認知心理学特講の詳しい内容

Part 1 視知覚の歪み

  1. 錯視現象
  2. 図と地の関係
  3. 群化要因
  4. 多義図形
  5. 言語ラベルの効果,文脈効果

(錯視図形のビデオ視聴)



Part 2 スキーマと認知

スキーマとは何か

スキーマ(図式 schema):環境との相互交渉の際に主体が使う既有の知識の枠組み や活動の枠組み。 Piajet,J. は図式(シェマ)を活動の枠組みとしてとらえ,それ がどのように発達するかを明らかにした。認知科学では図式(スキーマ)を知識の枠 組みとしてとらえ,それが情報処理過程にどのような影響を及ぼすかについて検討し ている。(平凡社心理学事典より)

スキーマに基づく解釈

◇何の話か?(その1)

その手順はとても簡単である。はじめに,ものをいくつかの山に分ける。もちろんその全体量によっては,一山でもよい。次のステップに必要な設備がないためどこか他の場所へ移動する場合を除いては,準備完了である。一度にたくさんしすぎないことが肝心である。多すぎるより,少なすぎる方がましだ。すぐにはこのことの大切さがわからないかもしれないが,めんどうなことになりかねない。そうしなければ,高くつくことにもなる。最初はこうした手順は複雑に思えるだろう。でも,それはすぐに生活の一部になってしまう。近い将来,この作業の必要性がなくなると予言できる人はいないだろう。その手順が終わったら,再び材料をいくつかの山に分ける。そして,それぞれ適切な場所に置く。それらはもう一度使用され,またこのすべてのサイクルが繰り返される。ともあれ,それは生活の一部である。(Bransford & Johnson,1972)

◇何の話か?(その2)

もし風船が破裂してしまったら,その音は届かないだろう。すべてが,目ざす階か]]らあまりに遠すぎるからだ。建物はたいてい外から十分遮断されるようにできているので,窓が閉まっていれば音は届かないだろう。うまく作動するかどうかは,電流が流れ続けるか否かにかかっているから,電流が途中で破損すると,問題が起きるだろう。もちろんこの男は,叫ぶこともできるのだか,人間の声はそれほど遠くには届かない。もうひとつの問題は,楽器の弦が切れるかもしれないことである。弦が切れてしまうと,そのメッセージに伴奏がなくなる。距離が近いことが一番よいというのは,はっきりしている。もしそうなら,ほとんど問題はない。互いに向かい合っていれば,うまくいかないことはめったにないだろう。(Bransford & Johnson,1973)

◇何の話か?(その3)

布が破れたので,干し草の山が重要であった。(Bransford & Johnson,1973)

◇何の絵か?

◇物語をどう読むか?

<キャロル・ハリス物語 vs. ヘレン・ケラー物語>

キャロル・ハリス[ヘレン・ケラー]は生まれた時から問題のある子だった。彼女は野蛮で,強情で,乱暴者だった。キャロル[ヘレン]は8歳になっても,まだどうしようもなかった。彼女の両親は彼女の精神衛生をとても心配していた。その州では,彼女の治療のためのよい施設が見つけられなかった。彼女の両親はついにある処置をとる決心をした。彼らはキャロル[ヘレン]の世話をしてくれる家庭教師を雇った。


1週間後:「「彼女は耳が聞こえず,口もきけず,目が見えない」の一文が含まれていましたか?」
キャロル・ハリスの名を用いた群5%が 「はい」
ヘレン・ケラーの名を用いた群50%が 「はい」
(Sulin & Dooling, 1974)

☆スキーマに依存した情報処理は迅速だが,時として不正確である。

スキーマに依存した会話と質疑応答システム

<ある受講者どうしの会話(フィクション)>
A「今日の認知心理学,どうする?」
B「うーん,久しぶりにいい天気だしな....。」
A「出席とらないしなぁ。」
B「それに,オレたち,いてもいなくても目立たないし....。」
A「そうだな,よし行こう。」

<ある受講者とコンピュータの会話(フィクション)>
A「今日の認知心理学,どうする?」
コンピュータ「認知心理学をどうすべきかという質問ですか?」
A「そうだよ」
コンピュータ「重要な学問ですので,ますます発展させるべきです。」
A「ちがうよ,授業のことだよ。」
コンピュータ「授業をどうすべきかは先生が決めることですので,答えられません。」
A「........」

