認知療法の臨床適用

Clinical Applications of Cognitive Therapy

 

文献紹介:統合失調症の認知療法(1)

Carlo Perris, Gullan Nordstroem, & Louise Troeng: Schizophrenic disorders.

In: Arthur Freeman & Frank M. Dattilio (Eds.):

Comprehensive Casebook of Cognitive Therapy, Plenum Press, New York, 1992.

 

治療プログラム

 認知行動療法の原理にもとづき患者の人格機能の統合をめざすものであり,個人・集団・環境療法の形態をとる。

 ・患者1名当たりの治療者は2名である

 ・患者は毎週2回の集団療法と2回の個人療法に参加する

 ・治療施設:重度若年精神障害者のための小規模地域治療センター

 

症例 エヴァ

34歳 女性 

   発病:19歳時   治療歴:8年   入院歴:2回(いずれも2ヵ月程度)

   認知療法による治療:3年

家族歴

   両親,10歳年上の姉,2人の母方叔父,母方祖父母

    祖母には精神科入院歴がある(診断:反復性うつ病,精神病像を伴う)。

生活歴

 初等教育修了後,エヴァはいくつか職業訓練を受けたが,いずれの課程も修了できなかった。就労しても,長くは続かなかった。29歳時,台所手伝いの訓練を終えたものの,職業リハビリテーションへの参加は不定期であった。そのため,認知療法開始時には生活保護を受けていた。

病歴

 最初の異常行動は16歳に始まった。それまでは明るく外交的で親しみやすい少女であったが,以後は恥ずかしがり屋で,人とのつきあいにも支障を来すようになり,離人感・非現実感の訴えがみられた。また,「同時に2人の人物がいる」ような体験を語っていた。当時は,児童心理士のケアを受けていた。

 22歳のとき,離人感,非現実感,引きこもり,無快楽(anhedonia)などの症状を訴えて精神科治療に入った。さらに,関係妄想がみられ,また「自分のせいで他人に悪い影響が出る」と確信していた。そのため勉強や仕事が続かなかった。

 抗精神病薬の治療とともに,支持的力動的精神療法を外来で受けた後,数ヵ月間,症状はわずかに軽快した。しかし,その後増悪し,2度目の入院(初回入院はその2年前)となった。「近所の人たちが迫害する」「(連中に)毒を盛られる」と,水を飲もうとしなかった。攻撃されることを恐れ,外出しなくなった。入院時には数日間話そうとせず,「話したり考えたりすることが,病棟の他患に悪い影響を与える」と確信していた。

 抗精神病薬の増量で寛解した患者は,退院後,地域にある支持的集団会に出席していた。しかし,完全に症状が消失することはなく,疲れやすさ,積極性のなさ,非現実感,関係念慮が持続していた。薬物療法としては,低用量の抗精神病薬と抗不安薬が投与されていた。

 

治療関係の確立

 患者の自己観,世界観,未来観をできるだけ早く概念化するとともに,治療の進展に応じて,そのつど概念化の改訂を行うことで,治療関係の確立は促進される。

 エヴァの場合には,周囲は敵意に満ちているという体験と,自尊感情の乏しさに焦点を当てた概念化がなされた。さらに,現在の体験が養育時の体験と関連するように思われた時点で,以下のスキーマが明らかになった。

 ・私が何をやっても,そんなことはどうでもいいことだ。誰も気にはしていない。

 ・拒絶されないためには,どんな犠牲を払っても,良い子でいなければならない。

 

治療開始

 エヴァは恥ずかしがり屋で,疑り深く,これまで会ったこともない人たちと一緒に治療センターで生活していけるものかどうか自信がなかった(BDI 22点)。そこで,毎日数時間だけセンターで過ごし,夜は自宅に帰ることにした。数日後,エヴァは終日センターで留まるようになったが,部屋の隅に座っていたり,自室にこもって,書きものをしていた。

 

治療への導入と治療目標の設定

 センターで滞在するようになって数日後エヴァは治療の目標をいくつか立てることができた。次に示すように,面接では症状よりも問題に焦点が当てられた。

 

 T1(治療者1):どうしてここでいることが楽なのですか?

