ワークショップ

創造的思考力を高めるには

 このワークショップでは,以下の質問にお答えするために,創造的思考力を高めるにはどうすればよいかについて考えていきたいと思います。

教師として,子どもたちの創造的な思考力を高めたいと思うのですが,どのようなことを心がければいいでしょうか?

 子どもたちの創造性を高めるにはどうすればいいか。これは,古 くて新しいテーマですね。自ら学び考える力を育てるためにも,思考における創造性の問題を再考する必要がありそうです。
 ここでは,創造性を支える基礎条件とも言うべき知的特性および態度特性の要因,創造性を妨げる要因,そして創造的思考の方法論を概観しながら,子どもたちに対する教師の有効な働きかけを探っていくことにしましょう。
 以下に,「思考の創造性−豊かで柔軟な発想が生まれる条件−」についての私の考え(北尾倫彦編「自ら学び自ら考える力を育てる授業の実際」所収/図書文化社/1999,pp.50-53)を紹介させていただきます。

1. 何が創造性を支えるか

 まず,創造性の高い子どもとは,どんな子どもだろうか。ギルフォード(Guilford,J.P.)の研究によれば,次のような特性を備えた子どもに,高い創造性が期待できる。

(1)創造的思考を支える知的特性

@問題に対して敏感である:ある考えに含まれる誤りや欠陥などに気づき,指摘することができる。

A思考が流暢である:次から次へとなめらかにアイデアを出すことができる。

B思考が柔軟である:すでに確立された方法や既存の考えにとらわれずに考えることができる。

C考えが独創的である:型にはまらない,非凡なアイデアを出すことができる。

D考え方が緻密である:ある考えをていねいに発展させたり,細部を注意深く詰めていくことができる。

E問題を再定義する力がある:問題を異なる角度からとらえ直すことができる。

 しかし,こうした知的な側面だけでは十分でない。思考における創造性が実際に発揮されるためには,創造的思考のための「態度」を忘れてはならない。そこで次に,やはりギルフォードの知見に基づきながら,態度特性について見てみよう。

 

(2)創造的思考を支える態度特性

@あいまいさに対して寛容である

A冒険を好む

B自信が強い

C独創性を重視する

D変化を好む

E達成心が強い

 創造性を支えるこうした特性を,まず念頭に置く必要がある。と同時に,これらの特性を伸ばすような働きかけを行うことが大切である。

 たとえば,教師が子どもたちに対して,あいまいさや失敗に寛容な態度をとったり,独創的な考えをほめたり,最後まで考え抜くことを見守り応援するなどの行動を示せば,子どもたちの中にもそうした態度が育まれやすい。教師自らができるだけ創造的思考を働かせ,その様子を子どもたちに見せること,そして創造的思考を奨励することが大きな役割を果たす。

2. 何が創造性を妨げるか

 幼い子どもたちは皆,ある意味では,大人よりもずっと創造的である。成長するにしたがい,少しづつ創造性をなくしていくように見えるのは,なぜなのだろうか。それは,創造性の妨げとなる要因が存在し,もともとあったはずの創造性を抑え込んでしまうからだと考えられる。

 そこで次に,思考の創造性を妨げる要因について考えてみよう。

(1)機能的固着(とらわれ)

 私たちは,一般には経験とともに知恵をつけていくものであるが,反面,自分の経験や習慣などにとらわれてしまい,頭が堅くなっていく側面もある。自分なりの解決法や物の使用法に慣れると,それ以外の方法を思いつきにくくなる。こうした現象を,機能的固着と呼ぶ。

 たとえば,ダンベル体操をしたいがダンベルがないという場合に,1.5リットル入りの筒型ペットボトルをダンベルの代わりにすることを思いつくためには,「飲み物の入った容器」という固定観念を捨てて,ダンベルの代用品としてとらえ直さなければならない。これは,一般には困難なことである。本来の用途以外の使い方を考えるといった創造的思考のためには,経験によるとらわれから,思考を意識的に解放する必要がある。