<観光案内システム>
コンピュータ「花と緑の街,札幌へようこそ。どこへご案内しましょうか?」
ユーザー「パルコは東急インの隣にありますか?」
コンピュータ「いいえ,パルコの隣は三越デパートです。パルコまでご案内しましょ うか?」

<カウンセリング・システム「イライザ」の簡略版「お医者さん」>  (佐伯, 1986より)
コンピュータ「こんにちは。きもちちをらくにしてください。どんなしょうじょうな んですか?」
子ども「ねむれない。」
コンピュータ「ねむれない,というのですか?」
子ども「そうです。」
コンピュータ「それは こまりましたね。」
子ども「あたまも いたい。」
コンピュータ「あなただけでなく,だれでも そんなきもちになることがあります。」
子ども「わたしは とくべつです。」
コンピュータ「どうして そんなことが いえるのですか?」
子ども「あさ 3じにめがさめる」
コンピュータ「あさ3じに めがさめるってわからないなあ。」
子ども「それから マラソンをする。」
コンピュータ「それは こまりましたね。」
(続く)

<ある修論生とコンピュータの会話(フィクション)>
コンピュータ「こんにちは。気持ちを楽にしてください。どんな症状なんですか?」
修論生「実は,悩みがあるんです。」
コンピュータ「ほう,悩みがあるんですね。」
修論生「ええ,修論のことで...。」
コンピュータ「修論のことで,あなたは悩んでいるんですね。」
修論生「そうなんです。実はそろそろテーマを決めなければいけないんですが,どうも自分のやりたいことが指導教官にうまく説明できなくて。そんな内容ではダメだ,別のことをやれ,と言われてしまったんです。」
コンピュータ「それは困りましたね。」
修論生「ええ,本当に困っています。自分としては,ぜひこのテーマで研究したいんですが,どうも指導教官に内容を誤解されてしまったようで....。また,ダメだと言われたものを,しつこく蒸し返すのも,なんだか反抗的だととられるんじゃないかと思ったり...。でも,あきらめきれないし...。」
コンピュータ「あなただけでなく,誰でもそんなふうになることがあります。」
修論生「あっ,それはそうですね。友人のAさんやBさんも,似たようなことを言ってたなあ。」
コンピュータ「そうなんですか,なるほど。」
修論生「そうなんです。思い出しました。そうだ,一度同じ悩みを持った者どうしで相談してみようかな。」
コンピュータ「なるほど。相談してみようと考えているんですね。」
修論生「はい,そうしてみようと思います。ひとりで悩むより,仲間といっしょに考えた方が,知恵も浮かぶし気が晴れます。」
コンピュータ「気が晴れるんですね。」
修論生「ええ,そうしてみます。今日は,本当にありがとうございました。」

☆人間は刺激事象の間の関係を発見し,これらの関係を具体化するスキーマ(図式)を形成する。スキーマのおかげで対象を認知し,判断し,話を理解し,その他の行為を行うことができる。スキーマは,広大で複雑な環境世界についての情報処理を効率的に行うことを可能にする重要な知識構造である。図式(スキーマ)の基礎をなすメカニズムは,処理された情報源について特に妥当なものというわけではない。ステレオタイプは,図式(スキーマ)の不合理な側面を反映する。スキーマに依存した情報処理は迅速だが,時として不正確である。

スキーマに基づく判断

◇精神病院への潜入実験

数名の心理学者が,どこからともなく人の声が聞こえるというウソを理由に,それぞれ別の精神病院に入院した。入院した後,今度は正常にふるまい,自分たちは実は心理学実験のためにわざとウソをついて入院したのだと話した。しかし,一度入院したあとで自分たちが病人でないということを医師たちに信じてもらうことは,きわめて困難であった。平均3週間かけて,彼らはようやく病院から出ることができた。医師たちは精神病患者のスキーマにしたがって彼らを精神病と判断し,自分たちは心理学実験のために患者のふりをしたのだという彼らの訴えを,典型的な妄想の一種であると診断した。(Rosenhan, 1973)

