する59の都道府県や市町村の内、36が模擬授業を実施する予定である。中には、鳥取、大分、鹿児島のように、パソコンの実技をテストするところもある(教育委員会月報, 1999)。筆記試験にも、図2-aの従来型の問題以外に、図2-bのような、実践的で問題解決的な思考を必要とする問題も多く見られるようになっている。さらには小論文でも、図3のように極めて現実的な問題解決について考えさせる課題が増えているようである。

-a-

1から100までの整数のうち4の倍数はいくつあるか。また、その総和を求めなさい。

-b-

3/5と2/3の比較ができない子どもをどう指導するか、具体的に述べよ。

図2 専門教養の問題例。月刊教職課程99年4月臨時増刊号より抜粋。

・最近の児童生徒による問題行動の状況は、大きな社会問題になっている。あなたはこのことをどのように考え、教育の場でどのように取り組みをしたいか述べなさい。

・「学校は何をするところか」という読売新聞の調査結果を見て、あなたは何を重視して指導していくか。「理想と現実」をふまえて900字以内で述べよ。

・A教諭が担任しているクラスには、1時間目から居眠りしている子どもがいる。朝食を食べてこない子どもも多いらしい。規則正しい生活をするように、保護者には学級通信で呼びかけ、子どもにも指導をしたが、あまり効果がない。共働きの家庭も多く、両親が夜遅く帰宅するため、子どもの生活が不規則になるという、やむをえない事情もあるようです。あなたがA教諭なら具体的にどのような指導をしますか? 800字程度で述べなさい。

図3 小論文の課題例。月刊教職課程99年4月臨時増刊号より抜粋。

 かねてより、学校教育研究センター・教育工学分野では、教師に必要不可欠な力量として、実践的思考、コミュニケーション、そしてコラボレーションの3つに着目し、これらを育成するトレーニング・プログラムを研究開発してきた(三宮, 1990,1995)。実践的思考とは、学級経営や生徒指導、問題行動や学習障害への対処も含め、学校で生じる様々な問題に、合理的に取り組み、解決策を導き出すための思考である。こうした問題には、多くの場合、人間の認知や感情、行動が関わっているため、心理学の知識は欠かせない。そして教科書的な知識だけではなく、心理学の知見を問題解決に活かすための応用的な思考力が必要になる。さらに解決策を実行に移すためには、物事をわかりやすく伝えるためのコミュニケーションの技能、他の人や組織と協力して解決策を実行するコラボレーションの技能が重要になる。
 上述した、教員採用試験の形式や内容の変化を分析してみると、そこで評価されようとしている力量は、我々、教育工学分野が着目してきた3つの力量と合致しているように思われる。そこで我々は、分野の教育研究活動の一環として、こうした力を育成するトレーニング・プログラムを、教員採用試験の準備を支援する講習会として開発することにした。本論文では、平成10年度に、第一著者が中心となって進めたプロジェクトについて報告する。プロジェクトは開発の初期段階であり、トレーニングの対象とすべき行動は何か、どんな方法が有効か、実施の際に問題となる点は何か、その対策としてはどんなことが考えられるかなどを明らかにしようとした。


II. トレーニング・プログラム

(1) 説明会と参加者

 プロジェクトは平成10年1月より開始した。初めに説明会を開催し、プロジェクトの主旨と、提供されるトレーニング・プログラムの概略を説明した。特に、プロジェクトの目的は研究開発であり合格を保証するものではないこと、試験には必要ではないデータを取ることもあること、データはプライバシーを秘匿の上、論文や研究発表などで公表されることがあること、参加はあくまで自由意志に基づき、いつでも辞退できること、を強調した。同意書(資料を参照)の内容を承諾し、参加の意志を示したのは18名(女子17名、男子1名、開始当時はすべて学部3年生)であった。参加の意志を示した学生には、志望先や校種、現在の試験勉強の状況などについてアンケートを実施した。

