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  心の健康とその教育

    今、学校はどうだろう。一頃、いじめや不登校などの心理学上の問題で混乱していたが、その混乱もおさまったことだろう。しかし、現状はそうではないらしい。文部省の調査でも、不登校児童の比率は、小学校でも中学校でも増え続けている。さらに最近では、小学校においてさえ、クラスの運営が成り立たなくなる学級崩壊も目立ち始めてきた。また、中学校にいたっては、刃物で教師や生徒が刺され死亡するという、教育の場からは想像できないような日常が生まれ始めている。子どもが不登校になれば、自分たちにとっては大切な生活の場である学校に対して不適応な状態にあるのであり、人に刃物をむけることは、その子どもが、そうした行動に出なければならないほど大きなストレスにさいなまれていることが疑われる。

 これらの原因の多くは、いわゆる心の問題であり、この現状から、近年、心の(健康)教育の必要性が叫ばれるようになってきた。心の健康とは、社会場面に適応的な状態にあることであり、また過剰で持続性の高いストレス状態にないことをも意味している。このような心の健康を維持する要因は数多くあるが、個人の特性に限っていえば、性格や行動がもっとも影響力の大きな要因として考えられる。そして、これらの要因こそが心の健康教育の主要な教育目標となり、教育プログラム構築の一大指針となる。

    性格や行動(認知・感情を含む)の諸々の特徴が、心と身体の健康に大きな影響を及ぼすことは古くから繰り返し指摘されてきたことである。このことから、心の健康教育は、心の健康に影響する性格や行動特徴への教育だけではなく、身体の健康に影響する性格・行動特徴への教育であることも同時に意味している。また、ここでの心身の健康への影響とは、問題となる性格・行動特徴によって時間を置かずに直接もたらされる不健康だけではなく、間接的に時間をかけてもたらされる不健康をも意味している。たとえば、攻撃性という性格特徴は、直接的には、心身への対人的なストレスとして抑うつ感情や血圧の昂進などの問題をもたらすが、間接的で長期的な影響として、うつ病や心臓病などの疾患をもたらす可能性も高い。

   この心の健康教育は保健教育との区別が曖昧なところがあるが、教育対象としての行動の中でも喫煙や歯磨きのような具体的な健康行動は、心の健康教育というよりも保健教育に属する対象であるという区別は必要である。しかし、心理学的要素の強い健康行動、たとば夜型生活習慣の改善などは心の健康教育の対象となり、また同時に保健教育の対象となることもできる。この他、心の健康教育は、学校カリキュラム上では道徳や特別活動とも接点をもつが、その内容においては共通点は少ない。

  こうして、心の健康教育とは、心(性格や行動)を変容させ、心身の健康を維持し、向上させることを目指す教育といえ、正確には心による健康教育と表現した方がよい内容をもっている。たとえば、心の健康教育として実施される攻撃性の低減プログラムは、攻撃性が高くなり、その表現自体が対人ストレスや血圧を高めることなどの問題をもつという、直接的な心身の不健康を予防するだけではなく、攻撃性が持続することによってもたらされる抑うつや心臓病どの心身の不健康(疾患)を防ぐことも同時に目指している。そして、さらに、攻撃性が原因の一部になっているいじめや不登校などの問題の解決にも役立つことが期待されることになる。

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 心の健康教育とは

   心(性格や行動)を変容させ、心身の健康を守り、

   心身の病気を防ぐ教育である。

                                       

                                   

  これまでの心の健康教育とその問題点

  学校現場で生まれている心理学的な問題については、確固とした学問的背景をもった対処は、問題が起きてからの治療に終始しているのが現状である。実際に現れた問題への治療や矯正は欠くことのできない試みであるが、同時に教育の場では、これらの問題が生じないように、普段の教育における予防や配慮が必要であり、この試みこそが教育という場に最もふさわしい内容をもつ。しかし、この試みを、心理学的に周到な手続きをもって科学的に実施している研究や実践例は少ない。

 心の健康教育は、学校現場においては保健や道徳がその一端を担うことが考えられるが、現実には、それらの授業によってその目標が十分に達成されているとはいいがたい。

 

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