教科・領域教育専攻 国際教育コース L2年 川口 綾美

0.はじめに

本報告書は、2015年9月8日から、同年10月12日まで小学校教育隊員として派遣されたジャマイカでの短期ボランティア活動報告である。この短期ボランティア応募のきっかけとしては、協力隊の活動には以前から興味があったこと、また、大学や大学院で国際協力に関して学んできた経緯から、さらに他国の教育に関して理解を深めジャマイカの国の教育に貢献したいという思いがあったためである。さらに、来年から小学校の教員として働くことになっていることから、その前に協力隊での海外の小学校経験を積むことで自分の経験値をあげたいという思いがあり、この短期ボランティアに応募する経緯に至った。今までジャマイカという国は「レゲエで有名な国」というイメージしかなく、遠い存在だった。しかし、この活動を通してジャマイカを身近に感じることができ、好きな国の一つとなった。

この報告書では、以下の7つの項目に分けて報告していくこととする。まず、「活動地域及び配属先の概要」として、活動場所や配属先に関することやどのようなことを現在配属先で行っているかということを報告する。また、現在のジャマイカの教育の状況などに関しても触れたい。そして、2つ目の「活動内容と活動結果」では、私たちがどのような活動をどういった目的で行ってきたのかということ、そしてこの活動から得られたことに関して報告していく。3つ目、4つ目には、「ジャマイカの学校教育の課題」と「算数教育の課題」の2点に関して述べていく。5つ目には、「今後の配属先の活動見込みと支援の必要性」ということで、配属先でのこれからの期待されるプロジェクトの在り方や、どのようなことがこのプロジェクトに必要となっていくかということを私なりに考察する。そして、6つ目に「受け入れ国の人々との交流」ということで、私が実際に出会った現地の人々の印象や交流方法、そしてその交流から、感じたことや学んだことなどを言及していく。そして、最後に「ボランティア経験について」として、このボランティア活動を通して感じたことや学んだこと、そして今後この経験をどう活かし、どう周りの人々に伝えていきたいのかということを述べていく。以上の内容に関して報告していくこととする。

1.活動地域及び配属先の概要

活動地域は、ジャマイカの首都キングストンであり、配属先はコアカリキュラム・ユニットである。ジャマイカでは、JICAとMinistry of Education(コアカリキュラム・ユニット)との協力のもと、算数教育の一環として、2008年から算数能力向上のためのCalculation Timeというプロジェクトを実施している。私たちは現在活動されているシニアボランティアの方の活動の補助として、現地の小学校での算数授業の補助を行ったり、教具づくりをしたり、その他に各学校でCalculationtimeを円滑に行うことができるようにワークショップを地方でも行い、その補助に当たった。以上が1か月間の活動の概要である。

ジャマイカの小学校は、日本でいう公立の学校と私立の学校とに分かれている。能力の高い教師は私立の学校に行くため、公立の小学校の方が教育の質が低い。実際の生徒の様子を見てみると、簡単な足し算でさえ指を使って計算を行っていたり、6年生になっても1年生レベルの問題を解いていたりする様子が伺える。また、GSATという学力試験が非常に重要視されており、基礎学力定着というよりも、テストに合格するための授業が求められている傾向がある。また、教員の学力も低く、教師の指導力も課題となっている。

2.活動内容と活動結果

活動内容は、主にシニアボランティアの方の活動支援である。まず、一つ目にCalculation time 始めるにあたっての導入の授業の補助を行った(図1,2)。キングストン市内の公立小学校11校に入り、1クラスあたり20分程度の授業を行い、授業の中では、初めと最後にCaliculation timeの歌を歌い、Make 10 ideaを理解するために作成した札を使って10になる数を確認した。また、数と実際の具体物とを結び付けるためにドットカードをカウントする練習も行った。さらに、Calgator(Calculation timeのマスコットキャラクター)の絵をみんなで書いたり、花の絵を使った計算練習などを行ったり、タブレットを使っての計算練習を行った。6年生は社会科の学習の中で日本について学ぶ機会があるため、日本の文化やそれぞれの出身地の紹介を行ったりした。


図1 SVの授業


図2 授業補助の様子

2つ目に、Calculation time のワークショップの補助を行った(図3,4)。新しい学期が始まるのと同時に、Calculation timeも新しいブックレットに切り替わるため、使い方の説明から概念までそれぞれの学校や地域で教えることが目的である。6つの地域といくつかの学校に対して、ワークショップを行った。基本的にカウンターパート(CP)がワークショップを行い、配布物や現地の先生方の補助に当たった。また、カウンターパートの計らいにより、折り紙、花の計算などのインストラクションを任せられた。ワークショップに参加した教員の中には、非常に熱心に聞き、質問をしている方もいた。