(2) 週間ミーティングとパフォーマンス・フィードバック

 参加者は、各自、週に1回、15分から30分程度、インストラクターである第一著者とミーティングを行った。最初のミーティングでは、インストラクターと参加者の合意により、毎週何時間を教員採用試験の準備に充てるかを決定した。そして、この目標時間の中で、プロジェクトの課題(小論文の執筆など)と、参加者それぞれの試験勉強(参考書や問題集など)を進めるように計画した。以降、週間ミーティングでは、毎週、前の週の予定がどれだけ完了したかを確認し、次の週の予定を立てた。
 図4に予定表の記入例を示す。『計画』の欄には、その課題にどれだけ時間をかけるか見積時間をポイント数で記入した。『実績』の欄には、『計画』のポイント数から、その課題が完了した割合だけ概算して記入した。例えば、800字の小論文を2時間かけて書こうと見積もったならば計画ポイントは2になる。小論文を完成させ、提出すれば、実績ポイントも2になる。小論文が全く完了しておらず、提出できなければ、実績ポイントは0になる。また、数学の問題集10ページを5時間かけて行おうとすれば、計画ポイントは5になる。これが5ページしか進められなければ、実績ポイントは5ポイントの半分の2.5ポイントになる。『時間』の欄には、各作業にどれだけ時間をかけたか、実際の作業時間を記入した。『計画』、『実績』、『時間』ポイントについては、毎週、集計と累計を計算させ、そこからその週の達成率(実績週計÷計画週計×100)と累積の達成率(実績累計÷計画累計×100)を計算させた。

図4 週間ミーティングで用いた予定表の記入例。

 週間ミーティングの主な目的は、参加者が計画通りに試験勉強を進められるように支援することにあった。説明会終了後に回収したアンケートからは、ほとんどの参加者が、勉強すべきと考える時間ほど勉強できていないことが明らかであった。週間ミーティングで実施した、予定表による目標設定と達成度の確認は、パフォーマンス・フィードバックと呼ばれ、学生や院生の学習行動のマネジメントに効果があることが示されている(Dillon, & Malott, 1981; Garcia, Malott, & Brethower, 1988)。プロジェクトに最後まで参加した学生は14人おり(4名は途中で参加を辞退)、それぞれ最終的な累積の達成率は、86%、98%、67%、67%、89%、90%、57%、75%、98%、65%、84%、77%、81%、75%であった。達成率の低かった参加者については、図5のような折れ線グラフを作成させ、視覚的なフィードバックも与えるようにした。これにより図5-aのように一時的な効果を示す場合もあったが、ほとんどの場合では図5-bのようにグラフ作成だけでは達成率に大きな変化は見られなかった。ただし、これらの参加者は、週の計画ポイントをあらかじめ多めに設定していたので(例えば25時間/週など)、達成率が低くても実際の学習時間(予定表の『時間』ポイント)は、プロジェクト参加前よりも増加していた。このため、これ以上の介入は実施しなかった。

- a -

- b -

図5 達成率の折れ線グラフの記入例。

 個別の週間ミーティングを主軸としたパフォーマンス・フィードバックは、後述するように参加者からの評価も高く、参加者の学習時間を確保するにも一定の効果を上げたようである。しかしながら、この方法は、インストラクターにかかる負担が大きく、費用効果(cost effectiveness)の点では問題がある。

(3) 個人面接のトレーニング

 個人面接の予備練習として、まず、週間ミーティング中に、参加者に2分間の自己アピールを果たした。これをビデオカメラで撮影し、後に観察して、参加者に共通する改善点をいくつか抽出し、チェックリストを作成した(図6)。後日、週間ミーティングとは別の時間に、希望する参加者を募り、個人面接を集中してトレーニングする講習会を開催した。



評定項目 着眼点 評 定
(○,△,×)
気づいたこと
(1) 服装や態度
[服装や応答の態度]
服装が適切
姿勢がよい(背を伸ばし、前を見る)
表情は明るく、好ましい印象
落ちついている
てきぱきしている
応答態度がまじめ
(2) 表現力
[自分の考えをわかりやすく説明できるか]
話すことに統一性がある
話がわかりやすい
用語が表現が適切
音声が明瞭
流暢に話す(「あー」「えっーと」)
(3) 判断力
[質問を正しく速く理解し、適切な判断が下せるか]
質問を正しく理解している
質問を素早く理解している
質問に対する答えが適切である
質問に対する答えが明確である
(4) 積極性
[自ら進んで、効率的に仕事をしていく意志があるか]
活気がある
実行力がある
他人がいやがる仕事でも引き受けそう
困難な状況も克服できそう
(5) 堅実性
[責任感が強く誠実で信頼できる人物か]
自信をもっている
意志が強そう
誠実である
信頼しうる人物である