機能的固着と創造性の抑圧

◇ろうそく問題(Duncker, 1945)

◇2本ひも問題(Maier, 1945)

◇水がめ問題:水がめA,B,Cを使って求められる水量を作り出すには?(Luchins, 1942)

一度解法を思いつくと,以後,それを無批判に使い続ける。

負の転移(negative transfer):新しい学習や問題解決において,先行経験が妨害的に働く(負の効果を持つ)こと。

機能的固着(functional fixedness):あるものが持つ諸機能のうち,特定の機能のみが活性化されやすくなり,結果,他の機能が活性化されにくくなること。過去の習慣の再生的応用が生産的問題解決を抑制する。

☆慣れは機械的な思考,問題に対する無批判な態度をつくり出す。

☆個人的経験の過度の一般化やスキーマへの無条件の依存は,思いこみを生む。これ がある集団内でかなり広く共有されるようになり,固定化したものがステレオタイプ である。(e.g. 日本人は‥‥)

☆ステレオタイプ的な認知は,創造的なものの見方を妨げることが多い。

偏見

偏見(prejudice):特定の集団や個人に対する全面的または部分的に誤った判断に 基づく,嫌悪ないしは敵意の感情に根ざした態度。

Allport,G.W.1961 The nature of prejudice.(原谷達夫・野村昭訳「偏見の心理」, 1968,培風館)





Part 3 認知の多様性と判断のゆらぎ

トップダウン型情報処理

☆日常生活における認知は,トップダウン処理に大きく依存している。

<寅とさくらの会話>
寅「なんだい。何か相談でもあるのか」
さくら「うん,相談というよりお願いがあるんだけど」
寅「...金か,金ならねえんだよなぁ。兄ちゃんワサビ漬け,買っちゃったから...」
さくら「ううん,あの,お金じゃないの」
寅「じゃ,何だ」
さくら「実は,私達・・・」
寅「お前達夫婦がどうかしたのか,性格の不一致か?」
博「いえ,さくらといろいろ相談してですね・・・紙の値上りで工場も暇だし」
寅「あ,お前,裏の工場やめようってんだな。それはいけないよ。そんなことしたらあのタコがかわいそうだぞ。お前がやめるなんてことをタコが聞いたらな,タコは泣くよ。・・・・・」

(山田洋次:「男はつらいよ」,立風書房,1977,P.221)


<日常会話に見られる誤解例:その多くはトップダウン処理に基づく>

○音韻論的誤解

ある点に気がついたので,「あ!ほうかぁ」(「あ!そうか」の意)と言った。すると,まわりで考えていた者が「どうせあほや,悪かったなぁ」と言った。
(2)「ドイツ語の試験,わや(「ひどくできが悪い」の意)じゃった」といったのを「ドイツ語の試験は独文和訳であった」と取られた。

○統語論的誤解

(3)「食べていいよ」といわれ,テーブルの上を見ると食べ物がのっていたので,それを食べた。しかし食べてよいのはテーブルの上のものではなく,実は別のものだった。
(4)体育のバスケットボールの試合で,「勝った人が出ることにしよう」と言ってジャンケンをした時のこと,勝った人は「出る」を「コートの外に出る」というふうに,負けた人は「試合に出る」というふうに解釈した。というのも,みんな長い試合で走り回ってしんどいので,休みたかったからである。

○意味論的誤解

(5)「ナスにはあまり味がない」,そんなことを話題にしていたら,そのうちのひとりは,「知人の那須(なす)という奴に個性がない」という内容のつもりで,5分以上も話につき合っていた。
(6)ある人のことを「かわいい」という意味で「のび太(ドラえもんの友達)」に似ているといったのに,その人は「ドジでにぶい」という意味にとって,その人との間に溝ができてしまった。

○語用論的誤解

(7)ゼミの教授が,「○月○日に学会の受付のお手伝いに来て下さると助かるのですが,皆さん」といったのを,強い要求と受け取らずに単なる願望と誤解してしまい,その日行かなかった。あとで,ほかの連中は来ていたとさんざん皮肉をいわれた。
(8)私が友人の車に乗っていた時,まわりを走っている車を見て,「あの車かっこええ,ええなあ」などといっていると友人は,「この車降りてその車に乗せてもらったらいいでしょ」といって怒ってしまった。私は別にそフ友人の車がいやだなんて思ってないのに‥‥。

