認知療法の臨床適用

Clinical Applications of Cognitive Therapy

 

 

文献紹介:統合失調症の認知療法(2)

Perris, C. & Skagerlind, L.: Schizophrenia

 

統合失調症にみられる非機能的認知

 症例1

  * 他人は自分の利益しか考えないので信頼できない。

  * 完璧にできないようなら,まったく何もしないほうが安全だ。

  * 他人はいつも私をからかおうとするから信頼できない。

 症例2

  * 誰も理解してくれないのだから,自分の気持ちを話すことなど,無意味だ。

  * 他人は信用ならないから,当てにはできない。

  * 他人と向き合うか,引きこもるか,どちらか一方を選ばなければならないなら,引きこもるのが一番安全な方法だ。

 

統合失調症に対する認知療法の実際

 治療センターが夏期休暇のため一時的に閉鎖されていたとき,28歳のトムはパーティーからの帰途,交通違反を起こし,運転免許を取り上げられた。その後,閉じこもって人に会わなくなったトムに対して,介入が試みられた。

 

問題解決的方略

【刑罰に関する不安】

1 問題を明確にする:不安に伴う認知をとらえる

  「刑務所に行くことはなくても,保護観察処分になるだろう」

  「見も知らぬ人の監督下に置かれるのはたまらない」

  「自分の思っていることも言えず,黙ったままになるだろう」

  「やがてまた,人に支配されているという感じが起こるだろう」

2 問題に対する解決策を検討し実行する

【運転免許喪失に関連する困惑】

 トム:きっと仕事をやめなければならなくなると思うんです。

 治療者:もう少し具体的に話して下さい。

 トム:計画したことがみんな,車がないとできなくなるんです。新しく割り当てられた区域があるんですが,それには車が必要なんです。本店まで行くのも20マイルあるし,どうすればそこまで行けるかもわかりません。

 治療者:すると,問題は二つあるわけですね。一つは新しい割り当て区域での仕事に関すること。もう一つは本店までの交通手段。先に仕事の方を考えますか? 何か名案はありそうですか?

 トム:前の人がやめてから,僕がその区域を引き継いだんです。その時点ではそこを担当したかった人が,何人かいたんです。それなのに,僕には担当区域がうまく管理できそうもなくなったんです。もう最悪です。

 治療者:どういう点で最悪なんですか?

 トム:その仕事は僕の方から願い出て引き受けたのに。親方は親切で,僕の配置替えでは面倒をかけました。それが,こんな状態ですから。

 治療者:どんなところが大変だったんですか,親方にとって。

 トム:親方はそれについては詳しくは話してくれません。

 治療者:なるほど,特に話があった訳ではないんですね。では,話以外で,大変だったという素振りが見えましたか?

 トム:いいえ。でも,この仕事をほしがっていた人もいたんで,きっと大変だったにちがいないんです。

 治療者:その人が仕事をほしがった理由がわかりますか?

 トム:年上だし,自転車を使うより,自動車に乗れる区域がよかったんです。

 治療者:自転車を使ってみるというのは,考えてみましたか?

 トム:そうですね。いい考えですね。

 治療者:それでは,どんなことができそうですか?

 トム:その人と僕が交代するというのも一案かもしれません。

 治療者:できそうですか?

 トム:たぶん。でも,何か新しい計画を提案するのがむずかしそうで。

 治療者:失業する方があなたには好都合なのですか?

 トム:とんでもない! 失業でもしたら,もっと大変です。

 

 宿題として,配達区域の変更について親方と話し合ってもらうことにした。変更は可能という返事が得られた。

 

 治療者:朝どうやって分担区域まで行くかという問題について,何か考えがありますか?

 トム:朝は早いし・・・

 治療者:バスがありますか?

 トム:始発は7時30分です。仕事は6時開始です。

 治療者:全員が6時に始めるのですか?

 トム:いえ。遅出の人もいます。でも,ストレスが増えてしまいます。10時までに全部配達する必要がありますから。毎朝私の職場まで行く郵便物の輸送便があります。

 治療者:それに乗せてもらえるかどうか確かめてみてはどうですか?

 トム:やってみます。

 

 集中的な認知療法が終了した時点で,トムは規則的に就労しており,症状も消退していた。その1年半後,トムの恋人が妊娠し,周囲の反対を押し切って,2人は出産を選択した。しかし,母親となった恋人は新生児の病気を案じ,しきりに救急を受診するようになった。トムはこの時点で治療を求めてきた。

 父親として失格だという気持ちと,恋人との葛藤が治療の焦点となった。しかし,ついに2人は別居しなければならなくなった。さらに,恋人の具合が一層悪かったので,トムの方が赤ん坊の世話をする必要が出てきた。

 

 トム:父親としての役割に自信が持てるようになるにはどうすればいいか,話したいんです。とても不安なんです。

 治療者:何があなたを不安にさせるのですか?

 トム:自分のしていることが正しいのか間違っているのか,それがわかりません。

 治療者:自分のしていることが正しいのかどうか,わからなくなるのは,具体的にはどんな場面で,ですか?