図3 参加する現地教員


図4 ワークショップを行うCP

3点目は、教具作りである。ワークショップの際にプレゼントするドットカードの作成を行うなど、様々な算数の教材を作成した(図5)。それらをひとつの箱にまとめ、手作りMath Box(日本の算数セットのようなもの)として、最終日に私たちが選んだ学校の先生にプレゼントした(図6)。学校訪問の際には我々が作った教具を実際に真似して作って授業に使用している先生方もおり、この教具紹介が少しでも役立ち活用されている様子が伺えた。以上3点が主な活動内容と成果である。


図5 教具作成の様子


図6 Math Boxのプレゼント

3.ジャマイカの学校教育の課題

ジャマイカの小学校は、ほとんどが能力別のクラス編成になっているため、子ども同士で学びあうことはほとんどなく、下のクラスの子どもたちは、自分たちが下のクラスであると自覚しており、切磋琢磨しようとせず、先生たちも「この子たちは下のクラスだからできない」というように決めつけ、上のクラスと下のクラスで学力の差が出てきてしまっている。また、授業中の集中力の差もクラスによって異なり、下のクラスでは話を聞かなかったり喧嘩を始めたりする子どももいる。このような問題を解決するためにも子どもたちが互いに学びあえるような環境を作っていく必要があるのではないかと考える。また、クラス編成で小さいうちから「できるクラス」と「できないクラス」とを分けてしまわないことで、子どもたちの学習意欲も向上するのではないかと思う。

さらに、実際に現地の教員から話を伺うと、1クラス多いところでは45人ほどいる学級で、クラス担任が1人で全教科を毎日教えているため、教師の負担が非常に大きく、教具や教材を作る時間がなかなかとることができないということだった。学力ごとにクラス編成をしているが、その中でも進んでいける子どもと遅れている子どもがおり、1人で授業を行っていくということは、負担が大きいということだった。そして、その先生が休んでも代わりの先生がいないため、ある学校では1つの教室に2クラスの子どもたちが同じ教室に入り、椅子にも座ることができない状況で授業を受けていた。

また、教師は子どもたちがいる学校の時間以外に時間を割くことがほとんどない。これは、教師に対する給料が低いため、時間外に働き、授業の質をあげようとしないという要因が考えられる。また、男性は一家の働き手として、給料の高い仕事に就く必要があるため男性教師が少ない。教育の質を上げるためには、教師の雇用の面も配慮していく必要がある。

学校や学校の外でお菓子やおもちゃが売られているという現状もあり、子どもたちは休み時間に買っている。これはジャマイカの文化だという先生方もいるため、変えることはできないが、休み時間と授業のけじめがなく、授業に集中できない子どもたちも出てくる。どのようにクラスマネージメントをするかということも教師の課題である。

4.算数教育の課題

子どもたちの計算能力は非常に低く、日本では1年生の問題もジャマイカでは6年生で解けないことがある。まず、数の概念というものが乏しい。言葉では数えられるが、その言葉と数字と結びついていない。Twenty fiveと言って52だと思っていることもがいたり、サイコロの5の目と1の目を見てもひとつずつドットを数えなければ、いくつなのかということが分からない子どもがいたりする現状がある。これは、小さい時から自分の手で具体物を操作して数の概念を構築することができていないことが原因となっているのではないかと考える。日本では、小学校1年生の段階で算数セットが配布され、それらを使って操作することで数の概念を理解していき、最終的には頭の中で計算できるようになる。このような具体的な教具というものがジャマイカの教育には必要である。

足し算に関しては、10のまとまりで考えることができていないため、指を使ったり、棒を書いたりし、ひたすら数えることで計算をしている。一桁+一桁の計算でさえも指を使っている子どもたちが多くいた。すべてカウンティングで答えを導き出すため、大きな数になると計算をすることができない。また、自分の指が足りなくなると友達の指を借りて数えるというような光景もあった。

引き算も2桁の計算になると指が足りなくなるため、計算が止まってしまうというような状況もある。例えば18-4であれば、8-4をすればいいにも関わらず、そのような感覚が無いため、18の中から4を引いて、その余りをさらに数えることなどを行っていくため、子どもたちは間違えてしまい、計算に非常に時間もかかる。また、12-9などは10の位から引いた数を1の位に足して計算することで、数えずに計算することができるが、12から一つずつ9回引いていった余りをまた数えるというような計算方法を行っている。