「人間関係の中の誤解」(三宮,1987)

感情によるバイアス

☆自分自身に関わる情報には自我関与が大きく,情報そのものを客観的に処理しにく い(情報内容への感情が冷静な情報処理を困難にする)。
e.g. 「あなたは性格のいい人だ。」←嬉しい情報は無条件で納得しやすい
「あなたは性格の悪い人だ。」←いやな情報は無条件で拒絶しやすい

☆自己矛盾を解消する方向に,情報処理を行なう(認知的不協和の解消)。
e.g. 私はAさんをひどく嫌っている。
しかし,Aさんの結婚式でAさんをほめるスピーチをしてしまった。
私の行動には矛盾があるのか?
いや,そんなことは認めたくない。
そうだ,Aさんは結局それほどいやな人ではないのだ。

☆情報源への感情が情報内容の信憑性評価を左右する。
    e.g.「あの人の言うことなら‥」vs.「どうせあの人の言うことだから‥」

意図と感情の認知

☆受け手は,送り手の意図と感情(の認知)に反応する。
「あなたはクールな人ですね」→そのクールなところがいい/そのクールなところがいやだ/中立的描写

「徳島はいなかなので,いろいろな動物や昆虫がいるそうですね」
→徳島がいなかであることをバカにしている/自然の豊かな徳島へ行くことを楽しみにしている/特に意図・感情を伴わない
「学習・教育を支えるコミュニケーションの基礎的研究ー好悪感情を中心にー」(三宮他,1995)

☆「ほめ・叱り」の場合も受け手は意図・感情に反応する
「子どもの認知・感情を考えたほめ方・叱り方」(三宮,1993)
「ほめ方・叱り方と言葉かけの基本」(三宮,1997)

集団内判断

・同調(conformity):他者あるいは集団が呈示する基準や期待にそって,それと同 一あるいは類似の行動(判断,態度を含む)をとること。

◇同調の実験

問題:「この線分と同じ長さのものはのa,b,c のうちどれか?」
正解は b しかし,7人のサクラが「aです」と答えると,最後に答を求められた本当の被験者も,多くの場合,「aです」と答えてしまう。(Asch, 1951)

◇集団内基準の形成実験

問題:(暗闇で静止小光点を見つめると,これが動いているように見える[自動運動]を体験させ,)「あなたには今,小光点が,どれくらいの幅で動いているように見えるか?」
これを,個人で判断する場合と集団の中で判断する場合とに分けて比較する。
個人セッション→集団セッション
集団セッション→個人セッション

実際には光点の運動は生じていないため,正解は存在しない。したがって各人の判断にはバラツキがある。にもかかわらず,集団内で判断を求めると,知らず知らずのうちに判断値が似通ってくる。ここで形成された集団内基準は,集団を離れて個人に戻った後も心の中に残り続ける。(Sherif, 1936)

集団決定の効果

◇集団決定についての実験

第2次大戦中,アメリカで牛肉が不足→牛の内臓を食べるよう指導
○講義法:栄養の専門家が,レバーの栄養価・料理法・経済性を講義
○集団決定法:12〜13人の小集団で,以下の通り行なう。
(1)現在食生活において困っている点を討議 → 肉不足が問題
(2)解決法を討議 → レバーを食べればよい。だが,見かけ・味・においが悪い
(3)栄養の専門家が料理法や栄養価についての情報の呈示
(4)(3)を受けて討議
(5)自己決定(明日から牛のレバーを食べようと思う人は手を挙げて)

4週間後 レバーを食べた者を調べると
講義グループ3%
集団決定グループ32%
(個人指導法と集団決定法の比較結果も同様)     (Lewin,1947)

説得

説得的コミュニケーション(persuasive communication):他者の態度や行動を特定の方向に変化させることを目的とするコミュニケーション。

例1)「どうです?モデルチェンジも近いことですし,エアコンとパワステつきのこの車,特別にあと10万円値引きして,150万円にしておきますよ。」
「よし,決めた。これにするよ。」
-------------(セールスマン,奥へ引っ込み,電話)------------------
「お客様,今,社の方に問い合わせましたところ,この車種ではエアコンはオプションなんだそうです。これをつけると,あと10万円かかることになりますが....。」
「まあいいや,買うよ。」