図6 個人面接のトレーニングで使用したチェックリスト

 講習会では、個人面接を実施する理由や、個人面接を通して何を評価しようとしているかを、受験者ではなく採用者の立場から参加者に考えさせた。そして、用意したチェックリストの項目に参加者それぞれが考えた項目を追加させた。次に、ビデオカメラで撮影しながら、2分間の自己アピールを順番に行い、全員でビデオを観察しながら、良かったと思う点、改善すべき点を具体的に話し合った。そして、2人組に分かれて、各組数回練習した後で、もう一度参加者全員の前で自己アピールを行った。
 講習会終了後も、週間ミーティングにおいて継続的に個人面接の練習を行った。課題としては、鳴門教育大学就職委員会が作成した資料から図7の質問リストを作成し、使用した。参加者には、次週にどの質問をするかは予告せず、毎回、新しい質問項目を使って練習させた。

・あなたはなぜ教師になりたいのですか?
・あなたはどのような教師になりたいですか?
・今までの子どもたちとの関わりの中で、最も印象に残っている体験について話して下さい。
・生命と健康の大切さについて、今までに最も印象に残っていることは何ですか?
・大学生活の中で、先生、友人、知人などとの友人関係を通して学んだことは何ですか?
・大学で学んだり、研究したりしたなかで、印象に残っていることは何ですか?
・教師の子どもに対する「わいせつ行為」が問題になりましたが、あなたはこのことについてどのように考えますか?
・学校教育を進める上で、保護者や地域との連携が重要であると言われています。あなたはこのことについてどのように考えますか?
・子どもたちの間に無気力、無関心、無感動のいわゆる三無主義が広がりつつあるとの指摘があります。あなたはこのことについてどのように考えますか?
・あなたは週五日制についてどのように考えますか?またこのことについて子どもたちにどのような指導が必要と思いますか?
・あなたが学級担任として給食の指導をするとき、どのようなことに配慮しますか?
・あなたは学級で座席替え、班分けをするとき、どのようなことに配慮しますか?
・学習指導において、個性重視の重要性が指摘されています。あなたはこのことについてどのように考え、どのように指導を進めますか?
・学校では教科の指導内容が多すぎるとの指摘があります。あなたはこのことについてどのように考え、どのように進めますか?
・学校で服装の自由化が論議され、一部では進みつつありますが、あなたはこのことについてどう考えますか?
・子どもから算数の授業がわからないとの相談がありました。あなたはこのとき、どのように指導しますか?
・あなたの担任する学級で、多くの子どもが一人の子どもを無視するといういじめがあったとします。このことについてどう考え、どう指導しますか?
・あなたの学級にいじめが原因で不登校になった子どもがいたとします。このことについてどう考え、どう指導しますか?
・同和対象地区の学習会の意義について、あなたはどのように考えていますか?
・同和教育は教育の中核と言われていますが、あなたはこのことについてどう考えますか?
・情報化が進むなかで、情報教育の重要性が指摘されています。このことについてどう考え、どのように進めますか?
・国際化が進むなかで、国際理解教育の重要性が指摘されています。このことについてどう考え、どのように進めますか?
・今、福祉教育の重要性が指摘されています。あなたはこのことについてどのように考え、どのように進めますか?
・心身に障害を持つ子どもが生き生きとした学校生活を送れるために、あなたは何が大切だと考えますか?

図7 個人面接のトレーニングで使用した質問。

 図6のチェックリストの項目の内、姿勢や表情、視線や声の大きさについては、こうした練習で大きな改善が見られることがわかった。しかし、自己アピールや質問に対する答えの内容に関しては、話が一貫しない、抽象的で印象に残らない、全体的に筋が通らずわかりにくいなどの問題点が残った。自分の考えを短時間でまとめ、相手にわかりやすく伝えるというコミュニケーションの技能に改善の余地が認められた。さらに、「週五日制」や「三無主義」、「情報化」、「国際化」など、教員採用試験で頻出する用語については、辞書的な意味はわかっても、こうした概念や制度について、自分の意見をまとめたことは少ないようで、言葉に詰まったり、「わかりません」と諦める参加者も多かった。用語の意味を暗記するだけでなく、それらについての自分の考えをまとめるトレーニングを行う必要性が感じられた。