足し算、引き算では10のまとまりで考えていくことが早く計算をするためには必要となる。日本語の数の数え方は、10+1(じゅういち)、10+2(じゅうに)のように、10と1~9までの数を足した数という数え方になっているため、10のまとまりを考えやすい。しかし、英語の場合、Eleven, Twelve, Thirteen, Fourteenなどというように、一つのまとまりの言葉でしかないため、10のまとまりを考えづらいのではないかと考えられる。

さらに、掛け算九九を覚えていない子どもたちが多くおり、九九の質問をするとノートに書いてある九九表を見て答える子どももいた。掛け算九九はひたすら覚えなければいけなく、日本でも小学校2年生のうちにかなりの回数を言わされ覚えさせられる。これは、非常に根気のいることであるが、教師が子どもたちのどれだけ影響を与えられるかということも重要となってくる。

5.今後の配属先の活動見込みと支援の必要性

Caliculation timeは、学校訪問やワークショップの成果もあり、かなり学校の中で浸透してきているように思う。また、CalcuLatino time songもCD化されるということで、ボランティアがいなくても歌を歌うことができるので、さらなる発展が期待される。また、Ministry of Educationの担当の方々の意識も非常に高く、このプロジェクトをさらに良いものへと向上、継続してくことが可能であると思う。SVの方のカウンターパートは、日本での研修も経験しており、非常に理解もあり行動に移すことができる力を持っているため、これから非常に期待できる。

また、これからCaliculation Timeの効果というものもしっかりと調査していく必要性がある。ブックレットには事前、事後テストがあるため、一つの指標となるが、各学校の結果提出の協力が非常に重要であると思う。それらを促し、今後どのような方向性でCalculation timeを実施していくかということを検討する必要がある。

6.受け入れ国の人々との交流

ジャマイカの人々との交流は様々な場面であった。まず、教育省のコアカリキュラム・ユニットでは、たくさんの方が歓迎してくれた。その中でもカウンターパートは非常に私たちのことも気にかけてくれた。また、ワークショップの際には、自分の役割を任せてくれ、プレゼンテーションをする機会を与えてくれた。私たちを成長させようという気持ちが伝わってきた。

また、小学校への訪問では、先生方は非常に歓迎してくれ、是非見ていってほしいというようなことを言ってくれたり、また来てほしい、いつ来るのかなどという言葉をかけてくれたりもした。これは、SVの方の築いてきた信頼関係のおかげであると思う。

ジャマイカの子どもたちも非常に人懐っこく、名前を覚えてくれて呼んでくれたり、ハグをしてくれたりと愛着が湧いた。私たちが彼らの学校に来ることで、私たちにとっても子どもたちにとっても刺激になっていればいいと思う。

また、活動だけでなく街を歩いているだけでも優しく声をかけてくれたり、ショッピングをしていたり、私たちが何か困っているようだとやさしく声をかけてくれる人たちもいた。これは日本ではあまりない光景で、非常にうれしく、ジャマイカ人のことが好きになった。

7.ボランティア経験について

今まで、海外の小学校に行くことは多くあったが、1か月間という期間をびっしり学校に行き活動したことはなかったため、非常に良い経験になった。また、経験の豊富なSVの方と活動できたことは自分にとって非常に有益で、これから小学校で教員として働くにあたって、真似したい部分がたくさんあった。SVの方が行う授業というのはテンポよく進んでいくため、子どもたちがあきないような工夫がされていた。また、教具も工夫してどうしたら分かりやすいか、楽しん学習できるかということが考えられており、「迷う」よりも「まず、作ってみる」ということも必要だということを学んだ。そして、一番は自主的に発信して行動に移していくことで様々な機会が巡ってくるということを実感した。相手のことを考えて、自分自身なかなか一歩が踏み出せず、躊躇してしまう部分が多くあるが、自分の考えや意見を伝えていくことが大事だと思った。

この経験というのは実際に行ってみなければ得ることができなかった経験だと思う。また、私の大学は教育大ということもあり、ほとんどの人が教員を目指している。そのため、そのような学生に是非自分のジャマイカでの学校経験を伝えていきたいと思う。報告会を開催する予定だができるだけたくさんの人が見に来てくれるような広報活動を行ったり、知り合いに呼びかけたりするなどして、少しでも多くの人に国際協力に関して興味を持ってもらいたいと思う。

8.終わりに

私がこの1か月という短期ボランティアで、どうジャマイカの教育に貢献できたかというのは分からないが、少なくとも自分自身は成長できたと思う。次は、長期隊員として途上国の教育に貢献してけたらいいと思う。そのため何年間は教員として働き、経験を積み、今後に生かしていきたい。

最終更新日:2016年12月14日