(2)同調傾向

 わが国ではとりわけ,「皆と同じであること」を重視する傾向がある。進学や就職の際にも,とりあえず皆と同じ方向を望む親が圧倒的に多い。人と違っていることへの不安から逃れるために,人と同じように考え,行動するという同調傾向が,随所に見られる。

 また,学校教育においても,皆と違っている子どもは,とかく疎まれがちである。教師にとって,大勢の子どもたちに同時に目配りしなければならない状況のもとでは,皆と同じように反応する子どもの方が,何かと対応しやすいのも事実である。

 さらにまた,家庭や学校を取り巻く社会も,周囲に同調してくれる人材を,「協調性がある」とみなして歓迎してきたいきさつがある。こうした同調傾向は,創造性を妨げる方向に働く。

(3)権威主義的雰囲気

 権威主義とは,権威を無批判に受け入れてそれに従うという行動特性を指す。多数派や権力者,伝統,社会規範などの権威には服従するが,一方では,少数派や自分より下位の者には無条件の服従を要求するという側面を持つ。家庭や学校,社会にこうした雰囲気がある場合には,思考の柔軟さや独創性などが特に抑えられ,子どもの創造性は乏しくなる。

(4)ゆとりのなさ

 時間的あるいは心理的にゆとりのない状況では,誰しも型にはまった思考を行いがちである。創造的に考えさせるためには,子どもたちが考えたり試してみたりするための時間と心の余裕が確保されている必要がある。

(5)与えすぎ

 「必要は発明の母」とのことば通り,新しいことを考え出すには,具体的な必要性が動機づけとなる。しかも,この「必要性」は,子どもにとって切実なものであるほど効果的である。

 欲しいおもちゃを次々に買ってもらう子どもは,そうでない子どもに比べて,自分で工夫することが少なくなる。同様に,すぐに答を教えてもらったり,ヒントを次々に与えられたりすると,自分で考える必要性が薄れる。結果として,創造的思考を働かさなくなる。

 

3. 創造的思考のための方法論

 子どもたちの創造的思考力を高めるためには,これまで見てきたように,創造性を支える知的特性や態度特性を伸ばすように働きかけ,また,創造性を妨げる要因をできるだけ排除する必要がある。そしてさらに,創造的思考のための方法論を子どもに伝えることができれば,より具体的な形で創造的思考を促進することができる。

そこで次に,創造的思考のための方法論,とりわけ発想法について,代表的なものを紹介する。

(1)ブレインストーミング法

 オズボーン(Osborn,A.F.)によって開発されたこの方法では,まずはじめに,一切の批判を禁じて,自由奔放にアイデアをたくさん出す。これは,アイデアがたくさん出てくれば,それにともなって良質のアイデアもふえる,すなわち,アイデアの量と質とは比例するという考えに基づくものである。この点は,実験的にも確認されている。アイデアが出尽くしたところで評価の段階に移り,実際に使えそうなアイデアを絞り込んでいく。

(2)KJ法

 川喜多二郎氏によって開発されたこの方法は,もともと文化人類学のための手法であり,膨大な質的データに基づいて発想するためのものである。

 まずは,考えを1つずつ「ラベル」に書き込む。KJ法で言う「ラベル」は,同じサイズの小さな紙片を指す。次に,ラベルの分類を繰り返し,グループ化する。小グループ,中グループ,大グループ,といった具合にである。そして,大きな紙に,グループ化したラベルを張り込み,ラベルどうしの関係を示す。

 KJ法では,混沌とした状態にあるバラバラの考えを,目に見える形にして,体系化していくことが基本である。最終的に,平面上に配置されたラベル・グループをにらみながら,文章化していく。

(3)NM法

 中山正和氏の開発によるこの方法は,一見無関係なものとの間のアナロジー(類似性,類推)を活用して発想する方法である。

 たとえば,ある製品の売り上げを伸ばすという目的のために,「自然界でうまくお客を集めているものはないか」と考える。そして,「れんげ草には,蜂や蝶がたくさん集まる」→「れんげ草は一面に咲く」→「広域広告を出せば製品が売れるのではないか」→「全国紙にカラーで広告を出したらどうか」というように発想を展開するわけである。どんな問題も,解決のヒントは,すでに自然界に存在しているという考えが基本である。また,なるべく概念的に遠く離れたものどうしを結びつけることにより,独創的な発想を目指すものである。

