New School for the Learning Sciences は Morningside Academy の創始者であるLayng博士とJohnson博士が始めようとしているオンライン大学院。現在、設置準備中で、今年の秋(9月)に開校予定である。
この大学院は、Ph.D.(Doctor of Learning Science)、MATT(Master of Arts in Teaching Technologies)、MIPS(Master of Instructional & Performance Science)の3つのコースからなる。もちろん、学生は、学位を目指すのではなく、生涯学習の単位としてコースを履修することもできる。MATTとMIPSの修士コースはいわゆる“ターミナルマスター”コースとして設置され、前者は現職教師、後者は企業で働く研修担当者やインストラクショナルデザイナーを主なターゲットとしている。ちなみに“ターミナルマスター”とは、博士課程まで進学することはない、研究者より実践家を養成するプログラムのこと。修士論文の代わりにプロジェクトを行う。大学院の理念や詳しいプログラムについては彼らのホームページを参照していただきたい。Layng博士とJohnson博士へのインタビューから、いくつかの点をまとめておこおう。
New School for the Learning Sciences (以下、NSLSと略)は、インターネットで仮想大学を提供するBlackboard社と契約する。Blackboard社は、ペンシルベニア大学が契約したReal.Education社と同様に、教材の作成から、学生や教官のための電話サポート、授業料の支払いから、成績管理まで、大学に必要なサービスをすべてネット上で実現させてくれる。Layng博士によれば、Blackboard社の価格設定の方が、よりリーズナブルだそうだ。この会社のwebページをLayng博士と一緒に見ていった。レポートの課題の作成、送信、電子討論、チャット、クイズなど、様々なサービスが提供されている。こうしたサービス会社を利用することで、大学の建物も、清掃も、事務もいらないので、教育コストを低く抑えることができる、とLayng博士。では授業料をかなり低く設定するのですかと質問すると、それはしないとのこと。授業料はおそらく私立大学の平均ぐらいにして、その分、教官に還元するという。アメリカで大学教官は社会的に尊敬されるほど経済的には補償されていない。Layng博士は、他の大学と比べて高額な給与を支払うことで、トップレベルの研究者や教育者を教官として迎えるつもりだという。
NSLSでは専任教員として4人のPh.D.(創始者の2人を含めて)を確保している。その他の教員は、非常勤で授業ごとに雇う。非常勤講師は(もちろん専任教師も)、キャンパスに通うことはない。それぞれの自宅であるいは所属する大学の研究室から、オンラインで教えることができる。私立大学なので行政から経済的支援は受けられない。経済的には自立していなくてはならないのだが、こうした低コストのシステムのおかげで、損益分岐点は、フルタイムの学生(博士/修士コースに所属し、一度に3つの授業を履修)で15名、パートタイムの学生なら45名だそうだ。1年ほど前から、学会などで構想を話し、webページに情報を載せているだけだが、週に2、3件は問い合わせがあるそうだ。開校までには、大学のキャンパスや学会誌、ダイレクトメールなどで宣伝をするつもりだそうだが、学生が少なくて困るという状況は予想していないようだ。
もともとMorningsideは勉強の遅れた子どもに、Direct Instruction や Precision Teaching 、Talk Aloud Problem-solving などの、教育効果が実証された方法を適応し、成功した学校である(明日はこの学校を見学する)。と同時に、地域の学校やシカゴの学校など、公立学校のコンサルテーションや教員研修を引き受けてきた。特に最近では、毎年夏休みに行っているシアトル本校での集中セミナーが人気で、全国から教員、学生、親などが集まってきている。
MIPSコースが企業での教育に焦点を絞り、最終のプロジェクトも教材開発が主になるのと対象に、MATTコースでは、教師や親の実践的な『教育力』の育成が欠かせないと、Johnson博士は言う。したがって、MATTコースでは、シアトル本校か、他のサイトでの実習が必修になる。実習とはいっても、教育実習で教師のアシスタントとして配属され、「助手」的な仕事をするのではなく、他のコースで学習した理論を授業や生徒指導としてまとめるような実践的なプロジェクトになるという。こうした活動は、実際には、現在の学校コンサルテーションと夏休みのセミナーで続けていることなので、あまり新しいことではない。むしろ今までこうした自己学習に対しては与えられていなかった修士号が与えられるようにする仕組みともいえる。
インターネットや衛星放送、テレビ電話など、最新のテクノロージーが進むにつれて(こうしたテクノロジーは急速に進んでいるので、現状を持ってして数カ月後の予測をするのは困難だが)、活発に取り入れたいとJohnson博士。実際、学校の教室と研究室をオンラインでつないで、「そこで誉めて」とか「今の指示は明確じゃない」とか、ライブで指導したこともあるという。
アメリカで大学や大学院を設置することは日本ほど難しくない。特に、このオンライン大学や大学院の考え方が一般的になるにつれて(50%以上の大学が何らかのオンラインコースを提供しているという調査もあるらしい)、建物も教室もいらない大学が可能になることで、インターネットへのアクセスがあれば、原則的には誰もがコースを開校できるようになったわけである。
もちろん、コースを開校したからといって学生がくるとは限らない。大学や大学院の質、信頼を保証するために、認定機関(accrediting agencies)が存在する。認定機関は地域毎に設立されているが、行政とは完全に独立した組織だそうだ。NSLSはNorthwestern Accreditation Associationという認定機関から認定を受けることになるが、すでにNorthwestern Accreditation Associationはいくつかのオンライン大学を認定しており、問題はないという。
こうした柔軟な教育行政もあって、NSLSでは様々な形態でコースを提供することを計画している。たとえば、他の大学でインストラクショナル・デザインのコースを教えなくてはならないが専任スタッフがいない場合、その大学と提携してNSLSのコースをその大学のコースとして学生に履修させる。たとえば、有力大学のポスドク(博士課程修了後、就職を見つけるまでの研究生)に研究費を稼がせるためにNSLSで教えさせる(そのかわり、NSLSからは有力大学の資源を最大限に活用したコースが提供できる)。教育委員会や学校と契約して、学校コンサルテーションとともに、現職教員全員にMATTコースをディスカウントして提供する。などなどである。
基本的に、ニーズのある教育内容を、品質を保証して、リーズナブルか価格と入手しやすい方法で提供すれば、顧客は必ず購買する、という自由経済、市場主義の原則をついた戦略である。