(4) 小論文執筆のトレーニング

 新聞記事の切り抜きを与え、それに関する自分の意見を800字以内でまとめるという課題を、原則として毎週与えた。しかしながら、ほとんどの参加者がこの課題の遂行に困難を示した。達成率は低く(先延ばしにしやすい)、時間も計画以上にかかっていた(3〜4時間)。実際の教員採用試験では800字前後の字数制限を課すことが多く、制限時間は60分程度である。短時間で自分の考えをまとめ、わかりやすく書くという技能が身についていないこと、さらには、多くの参加者に、作文に対する苦手意識があることが明らかになった。
 参加者の書いた作文を分析し、おかしやすい誤りをまとめ、これらを予防するためのチェックリストと教材を作成し、希望者に対して講習会を行った。チェックリストは誤字脱字など機械的な誤りをチェックするもの(図8)と、論旨のわかり易さや説得力などを含め、全体的に評価するもの(図9)の2種類を用意した。教材は、奥秋(1993)の一部を使い、特に第5章の次の7点を強調した: “(a) 首尾一貫した文章を書く、(b) 文体を統一する、(c) センテンスは短く、(d) 論旨を展開させる、(e) 「私」を使い過ぎるな、(f) 手垢にまみれた言葉を使うな、(g) 体言止めはしない”(Pp. 330-340)。 

1.誤字・脱字、表現や言葉の誤用
(1)誤字脱字
   W111:漢字の間違い    W113:漢字で表記すべき  W115:表記を統一すべき
   W112:送りがな      W114:かな/カナで表記すべき  
(2)語句の誤用
   W121:表現の間違い 
   W122:専門用語の間違い
   W123:専門用語の説明不足
   W124:不必要に難しい語句や表現の使用
(3)文体
   W131:「である調」でない W135:「思う・考える」の多用
   W132:口語表現      W136:手垢のついた表現
   W133:同じ言葉の繰り返し W137:「〜ということ」の多用
   W134:体言止めの多用

2.格助詞や接続詞の使い方や主語と述語の一致など
(1)格助詞
   W211:「てにをは」の誤用
(2)接続詞
   W221:接続詞の誤用で論理展開が矛盾
(3)不整文脈
   W231:文の前半と後半で主語・述語の関係が対応していない W232:その他の不整文脈
(4)指示代名詞
   W241:指示代名詞が何を指しているか不明瞭
   W242:指示代名詞の使いすぎ

3.文意の不明確さ
   W311:意図の説明不足   W315:形容詞などがどこを形容しているか不明
   W312:二重否定      W316:「私にはわからない」「〜だろうか」など婉曲すぎる
   W313:疑問文による婉曲表現W315:削除しても文意が通る
   W314:一文が長すぎる

4.句読点や括弧、段落などについて
(1)句読点
   W411:よけいな読点
   W412:必要な読点の抜け
(2)段落
   W421:段落を変えなくてもいいところで変えている
   W422:段落を変えなくてはならないところで変えていない
(3)記号など
   W511:括弧や記号などの誤用

図8 小論文のチェックリスト(機械的なエラーの指摘)


執筆者名:                  課題番号:         
                         
評定者名:                  総合評価:        
                  (1:劣っている〜5:優れている)
1.内容について

評定項目 評  価
論旨はわかりやすいか? たいへん
わかりにくい
わかり
にくい
わかる わかり
やすい
たいへん
わかりやすい
  ├──────┼──────┼─────┼─────┤
論旨は出題者の意図にそっているか? まったく
的はずれ
少し
的はずれ
関連が
ある
的をえている たいへん
的をえている
  ├──────┼──────┼─────┼─────┤
論旨に説得力があるか? まったくない あまりない どちらとも
いえない
ある たいへん
ある
  ├──────┼──────┼─────┼─────┤
  

2.文章について

評定項目 評  価
意味がわかりにくい文が たいへん
多い
多い 少ない ほとんど
ない
みあたらない
  ├──────┼──────┼─────┼─────┤
誤字・脱字、表現や語句の誤用、格助詞や接続詞の間違いなどは? たいへん
多い
多い 少ない ほとんど
ない
みあたらない
  ├──────┼──────┼─────┼─────┤
句読点や括弧の使い方の間違い、段落を変えるときの改行や文字あけなどの間違いは? たいへん
多い
多い 少ない ほとんど
ない
みあたらない
  ├──────┼──────┼─────┼─────┤