例2)「英会話のテープをご紹介に上がったのですが,いかがでしょう?今は割引期間中なので,25万円でお分けできるんですよ。」
「そんな高いもの,とてもむりだわ。」
「それでは,こちらはいかがでしょうか?英会話のテキスト3巻セットで,15000円です。またとないお買い得ですよ。」
「うーん,それくらいなら,なんとか買えそうね。」

(1)"foot-in-the-door" technique
まず,誰もが受け入れるような小さな要求を出して受け入れさせ,次に目的とする大 きな要求を出す。
「お宅で使っている石ケンについて簡単なアンケートに答えてほしい」
「お宅に伺って日用品・家財道具などの調査をしたい。2〜3時間協力してほしい」
承諾率 22% vs. 53%    (Freedman & Frazer, 1966)

(2)"door-in-the-face" technique
まず,誰もが拒否するような大きな要求を出して拒否させ,次に目的とする比較的小さな要求を出す。
「2年間続けて毎週2時間,非行少年のカウンセラーをつとめてほしい」
「非行少年のグループを動物園に連れて行くのを,2時間ほど手伝ってほしい」
承諾率 17% vs. 50%        (Cialdini,et al., 1975)

(3)"low-ball" technique
まず,非常に魅力的な,あるいはコストの小さい行動の選択肢を用意してそれを受け入れさせ,次に何らかの理由をつけてその魅力的な側面を取り除いたり,コストを大きくした後でもう1度選択させる。
「あなたの部屋のドアにポスターをはらせてほしい」
「実はポスターは階下の受付にあるので,それを自分で取ってきてはってほしい」
承諾率 20% vs. 60%        (Cialdini,et al., 1978)

・社会的証明・返報性・好意・権威・希少性

集団分極化現象

・リスキーシフト(risky shift):集団による意思決定が,個人の意思決定に比べて,より危険志向になる現象。

・コーシャスシフト(cautious shift):集団による意思決定が,個人の意思決定に比べて,より安全志向になる現象。

☆上記2つの現象は,集団経験による初期態度の極性化を意味する集団分極化現象の1 つのタイプとして捉えられる。

・集団の手抜き

悪徳商法の典型例

・語り商法

・パーティー商法

・内職商法

・催眠商法

・恋人商法

マインドコントロール

  (カルト予防ビデオ「幻想のかなたに」視聴)





Part 4 事実と推論

複雑な事柄の記憶

<伝達過程における情報の変容>
 一昨日、未明に徳島市内で火事があったが、放火の疑いがあり、犯人はもしかしたら、いつもバイクを乗り回している近所の高校生Aの友人ではないかという人がいる。

約10名の教師が順番に口頭で話を伝え送った結果、最後の人が受け取った情報は‥‥‥
○最終情報例 1
 昨日、徳島で放火があり、犯人は近所の高校生だといわれている。
○最終情報例 2
 昨日、にめい(??)に徳島で火事があった。2名はバイクに乗って逃げた。

☆ 私たちの短期記憶(作動記憶/作業記憶)には厳しい容量限界がある。この容量を越える情報を一度に受け取ると、必ずどこかが欠落する、その欠落部分は、しばしば推論によって補われる。しかしその推論が誤っていれば、情報は変容する。これが他者へと伝達される場合には、変容は、個人内での情報変容よりはるかに大きく増幅される。

暗黙の前提と誘導尋問

◇目撃証言についての実験(その1)

 自動車事故のフィルムを被験者に見せ、事故について質問
○Aグループ:正確な情報を組み入れた質問
「止まれ」の標識を過ぎた時、白いスポーツカーはどれくらいのスピードで走っていましたか?
○Bグループ:誤った情報を組み入れた質問
田舎道を走っていて小屋を過ぎた時、白いスポーツカーはどれくらいのスピードで走っていましたか?


