認知療法の臨床適用

Clinical Applications of Cognitive Therapy

 

 

文献紹介:統合失調症の認知療法(3)

 

統合失調症の認知行動療法

1/ 認知リハビリテーション(cognitive rehabilitation

     基礎的情報処理に関わる機能欠損の改善

      Brenner HD et al. Treatment of cognitive dysfunctions and behavioral deficits in schizophrenia. Schizophr Bull. 1992; 18: 21-26.

2/ 残遺精神病症状に対する認知行動療法

     対処技能増強法(coping strategy enhancement)による対処方略の向上と精神病症状の緩和

3/ スキーマ療法(schema-focused treatment

     自己と世界に対する非機能的認知の再構成

      Perris C et al. Cognitive therapy with schizophrenic patients. Acta Psychiatr Scand. 1994; 89 (suppl. 382): 65-70.

 


#1. Tarrier N, Beckett R, Harwood S, Baker A, Yusupoff L, Ugarteburu I. A trial of two cognitive-behavioural methods of treating drug-resistant residual psychotic symptoms in schizophrenic patients: I. Outcome. Br J Psychiatry. 1993; 162: 524-532.

 

背景

 抗精神病薬による治療にもかかわらず,多くの統合失調症患者に残遺精神病症状(residual psychotic symptoms)が認められ,患者の苦痛(distress)や障害(disability)の原因となっている。

目的

 残遺精神病症状(幻覚,妄想)の消失に2種類の認知行動療法が有効かどうかを検討した。

対象

 対象は,DSM-。-Rの統合失調症の診断基準を満たし,薬物療法を受けているものの,これに反応しない精神病症状が少なくとも6カ月持続している患者49例であった。このうち,27例が治療を終了し,23例が6カ月後の追跡評価を受けた。

方法

 患者は無作為に「対処方略増強法」(coping strategy enhancement, CSE)と「問題解決法」(problem-solving, PS)という2種の認知行動療法に割り付けられた。なお,治療期間はいずれも5週間であった。

結果

 待機期間中には精神病症状に改善はなかったが, 2種の治療(CSE, PS)とも精神病症状の改善をもたらした。また,有意ではないが,CSEを受けた患者のほうが,PSで治療された患者よりも改善していた。陰性症状や社会的機能には改善が認められなかった。

結論

 残遺精神病症状に対する集団認知行動療法の効果を対照試験によって評価した最初の研究であるが,2種の治療法とも幻覚,妄想の消失に有効であった。

 


対処方略増強法(coping strategy enhancement, CSE

 1 CSEの目的

精神病症状とそれに伴う感情反応を維持させている環境要因を同定・修正するとともに,症状に対する患者の対処法を分析・強化することによって,精神病症状の改善と随伴する否定的感情の軽減を図る。

 2 CSEの手順

 a 最初に治療の理論的根拠を患者に説明する。このとき,症状と否定的感情の緩和に向けて,患者と治療者が「ともに努めること」が提案される。症状が疾患に由来するものであることを患者が認めようとしないとき,見解の相違は治療過程で検証されるものであることが強調される。また,症状に伴う感情反応が望ましいものでなく,治療の標的とされるべきである点で,患者と治療者が同意できるようにする。

 b 半構造的面接によって,症状に先行する出来事,症状,症状に続く感情反応,対処方略が評価される。

 c 患者が症状のセルフ・モニタリングを行えるようにする。最初に,幻覚と妄想を認識できるようにする。幻覚は通常間欠的で,他と区別できるものなので,比較的同定しやすい。妄想に関しては,不安や抑うつに伴う不適応的思考様式を自覚してもらうのと同様に,「普通ではない考え」に注目してもらうようにする。病識の乏しい例には,妄想に伴う感情・行動反応に対する注意を促すとよい。

 d 標的とする症状を患者との同意の上で決定する。通常は,治療の容易さと症状軽減の優先順位によって選択する。

 e 患者が現に行っている対処方略を同定する。

     1/ 認知的方略:注意を別のものに向ける,注意の幅を狭くする,自己教示を行う

     2/ 行動的方略:一人になる,人と交わるようにする,社交から遠去かる,現実吟味をする

     3/ 身体的変化をもたらす方略:リラクセーション,呼吸調節

 f 適切な対処方略を同定し,これを構成成分に分ける。

 g 模擬場面で適切な対処方略について練習する。もしセッション中に症状が見られたときには,その状況を実地の練習(in-vivo practice)に活用する。

 h ホームワークの形で,適切な対処方略を実行する。次のセッションで復習を行う。

 i 治療効果を認めたとき,あるいは数回のセッション後にも効果が見られないときには,別の症状を標的とする。

 j セッションの全般を通じて,治療で得たものを確認し,患者には獲得した対処技能を別の症状や状況に般化することを勧める。

 k 治療を終結するに当たっては,将来起こりうる困難を解決する方法についてリハーサルしておく。

 