  図9 小論文のチェックリスト(全体的な評価)。

 講習会では、参加者が事前に提出した作文から例文を2つ選び、教材の一部として使用した。まず、例文の1つを全員で読み、各自に校正させた。次に、教材とチェックリストを説明し、それを元にもう一度、同じ作文を校正させた。最後にもう1つの例文について、各自チェックリストを使って校正させ、その結果について話し合った。そして、これまでに自分が提出した作文を一つ選んで、それを書き直して再提出することが、次回の週間ミーティングまでの課題となった。
 他の参加者が書いた作文を校正する作業は、自分で書いた作文を校正するよりも易しいようで、多くの参加者が、教材を使って解説する前に、例文の改善点の大部分を指摘することができた。そして校正作業はチェックリストを使うことでさらに促進された。
 参加者が再提出した作文と以前に提出してあった作文とを比較することで、講習会の効果が確認できた。図10は、図9のチェックリストを使って、第一著者が事前・事後の作文を評価したものである。各項目を5点満点とし、6項目の平均点を計算した。

 講習会の効果は確認できたが、小論文の執筆には相変わらず時間がかかり、提出された論文の完成度も、それほど高いとは言えなかった。特に、内容に関しては、個人面接と同様の問題点が観察された。すなわち、論文内で主張が一貫していないことがあり、抽象的で印象に残らず、全体的に筋が通らずわかりにくいという傾向があった。800字程度の作文では、いくつもの主張を立て、論拠を述べるのは困難である。自分の主張に優先順位を付け、最も高いもの1つか2つのみを論旨として選択し、それを掘り下げて、論旨を明確にするトレーニングが必要だと思われた。

(5) 参加者による評価

 トレーニング・プログラムは、平成10年7月、教員採用試験が始まる前に終了した。その後、8月から9月にかけて、参加者が受験を終了した後に、プログラムに関する感想や意見を無記名のアンケート形式で回収した(9名のみ)。
 アンケートによれば、8名の参加者が「週間ミーティングによって強制的に勉強させられた」と感じながらも、これを「とても役に立った」(4名)、あるいは「かなり役に立った」(2名)と評定していた。また、ミーティングの回数については、全員が週1回が望ましいと答えていた。さらに、ミーティングを行う単位としては、個人とインストラクター(4名)、少人数の友人とインストラクター(3名)(ただし、内2名はインストラクターとの個別ミーティングも希望)、集団でのミーティング(1名)を望ましいとしていた。
 個人面接のトレーニングについては、「とても役に立った」が3名、「かなり役に立った」が4名、「あまり役に立たなかった」が2名であった。改善案として、「練習の回数を増やす」、「他にも色々な人に見てもらい、意見をもらう」、「お手本のビデオを用意する」などの意見が上げられた。
 小論文執筆のトレーニングについては、「とても役に立った」が3名、「かなり役に立った」が4名、「あまり役に立たなかった」が1名であった。改善案として、「もっと頻繁に添削して欲しい」、「提出から添削までの時間を短くして欲しい」、「よく書けている論文の見本が欲しい」などの意見が上げられた。

III. 今後の課題

 本研究では、教員採用試験の準備を支援するプロジェクトにおいて、学生の勉強時間確保を支援する週間ミーティング、個人面接のトレーニング、そして小論文作成のトレーニングを実施した。その結果、以下の共通する課題が浮かび上がった。

(1) 自分で考える力

 小論文でも、筆記試験でも、また個人面接においても、最近の教員採用試験では、学校における問題や制度について、受験者個人の意見や考え方を求めることが多くなっている。事実や他者の意見を単に暗記していたのでは、回答できない問題が出題されるようになっている。この場合、まずは知識や教養として、事実や他者の意見に熟知していること、そしてその上で、自分の意見を短時間でまとめるという技能が必要になる。
 個人面接や小論文執筆のトレーニングを通して見えてきたのは、この両方に改善の余地があるということである。本プロジェクトは、単位などの見返りもなく、半年以上継続した。それから推測すると、おそらく、最後まで参加したのは平均以上の学力とやる気を有した学生であろう。それにも関わらず、「週五日制」や「三無主義」、「情報化」、「国際化」などの用語について、「何となく知っている」とか「授業で聞いたことがある」程度の知識しか持っていないことが度々あった。さらには、こうした用語の辞書的な意味はわかっても、自分なりの考えをまとめるという作業には慣れていないという学生が多かった。
 教育問題に関して自分で考える力を育成するためには、まずは知識としての用語の理解を深め、さらに自分の意見を短時間でまとめるという演習を繰り返す必要があるだろう。