4. メタ認知で創造性を高める

 思考における創造性を高めるためには,創造的に考えさせるための環境をまず整えることが,大きな助けになる。そしてさらには,子どもたちが創造的思考を正しく理解し,創造的思考の方法論を自分に合った形で取り入れることによって,自分自身の創造性を高めていく力を身につけさせることが重要である。これは,言い換えれば,創造的思考についてのメタ認知を促すことである。

 具体的には次のようなことが考えられる。

(1)創造的思考のメカニズムを理解させる

 創造的思考を理解するためにはまず,創造的思考がどのようなメカニズムで働くかを知っておく必要がある。たとえば,創造的思考が,いくつかの段階を経て達成されることを知っておくことは重要である。

 よく知られるものとして,次の「ワラス(Wallas,G.)の4段階」がある。

@準備期:まず,創造しようという意欲を持ち,必要な情報を集めたり技術を備えたりして,問題解決に熱中する。

Aあたため期:いったん問題から離れ,一見問題とは無関係なことをしながら,考えが熟して自然に出て来るのを待つ。

Bひらめき期:突然,創造的な問題解決法がひらめく。しかも,その考えは強い確信を伴う。

C検証期:ひらめいた考えを吟味し,これが正しいことを検証する。

 こうした知識があれば,現在自分がどの段階にあるのかを知り,意識的に次の段階に進むことも可能になる。

(2)創造的思考の方略や支援ツールを理解させる

 ブレインストーミング法やKJ法,NM法などの技法から,より一般的な形で創造的思考の方略を抽出すれば,次のようになるだろう:「創造的思考のためには,まず多くのアイデアを絞り出し,評価はあと回しにすること,連想を働かせ,すでに知っているものとのアナロジーを意図的に活用すること,考えたことを,他者にもわかる形で外に出すこと(外化:externalization),外化した考えの編集作業を行うことなどが有効である。」

 こうした方略を子どもたちが理解し,自分流に工夫するよう仕向けることが重要である。また,創造的思考の支援ツールとしてコンピュータを活用することも大切である。たとえば,思考の外化や編集のためには,きわめて有効なツールとなる。

(3)創造的思考をモニターし,コントロールする習慣をつける

 創造的思考をより効果的に行うためには,自分の思考を対象化してモニターしたり(思考の自己観察),自分でコントロールしたり(思考の自己制御)することが必要である。 「ワラスの4段階で言えば,今,自分はどの段階にいるのだろう」「自分はまだ固定観念にとらわれているのではないか」といったメタ認知的なモニタリングや,「もっと違う観点から問題をとらえ直してみよう」「いったんこの問題から離れて,他のことを考えてみよう」といったメタ認知的なコントロールを行う習慣が身につけば,創造的思考力は飛躍的に増大する。

5.安心感と緊張感を与える

 最後に,子どもたちを創造的思考へと駆り立てるためのポイントを2つつけ加えておこう。

 まず,1つは,安心感である。「どんなに変わったことを考えても,口に出しても,先生やクラスのみんなは受けとめてくれる」という安心感は,子どもの思考を創造的なものにする。「こんなことを言うと叱られるのではないか,ばかにされるのではないか」という不安は,逆の働きをする。

 2つめは,適度な緊張感である。ぬるま湯的な状況の中では,思考力も弛緩してしまい,創造的にはなりにくい。適度の緊張感が,刺激剤となり,創造的な思考を誘発する。

 これらはいずれも,教師によって作り出すことが可能である。

 子どもたちの創造性を高めるためには,教師自身がとりわけて創造的である必要はない。むしろ大切な問題は,創造性のよさを十分に認め,創造的であることを奨励し,そして自らもより創造的に考える教師になろうと工夫し努力する態度を示せるかどうかに,かかっているのである。

 問題解決を支援するコラボレーション・ネットワーク:

   http://www.naruto-u.ac.jp/~rcse/