  1週間後
両グループ:あなたは小屋をみましたか?
Aグループ: 2.7%が「はい」
Bグループ:17.3%が「はい」
(Loftus, 1975)

◇目撃証言についての実験(その2)

自動車事故のフィルムを被験者に見せた後、質問
○Aグループ:車がぶつかった時、どの位のスピードで走っていましたか?
○Bグループ:車が激突した時、どの位のスピードで走っていましたか?
*AグループよりBグループの方が速いスピードを答えた。

 一週間後
両グループ:ガラスが割れるのを見ましたか?
  Aグループ  Bグループ 
はい716
いいえ4434
(Loftus & Palmer, 1974)

☆ 複雑な事柄についての記憶は、不確かになりやすい。そこへ暗示的質問表現によってあることがほのめかされると、気づかないうちに推論を働かせてしまう (ほのめかされた内容を処理する)。そしてさらに、推論内容と事実との区別がつきにくくなる。

目撃記憶

・オリジナル情報と暗示情報の情報源の区別が困難(Lindsay,1994):ソースモニタ リングの失敗

・ストレスと目撃記憶の関係は逆U字(Deffenbacher,1991)ヤーキーズ・ドッドソ ンの法則が当てはまる

・催眠尋問法で想起を促進:注意を当面の課題に向けやすくする

・イエス・バイアス

・構成的エラーと手続き的エラー(Koehnken他,1996)
  構成的エラー:面通しに使われる写真帳やラインナップの構成の仕方が不適切
  手続き的エラー:目撃者の選択が容疑者の方に向かうように捜査員が誘導する手続き

日常的推論

・花子が認知心理学のクラスでふり向くと、太郎が彼女を見つめていることが多い。
・太郎はレポート(課題)のことでいつも花子に相談する。
・太郎はさゆりを見るのをすっかりやめてしまった。
 ------------------------------------------------
? ゆえに、太郎は今花子に夢中だ。

☆こうした推論は日常生活の中でよく行なわれる。しかしこれは、帰納的に妥当(もっともらしい)だが、演繹的に妥当(必然的に導かれる)ではない。

帰納と演繹

・アブハジア共和国には160才以上の人が今日の時点で10人いる。
・現時点で世界中に160才以上の人がいるところはアブハジア共和国以外にはない。
 ---------------------------------------------------------
(1)今日の世界の最年長者はアブハジア共和国にいる。
(2)明日の世界の最年長者もアブハジア共和国にいる。

(1)は演繹的に妥当(前提が真なら結論も真)
(2)は帰納的に妥当であるにすぎない(前提が真なら結論の蓋然性は非常に高い)

☆演繹的妥当性と帰納的妥当性とは、日常生活の中では通常区別されない。ある結論が100%確かであることと、95%確かであることとの間には、実質上ほとんど差がないからである。

・演繹的推理:全体→部分(一般→特殊)へと進む推理。その典型例は3段論法。
・帰納的推理:部分→全体(特殊→一般)へと進む推理。既知の情報から新しい情報を作り出す。

☆帰納的推理では,帰納された規則に反するような新しい情報が出現する可能性が常に残される。帰納された規則は、限定された情報に基づいているので、これを一般化するためには、思考者はその情報を越える必要がある。
  (完全帰納と不完全帰納を区別)

演繹における誤り

○無効変換

・すべてのAはBである→すべてのBはAである
・あるAはBではない→あるBはAではない

○雰囲気効果:

2つの前提の形式と同じ形式の結論は正しいと判断されやすい

・すべてのAはBである
 すべてのCはBである
 -------------------
 すべてのAはCである

・どのAもBではない
 どのBもCではない
 -----------------
 どのAもCではない

・いくらかのAはBである
 いくらかのBはCである
 -------------------
 いくらかのAはCである

<その他>

・人間はいつか死ぬ
 ソクラテスは人間である
 ---------------------
 ソクラテスはいつか死ぬ

・ソクラテスは人間である
 私は人間である
 --------------------
 私はソクラテスである

・高級化粧品は豪華な包装で販売される
 この化粧品は豪華な包装で販売される
 ------------------------------
 この化粧品は高級化粧品である

