これまで報告してきたように、アメリカでは大学・大学院ともに遠隔教育が確実に浸透してきています。また、インターネットの普及につれて、オンラインコースやEキャンパスのように、すべてをインターネット上でまかなおうとする大学も増えています。
しかしながら、こうしたムーブメントを冷静に見つめる人たちも、もちろん存在します。カリフォルニア州立大学スタニスラウス校では、20年近く前から遠隔教育を取り入れ、この広大な地域に散らばって生活する人々に大学教育の機会を与えてきました。その一方で、教育学部のスタッフは遠隔教育にコースをのせることに反対してきているそうです。
カリフォルニア州は教育改善のために学級サイズを小さくすることに決定しました。そのため教員数が不足しています。そこで、もともと教員養成を主な目的として設置されたカリフォルニア州立大学(現在19校、さらに1校の新設を計画中)の遠隔教育部門を活用する計画があることはすでに報告しました。教育学部の賛成が得られないため、スタニスラウス校はこの計画に加わっていないそうです。
教育学部障害児教育講座のWatkins博士に彼女が運営する“Reading Lab”を見せてもらいました。カリフォルニア州立大学で教員免許を取得するためには学部を卒業してから“credential program”(教員免許取得コース)に入らなければなりません。障害児教育講座の場合、このコースはフルタイムで3学期(およそ1年半)かかります。“Reading Lab”は免許取得のための必修科目(実習)です。障害児教育以外の教員養成にも選択科目として提供されており、また学部生も履修できるので、学生は様々ですが、授業の目的は明確。教育実習で障害をもった子どもに教えることができるように教授スキルを取得させることです。
40人くらい入れそうな教室の回りに、小さな教室(教師1人に子ども3-4人)が4つと、観察室が配置されています。これだけだと教室が足りないので、カウンセリングルームを3つ借用して使っています。4つの小教室にはカメラとマイクが設置されていて、観察室からは実習の様子をビデオでモニターできるようになっています。
今学期“Reading Lab”を履修している学生は12名。通ってくる児童は23名。これをWatkins博士と2人のティーチングアシスタントで教えます。児童は近辺の学校に通う、勉強が遅れ、字が読めない子どもたち。学校に通知をするようですが、ほとんどは口コミで集まるようです。実習生1人につき、子どもが1-3人の割合です。
1週間に2時間のセッションを2回。月・水のグループと、火・木のグループに分かれます。学生(実習生)は各々1教室を担当し、そこの子どもが配属されます。事前にWatkins博士が標準テストを実施し、子どもの能力レベルにあわせて、クラスの配置を決めます。しかしながら、これは子どもの伸びにあわせて随時変更されるようです。この日も、Watkins博士が子どもを教室から呼び出し、テストをし、ティーチングアシスタントと話し合い、次週その子どもをどのクラスに入れるか決めていました。
“Reading Lab”は1学期(13週間)続きます。1週目はガイダンス、最終週は、実習生に標準学力テストを実施させるので、実際に教えるのは11週間。11週×2回×2時間=44時間の教育実習事前指導になります。
SRA社のReadingやHorizonなど、Direct Instruction の教材。子どものレベルにあわせてWatkins博士が選びます。
授業時間の開始とともに実習生は子どもたちを自分の教室につれていき、授業を開始します。2人のティーチングアシスタントは、観察用チェックリストをもって教室を回り、実習生のパフォーマンスをチェックしていきます。行動マネジメント、動機づけ、指示のだし方、間違いの訂正の仕方など、具体的な項目について、うまくできているところ、改善が必要なところをチェックします。Watkins博士はチェックリストに目を通し、実習生にフィードバックします。成績はこのチェックリストの得点にもとづいて評価されます。
TAが観察・記録をする一方で、Watkins博士は教室を回り、観察し、次々と指導をしていきます。実習生の指示のだし方が曖昧だと、すぐそこで止め、模範を示します。そして実習生にまねをさせ、アドバイスをしていきます。せっかくのビデオ観察システムですが、誰も使いません。実習生が教材のどこを指さしているか、子どもが教材のどこを見ているか、どんな発音でテキストを読んでいるかなどは、ビデオシステムを通してはなかなかわかりません。やはり、その場にいないとだめなようです。また、指導者(この場合、Watkins博士)自身が、教材と教育方法に長けていないとうまくいかないことも明白でした。
授業が終わってから、Watkins博士にインタビューをしました。実は、かつて教育学部が遠隔教育に携わったことがあったそうです。彼女が着任する以前のことなので詳しくはわからないそうですが、テレビ放送の授業を開講することで、教育学部への入学者が急増したそうです。ところが、大学側はその分予算を増加させず、教官はオーバーワークになり、教育の質が低下し、全員一致で撤退を決めたようです。
Watkins博士はそうした過去のいきさつには関係なく、遠隔教育には興味がないと言います。理由は簡単。“Reading Lab”のような授業をテレビ放送で実現できるわけがないから、だそうです。