Colerain Elementary Schoolは1975年から統合教育を進めてきた学校で、K(幼稚園)から5年生までの6クラス。児童は現在186人で、このうちほぼ半数が何らかの障害をもっている。21人の教師に加えて、6人の専属OT/PT(occupational therapist / physical therapist)、2人のスピーチセラピスト、1人の養護士のスタッフをかかえる。「統合学校」として改組されてからの最初の8年間は「統合」の考え方が地域に受け入れられず、健常児の保護者が子どもを私立へ入学/転向させたりしたそうだが、今では停年退職した地域の人たちがボランティアに来るほど関係が改善されたそうだ。この学校ではOSUから教育実習の学生(M.Ed.)を常時8人前後引き受けており、それぞれの学生が毎週4時間やってくる。また、特殊教育コースの学部1年生は最初のクオーターに「スクールツアー」と称して、毎週1回、全部で9回、協力校を見学するようになっているが、このツアーの1つにもなっている。建物に入ると、廊下には車椅子にのった子どもが5、6人、そして一緒に健常児(と思われる)子どもが、次のクラスへと移動してる。教室にも案内してもらったが、すべての教室に障害児と健常児が混在していた。この学校の校長であるDauterman先生とお話しした。とても感じの良い女性である。
21人の教師のうち修士号を持っているのは18人。統合教育を進めるためには、通常学級の教師は障害児について、特殊教育の教師は通常学級についての知識が必要不可欠であり、「すべての教師に修士号を」というオハイオ州の政策には賛成である。また、分権化によって、教員の採用を学校が行えるようになったことも歓迎している。Colerainでは、校長、教師3人、保護者代表2人(!!)の6人からなる人事委員会を設置してインタビューを行う。教育委員会が「勝手に」選んだ教員が学校に配置され、ミスマッチすることが避けられるのでよい。特に教師3人からは、教育委員会の人事より厳しいかもしれないと思われるほど質問がでるそうだが、そのぶん学校の方針や教育方法にあった人材が採用される。
ほとんどの教員はMAを取得しているのみもかかわらず、OSUなどの大学で授業を履修したり、教育委員会が提供するワークショップに参加している。Howell博士のオンラインコースにもこの学校から3名が参加して好評だった。校長自身、もっとさまざまなオンラインコースが提供されたらいいと考えている。オハイオ州の公立学校の教師の給与は勤続年数と学歴(学部、学部+150単位、修士、修士+30単位)によって決まってくる(給与体系を見せていただいた)。たとえば、勤続年数10年の場合、それぞれ、$42,668、$43,908、$47,310、$48,233となっている(いずれも年収)。ときどき大学の教官をよんで校内で研修を行ったりもする。
学校は4時には終わるが、たいていの先生は5,6時まで仕事をしている。もっと遅くまで残って仕事をする先生もいる(校長はたいてい8,9時になるそうだ)。大学や教育委員会のワークショップ、生涯学習の講義などのために4時に帰る人がいてもとがめられたりすることはない。むしろ積極的にそういう機会を利用するように奨めている。たとえば、州外の学会やワークショップへでかける研修費の予算をできるだけとるようにして、かわりの臨時の先生も確保する。
教育実習に協力するのは、もちろん教員養成に貢献するためでもあるが、OSUからの授業料免除の条件が大きなインセンティブになっている。教育実習を引き受ける代わりに、自分の学校の先生が受ける授業の授業料を免除するという仕組みはうまく機能している。OSUとの協力体制が長く続いているのは、Howell博士らが、教材やコンピュータを購入する「研究費」をとってきてくれたり、情報を提供してくれたり、学校内の研修(ネットワーク・パソコンについてなど)を手伝ってくれることにもある。おかげで数年前すべてのクラスにネットワークに接続されたパソコンが配置された。「スクールツアー」だけを依頼してくる大学や、教育実習生を連れてくるだけで指導しない教官とはつきあいにくい。
日本では教育委員会が人事を行い、一定期間で配置替えをするために、一つの学校が安定してマネジメントされにくいようだ、と話したら。それはこちらでも同じであるとのこと。能力のある校長は「トラブルシューター」として問題校へと配置替えされる傾向にある。でも、一つの学校でせっかく問題を解決してもその校長が移動すると問題が再発するということも多い。ちなみにDauterman先生の場合、普通免許、特殊教育の免許(それも発達遅滞や視覚障害、多重障害など様々)、OTの免許など、「統合学校」に必要な多くの免許をもっている稀な人材である。また、この学校では学区全体に対する家庭教育(教師が家庭に派遣されて教える:“home-based teaching”)のオフィスもかねていて、現在、1500人の子どもにサービスを提供している。彼女はこのプロジェクトのマネージもしているので、この学校から配置替えになることはほとんどあり得ないらしい。
「問題のある」教師や校長がいても、日本では解雇することがほとんど不可能であるという話をしたら、うなずきながら彼女は、8年前から施行されている新しい人事の仕組みについて話してくれた。教師の場合、仕事ができなかったり精神的に不適応を起こしたら、まずは「パワー・アシスタント・プログラム」というのを受けることになる。これは教師にスーパーバイサーをつけ、相談したり、支援を依頼できるようにする仕組みである。ただし、1年後、スーパーバイザーが改善の余地が認められないと評価したら解雇される。校長の場合、そもそも校長になるともはや「永久就職」ではなくなり、2年間ごとの契約更新になる。契約更新時にはできるだけ客観的で公平な評価が行われ、基準に達しなければ契約は更新されない。すでに何人もの教師や校長が、この仕組みが採用されてから解雇されているそうだ。
オハイオ州では数年前から能力テスト(proficiency test)の成績を教育機関の評価として重んじるようになった。実は別の人からこのテストについては聞かされていた。州全体の目標が75%であること、現在はそれに達していないこと、学校や学区によっては25%くらいのところもあるらしい。Dauterman先生によれば、それぞれの学校は、能力テストの基準に関して目標を設定するように求められるらしい。Colerainでは、半数の児童が何らかの障害をかかえているのにもかかわず、州の目標を達成していて、さらに100%を目指しているという(もちろん重度の知的障害児などは免除される)。そのために、できるだけ能力のある教師を採用したい、そして現職の先生にはできるだけ勉強してもらいたい。校長としてそのための支援は可能な限りする、とのことであった。そしてこの立場から、子どもたちの学習を支援するいろいろな方法を教師にトレーニングしてくる授業やワークショップを大学に期待するとのことだった。