帰納における誤り

○負事例よりも正事例を採用する

○検索されやすい事例を採用する

<その他>

・大安に結婚したカップルの離婚件数は仏滅に結婚したカップルよりも多い
→大安に結婚すると,離婚しやすくなる

・南太平洋のある島では,健康な人にはたいていシラミがいるが病人にはめったにいない
→シラミは健康のもとである

創造的思考

(1)創造的思考を支える知的特性

  1. 問題に対して敏感である:ある考えに含まれる誤りや欠陥などに気づき,指摘することができる。
  2. 思考が流暢である:次から次へとなめらかにアイデアを出すことができる。
  3. 思考が柔軟である:すでに確立された方法や既存の考えにとらわれずに考えることができる。
  4. 考えが独創的である:型にはまらない,非凡なアイデアを出すことができる。
  5. 考え方が緻密である:ある考えをていねいに発展させたり,細部を注意深く詰めていくことができる。
  6. 問題を再定義する力がある:問題を異なる角度からとらえ直すことができる。

(2)創造的思考を支える態度特性

  1. あいまいさに対して寛容である
  2. 冒険を好む
  3. 自信が強い
  4. 独創性を重視する
  5. 変化を好む
  6. 達成心が強い
    (Guilford, J. P., 1950)

(3)創造的思考を妨げる要因

  1. 機能的固着(とらわれ)
  2. 同調傾向
  3. 権威主義的雰囲気
  4. ゆとりのなさ
  5. 与えすぎ

  (ロボット犬開発者のインタビュービデオ視聴)

(4)創造的思考の方法論

○問題の明確化
・問題解決のためには,まず問題の明確化が必要。問題解決に成功した者と失敗した者との比較によれば、複雑な推論課題を与えたときに成功した者は、事前に何をなすべきかを把握することに多くの時間をかけ、実行する際にはさほどの時間をかけなかったのに対し、失敗した者は何をなすべきかの把握には比較的短い時間しかかけず、実行により多くの時間をかけた。これは、失敗者の問題の確定が本当の意味ではできていなかったことによる。(Sternberg, R. J., 1996)

○問題解決の段階(Wallas, G., 926; Dewey, J.,1933; Sternberg,R. J., 1996)

Wallasの4段階

1)準備期:まず,創造しようという意欲を持ち,必要な情報を集めたり技術を備えたりして,問題解決に熱中する。
2)あたため期:いったん問題から離れ,一見問題とは無関係なことをしながら,考えが熟して自然に出て来るのを待つ。
3)ひらめき期:突然,創造的な問題解決法がひらめく。しかも,その考えは強い確信を伴う。
4)検証期:ひらめいた考えを吟味し,これが正しいことを検証する。

Deweyの5段階

1)問題認識
2)問題把握
3)解決法の着想
4)解決法の検討
5)解決法の選択

Sternbergの6段階

1)認識と着手(現実の問題には番号もついていなければ疑問符もない)
2)問題の確定
3)戦略の構築
4)情報の操作(活用)
5)エネルギーの配分
6)監視と評価

○発想の量と質との関係
「質の高いアイデアを」(質強調条件)vs.「たくさんのアイデアを」(量強調条件)→アイデアの質の高さの平均値は質強調条件の方が高かったが,質の高いアイデアの絶対数は,量強調条件の方が多かった。
(Johnson, Parott, & Stratton, 1968)
量強調教示&例示の効果(Sannomiya, Shimamune, & Morita, 2000)

○視点と情報活用
どういう視点で情報に触れるか,また,どういう視点で情報を想起するかによって,活用できる情報が違ってくる。

○メディアの活用
共同思考において,発想段階とアイデアの検討・吟味の段階とでは用いるメディアを分けて考える必要がある。(Sannomiya & Kawaguchi, 1999)

○発想技法
・ブレインストーミング法(Osborn,A.F.)
はじめに,一切の批判を禁じて,自由奔放にアイデアをたくさん出す。これは,アイデアの量と質とは比例するという考えに基づく。アイデアが出尽くしたところで評価の段階に移り,実際に使えそうなアイデアを絞り込んでいく。

・KJ法(川喜多二郎)
発想をグループ化し,体系化する。まずは,考えを1つずつ「ラベル」に書き込む。KJ法で言う「ラベル」は,同じサイズの小さな紙片を指す。次に,ラベルの分類を繰り返し,グループ化する。小グループ,中グループ,大グループ,といった具合に。そして,大きな紙に,グループ化したラベルを張り込み,ラベルどうしの関係を示す。