問題解決法(problem-solving, PS

 1 PSの目的

問題解決のための方法を教えることによって,認知機能の改善を図る。

 2 PSの手順

 a 最初に治療の理論的根拠を患者に説明する。統合失調症によって日常の具体的な問題を解決する能力が障害されること,問題の解決に系統的に取り組む能力を高めるのが治療の目的であることを伝える。

 b 困難を覚えたり不満に感じる状況のリストを作ったり,記録してもらう。

 c 問題解決のための「段階」に関して説明する。

      ・問題をとらえ,明確で具体的なものにする。

      ・問題を解決するための方法を幅広く枚挙する。

      ・それぞれの方法のもつ有用性や予想される結果を評価する。

      ・もっとも適切と思える方法を選択する。

      ・選択した方法を実行する。

      ・実行した結果を評価する。

      ・望ましい結果が得られなかったときには,別の方法を試みる。

      ・問題解決の方法を使ったことに関して,自己強化を図る。

 d 問題解決法を抽象的な状況に適用する。たとえば,簡単なゲーム。

 e 問題解決法を標準的な「現実」場面に適用する。たとえば,職につく,住まいを見つける,友人をつくる。

 f 問題解決法を患者の生活場面で見られる問題に適用する。先に記録してもらった問題を対象として,最初は想像の中で練習し,次いで実地に実行する。治療者からのフィードバックを受けるだけでなく,自己強化も組み入れるようにする。

 


#2. Tarrier N, Sharpe L, Beckett R, Harwood S, Baker A, Yusupoff L. A trial of two cognitive-behavioural methods of treating drug-resistant residual psychotic symptoms in schizophrenic patients: II. Treatment-specific changes in coping and problem-solving skills. Soc Psychiatry. Psychiatr Epidemiol. 1993; 28: 5-10.

 

目的

 残遺精神病症状に対する2種類の認知行動療法(CSEPS)が,それぞれの標的とした技能(対処技能と問題解決技能)を改善するものかどうかを検討した。

対象

 対象は,DSM-。-Rの統合失調症の診断基準を満たし,薬物療法を受けているものの,これに反応しない精神病症状が少なくとも6カ月持続している患者で,それぞれの治療を終了した27例のうち,対処技能と問題解決技能に関する情報が得られた21例(CSE:12例,PS:9例)である。

方法

 対処技能は半構造的面接によって確認され,6つの範疇から成る一定の分類法にもとづいて評価された。対処技能は肯定的なものと否定的なものに分類され, 対処方略の「総数」として,肯定的対処方略の総数から否定的対処方略の総数を減じた数を当てた。また,対処方略の「効率」については,それぞれの方略の有効度を3段階で評価した後,すべての方略の有効度を合計し,この値を対処方略の「総数」で除して判定した。

 問題解決技能の客観的評価はむずかしいが,仮説的な問題状況に対する解決技能を検討することにした。得られた解決法の「数」と解決法の「適切さ」を5段階で評価し,さらにその合計を問題解決技能の指標とした。

結果

 CSEでは肯定的対処技能数の増加,対処技能効率の改善,精神病症状に対する効果が認められた。否定的対処技能の減少は見られなかった。また,問題解決技能にも改善が見られた。

 一方,PSでは問題解決技能の改善はあったが,CSEとの有意差は確かめられなかった。

結論

 2種の認知行動療法のうち,CSEは特異性の高い治療プログラムと思われた。

 


対処方略の分類

 1/ 認知的方略(cognitive starategies

      ・注意を別のものに向ける(attention switching

      ・注意の幅を狭くする(attention narrowing

      ・自己教示を行う(self-instruction

 2/ 行動的方略(behavioural starategies

      ・活動量を増やす:運動,散歩

      ・社会的活動を増やす:人と交わるようにする

      ・社会的活動を減らす:一人になる,社交から遠去かる

      ・現実吟味(reality testing

 3/ 感覚的方略(sensory starategies

      ・感覚入力を調節する:テレビを見る,ラジオを聞く

 4/ 身体的方略(physiological starategies

      ・身体の状態を調節する:リラクセーション,呼吸調節

 5/ 不適応的方略(maladaptive starategies

      ・不適切で有害な結果に終わるような行動をする:アルコール/薬物乱用,服薬をやめる,幻声に怒鳴り返す

 6/ 疾患関連性方略(illness-related starategies

     ・ある症状の制御するために別の症状を用いる:不快な幻覚をなくすために霊力を利用する

 


#3. Tarrier N, Yusupoff L Kinney C, McCarthy E, Gledhill A, Haddock G, Morris J. Randomized controlled trial of intensive cognitive behaviour therapy for patients with chronic schizophrenia. BMJ. 1998; 317: 303-307.

 

目的

 集中的認知行動療法(intensive cognitive behaviour therapy)が慢性統合失調症患者に見られる残遺精神病症状の改善に有効かどうかを検討した。

対象

 対象は,DSM-。-Rの統合失調症,統合失調情動精神病,妄想性障害の診断基準を満たし,薬物療法を受けているものの,精神病症状が少なくとも6カ月持続している患者87例であった。このうち,治療を終了したのは72例であった。

方法

 患者は無作為に以下の3つの治療に割り付けられた。

  1/ 集中的認知行動療法+通常ケア(intensive cognitive behaviour therapy plus routine care):33例

       CSEPS,再燃予防:毎週2回,10週間

  2/ 支持的カウンセリング+通常ケア(supportive counselling plus routine care):26例

       支持的治療関係(非特異的介入):毎週2回,10週間

  3/ 通常ケア(routine care):28例

       薬物療法と症状管理

 精神病症状の数と重症度については,治療前と3カ月後に評価された。症状数はPresent State Examinationから算出し,重症度はBrief Psychiatric Rating Scaleの合計得点とした。

結果

 集中的認知行動療法では,支持的カウンセリング比して,精神病症状の重症度と数に有意な改善が認められた。支持的カウンセリングにおける改善は有意ではなかった。集中的認知行動療法では,他の治療法全体と比較して,有意に多くの患者が症状の半減を示した。通常ケアの場合,症状の悪化が多く,入院期間も長かった。

結論

 集中的認知行動療法は慢性統合失調症の補助的治療として有用である。

 

 

 

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