 P(患者):みんな親切だし,誰も私がいやがることを無理やりさせたりしないから。

 T2(治療者2):いやがることを無理やりさせられると思うことがよくあるのですか?

 P:誰もが私の希望などお構いなしに自分のしたいことを私にさせるのです。

 T2:どうして?

 P:そうしたくても,私がはっきりいやと言えないからです。

 T1:もしいやだと言ったら,どんなことになるのですか?

 P:わかりません。いやと言うのがむずかしいのです。

 T1:やりたくないことをさせられそうになった例を具体的にあげてみませんか?

 P:前から目をつけていた靴を買おうと思って,友だちと出かけたとき,「そんなのあなたには似合わない」と言って,その友だちは靴を買わしてくれなかったんです。

 T1:それで?

 P:悲しかったり,腹が立つしで,自分が情けなくなりました。結局,靴は買いませんでした。

 T1:目を閉じてもう一度そのときのことを思い出してもらえませんか? そして,そのとき何を考えていたか調べてください。

 P:どうしたらいいか,一度だって私には決められないんだと思いました。周りの人の方が決めるのが上手なんです。私,本当に完全な失敗者です。まるで私が一人で決める資格などないみたいに,みんながどうしたらいいかを私に言ってくれるんです。

 T1:もしそのとき靴を買っていたら,どうなっていましたか?

 P:友だちはがっかりしたでしょう。もう二度と私とは買い物に行かないと心に決めたでしょう。

 T2:どうしてそれがわかるのですか?

 P:いつもそうなんです。人の言う通りしなかったら,みんな私に腹を立てるんです。

 T1:これまで人の言うことに従わなかったことはありますか?

 P:長いことありません。

 T2:人があなたに望むことを拒めないというのが,あなたの問題ですか?

 P:そうです。

 T1:他にどんな方法があるか,一緒に考えてみませんか? 他の方法を使ったら,どんな気持ちになるかも調べてみましょう。ところで,「私はもう大人なのに,自分で物事を決められない」とさっきあなたは言っていましたね。本当にいつもそうなのですか?

 P:一人きりだと決められると思います。でも,誰かといると,私は他人に逆らえないのです。

 T1:どうなりそうですか?

 P:みんな賛成してくれないでしょう。私のことを厄介な奴だと言うでしょう。もう私に会わずにいようと決心するでしょう。

 T1:あなたが人に逆らったという理由で,あなたとつきあうのを止めてしまった人がこれまでいましたか?

 P:逆らったことなんかありません。でも,きっとそんなふうになると思います。

 

問題/目標

 1 自己主張の恐怖:他人が怒りや失望を口にしたとき適切に対応できない

 2 きわめて低い自己評価

 3 人づきあいのむずかしさを克服する:人と一緒にいても話を始められない

 4 集中力を高める     

 5 適切な感情表現ができる:怒りや落胆を表現できない

(6 被影響・影響体験を回避する)

 

 T1:今日は何を話したいですか?

 P:私,怒っています。他の人がいつも決めてしまうんです。私の気持ちなんか一度も聞いてくれません。みんな私に敵意を持ってるんです。

 T2:どういうことがあったか具体的に話してもらえますか?

 P:一緒に雑用をしていて,私がお茶の時間にしようと思ったら,みんな笑うだけなんです。もう遅いし,休憩してお茶を飲んでしまっててもいい時間だったんです。それで腹が立ったんです。

 T1:それで,どうしましたか?

 P:自分の部屋に行って,記録をつけました。「人の願いを何とも思わずに,みんな物事を決められるようだ」と書きました。

 T2:あなたは何を望んでいたのですか?

 P:「集団生活をしている場合には,誰でも自分の望むことを言う権利がある。私はお茶にしたい」と言いたかったんです。

 T2:そう言わなかったのは,どうしてですか? 

 P:喧嘩はいつでも駄目ですから。

 T2:喧嘩の必要があったのですか? 「みなさん,お茶の準備をしましょうか」と言うだけでよかったのではありませんか?

 P:みんな,私を無視してます。お茶の準備をしたりしたら,もっと無視されます。

 T1:もし同じようなことがまたあったら,自分の希望を言ってみて,みんなが怒ったり無視するかどうか,調べてみませんか?

