まとめ:米国における通信制大学院の在り方に関する調査
島宗 理
[鳴門教育大学・学校教育研究センター・教育工学分野]
米国における通信制大学院の動向と実態を掴むため、米国各地の大学、学校などを訪問し、施設を見学したり、授業を聴講したり、教官や学生にインタビューを行うなどの調査を行った。特に、教員養成あるいは現職教員の再教育にを行っている機関を対象とし、教師教育と教育改善とを関連づけたコースに焦点をあてた。ここでは調査結果の要約のみを報告したい。
「通信教育」から「遠隔教育」への移行と発展
- 「通信教育」(correspondence course)という言葉はほとんど使われていない。むしろ「遠隔教育」(distance
education)という言葉が頻繁に使われている。
- 「通信教育」から「遠隔教育」への移行は、インターネットや双方向テレビなど、新しい伝達手段の登場と普及によるところが大きい。
- インターネットの一般家庭での利用が急速に進んでいる。高速回線の普及などのインフラ整備と安価な回線料金によるものと考えられる。
- 遠隔教育を提供する大学は増え続けている。学生用のガイドブックが出版されており、たとえば、COLLEGE
DEGREES THROUGH DISTANCE LEARNINGには300以上の大学の2500以上のコースが収録されている。教育関係の修士号をだす大学も数多く存在する。
- 衛星放送による双方向テレビシステムを提供するサードパーティーや、インターネット上で仮想キャンパスサービスを提供するサードパーティーなどが存在し、こうした企業と提携して遠隔教育を提供している大学も多い。
- オンライン教育の市場は1996年の1億9千7百万ドルから、2002年までには55億ドルにまで成長するという予測もたてられており、大学も企業もこの市場でのシェア獲得に力を入れている。
- 大学が遠隔教育に力を入れているのは、これが大学にとって貴重な収入源になっているからである。
行政からのサポート
- 米国の教育省(文部省)では遠隔教育の実現に向けて莫大な研究開発費を提供したり、公立学校からのインターネットへのアクセスを確保するために、E-Rateという、接続料金の値引きをする資金も用意するなど、遠隔教育の普及に力を注いでいる。
- 州知事が協調して、広域の遠隔教育大学を提供しようとする動きもある。たとえば、Western
Governers Universityや、Southern Regional Electronic Campusがこれにあたる。
教師教育との関連
- 米国の多くの州では、現在、深刻な教員不足に陥っている。原因の1つは、カリフォルニア州のように学級サイズの縮小を決めたことによるもの。もう1つは、教員資格を持っていない教員の数を減らすため(社会科の免許で算数を教えたり、特殊教育の免許がないのに障害児を教えたりしている現状に批判がでている)。
- 教員不足や教員の免許書取得・更新の問題に遠隔教育を利用して対応することが期待されている。
- 州によっては、すべての教員に修士号の取得を奨励している。オハイオ州では法制化が進められている。教員の給与体系も修士号を加味しているので、現職教員が大学院(夜間や遠隔)で勉強する動機づけになっている。
- 生涯教育(continuous education)の単位化が整備されているので、教員は修士号取得の目的以外にも、生涯教育の単位をとるために大学の授業を履修する。
- 遠隔教育は大学内の生涯教育担当の部署が受け持っている場合も多い。
現職教員にとっての遠隔教育
- 学校の業務は4時には終わる。大学で夕方から始まる授業を現職教員が履修することは十分可能で、実際によく行われている。
- オンラインコースや双方向テレビのような遠隔教育は、現職教員にとっては、通学時間、運転や駐車場探しの手間など、現実的な問題を解決する上でメリットがある。
- 大学が提供している授業が、直接、学校での教育改善に役立つと考えている教員は少なかった。
- むしろ学校現場で、教育方法をじかにトレーニングする研修(今回はDirect
Instructionという方法のトレーニングを数カ所で見学した)や、学校ぐるみの取り組み(school-wide
intervention)の中で、実際に子どもに指導しながら学ぶという形態が役に立つと考えている教員が多かった。
教育改善と遠隔教育
- すべての授業をオンラインあるいは遠隔授業で提供している大学では、学校改善とか教育実践力といったことに焦点はあてられておらず、むしろ個人の教員の最新の情報、知識へのアクセスを可能とし、理解を支援するというスタンスをとっている。
- 学校改善や教育実践力などに着目している大学や講座では、オンラインや双方向テレビによる教育はあくまでコース全体の一部としてとらえている。
遠隔教育推進のためのリーダーシップ
- 遠隔教育は在学教育に比べて、より利用者に近い、市場優先のサービスになりがちである。
- 学生の満足度と質を高い教育を維持し、学校、行政(教育委員会)や企業とのコラボレーションを行う上で、マネジメントとコミュニケーション、ビジネスセンスのあるリーダーシップが不可欠である。
以上