(2) わかりやすく説明する力

 筆記試験の論述問題でも小論文でも、課題について自分の考えをまとめた後は、それを相手にわかりやすく書き表さなければならない。また、個人面接の質疑応答では、自分の考えを相手にわかりやすく話さなければならない。個人面接や小論文執筆のトレーニングでは、学生のこうしたコミニュケーション技能に大きな改善の余地が見られた。
 インフォーマルな観察から推測すると、学生は、読み手や聞き手の立場に立って、自分の文章や口頭での受け答えを評価するのが苦手なようである。他の参加者の書いた小論文を読んだり、個人面接の応答を見て、具体的な示唆を与えることは可能であるので、これは、自分の説明をリアルタイムで観察し、修正を加えていく、いわゆるメタ認知的モニタリングの機能の問題だと思われる。短い文章をたくさん書かせ、その都度、わかりやすさについてフィードバックするなどして、メタ認知的モニタリングを直接にトレーニングする必要があるだろう。

(3) 問題解決のための心理学

 教員採用試験全体を通して、いじめ、不登校、学業不振、非行など、児童・生徒の行動的な問題の解決策を問う問題が増えている。図2、図3はそのほんの一例である。個人面接トレーニングの質疑応答や小論文の内容を見ると、参加者の学生のほとんどが、こうした問題解決に心理学の知識を全く利用していないことに気がつく。今回の参加者には、心理学専攻が含まれていないからかもしれないが、教員という職業が人間行動の専門家であることを考えると、ここにも改善の余地がありそうである。
 教員採用試験では、教職教養のサブカテゴリーとして、教育心理学の問題が出題されることが多い。しかしながら、問題集をみた限りでは、用語を暗記していれば回答できる、従来型の問題が大多数を占めている。本来は、心理学を学ぶことで、教育問題に対する様々な解決策が考案できるようでなくてはならない。そのようなトレーニングの開発が求められる。

(4) 費用効果について

 参加者の意見にもあったように、たとえば小論文の添削のように、トレーニングによっては、インストラクターによるフィードバックの頻度や早さ、内容の濃さが重要になってくる。しかしながら、これらの要素は、大抵、インストラクターへの負荷を過重にするものである。個別の週間ミーティングも時間的な負荷が大きい方法であり、参加者数が増大した場合には対応しけれなくなるだろう。プログラム全体で、インストラクターにかかる負荷を軽減しつつ、トレーニングの効果を上げる工夫が必要である。

(5) 教員養成と教員採用について

 最後に、教員採用試験と教師教育について、誤解のないように我々の立場を明らかにしておきたい。我々は、現在の教員採用試験の在り方をすべて肯定し、これに学生を合格させることを唯一の目的として本プロジェクトを遂行しているわけではない。現在の教員採用試験には、採点や評価基準などの手続きが不透明であること、試験の妥当性が不明であることなど、問題も多く見受けられる。また、最近の非常に高い競争率によって、教職志望の学生が最初からあきらめ感を持ったり、逆に、大学での研究よりも試験勉強を優先させたりする現状には憂慮している。最初に述べたように、理想的には、教員を採用する側(教育委員会や学校)と養成する側(大学)とが連携を取り、教師に必要な力量について合意した上で、そうした力量の形成を大学が行い、その成果が教員採用試験で測定されることが望ましい。
 このような理想的な連携がとれていない現状を認識した上で、我々は、教師に必要な力量として、実践的思考、コミュニケーション、コラボレーションの3つを掲げ、これらを育成するトレーニング・プログラムを研究開発している次第である。そして幸運なことに、と言うより必然的に、教員採用試験でも、こうした技能が評価されるようになってきている。ただし、こうした技能を客観的に評価することは難しい。客観的な筆記試験に加えて、面接や模擬授業、その他の実技試験を重視することで、本当に学校に必要な人材を採用することにつながるとも考えられる。しかし、技能重視のテストの導入が選考手続きに不透明さをもたらすことも望ましくない。トレーニング・プログラムの開発と平行して、こうした技能をできるだけ客観的に評価するための手続きを併せて開発することが、今後の課題の1つであろう。
 


注 釈

(1) 本研究の一部は、日本心理学会第41回総会(1999年)において発表された。



引用文献

天笠 茂 1996  教員採用選考における能力・適性の評価 佐藤 全・坂本孝徳(編)教員に求められる力量と評価《日本と諸外国》-公立学校の教員はどこまで評価できるか- 東洋館出版社 Pp. 57-71.