 P:怒るかどうかですか?

 T1:一度だけでもやってみませんか? 万一怒り出したら,どうすればいいかも考えてみましょう。どうですか?

 P:やってもいいですが,でもどうやるんです?

 

 みんなでテレビを見ていて,チャンネルを変えたくなった場合を例に,1/ その希望を伝える方法をリハーサルし,2/ その後の会話の流れを予測してもらい,3/ みんなの行動にどんな変化があったかを観察してもらうことにした。

 

 P:2日前に外出したとき,食事の後,他の人は映画を見たがったけど,私は「もう遅いし,センターに帰ろう」と言った。そしたら,みんなついて来てくれたんです。

 T2:それはすごい。練習したのとはまったく違う場面で,学んだことを使えたんですから。むずかしかったですか?

 P:テレビのチャンネルと関係なくても,練習したことを使ってみようと思ってたんです。

 T1:何か特別な反応が他の人からありましたか? 

 P:別に。それからは,みんなが言ったことやしたことを書き留めるようにしています。みんな,何も行動を変えたりしていませんでした。

 T2:それはなかなかいいやり方です,あなたの予想が正しいかどうかを見るのには。

 

 エヴァがどんな行動を試みたいか言えるようにし,どのような方法で行動したいかリハーサルできるようにした。さらに,課題が完了する度に正のフィードバックを与えた。状況としては比較的感情負荷の少ないものが選択された。複雑な課題に取り組んでいく過程で,エヴァの場合,表出された自分の感情を適切に評価したり,他人の表現した感情を正しく解釈できないことが明らかになった。そこで,集団療法に導入し,モデリングとフィードバックを通して感情の弁別,感情の強度の評価,適切な感情表現を学習できるようにした。

 

妄想体験への介入

 エヴァの接触障害には自己主張の欠如が関与しただけでなく,妄想的基盤が存在した。以下は,エヴァがほとんどずっと自室に閉じこもり外出を拒否した時期のものである。

 

 P:外出すると,いつも嫌な気持ちにさせられる。……他の連中が思っていることがなんか気にさわる。……この前も道路縁で作業中の人が何人かいた。……私は引き返すしかなかった。

 T1:働いている人を見たときにどんなことを考えたか思い出せますか?

 P:私のことを変な奴か気違い女のような目で見ていたんです,連中は。私を威嚇していたんです。自分を守らなければと思いました。それで引き返したんです。

 T1:どんなふうにしてあなたを威嚇したのですか?

 P:まるで世界中が私に敵対しているようでした。

 T1:あなたのことを変な奴だと思っているのが,どういうふうにわかったのですか?

 P:顔を見れば。

 T2:どんな顔に見えましたか?

 P:わかりません。あなたにもそうだとわかるはずです。

 T2:では,あなたがその人たちの表情を正確に理解していたとしましょう。ところで引き返す以外に何か方法はありませんでしたか?

 P:ありません。先生にはわからないでしょう。

 

 エヴァはその状況における別の解釈や別の行動を考えつくことができなかった。どうすれば他人の思っていることがわかるのかを探ろうとしたが,成功しなかった。そこで,治療者は妄想体験に挑戦するのをやめ,代わりに妄想の広がりとその確信度を知ろうとした。しかし,エヴァは妄想について語ることを避け,パートの仕事に就けるようにしてほしいと主張した。さらに,頭部の異常知覚を訴え,身体的検索を望むのだった。

      

治療の停滞

 センターで滞在するようになって1年ほど経過したとき,エヴァは治療者の勧めを無視して,センターを出てしまった。その後,職場では大きな問題はなかったものの外来治療に進展はなかった。彼女は職場や日常の些細な問題についてだけ話し,家族とりわけ母親との関係を詳しく語ることはなかった。

 

後期の治療

 約1年後パートの仕事を終えたエヴァはセンターでの治療を求めてやって来た。治療から十分な成果を得ないままになっていたと話す彼女の精神状態は,しかし,以前よりいくぶん悪化していた。

 

妄想体験への新たな介入

 エヴァがセンターに帰ってきて数週後,スタッフも同行して患者全員で劇場に行くことになっていたが,そのとき精神病的体験に対する治療への突破口が見えた。

 

 P:劇場に行こうかどうしようか迷ってるんです。行きたいのかと聞かれると自信がない。でも,テレビでしか見たことのないコメディアンを生で見たいし。私,ずっと彼のファンなんです。

 T2:じゃあ,答えは簡単でしょう。どうして行こうとしないのですか?