・NM法(中山正和)
アナロジー(類推)を活用する。たとえば,ある製品の売り上げを伸ばすという目的のために,「自然界でうまくお客を集めているものはないか」と考える。そして,「れんげ草には,蜂や蝶がたくさん集まる」→「れんげ草は一面に咲く」→「広域広告を出せば製品が売れるのではないか」→「全国紙にカラーで広告を出したらどうか」というように発想を展開する。

(5)メタ認知による創造的思考の促進

○創造的思考のメカニズムを理解する

○創造的思考の方略や支援ツールを理解する

○創造的思考をモニターし,コントロールする習慣をつける





Part 5 メタ認知

メタ認知的知識(metacognitive knowledge)

(1)人間の認知特性についての知識

(a)人間一般の認知についての知識

e.g.「一度聴いただけで覚えられる内容には,限界がある」
「長時間学習は注意力の低下を招く」
「自分で必要性を感じて学習したことは,身につきやすい」
これらは誰にも当てはまる,一般的な認知特性に関する知識。こうした知識は,まさに認知心理学が知見として提供するものである。したがって,認知心理学を学ぶことは,人間の認知特性についての知識を洗練し,豊かにすることにつながる。

(b)自分自身の認知についての知識

e.g.「私は課題に集中する力が弱い」
「私は英語の聞き取りが苦手だ」
「私は人の話を早とちりする傾向がある」
これらは,基本的には他者との比較に基づく,自分自身の認知特性に関する知識。この自分の認知についての知識は,自らの認知活動を正しくモニターしたり,教師やまわりの人々から指摘してもらったりして獲得しなければならない。また,人間一般の認知特性を知ることにより,自分の認知をモニターする手がかりを得ることができる。自分の認知特性をよく知っておくことは,学習者にとって自己学習力を高めるのに役立つ。

(c)他者の認知についての知識

e.g.「Aくんは,話すのは得意なのに作文は苦手だ」
「Bさんは,問題を解くのは速いが正確さに欠ける」
「Cくんは,2桁の引き算の繰り下がり算ができない」
これらは,ある特定の他者の認知活動を注意深く観察することによって得られる知識。

(2)課題についての知識

e.g.「2桁の足し算は1桁の足し算より誤りやすい」

(3)課題解決の方略についての知識

e.g.「ある事柄についての理解を深めるには,誰かにそれを説明してあげることが役立つ」

☆メタ認知的知識は経験から誤って帰納されることもあり,注意を要する。

メタ認知的活動(metacognitive activity)

(1)メタ認知的モニタリング

e.g.「ここが理解できていない」といった認知についての気づき(awareness)
「なんニなくわかっている」といった認知についての感覚(feeling)
「この問題なら簡単に解けそうだ」といった認知についての予想(prediction)
「この考え方でのいいのか」といった認知の点検(checking)

☆メタ認知的活動の基礎は,認知活動を意識化する(注意を向ける)こと。

(2)メタ認知的コントロール

e.g.「完璧に理解しよう」といった認知の目標設定(goal setting)
「簡単なところから始めよう」といった認知の計画(planning)
「この考え方ではだめだから,別の考え方をしてみよう」といった認知の修正(revision)

☆メタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロールは密接に関連して機能する。すなわち,モニターした結果に基づいてコントロールを行い,コントロールの結果をまたモニターし,さらに必要なコントロールを行う・・・といった具合に,両者は循環的に働く。

☆メタ認知の中でも,メタ記憶についての研究が進んでいる。

メタ記憶的知識

○メタ記憶チェックリスト(Cohen他, 1986)
 あなたは,以下のことがらを忘れることがどの程度頻繁にありますか?
  約束/言おうとした冗談/人の名前/買い物のとき,買おうとした物/ある場所へ行く道

5段階評価(非常にしばしば:4〜決してない:0)
 →自己評価と他者評価のギャップを見る

○教授・学習にかかわるメタ記憶的知識

メタ記憶的活動

メタ思考

「思考におけるメタ認知と注意」(三宮,1996)