Dillon, M. J., & Malott, R. W. 1981 Supervising masters theses and doctoral dissertations. Teaching of Psychology, 8, 195-202.

Garcia, M. E., Malott, R. W., & Brethower, D. 1988 A system of thesis and dissertation supervisoin: Helping graduate students succeed. Teaching of Psychology, 15, 186-191.

岩下新太郎 1982 教員養成制度の現状と課題 須田勇・小林哲也(編) 教員養成を考える 剄草書房

教育委員会月報 1998.12 平成10年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について 文部省初等中等教育局地方課

前島康男 1983 臨時的任用教師の実体と問題 長尾十三二(編) 教師教育の課題-すぐれた教師を育てるために- 明治図書 Pp.179-190.

奥秋義信 1993 日本語の文章術−小論文からビジネス文まで− 創拓社

三宮真智子 1990 教師の研究能力を高めるための思考訓練コースの開発−教育情報基礎演習 思考訓練コース− 鳴門教育大学学校教育研究センター・テクニカルレポート, No.13.

三宮真智子 1995 メタ認知を促すコミュニケーション演習の試み「討論編」-教育実習事前指導としての教育工学演習から- 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要, 9,53-61.

山崎博敏 1998 教員採用の過去と未来 玉川大学出版部

全国大学高専教職員組合 1998 教員養成系大学・学部学生5000人削減問題に関する「政策的論点整理」http://210.165.20.3/~fuj/teigen/kyouinyousei/mokuji.htm より


資料1 講習会の参加同意書

同 意 書

 この度は「教員採用試験の準備を支援する自己学習プロジェクト」に参加を表明していただき、たいへんありがとうございます。このプロジェクトの目的は、教員採用試験の準備をお手伝いしながら、教師として必要な力とは何か、そしてそれを育成するにはどうしたらいいかを明らかにすることにあります。

[参加・不参加・辞退の自由について]
 現時点では、別紙の「プログラム一覧」に記載された5つのトレーニングを計画中です。皆さんは、この中のどれにでも参加することができます。プログラムへの参加は強制的ではありません。何らかの理由により途中で参加を止めたくなった場合には、そのように申し出てください。

[研究上の制約について]
 このプロジェクトはあくまでも研究の一貫であることをご理解下さい。各プログラムはまだ開発段階であり、必ずしもベストのトレーニングを提供しうるものではないかもしれません。また、プログラムの効果を実証的に検討するため、時には研究のためにしか必要のない、余分なデータをとることもあります(たとえば、トレーニングの効果を検討するための事前事後テストなど)。プログラムに参加する場合には、この点をご理解の上、ご参加下さい。

[プライバシーの保護について]
 皆さんのプライバシーを保護するため、このプロジェクトで収集したデータを学会や論文などで発表する場合には、個人情報(氏名や学生番号など)は一切秘匿し、個別的なデータを公開する場合にも、それが誰のデータであるか決してわからないようにコードを使って表します。また、たとえばビデオ教材の作成に皆さん自身のパフォーマンスを撮影したビデオテープを使うときなどは、あらかじめ許可をとるようにします。もちろん皆さんにはこれを断る権利があります。

[研究成果のフィードバックについて]
 このプロジェクトによる研究の進展や成果について、質問があればいつでも受け付けます。また、研究成果を公開するさいには、論文の抜刷りなど、各種資料を皆さんのご希望にそくして配布します。

 この同意書をよく読んで、プログラムに参加することを決めたら、下に署名、捺印して提出して下さい。この書類の提出をもって、皆さんが自主的に、この同意書の内容を理解して合意し、このプロジェクトに参加するものとみなします。

氏 名:            印     日 付:   /  /   

*この同意書の内容についての質問は島宗(セ304、内602)まで。