 P:劇場に行くのがむずかしいんです。……スポットライトのせいなんです。……劇場の中に入ると,私にスポットライトが当たるんです。……みんなが私のことを変や奴と思うでしょう。

 T2:劇場に行ったことはありませんか?

 P:いいえ。スポットライトが気がかりでしたし。……それに,他の人のように,笑ったり,拍手できるかどうか自信がありません。人は私のことを病気だと思うでしょう。でも,一人でここに残っても,どうしていいかわかりません。

 

 治療者はソクラテスの質問法を用いて,スポットライトは舞台に俳優がいるときだけ点灯し,しかも,いつも舞台に向けられているのであって,客席には向かないことを,エヴァが理解できるようにした。

 

 T1:適切なときに笑ったり拍手したりするには,どうすればよいと思いますか?

 P:わかりません。

 T1:劇場には他に誰が行く予定ですか?

 P:みんなで行きます。

 T1:劇場ではどのあたりに座ることになりそうですか? 

 P:他の患者さんの隣か,スタッフの横かもしれません。

 T1:他の患者さんやスタッフは適切に拍手できそうですか?

 P:ええ。

 T1:それでは,どうすればあなたも適切なときに手がたたけるでしょうか?

 P:……他の人が手をたたくのをじっと待って見ていられるかもしれません。

 T1:一つ解決策が見つかりました。もしどうしていいかわからないときには,他の患者さんやスタッフに注意を向けていればいいのです。……少し気が楽になりそうですか?

 P:ええ。……一緒に行ってみます。先生の隣に座ってもいいですか?

 T2:もちろんですとも。

 

 エヴァは人の真似をしなくとも笑ったり拍手できたことを喜んだ。また,スポットライトのことをすっかり忘れていたことに驚いた。

 

 T1:今度のことを振り返ってみて,何が役に立ったと思いますか?

 P:あらかじめ準備していたのがよかったと思います。

 T1:今度の経験からどんなことを結論として引き出せますか?

 P:これから先も同じようにすれば。新しい状況に入っていくときには,事前に準備をしておくんです。

 T2:劇場に行く前には一体何を恐れていたのですか,覚えていますか?

 P:私が変だからみんなが私を見ているということでした。私,いつも見られている感じがするんです。そうなると,はっきりと考えることができなくなります。

 T2:今言われたことが事実だということをどうやって判断するのですか? 

 P:前からずっとそうなんです。

 T2:今のお話を一つずつ検討してみましょう。どれが事実だと思いますか?

 P:いいえ。……どれも事実ではありません。

 

 この時点からエヴァの関係念慮に治療の焦点を移すことにした。治療者は,新しい人に出会うときにどんな予測をしているかを,彼女が自覚できるようにした。ついにストレスを感じているときや,他人が介在する不慣れな状況下で自分の行動に自信が持てないときに,他人が批判的になって自分のことを変な奴だと見るようになると予測していることが彼女にも明かになった。また,周囲が敵意を持っていると考える対人的スキーマが自分の行動や,ひいては他人が示す反応に与える否定的影響についても自覚できるようになった。ただし,こうした変化には数ヵ月を要した。その間も,積極的に治療に参加するときと,いらいらして非協力的となり閉じこもろうとするときがあった。しかし,妄想体験を賦活するストレス状況をとらえることや,対処法について話し合うことがしだいに容易になっていった。さまざまな状況における自動思考には,自滅的な特徴があることが判明した。

 

 P:(思考記録票を示しながら)買い物に出かけた店内にたくさんの人がいて,レジで並んで待っているときなど,落ち着かなくなって,逃げていきたくなるんです。

 T2:どんな気持ちになるのかもっと詳しく教えてもらえませんか?

 P:たぶん不安になるんだと思うんです。逃げ出したくなります。

 T1:どんなことを考えていたか思い出せますか?

