生涯学習協議会マネジメントセミナー第1日 2/14(日)

 米国における現職教員の教育(あるいはprofessional development)は、(1) 学位を目指したコースへの入学(夜間や夏休みなどパートタイム)、(2) 生涯学習(continuous education)としての、あるいは免許取得のための単位履修、そして (3) その他、教育委員会や学校が実施する講習会などに分類できるようです。学位は大学からしかだせませんが、生涯学習の単位は、認定されれば大学以外の機関からでも提供されるようです。この中で、生涯学習大学協議会University Continuing Education Association)は米国の数多くの大学が加盟している生涯教育機関の協議会です。

 今回参加したセミナーは“マネジメント・セミナー”と呼ばれるもので、学部長やプログラムディレクター、学区の教育長など、大学や教育委員会のトップにあたる人たちが多く見られました。参加者数百人レベルの学会だろうと思っていたのですが、実際には参加者は50名ほど。年次大会は別にあるそうで(4/9-12、ワシントンDC)、ちょっと期待はずれでした。でも、教育委員会や地域の企業、行政と、いかに協力体制を作っていくかや、プログラムを運営する資金や予算をどのように調達するか、そして大学を改組していくにあたって、学内をいかにまとめていくかなど、現場で働く教官からはなかなか聞けない面白い話を聞くことができました。

 セミナーのタイトルは“Creative Collaborations: New Ways Universities Are Advancing K-12 Education”で、(教員養成系の)大学が、教師教育や学校との連携をはかって、いかに教育を改善していけるかについて、6つの事例が報告されました。それぞれ要点をまとめておきましょう。

 コラボレーションで現場での教育を徹底的に推進する

タイトル:How a Shared, Technology-Supported Work Environment Is Enhancing Collaboration Among St. Louis Education and Cultural Organizations and Facilitating New School-to-Work Learning Models

発表者:Wendell L. Smith - Associate Vice Chancellor, Academic Affairs and Charles D. Schmitz - Dean, School of Education, University of Missouri-St. Louis

これからの教師教育に問われることは以下の4点:(1) フィールド・ベース、(2) 最新のテクノロジーの活用、(3)学校、保護者、行政、産業などとの連携(コラボレーション)、(4) 変化していく社会のニーズへの迅速な対応。それぞれについて、ミズーリ大学セントルイス校がどのように取り組んでいるか、教育学部長から説明があった。

(1) フィールド・ベース

 教員養成はこれまでの大学の講義形式から、学校現場でのトレーニングに急速に移行している。現在5つのPDS校と連携している。協力校には地域の学習センターやマグネットスクールも活用している。カリキュラムの大部分を学校ベースにするために協力校を25-30まで拡張する予定。カリキュラムも完全に改訂する。

(2) 最新のテクノロジー

 地域に拡がるリソースを活用するために、「セントルイスEdNet」を設立した。大学、コミュニティカレッジ、教育委員会などとのパートナーシップである。EdNet運営の原則は、対等な立場で、積極的に参加すること、そして既存のリソースをできるだけ利用すること、である。教育ニーズの査定からスタートし、1億円の予算を確保。これにより4カ所のサイトを双方向のビデオシステムで結び、学校などにも専用線(T1)を設置した。SouthWestBell(電話通信会社)の協力で大学内にスタジオも設置した。

(3) コラボレーションの例

 優秀な高校生のために、高校で大学の授業を履修する仕組みを作っている。たとえば、高校の先生と大学の教官、セントルイス交響楽団のコラボレーションとして、世界的に有名なバイオリニスト(交響楽団に所属)が双方向のビデオシステムを使って高校生にバイオリンを教えるという試みが行われている。また、夏休みには大学の施設を使って物理や化学の実験プロジェクトを行う。高校の先生には、大学の非常勤講師のステイタスと大学の授業(生涯教育)を履修するための奨学金が支払われる。

 地域のニーズをすいあげ、かつ大学のリソースを充実するために、企業と大学から予算を半分ずつ負担するポジション(“shared professorship”)を設定した。これらのポジションについた専門家は、地域の文化的施設(交響楽団や博物館、学習センターなど)と大学に半々に所属し、コラボレーションを推進する。

(4) 変化していく社会のニーズへの迅速な対応

 21世紀は『産業』の時代から『情報』の時代への移行期であり、それに適した教育観の変換が求められている。

『産業』の時代の教育 『情報』の時代の教育
教室、図書館、実験室 ネットワーク
教える 学ぶ
どれだけ授業にでたかによる評価 何をどれだけ学んだかによる評価
教室での教授 ネットワークでの学習
情報をえる(information acquisition) 知識を探索する(knowledge navigation)
遠隔教育 (距離には関係しない)学習
生涯学習(continuous education) 生涯学習(perpetual education)
学習のために時間をとる 仕事をしながら学習する
学習者と学習システムの分離 学習者と学習システムの融合