 トム:いろいろありますが,たとえば,食べさせたりするときです。   

 治療者:どういうことが問題になるのですか?

 トム:必要なものを食べさせているのかどうか心配なんです。

 治療者:食べ物の内容ですか,それとも量ですか,心配なのは。

 トム:両方です。十分に食べているかどうか,自信がありません。

 (中略)

 治療者:他の親はどうやっていると思いますか?

 トム:お互いに教えあっているように思います。

 治療者:誰か相談できる人がいますか?

 トム:赤ん坊教室にもう一度行ってみて,そこの人に相談してみます。

 治療者:名案です。どうしてそれを思いつかなかったのですか?

 トム:恥ずかしくて。きっとみんな,駄目な父親だ,こんな基礎的な質問をするなんて,と思うでしょう。

 治療者:これまで定期的管理のために赤ん坊教室に行ったときの経験は,どうでしたか?

 トム:みんなとても親切でした。

 治療者:あなたは自分の子どもの世話もできないと,ほのめかすような人はいましたか?

 トム:みんなよく理解してくれたし,私をほめてくれました。

 治療者:今話していただいたことから,どんなふうに結論しますか?

 トム:食事の内容は心配しなくてもいいと思います。

 


Scott, J., Byers, S., & Turkington, D.: The chronic patient

 

統合失調症の治療における認知療法

 薬物療法を補完する治療法として位置付けられる。

 ・患者の認知:「狂気」の意味に関連した破局的認知

   精神病院への幽閉,他の「気違い」による威嚇や暴圧,家族・友人・社会の拒否

    → 最悪の事態の予測,絶望感,自殺の危険性

 ・治療スタッフの認知:統合失調症という診断に関わる認知

入院初期における認知療法

 ・認知療法の役割:薬物療法の必要性を理解し,治療に対する希望的態度を培う。

 ・概念化:精神病症状発現前の出来事を精査することが重要である。

 ・治療開始時に精神病症状の悪化する可能性がある。

 ・治療的介入:

   直面化(confrontation)は避け,誘導による発見(guided discovery)を活用する。薬物療法の必要性はセッションの重要な話題の一つである。

 ・心理教育的アプローチ:biopsychosocial model

 

症例アンナ

 20歳 未婚 女性

 16歳時に発病し,以降,精神病症状の絶えることはなかった。急性増悪時には2回入院している。持続性の言語幻聴(第三者の形で,虐待するような内容)とともに,「私の不利になるように魔法が使われている」という妄想が認められた。

 過去4年間,抗精神病薬療法を受けてきたが,2日ほど前から,両親によると,訳のわからないことを話すようになり,おびえたように見え,落ち着かなくなった。両親には増悪の理由がわからなかった。

 救急外来受診時には,近所から離れた安全な場所にいられるということで,いくぶん穏やかになっていたが,「あっちでは悪い力が作用している」のだった。アンナには連合弛緩が認められたほか,「身体にいろいろな危害を加える目的で,魔法が使われている」と訴えた。たとえば,「身体にピンが刺さっている」感じがし,頭痛とか不眠が引き起こされるのだった。

 両親は,アンナの病前性格について,釣合のとれた性格で,友人も多かったと語った。学業成績は発病前には優秀で,完璧主義的なところのある勉強家であった。

 入院時の診断は妄想型統合失調症であった。このため,haloperidol(食後4mg,眠前5mg)が改めて開始された。

 

認知療法の治療経過

セッション1

 入院の理由がわからないとアンナは語った。しかし,病棟では安心できることは認めた。不安や恐怖をもたらす自動思考に対する合理的反応について話し合った。たとえば,「これまで4年間実際に危害を受けるようなことはなかった。どうして今何かが起こらなければならないのか?」といった合理的反応が提案された。患者は半信半疑であったが,このような合理的反応が有効かどうかを確認することには同意した。患者には思考障害が存在したが,それでも3つの事柄については同定できた。1/ 魔法がかかっていて,そのせいで問題が生じていた。2/ 身体の異常な感じは魔法が原因であった。3/ 対象に対する感情の強さが変動するのに伴って,思考障害の程度にも変化がみられた。さらに,思考の障害は面接終了時にはいくぶん改善していた。

セッション2

 入院の必要性について尋ねるアンナに,正確な診断(統合失調症,つまりある種の「神経衰弱」)と治療に対する理論的根拠が話された。統合失調症は治療が不可能な病気なので,「あきらめる」しかないと患者は結論していた。脳の異常興奮が関連していること,薬物療法が異常な脳機能の改善に役立つことが話された。患者教育用の小冊子が手渡された。アンナには,また,統合失調症がストレス状況下で増悪することが話された。アンナが挙げたストレス因は,家庭での口論,睡眠不足,親類の死であった。再燃について語るとき,アンナの思考障害は軽減していた。宿題は,薬物療法が統合失調症症状の緩和に有効かどうかを3人の病棟スタッフに尋ねることであった。

セッション3

 宿題の復習をすると,アンナはスタッフの回答を記録していた。セッションの話題は大部分 haloperidol の効果や副作用について話すことに費やされた。患者は食後薬の増量に同意した(毎食後5mg)。睡眠障害と幻覚の関連が話し合われた。アンナの思考障害には改善傾向が認められた。