 P:「私は奇妙な行動をしている。常軌を逸した行動をしている。みんな立ち止まって私を見ている。みんな私のことを笑っている」と考えていました。自分の順番を待たないで,出ていきたかったのです。

 T2:それでどうしたのですか?

 P:セッションで話し合ったことを覚えていたので,店を出ないで,こう自分に言い聞かせました。「それって根拠のない恐怖よ,エヴァ。周りを見回してご覧なさい。誰もあなたに関心はないわ。あなたが人を見てるくらいは人もあなたを見ているかもしれないけど。万一見られていても,敵意を持っているというわけではないわ」と。

 T1:役に立ちましたか? 

 P:何度か繰り返したら,気持ちが楽になりました。買い物をすませられました。

 T1:同じ方法を他の場面でも使ったことがありますか?

 P:役に立つでしょうか?

 T2:やってみて,何か失うものはありますか?

 P:別にないと思います。

 

過去の体験の追想と非機能的認知の発達の再構

 しだいに自分の苦痛に「私的な規範」が強い圧力となっていることをエヴァは自覚するようになった。その起源について考え始めた彼女に,治療者は非機能的スキーマの由来について説明した後,過去の体験で記憶に残っていることを書き出してみることを勧めた。その中から,もっとも否定的な体験をいくつかリハーサルし,そのときの感情や思考を同定してもらった。エヴァは自らの非機能的規範の起源が母親との基本的信頼関係を形成できなかったことにあると気づいた。彼女は母親の行動を前ほど批判的に見ることはなかったが,しかし,本当の意味での和解は訪れなかった。

 

転移と逆転移

 長期の治療にありがちな転移は複数の治療者が関わることで緩和されたが,それでもストレスのかかる話題を扱うときには転移行動が認められた。両親,とくに母親との同一視が生じやすかった。

 ・私は治療者に腹を立てている。彼らは私を小さな子どものように考えて,思いのままにいじめようとする。

 ・誰もここでは本当の気持ちを表わそうとしない。誰か信用できる人がいるだろうか?

 ・前よりも傷つきやすくなったように感じる。傷つかないように一人でいたいと思う。

 エヴァが拒絶されたり無視されることを恐れているときには,そのような予測が事実無根であることを示すために,愛情あふれる行動をとり,彼女の信頼感を高めようとした。

 

治療の終結:職場復帰のための援助

 積極的な治療が終了して,規則的に出会うことがなくなっても,患者が治療者を頼りにできることが,重篤な精神障害を治療するときの必須の前提になるだろう。その意味で,ブースター・セッションは重要である。

 センターでの最後の数ヵ月は職探しに向けられた。老人施設に仕事が見つかったが最初の1週間は治療者が職場に同行するようにした。1日の終わりにはその日の印象をエヴァにまとめてもらい,新しい人とのつきあいやさまざまな場面でみられた感情や思考に認知行動療法の手法で対応した。

 当初は,自分の仕事ぶりが他の同僚の目には下手だと写るのではないか,その結果拒絶されるのではないかという非機能的思考が報告された。また,同僚が精神障害に偏見を持っていないか心配していた。しかし,単独で仕事をするようになった第2週には,自滅的認知をとらえ,それに挑戦しそれを訂正することが可能になってきた。彼女はこう語った。「同僚が私の仕事ぶりを批判していると思ったときには,『そんなふうに考えるのはやめよう,エヴァ。変な考えに取り込まれてしまわないように』と言い聞かせると,楽になって,他の側面からも物事を考えられるようになり,自分の誤解を正すことができる」と。

 

薬物療法

 治療中は haloperidol(2mg/日)を投与していた。その他,睡眠導入のために就寝前に lorazepam(1mg/日)を併用することがあった。なお,後者はストレス時には増量し食後の服用とした。

 

結語

 治療によってエヴァの精神障害が治癒したわけではないが,以下の点で改善が見られたと考える。

   1/ 非機能的規範の修正

     ・自己への信頼と未来への希望の増大

     ・ストレス状況に対処するための認知的技能の発見

   2/ 対人場面における適応的対処技能の向上

 

徳島認知療法研究会ニューズレター 第8号(平成8年4月10日)

 

 

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