 こうした教育観の変化にともなって、教師教育も変わらなければならない。教育学部のスタッフには教育現場でのトレーニング(コーチングに近い)が求められ、学科の専門的な教育は他の学部に任されるようになってきている。たとえば学部の改組によって、化学、物理学、歴史、人類学などに関しては、教育学部と他の学部(たとえば、物理学部)との“joined faculty”のポジションとして、教育学部の専任スタッフとしてはポジションを作らないようにした。また、履修生が少ない授業や、専門家がいない授業に関しては、コミュニティカレッジなどと協力し、合同で開講し、双方向のビデオシステムで遠隔授業を行うようにした。

 教員の不足という問題に長期的なコラボレーションで取り組む

タイトル:Collaborating to Expand the Cadre of Bilingual, Bicultural Urban Teachers

発表者:Presenters: Bette DeGraw - Dean, College of Extended Education, Arizona State University; and Jose Leyva -Superintendent, Isaac School District of Phoenix

 アリゾナ州では人口の80%以上を占めるラテン系の子どもにバイリンガルの教育環境を提供するための、バイリンガルの教師の不足が深刻な問題になっていた。

(1) 問題解決のためのチーム(Phoenix Think Tank)を設立

 教育委員会、学校、大学、コミュニティカレッジなどからリーダーを集め、K-16の教育の改善に取り組むことになった(1988年)。

(2) 解決策の模索

 ラテン系の大学進学率が低く教員が育たない。そうするとスペイン語が話せない教員がほとんどなので、英語が話せないラテン系の子どもが学校で不利になる。よってラテン系の子どもの進学率も低くなる、という悪循環が問題である。これを解決するために、経済面ではアメリカンエクスプレスの協力を要請、教育面では大学やコミュニティカレッジが協力して問題解決に取り組んだ。

(3) コラボレーション

 大学とコミュニティカレッジが協力して、子どもの両親などを最初は学校の助手(teaching aid)として雇用し、可能性のありそうなものに、教員養成課程への進学を進める。学校ではこうした助手が勉強の時間をとれるように早退を許したりした。大学では教員免許を取得した後の就職を保証し、アメリカンエキスプレスのローン(無利子)を取り付け、夜間コースを開講した。

(4) 成果

 すでに36人が教員免許を取得して教鞭をとっている。現在、92人がコースを履修中。

 学区の教育長(発表者の一人)がプロジェクト全体をリードしていたという点が興味深かった。

 また、この発表の後、フロアーから「教員の不足」について質問があった。アメリカの多くの州では教員の数が不足している。教員資格なしで働いているものが多いので、そうした教員に資格を得るための教育機会を与えるというのも課題になっている。それでも、州や学区によっては教員が足りていて、教職に就きにくいところもあるようで。ネブラスカからテキサスへ「出稼ぎ」にくる教師もいるらしい。

 新しい教員資格にコラボレーションで対応する

タイトル:Collaborating with School Districts to Meet New State Teacher Competency Standards

発表者:Presenters: Meta R. Braymer - Dean, Graduate & Professional Studies; and Joan L. Androff - Professional Development Coordinator, Mary Washington College

 バージニア州のカリキュラム改訂(8年生までにインターネットやパソコンの使い方などをマスターする)にともない、これを教員資格もこれに対応するように改訂された。現職教員が免許を更新して新しい基準に対応するためのコースが、学校と大学の共同で開発された。

 

コースの概要

 コースを設計するための委員会に、大学と学校の両方からメンバーを集め、チームを結成した。大学が提供する授業の内容、方法、開講時間などについて、受講側(現職教員)の意見を十分に取り入れた実践として興味深い話だった。

 企業とのコラボレーションで大学の授業を高校生に提供する

タイトル:Partnering with the Private Sector to Deliver College Courses to High School Students

発表者:Jean L. Scholz - Director of Distributed Learning, College of General Studies, University of Pennsylvania

 アイビーリーグ大学の1つであるペンシルベニア大学で行われている、大学の授業を遠隔教育で高校生に提供するという試みが紹介された。目的は優秀な高校生のリクルートにあるようだが、大学が高校教育を提供する(場合によっては小・中も)というのは、どうやらこれからのトレンドのようである。

外部の会社との契約

 企業内教育(たとえば、コンパック)などを全国的に行う教育通信会社、Caliber と契約。この会社は衛星放送のネットワークを保有し、全国に小さい教室を持っている。Caliberはペンシルベニア大学内にスタジオを設置し、そこからの全国放送を担当する。このシステムは双方向性で、授業中のメール、チャット、電子ホワイトボードなどが使える。各教室にはパソコンが設置され、学生は一人づつパソコンの前に座って授業を受けることができる。スタジオで講義を行う人の前には透明のボードに受講者の様子が移る仕組みもあり、非常に進んだシステムである。

 授業はCaliberを通した双方向の講義とweb化された教材を使って行われるが、教材のweb化は、Real.Educationという会社と契約している。この会社は、大学などの講義をweb化してインターネットで展開するビジネスを行っていて、教材の開発だけでなく、パソコンの使い方などに関するユーザーサポートも提供してくれる。開発費は1コース$3000.00くらいで、これに授業料の%を支払う仕組み。

 こうした企業へのアウトソーシングによって、教官は教育に専念できる。現在、微積分や人類学の講義を行っている。こうした授業は教官にとっては正式な教育義務として位置づけられておらず、“overload”である。大学側は、これに対してコースの開発費や講師料として追加の手当を支払っている。