セッション4

 初発のころの出来事について話し合われた。当初,格別のストレス因を思い出せなかったアンナも,詳しく調べると,引っ越しが多く,2年間に4回ほど転校したことが明らかになった。2度目の転校時に味わった孤立感や悲哀感,新しい級友たちによるいじめが回想された。抑うつに関連した自動思考(「私は失敗者だ」,「こんなことには意味がない」,「私には追いつけない」)が顕著であった。3度目の転校の頃には,肩や首のこりや腹部の不快感などの身体症状が見られた。不安に関連した自動思考としては,「試験でもっと良い点がとれるようにしなければならない」,「自分の力で調節できることは何もない」,「もっと良い子でいなければならない」があった。4度目の転校は精神病症状が初発するわずか10週前であった。セッション終了時には,症状の発現に先立って,自分にとって不利な出来事が重なっていたことを,アンナは認められるようになった。これには脱破局視を促す効果があり,患者は自分の病気を前よりも理解可能なものとしてとらえはじめた。

セッション5〜9

 アンナは治療に積極的になり,思考と感情について話すことに意欲的になった。幻覚が次の話題として取り上げられた。これまでは声の現実性が問われたことはなかった。まず幻覚の強度,頻度,「誘因」の記録を行った。十分にこの宿題が果たされたわけではなかったが,その過程で,アンナが一人のときに声は増大しやすいことが明らかになった。加えて,声の強度に変動があり,ほとんど存在しないときのあることがわかった。しだいにアンナは幻覚の妥当性を問うことに興味を示しはじめた。あるとき,宿題として,アンナは信頼できる看護婦数人に,声が聞こえるかどうかを尋ねてみた。誰も聞こえないというのが返答であった。そこで,実際のところその声が何かについて,仮説を立てることにした。アンナは今も声はたぶん「本当」であると思っていたが,それでもその度合は「70%の確かさ」になっていた。次に,宿題として声の源がどこにあるかを探すことにした。その結果,アンナの声に対する確信度は50%にまで低下した。どのような方法で声が彼女だけに向けられているのかについて,考えられる理由を話し合った。たとえば,「アンナは悪霊の声を聞くことができる霊媒かもしれない」(確信度30%),「テレパシー」(確信度20%),「特定の脳部位の興奮によって生じた統合失調症の一つの症状」(確信度30%)が挙げられた。統合失調症に関する読み物を読み,認知療法を継続することにより,声が一症状であるという考えが強まってきた。こうしたセッションの後,アンナは声にとらわれたり,おびえたりすることが少なくなった。

セッション10〜15

 魔法に関する確信はまだ強かったが,それでも幻覚に対する働きかけの結果,前よりは軽減してきた。そこで,近所に魔法が存在する証拠について検討した。魔法という捉え方に対する証拠として挙がったものは,大部分が,発病初期に経験した現象の不可思議さをアンナが説明できないことに関連していた。初期のエピソードを,ストレス因性の統合失調症の発症として,繰り返し捉え直すことが役立った。ピンが刺さるという体験は,過呼吸に伴う不安症状として説明された。さらに,過呼吸によって症状が再現されることが示された。

 否定的自動思考に対する合理的反応が提案された。魔法に関する妄想から,「私はいつでも完全に事態を制御していなければならない」というスキーマが推論された。精神病症状発現前におけるこのスキーマの活性化が,妄想内容を規定している可能性がうかがわれた。自己制御を失うにつれ,悪意に満ちた破壊的な仕方で,自分が外部から制御されていると信じはじめるのだった。この時点で,完全な制御をする必要があるというスキーマの修正が図られた。セッション15が終了するころには,魔法に対する確信はわずかな疑念が残るだけで,不快な感情をもたらすことも,行動を大きく左右することもなくなった。

セッション16〜20

 全般的な意欲減退と対人交渉の乏しさについては,活動の計画と達成度・満足度評価を少しずつ行うことで対応した。部分入院プログラムに参加するようになったアンナは,高すぎる目標を立て,それからその目標をまったく放棄してしまうのだった。たとえば,朝9時までに病院に来るという目標を立てても,間に合わないようなら,いっそ病院に行かない方がましだとアンナは考えた。そこで,病院に来るのが昼食時になってもよいと教えられた。少しずつ出発時間を変えていき,アンナは9時30分には来院するようになった。

 この時期には再燃予防が中心となった。薬物療法に対する遵守性が話題として継続的に取り上げられた。薬物療法に対する非機能的信念を同定・修正する認知的技法や治療薬に対する遵守性を高めるような行動的介入がなされた。20回のセッションが終了し,退院した後には,ブースター・セッションが何回か行われた。その後,アンナは2カ月ごとに来院しているが,2年間再燃はなく,社会生活面でも改善が見られている。統合失調症に関する知識も増え,再発に対する備えもできているように思われる。

 

 

徳島認知療法研究会ニューズレター 第9号(平成8年5月10日)

 

 

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